99 / 262
第一章 少女たちの願い(後編)
転校生と友だちに
しおりを挟む
「へぇー、明葉ちゃんの両親共働きなんだね」
「まあ、今どき珍しくもないやろ。……ちょっとは寂しゅうなる時もあるけど、そういうもんやしなぁ……」
結衣たちは今、客間にいる。
床が畳で――慣れていないせいか――少し落ち着かない。
現代っ子の結衣は、正座するだけでなかなか堪える。
だが、さすがと言うべきか、明葉は優雅に正座している。
すごく絵になる光景である。
ここに芸術家がいたら、何もせずにはいられないだろう。
画家なら、明葉をモデルに絵を描き。
小説家なら、明葉をモデルに物語を紡ぐだろう。
結衣がまた魅了スキルにやられて、変なことを考えていると。
「どうしはったん?」
もはや結衣が惚けている時の常套句になりつつある言葉を、明葉は放つ。
その言葉に、結衣が我に返る。
「へあっ!? ご、ごめん……! ボーッとしちゃって……」
「畳張りの部屋やさかい、眠くなりはったん?」
「……え、あー……うん! そんな感じかなぁ……あはは……」
明葉が鈍感な子で助かった。
結衣はそう思った。
そんな結衣の眼に、不意に何かが映る。
これは、絵本?
「あっ……! 見んといて……っ!」
結衣の視線の先のものに気付くと、明葉はそれに覆い被さる。
よほど見られたくないものなのか。明葉はそれを抱えて、一目散に部屋から出ていく。
「あ……行っちゃった……」
「見られたくないものなら客間に置かなきゃいいのに……とか思ってますでしょ」
「いや、私は別に……それより、なんか語尾がおかしいような気がするんだけど!?」
明葉の姿が完全に見えなくなってから、ガーネットが飛び出した。
しばらく息を潜めていたせいか、ガーネットのテンションが若干おかしい。
というより、話し方からしてすでにおかしい。
「いえ、いつもこんな感じじゃなかったです? 少し頭がおかしい方がモテるって言いますしぃ~」
「……頭おかしいっていう自覚はあるんだね……」
モテる方のツッコミはしないでおいた。
なんの根拠もないが、もしかしたら事実かもしれないから。
結衣はため息をついて、ガーネットを思考の外へ追いやる。
明葉はなぜ、あんなに慌てていたのだろう。
絵本というのは、たしかに子供っぽくはあるが。
それにしてもあの絵本、表紙が龍のような絵が描かれていた気がする。
たしか、題名は――
「『りゅうのかなしみ』……」
「何か言いました?」
『りゅうのかなしみ』という絵本なら、結衣も見たことがある。
内容はうろ覚えだが、たしか――
「……なぁ……」
と、記憶を探っていたら、声をかけられた。
声が聞こえた方に目を向けると、明葉が襖から顔だけを覗かせている。
「え……っと……?」
結衣が困惑していると、明葉がしおらしく口を開く。
「その……さっきは、取り乱して悪かったなぁ……」
「へ……? あ、ううん……別に大丈夫だよ?」
明葉は謝りたかったらしい。
結衣は、まだ罪悪感のせいで結衣の顔を見られないらしい様子の明葉を見て。
また魅了スキルにかかりそうになった。
「ま、まあ……見られたら恥ずかしいものってあるもんね。私もそういうのあるし……誰にも言わないから心配しないで」
いけない恋に落ちそうになる頭を必死に誤魔化して、結衣は言う。
すると、明葉は心底安心した様子で、ホッと胸を撫で下ろした。
「うふふ……っ。やっぱ結衣さんともっと仲良うなりたいわぁ。結衣さんと出会えてほんまに嬉しい」
二つに束ねた髪を揺らし、明葉は笑う。
その笑顔は、やはり美しい。
「……わ、私だって明葉ちゃんともっと仲良くしたい! 友だちになろうよ!」
美しい笑顔に魅せられ、結衣は明葉の手を強く握っていた。
そして、結衣も同じような笑顔を浮かべる。
そうして、結衣と明葉は今日、友だちになった。
「まあ、今どき珍しくもないやろ。……ちょっとは寂しゅうなる時もあるけど、そういうもんやしなぁ……」
結衣たちは今、客間にいる。
床が畳で――慣れていないせいか――少し落ち着かない。
現代っ子の結衣は、正座するだけでなかなか堪える。
だが、さすがと言うべきか、明葉は優雅に正座している。
すごく絵になる光景である。
ここに芸術家がいたら、何もせずにはいられないだろう。
画家なら、明葉をモデルに絵を描き。
小説家なら、明葉をモデルに物語を紡ぐだろう。
結衣がまた魅了スキルにやられて、変なことを考えていると。
「どうしはったん?」
もはや結衣が惚けている時の常套句になりつつある言葉を、明葉は放つ。
その言葉に、結衣が我に返る。
「へあっ!? ご、ごめん……! ボーッとしちゃって……」
「畳張りの部屋やさかい、眠くなりはったん?」
「……え、あー……うん! そんな感じかなぁ……あはは……」
明葉が鈍感な子で助かった。
結衣はそう思った。
そんな結衣の眼に、不意に何かが映る。
これは、絵本?
「あっ……! 見んといて……っ!」
結衣の視線の先のものに気付くと、明葉はそれに覆い被さる。
よほど見られたくないものなのか。明葉はそれを抱えて、一目散に部屋から出ていく。
「あ……行っちゃった……」
「見られたくないものなら客間に置かなきゃいいのに……とか思ってますでしょ」
「いや、私は別に……それより、なんか語尾がおかしいような気がするんだけど!?」
明葉の姿が完全に見えなくなってから、ガーネットが飛び出した。
しばらく息を潜めていたせいか、ガーネットのテンションが若干おかしい。
というより、話し方からしてすでにおかしい。
「いえ、いつもこんな感じじゃなかったです? 少し頭がおかしい方がモテるって言いますしぃ~」
「……頭おかしいっていう自覚はあるんだね……」
モテる方のツッコミはしないでおいた。
なんの根拠もないが、もしかしたら事実かもしれないから。
結衣はため息をついて、ガーネットを思考の外へ追いやる。
明葉はなぜ、あんなに慌てていたのだろう。
絵本というのは、たしかに子供っぽくはあるが。
それにしてもあの絵本、表紙が龍のような絵が描かれていた気がする。
たしか、題名は――
「『りゅうのかなしみ』……」
「何か言いました?」
『りゅうのかなしみ』という絵本なら、結衣も見たことがある。
内容はうろ覚えだが、たしか――
「……なぁ……」
と、記憶を探っていたら、声をかけられた。
声が聞こえた方に目を向けると、明葉が襖から顔だけを覗かせている。
「え……っと……?」
結衣が困惑していると、明葉がしおらしく口を開く。
「その……さっきは、取り乱して悪かったなぁ……」
「へ……? あ、ううん……別に大丈夫だよ?」
明葉は謝りたかったらしい。
結衣は、まだ罪悪感のせいで結衣の顔を見られないらしい様子の明葉を見て。
また魅了スキルにかかりそうになった。
「ま、まあ……見られたら恥ずかしいものってあるもんね。私もそういうのあるし……誰にも言わないから心配しないで」
いけない恋に落ちそうになる頭を必死に誤魔化して、結衣は言う。
すると、明葉は心底安心した様子で、ホッと胸を撫で下ろした。
「うふふ……っ。やっぱ結衣さんともっと仲良うなりたいわぁ。結衣さんと出会えてほんまに嬉しい」
二つに束ねた髪を揺らし、明葉は笑う。
その笑顔は、やはり美しい。
「……わ、私だって明葉ちゃんともっと仲良くしたい! 友だちになろうよ!」
美しい笑顔に魅せられ、結衣は明葉の手を強く握っていた。
そして、結衣も同じような笑顔を浮かべる。
そうして、結衣と明葉は今日、友だちになった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
龍神の詩 ~龍の姫は愛されながら大人になる~
白楠 月玻
ファンタジー
「龍神の詩 -リュウジンのウタ-」
バトルあり、友情あり、恋愛ありの戦国和風ファンタジー。王道寄り。
舞台は和:中華=8:2の乱世。
お日さま系の明るく元気なお姫様が、影を負った青年の心の闇を晴らしていく物語。兼、純愛物語。
※ ハッピーエンド確約 ※
キャラクターそれぞれが違う個性を持ち寄って、前に進んでいく。
読後ほっこりできるような、感動とやさしさを詰め込みました。
第一部は4万字ほどなので、読みやすいです。
---
南に強大な敵国を抱える小国「中州(なかす)」
戦火で先代の城主を亡くしたこの国の行く末は、若干二十歳の青年に託されていた。
◆ 乱世に不似合いな理想を陽気に語る姫君
◆ 敵国から送り込まれてきた暗殺者
◆ 恋心と政治のしがらみの間で揺れる少年
◆ 捕虜だった過去を持つ護衛官
◆ 能力だけで上を目指す、庶民出身の若き大臣
etc...
様々な境遇を持つ若者と、それを見守り、時に支える「強くてかっこいい」大人たちが出てきます。
戦闘アリ、日常アリ、恋愛アリ、時には喧嘩したり、一緒に遊んだり。
たくさんの出来事を通して成長していく群像劇です。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
(完結)獅子姫の婿殿
七辻ゆゆ
ファンタジー
ドラゴンのいる辺境グランノットに、王と踊り子の間に生まれた王子リエレは婿としてやってきた。
歓迎されるはずもないと思っていたが、獅子姫ヴェネッダは大変に好意的、素直、あけっぴろげ、それはそれで思惑のあるリエレは困ってしまう。
「初めまして、婿殿。……うん? いや、ちょっと待って。話には聞いていたがとんでもなく美形だな」
「……お初にお目にかかる」
唖然としていたリエレがどうにか挨拶すると、彼女は大きく口を開いて笑った。
「皆、見てくれ! 私の夫はなんと美しいのだろう!」
セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました
今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。
女神にさらわれ異世界で魔王を倒した大賢者!魔法も使える勝ち組人生予定で現代に戻ってみたら駄女神のミスで何故か猫の体にされちゃったにゃ
ぽてたん
ファンタジー
女神に異世界を救って欲しいと言われた主人公が、女神との交渉で討伐後に魔法の使える体で日本に戻る約束を取り付けて、異世界トリアムにて魔王を討伐!! ようやく戻ってみると女神のミスで戻る体が無くなっていた。次の体を作るまでの3年間を仮の体で過ごすか消滅かを迫られ、仮の体を選んだら主人公はまさかの子猫の体だった。猫と人間の社会を上手く渡り歩き3年後の勝ち組人生を目指して主人公は猫社会と人間社会の間で頑張っていきます。
大魔女アナスタシアの悪戯 ~運命の矢が刺さったらしいのですが、これ、間違いなんです!~
三沢ケイ
恋愛
大魔女アナスタシアは考えた。このつまらない日常に何か楽しい余興はないものか。
そして犠牲となったのは三十路OLの日下舞花。口車に乗せられて連れてこられた異世界で渡された恋に効く弓矢が誤発射し、刺さった相手はやたら怖そうな強面の軍人だった。
待ってください。これ、間違いなんです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる