上 下
113 / 262
第一章 少女たちの願い(後編)

攻撃が全く効かない

しおりを挟む
「――増幅ブースト!」

 そう紡ぐと、結衣の身体がものすごい速さで移動する。
 もしかしたら、瞬間移動に匹敵するほどの力を秘めているかもしれない。

 だが、そんな力をものともしないように、明葉は躱す。
 そして、明葉が目を瞑ると、明葉の周りに風が舞い上がる。
 明葉を囲むように天まで伸びる風は――まるで竜巻だ。

 龍だけに。……みたいなギャグでも披露する気なのだろうか。
 全くもって笑えない。

「そんなものっ! ――防壁バリア!」
「うふふっ。堪忍なぁ……」

 結衣は増幅魔法をすばやく解き、別の詠唱を紡ぐ。
 だが明葉は、そんな結衣を嘲笑うかのようにして呟く。

 そして明葉は目を開き、橙色の瞳を揺らす。
 すると、竜巻が結衣を目掛けて突進してくる。

 天高く伸びた竜巻は、まるで天変地異のようだ。

 魔法でできた盾をも、たやすく破壊できそうなほどの嵐が舞う。
 そんなものを前にして、結衣はどうすればいいのか一瞬迷う。

 だが、結衣は真っ直ぐ目の前の化け物を見据える。
 怖がっている暇があったら、これに抵抗できる方法を探すべきだ。

 結衣はガーネットを目の前に持ってきて、竜巻目掛けて鉄砲玉を打ち出す。

「全力全開!! ――大砲バング!」

 鉄砲玉が打ち出された部分だけ、竜巻が消える。
 だが、完全に消えたわけではなく、すぐさま復元される。

「そんなっ――!」

 全力の攻撃を繰り出しても、それが通用しないなんて――!

 結衣はあせる。
 こんなんじゃ、いずれ――いや、今すぐにでもやられてしまう!

 どうしよう。どうすれば。
 そんなような言葉しか、頭の中に浮かんでこない。
 目の前に“死”が迫っているのに、何も出来ない自分が悔しくなってくる。

 目の前が絶望に染まる。

 黒くなった雲から、大量の水が流れ出す。
 滝のように流れる雨に、結衣たちの身体が叩かれる。

 それはまるで、この世に生まれたことを後悔させるような雨だ。
 そんな雨が、容赦なく降り注ぐ。

 結衣は耐えきれなくなって、膝から崩れ落ちた。
しおりを挟む

処理中です...