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第一章 少女たちの願い(後編)
無事でよかった……!
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ザァ……ッと、強い風が吹き荒れる。
それに伴って一つの影が揺れたが、今の結衣はそれに気づくことが出来なかった。
「……っは!」
「結衣様!?」
背中から何者かに押される。
結衣はバランスを崩して、夏音と同じように倒れてしまった。
結衣は後ろを振り返ろうと頭を上げ――
「……え?」
そこで結衣は気づいた。
夏音の体が、何やら黒いモヤみたいなモノで覆われていることに。
――どういうことだ? まるで意味がわからない。
「か、夏音……ちゃん……?」
「どこ見て言ってるんですにゃ……」
「えっ!?!?」
背後からかけられた声に、驚いて振り向く。
そこにいたのは。
「……夏音、ちゃん……?」
「ですにゃ!」
「え、ど、どうして……」
キリッとした表情で、こちらを見下ろす夏音。
黒いモヤに包まれて倒れている夏音。
……どちらが、本物なのだろう。
「そっちの夏音は“身代わり”ですにゃ」
平然としている方の夏音が、わけを話し始めた。
黒いモヤに包まれているのは、結衣と戦った時に繰り出していた黒い影であること。
黒髪少女は、黒い影の方を攻撃したということ。
その後、黒髪少女は何処かに消え去ったこと。
「そ、そうだったんだ……」
「あの黒い影に身代わり能力があったんですねぇ~」
「まぁ、夏音も最近上手く操れるようになってきてから気づいたんですけどにゃ」
「あ、で、でも……あの子がどこに行ったのか分からないんだよね……?」
そう。夏音が無事なのはすごく嬉しいのだが。
夏音に依頼された、黒髪少女の救出が出来なくなる。
そんな結衣の不安げな言葉に、夏音が申し訳なさそうに俯く。
「ごめんなさいですにゃ……身代わりを作るのに必死で美波おねーさんの行方を気にしてる余裕がなかったですにゃ……」
「いや、別に夏音ちゃんのこと責めたつもりじゃなかったんだけど……」
「そうですよぉ。結衣様はいざとなれば相手の居場所を見つけることなんて造作もないですしぃ」
「大丈夫ですよぉ」と夏音を励ますように言うガーネットを、結衣は目を見開いて見つめる。
こんなに誰かを思いやるガーネットを、結衣は見たことがなかったから。
――って、こんなこと考えてる場合ではない。
「とにかくっ! 一旦家に帰ろう。もう八時になっちゃったし」
「そ、そうですよにゃ……」
お母さんに何も言わずに出てきたから、きっと心配してるだろう。
結衣がそんなことを思っていると。
夏音が何か言いたそうな顔をして結衣を見上げている。
「ん? どうしたの?」
「あ、あのですにゃ……その…………」
夏音はしばらく目を泳がせると。
「絶対……美波おねーさんのこと、助けてやってくださいですにゃ」
まっすぐ結衣の眼を見つめて、そう言った。
だから結衣も、まっすぐ夏音の眼を見つめ返して――
「うん、もちろん! 途中で投げ出すなんてしたくないしね」
そう言って、笑う。
夏音は、そんな結衣の態度に驚いた様子だったが。
「ありがとう……ですにゃ……!」
そうやって、嬉しそうに零した。
それに伴って一つの影が揺れたが、今の結衣はそれに気づくことが出来なかった。
「……っは!」
「結衣様!?」
背中から何者かに押される。
結衣はバランスを崩して、夏音と同じように倒れてしまった。
結衣は後ろを振り返ろうと頭を上げ――
「……え?」
そこで結衣は気づいた。
夏音の体が、何やら黒いモヤみたいなモノで覆われていることに。
――どういうことだ? まるで意味がわからない。
「か、夏音……ちゃん……?」
「どこ見て言ってるんですにゃ……」
「えっ!?!?」
背後からかけられた声に、驚いて振り向く。
そこにいたのは。
「……夏音、ちゃん……?」
「ですにゃ!」
「え、ど、どうして……」
キリッとした表情で、こちらを見下ろす夏音。
黒いモヤに包まれて倒れている夏音。
……どちらが、本物なのだろう。
「そっちの夏音は“身代わり”ですにゃ」
平然としている方の夏音が、わけを話し始めた。
黒いモヤに包まれているのは、結衣と戦った時に繰り出していた黒い影であること。
黒髪少女は、黒い影の方を攻撃したということ。
その後、黒髪少女は何処かに消え去ったこと。
「そ、そうだったんだ……」
「あの黒い影に身代わり能力があったんですねぇ~」
「まぁ、夏音も最近上手く操れるようになってきてから気づいたんですけどにゃ」
「あ、で、でも……あの子がどこに行ったのか分からないんだよね……?」
そう。夏音が無事なのはすごく嬉しいのだが。
夏音に依頼された、黒髪少女の救出が出来なくなる。
そんな結衣の不安げな言葉に、夏音が申し訳なさそうに俯く。
「ごめんなさいですにゃ……身代わりを作るのに必死で美波おねーさんの行方を気にしてる余裕がなかったですにゃ……」
「いや、別に夏音ちゃんのこと責めたつもりじゃなかったんだけど……」
「そうですよぉ。結衣様はいざとなれば相手の居場所を見つけることなんて造作もないですしぃ」
「大丈夫ですよぉ」と夏音を励ますように言うガーネットを、結衣は目を見開いて見つめる。
こんなに誰かを思いやるガーネットを、結衣は見たことがなかったから。
――って、こんなこと考えてる場合ではない。
「とにかくっ! 一旦家に帰ろう。もう八時になっちゃったし」
「そ、そうですよにゃ……」
お母さんに何も言わずに出てきたから、きっと心配してるだろう。
結衣がそんなことを思っていると。
夏音が何か言いたそうな顔をして結衣を見上げている。
「ん? どうしたの?」
「あ、あのですにゃ……その…………」
夏音はしばらく目を泳がせると。
「絶対……美波おねーさんのこと、助けてやってくださいですにゃ」
まっすぐ結衣の眼を見つめて、そう言った。
だから結衣も、まっすぐ夏音の眼を見つめ返して――
「うん、もちろん! 途中で投げ出すなんてしたくないしね」
そう言って、笑う。
夏音は、そんな結衣の態度に驚いた様子だったが。
「ありがとう……ですにゃ……!」
そうやって、嬉しそうに零した。
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