上 下
97 / 262
第一章 少女たちの願い(後編)

お隣さんってまさか……

しおりを挟む
「……ん……」

 朝日が眩しい。外で小鳥がさえずっている。
 ガーネットも目の前でふよふよ浮いて――

「んえ!?」

 勢いよく飛び起きたせいか。
 盛大にガーネットとおでこでキスをした。
 その、激しく。

「いったーい……」
「いや、こっちが痛いですよぉ……急になんなんです?」

 結衣がおでこをさすって、そう呟くと。
 ガーネットが、呆れたようにそう零す。

 すでに青あざになっているおでこを押さえて、結衣は抗議する。

「だってガーネットが驚かすから!」
「驚かしたつもりはなかったんですけど!?」

 結衣が大声を張り上げると、ガーネットも負けじと食いつく。
 ガーネットの言い分によると、結衣を起こそうとして結衣の目の前にいたらしい。

 だが、青くなった結衣のおでこはそれで許したくない。
 そもそも――

「なんで今日は休みなのに起こされなきゃいけないの……?」

 なぜ休みの日、しかも朝早くに、こんなウザステッキに起こされなきゃいけないのか。
 意味がわからない、と結衣は訴える。

 そんな結衣の疑問に、ガーネットは待ってましたとばかりに声のトーンをあげる。

「実はですね? お隣の家、人が住み始めたらしいんですよぉ」
「え!? そうなの!?」

 たしかお隣は伝統的な平屋で、結構土地も家も広かった気がする。
 しかし、その分お金がかかるのか。

 このところずっと、あそこに人が住んでいるのを見たことがない。
 そんな所にどうして今更……

「うふふ。気になります? 気になりますよね!?」
「あー! わかった、わかったから! ちょっと離れよう!?」

 結衣の思考を読み取ったように、ガーネットが言う。
 結衣の顔面スレスレまで近づいて。

 結衣はため息をつきながら、ベッドから降りる。

 ガーネットの突拍子のなさとか、ウザ級のテンションの高さとか。
 色々どうにかならないものかと考えながら、結衣は仕方なく着替える。

「おほっ。結衣様も日々色々成長なされ――おっとぉ!?」
「うるさい! 少しは静かにできないの!?」

 ガーネットに鉛筆を二~三本ぶん投げたが、躱された。

 それにしても、ガーネットはどうしてこうもアレなのだろうか。
 造られた時に、製作者がミスをしたとしか思えない。

 まあ、そもそもガーネットの存在自体よくわからないのだけれども。

 それはとりあえず置いといて。成長、しているのだろうか。
 自分ではあまりわからないし、もっと成長している人もいるだろう。

 例えば、その、真菜とかせーちゃんあたり。

「いや、いいや……とりあえずお腹空いた……」

 悲しくなってくるので、考えるのをやめよう。
 結衣はそう思いながら、部屋を出た。

 ☆ ☆ ☆

「ほああ……いつも見てるけど、やっぱすごい……」
「ここが買えるというのは、相当なお金持ちでしょうねぇ~……」

 結衣とガーネットは、揃って感嘆の声を零す。
 いつも見慣れている建物だからこそ、そのすごさを改めて実感する。

 大きい木製の門が、結衣たちを出迎えている。
 それは威圧感を伴い、来るもの全てを拒むようなオーラを放っている。

「……す、すごい……なんか、緊張してきた……」

 ゴクリと唾を飲み込みながら、結衣が言う。
 だが、ガーネットは――

「ん? 結衣様! 表札のところ見てください!」

 門の右端の柱に掲げてある表札に目を向けた。
 結衣はガーネットに言われた通り、表札を見やる。
 すると――

「『高柳』……?」

 そこには、明葉と同じ苗字が書かれていた。

 昨日来た転校生。最近越してきたお隣さん。その表札に書かれた苗字。

 まさか。
 そんな結衣の思考を裏付けるように、門が開く。

「……え? 結衣さん……?」

 その声は風鈴のように、聞くものを心地よくする魅力があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~

水竜寺葵
ファンタジー
仕立て屋のライセンスを取得したばかりの少女アイリスは自分と同じ名前のお店「仕立て屋アイリス」の扉を開ける。店長の男性へとここで働かせてもらえるようにと頼むと、一年間店長として働けたならやとってもいいと条件付きで仮契約をすることとなった。 新米店長となってしまったアイリスは失敗やドジを繰り返し成長していく。果たしてお客様を満足させる事ができるのか?この物語は新米店長となってしまった少女の奮闘記である。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

転生したら人間じゃなくて魔物、それもSSSランクの天狐だったんですが?

きのこすーぷ
ファンタジー
何時もと変わらないはずの日常。 だけれど、この日は違った。教室の床は光り始め、目が覚めるとそこは洞窟の中。 主人公のコハクは頭の中で響く不思議な声と共に、新たな世界を生き抜いていく。 「ん? 殺傷した相手のスキルが吸収できるの?」授かったスキルは強力で、ステータスの上昇値も新たな世界ではトップクラス。 でもでも、魔物だし人間に討伐対象にされたらどうしよう……ふえぇ。 RPGみたいな感じです。 クラス転移も入っています。 感想は基本的に、全て承認いたします。禁止なのは、他サイトのURLや相応目的の感想となっております。 全てに返信させていただくので、暇なときにでも書いてくださると嬉しいです! 小説家になろう様でも掲載を始めました。小説家になろう様では先行で更新しております。 応援してくれるとうれしいです。https://ncode.syosetu.com/n5415ev/

処理中です...