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第一章 少女たちの願い(後編)

龍と天使の戦い

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「結衣様っ!」

 結衣のを思い出させるような大雨。
 胸が締め付けられる。
 もういっそのこと、自分を殺してほし――

「結衣様!!」

 大雨と竜巻の轟音さえも破るガーネットの声に、結衣は思わず目を剥く。
 心なしか、ガーネットが怒っているように見える。
 結衣が何も言えずにいると、ガーネットが大声で責め立てる。

「何やってんですか結衣様! 諦めちゃダメじゃないですか!  どうせ“勝てない”とか思ってるんでしょお。まったく……」
「で、でも……っ!」
「でもじゃないですよ! 結衣様はこれまでも様々な困難を乗り越えてきたじゃないですか!」

「だから――」と付け加えて、

で負けちゃダメです」

 と言い放った。

 そうだ。これぐらいで、負けていられない。
 結衣はガーネットの言葉を受けて、立ち上がる。

 すぐそばまで竜巻が迫ってきているが、結衣とガーネットはそんなことを気にしていない。
 完全に二人の世界に入り浸っているからだ。

「……ガーネット」
「……はい、結衣様」

 二人は強大な力を前にして、ただ覚悟を決める。

「少しだけ、別行動しよう。……アレを、見つけてきて」
「……わかりました、結衣様。ご武運を」

 結衣は変身を解除して、ガーネットは一目散にある場所へ向かった。

 ☆ ☆ ☆

「……どうしはったん? まさか勝負を降りたんやないやろね?」
「……まさか。ガーネットがいない方がいいだけだよ」

 変身を解除した結衣を見て、明葉が鋭く言う。

 もう、破壊の嵐は目と鼻の先にある。
 だけど、そんなものっ!

「――幻想展開、光刃ライトスペアー!」

 結衣はすぐさま変身し、光でできた刃を振りかざす。
 すると、竜巻が消え、雲が晴れる。

 先程まで降り注いでいた大雨も、今となっては面影すらない。
 明葉が目を見開いて、それを見つめる。

 髪を紅く焦がし、四つ羽を広げる――天使。
 服装は普段の魔法少女衣装だが、明らかに違うものがある。

 それは、そう、威厳だ。
 もはや結衣は人類ではなく、文字通りの神の使者。

 龍もたしかに威厳はある。
 だが、所詮高次元の生命体でしかない。

「ちっ……なかなかやるやないの……」

 だが、龍だって。

「けどなぁ……うちかて負けられへんのよ」

 人々からの“信仰”を受け継いでいるのだ。
 人々から崇め奉られれば、それはもう“神”なのだ。

「“龍神”と“天使”――どちらが上かなんて、今更言うまでもないやろ?」

 明葉は――いや、“龍神”は不敵に嗤う。
 もはやここにいるのは、転校生の明葉ではない。

「さぁ、存分に殺り合おうや!」

 刹那。明葉の手のひらから、炎がビームのように繰り出される。
 結衣はそれを、すんでのところで躱す。

 空に羽ばたけば、天使の独壇場だと思っていた。
 だが、違うらしい。

 それもそうだろう。龍だって飛べるのだ。
 龍神は、天使と対峙するように空を飛ぶ。

 これは、今までより厄介な相手になりそうだ。
 結衣は一層気を引き締めて、相手に向き合う。

 妖しい天使と、神に等しい龍。
 その二人が、本気でぶつかり合おうとしていた。
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