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第一章 少女たちの願い(後編)
戦いから得るもの
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「じゃあ早速、続きをしようか」
「ほぇ!?」
唐突に美波が言い放った言葉に、結衣は変な声を出す。
結衣はもう、これで一件落着だと思っていた。
だが、美波は違うようだ。
「あー……まあ、悪いけど付き合ってあげてほしいですにゃ。美波おねーさん、勝敗がつかないとムズムズするらしいんですにゃ」
夏音は結衣に、申し訳なさそうに言う。
仕方ない。付き合ってやるか。
結衣は半ば諦めたようにそう思い、頭をかいた。
「わかったよ。それで気が済むのなら」
「ありがとー! じゃ、遠慮なく」
「――へ?」
美波がニッコリと笑って言った直後。美波が結衣の目の前から消失した。
まるで、最初からそこにいなかったかのように消えた。
「え!? ちょ……! どこ行っ――」
瞬間。
結衣の後ろに生えていた木々が二~三本ほど折れ、結衣に襲いかかる。
結衣はそれを見て、咄嗟にガーネットを掴む。
「――防壁!」
結衣は変身し、ドーム状の防御魔法を張る。
だが木々が重いせいか、防壁に早々に亀裂が奔る。
「ぐっ……!」
結衣は耐えられなくなり、別の詠唱を紡ぐ。
「――増幅!」
物理限界を超えるようなスピードが出る。
そんなスピードを利用して、結衣は木々が襲いかかってきた方とは逆方向に跳ぶ。
結衣は間一髪で、木々の襲撃を免れた。
「はぁ……はぁ……な、なんなの……?」
肩で息をしながら、結衣は考えを巡らせる。
消えた少女。襲いかかってきた木々。
少し考えたらわかるはずだ。
「結衣様! 危ない!」
「――へあ?」
考える間も与えてくれないのだろうか。
結衣は内心舌打ちして、無数の葉や木の枝を飛び回りながらかわす。
だが、さすがに全部は防ぎきれず、結衣の腕や脚に傷がつく。
「――治癒」
しかし、結衣はすかさず治癒魔法をかける。
そして地面に降り立ち、息を整える。
その時。
「ストップ! ですにゃ!」
唐突に、夏音の声が響いた。
結衣は夏音の声に振り返り、夏音の方を見やる。
結衣の視線の先には、満足そうに微笑む夏音の姿があった。
「え、なんで笑ってるの……?」
結衣が不思議そうに問うと、夏音は。
「だって、美波おねーさんが生き生きしているからですにゃ」
「え……?」
無邪気な笑顔で答える。
結衣には夏音が何を言っているのかわからなかった。
だが――
「はぁー……スッキリしたぁ……付き合わせちゃって悪かったね」
それを聞く間もなく、美波が結衣たちの輪に入る。
美波も笑顔で、満足そうに言った。
みんな美波の様子を見て、結衣は少し戸惑いがちに言う。
「あ、いや……別に構わないけど……」
「……不意打ちを仕掛けたのに、あんなに効かないとは。正直恐れ入ったよ」
「え……? じゃあ、もしかして――」
と、結衣の言葉を肯定するように美波が頷く。
「そう。僕は姿を消して木を利用した。だけど……あそこまで対応されちゃあね。僕の負けを認めるしかないじゃないか」
この人は、何を言っているのだろう。
あのまま続けていれば長期戦になり、精神的にも体力的にもキツくなって、結衣が負けていたかもしれないのに。
結衣はそう思うが、美波はスッキリしたような表情を浮かべている。
なので、結衣は何も言わないことにした。
☆ ☆ ☆
ちょうど結衣と美波が仲良くなりかけた頃。
また新たな――小さな少女が、ガーネットを求めて歩き出す。
「う~ん……ほんまにここでええんやろか……」
その事に結衣は当然、気付くことはなかった。
「ほぇ!?」
唐突に美波が言い放った言葉に、結衣は変な声を出す。
結衣はもう、これで一件落着だと思っていた。
だが、美波は違うようだ。
「あー……まあ、悪いけど付き合ってあげてほしいですにゃ。美波おねーさん、勝敗がつかないとムズムズするらしいんですにゃ」
夏音は結衣に、申し訳なさそうに言う。
仕方ない。付き合ってやるか。
結衣は半ば諦めたようにそう思い、頭をかいた。
「わかったよ。それで気が済むのなら」
「ありがとー! じゃ、遠慮なく」
「――へ?」
美波がニッコリと笑って言った直後。美波が結衣の目の前から消失した。
まるで、最初からそこにいなかったかのように消えた。
「え!? ちょ……! どこ行っ――」
瞬間。
結衣の後ろに生えていた木々が二~三本ほど折れ、結衣に襲いかかる。
結衣はそれを見て、咄嗟にガーネットを掴む。
「――防壁!」
結衣は変身し、ドーム状の防御魔法を張る。
だが木々が重いせいか、防壁に早々に亀裂が奔る。
「ぐっ……!」
結衣は耐えられなくなり、別の詠唱を紡ぐ。
「――増幅!」
物理限界を超えるようなスピードが出る。
そんなスピードを利用して、結衣は木々が襲いかかってきた方とは逆方向に跳ぶ。
結衣は間一髪で、木々の襲撃を免れた。
「はぁ……はぁ……な、なんなの……?」
肩で息をしながら、結衣は考えを巡らせる。
消えた少女。襲いかかってきた木々。
少し考えたらわかるはずだ。
「結衣様! 危ない!」
「――へあ?」
考える間も与えてくれないのだろうか。
結衣は内心舌打ちして、無数の葉や木の枝を飛び回りながらかわす。
だが、さすがに全部は防ぎきれず、結衣の腕や脚に傷がつく。
「――治癒」
しかし、結衣はすかさず治癒魔法をかける。
そして地面に降り立ち、息を整える。
その時。
「ストップ! ですにゃ!」
唐突に、夏音の声が響いた。
結衣は夏音の声に振り返り、夏音の方を見やる。
結衣の視線の先には、満足そうに微笑む夏音の姿があった。
「え、なんで笑ってるの……?」
結衣が不思議そうに問うと、夏音は。
「だって、美波おねーさんが生き生きしているからですにゃ」
「え……?」
無邪気な笑顔で答える。
結衣には夏音が何を言っているのかわからなかった。
だが――
「はぁー……スッキリしたぁ……付き合わせちゃって悪かったね」
それを聞く間もなく、美波が結衣たちの輪に入る。
美波も笑顔で、満足そうに言った。
みんな美波の様子を見て、結衣は少し戸惑いがちに言う。
「あ、いや……別に構わないけど……」
「……不意打ちを仕掛けたのに、あんなに効かないとは。正直恐れ入ったよ」
「え……? じゃあ、もしかして――」
と、結衣の言葉を肯定するように美波が頷く。
「そう。僕は姿を消して木を利用した。だけど……あそこまで対応されちゃあね。僕の負けを認めるしかないじゃないか」
この人は、何を言っているのだろう。
あのまま続けていれば長期戦になり、精神的にも体力的にもキツくなって、結衣が負けていたかもしれないのに。
結衣はそう思うが、美波はスッキリしたような表情を浮かべている。
なので、結衣は何も言わないことにした。
☆ ☆ ☆
ちょうど結衣と美波が仲良くなりかけた頃。
また新たな――小さな少女が、ガーネットを求めて歩き出す。
「う~ん……ほんまにここでええんやろか……」
その事に結衣は当然、気付くことはなかった。
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