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第一章 少女たちの願い(後編)
子ども扱いしないでよ!
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「ふぃー……やっと落ち着いたよ……」
「結衣様はバイオレンスすぎますよぉ……」
「ガーネットが悪いって、なんで気付かないのかしら……」
結衣たちは肩で息をして、床に倒れている。
騒ぎ出すガーネットを諌め、生を放棄し出すせーちゃんを止め、結衣はどっと疲れた。
「……で、せーちゃんは何しに来たの?」
まさかカミングアウトだけをしに来たのではあるまい。
結衣はそう思って、できるだけ刺激を与えないように訊いた。
すると、せーちゃんはまた顔を逸らす。
うーん、事態が好転しない。
結衣は頑張ってせーちゃんに打ち明けてもらおうと考えるも……
……む、無理だ……
結衣の頭じゃ、良い考えが浮かばない。
諦めて別の話題に移ろうと考え、口を開こうとしたら。
「……そ、その……結衣は、どんなの付けてるのかと思って……」
「え? 付けてるって……ま、まさか……」
結衣の言葉に、コクリと頷いたせーちゃん。
……ま、まじですか。
「ご、ごめんね……せーちゃん。私じゃ力になれないよ……」
そう言うと、せーちゃんは勢いよく顔を上げ、絶望し切った顔を浮かべる。
そして、結衣の肩をガシッと強く掴んで激しく揺らした。
「なんでなんで!? 結衣を頼って結衣の家に来たのに! なんでよぉ!」
「うあぁ……頭が揺れるぅぅ……」
「結衣様ものすっごい顔してますよぉ?」
結衣の視界がぐわんぐわん揺れる。
ガーネットの笑い声も聞こえないほどの激しさ。
遊園地にあるコーヒーカップに乗った時のように目が回る。
やっと落ち着ついたのか、せーちゃんの手が離れる。
「はぁ……なんで結衣が力になれないのか、それだけ教えてくれないかしら?」
「うぅ、少しぐわんぐわんするけど……それなら言えるよ……」
まだぐらつく視界に何とか耐え、せーちゃんの問いに答え――
「それは――」
「それは、まだ結衣様にアレが来ていない。ということですね!」
――ようとしたが、ガーネットの声に防がれる。
というか、言おうとしたことを先に言われた。
ぐらついてた視界が聡明になり、代わりに視界が赤く染まる。
「……ガーネット、覚悟はいい?」
「あっはぁ。やはり図星でしたかぁ」
ブチッ、という音が聞こえた気がする。
そして次の瞬間。ガーネットを捉えようと、結衣の体は音速を越えた。
「ぎゃあああ!! やめてください、結衣様ぁぁ!!」
「うっさい! やっぱり一回痛い目見ないと分かんないようだね!」
怒りと恥で顔を真っ赤にして、結衣はガーネットをシバく。
せーちゃんは呆然と口を半開きにして、結衣たちを見ている。
そしてハッと我に返り、結衣を止めようと割り込んでくる。
「ゆ、結衣っ! そ、その……まだ来てないって子たくさんいるし……大丈夫よ??」
せーちゃんが必死で宥めるも、結衣はガーネットに制裁を加えないと気が済まない。
「ふ、ふふっ。退いて、せーちゃん。私は――」
そこまで言うと言葉を切り、目を瞑る。
そして再び目を開けると、本音をぶちまけた。
「――子供扱いされるの、嫌だから!」
「えぇー……」
気墳を上げ、結衣はまたガーネットに向き直り、どう料理してやろうかと考える。
呆れ顔のせーちゃんを蚊帳の外に置き、結衣はガーネットを痛めつけた。
☆ ☆ ☆
「結衣様は本当にバイオレンスですねぇ……」
「ガーネットが悪いんだけどね……」
「あ、もうあたし帰るわ……」
今度こそ、結衣たちは疲れ切っていた。
もう何もしたくない。
「そうだね……もう暗くなってきたし……玄関まで見送るよ」
「……ありがと」
そんなふうに会話を交わして、怒涛の一日が終わる。
だけど。
まるで、世界の終わりを表現したような夕焼けに。
結衣は少し、胸騒ぎがした。
「結衣様はバイオレンスすぎますよぉ……」
「ガーネットが悪いって、なんで気付かないのかしら……」
結衣たちは肩で息をして、床に倒れている。
騒ぎ出すガーネットを諌め、生を放棄し出すせーちゃんを止め、結衣はどっと疲れた。
「……で、せーちゃんは何しに来たの?」
まさかカミングアウトだけをしに来たのではあるまい。
結衣はそう思って、できるだけ刺激を与えないように訊いた。
すると、せーちゃんはまた顔を逸らす。
うーん、事態が好転しない。
結衣は頑張ってせーちゃんに打ち明けてもらおうと考えるも……
……む、無理だ……
結衣の頭じゃ、良い考えが浮かばない。
諦めて別の話題に移ろうと考え、口を開こうとしたら。
「……そ、その……結衣は、どんなの付けてるのかと思って……」
「え? 付けてるって……ま、まさか……」
結衣の言葉に、コクリと頷いたせーちゃん。
……ま、まじですか。
「ご、ごめんね……せーちゃん。私じゃ力になれないよ……」
そう言うと、せーちゃんは勢いよく顔を上げ、絶望し切った顔を浮かべる。
そして、結衣の肩をガシッと強く掴んで激しく揺らした。
「なんでなんで!? 結衣を頼って結衣の家に来たのに! なんでよぉ!」
「うあぁ……頭が揺れるぅぅ……」
「結衣様ものすっごい顔してますよぉ?」
結衣の視界がぐわんぐわん揺れる。
ガーネットの笑い声も聞こえないほどの激しさ。
遊園地にあるコーヒーカップに乗った時のように目が回る。
やっと落ち着ついたのか、せーちゃんの手が離れる。
「はぁ……なんで結衣が力になれないのか、それだけ教えてくれないかしら?」
「うぅ、少しぐわんぐわんするけど……それなら言えるよ……」
まだぐらつく視界に何とか耐え、せーちゃんの問いに答え――
「それは――」
「それは、まだ結衣様にアレが来ていない。ということですね!」
――ようとしたが、ガーネットの声に防がれる。
というか、言おうとしたことを先に言われた。
ぐらついてた視界が聡明になり、代わりに視界が赤く染まる。
「……ガーネット、覚悟はいい?」
「あっはぁ。やはり図星でしたかぁ」
ブチッ、という音が聞こえた気がする。
そして次の瞬間。ガーネットを捉えようと、結衣の体は音速を越えた。
「ぎゃあああ!! やめてください、結衣様ぁぁ!!」
「うっさい! やっぱり一回痛い目見ないと分かんないようだね!」
怒りと恥で顔を真っ赤にして、結衣はガーネットをシバく。
せーちゃんは呆然と口を半開きにして、結衣たちを見ている。
そしてハッと我に返り、結衣を止めようと割り込んでくる。
「ゆ、結衣っ! そ、その……まだ来てないって子たくさんいるし……大丈夫よ??」
せーちゃんが必死で宥めるも、結衣はガーネットに制裁を加えないと気が済まない。
「ふ、ふふっ。退いて、せーちゃん。私は――」
そこまで言うと言葉を切り、目を瞑る。
そして再び目を開けると、本音をぶちまけた。
「――子供扱いされるの、嫌だから!」
「えぇー……」
気墳を上げ、結衣はまたガーネットに向き直り、どう料理してやろうかと考える。
呆れ顔のせーちゃんを蚊帳の外に置き、結衣はガーネットを痛めつけた。
☆ ☆ ☆
「結衣様は本当にバイオレンスですねぇ……」
「ガーネットが悪いんだけどね……」
「あ、もうあたし帰るわ……」
今度こそ、結衣たちは疲れ切っていた。
もう何もしたくない。
「そうだね……もう暗くなってきたし……玄関まで見送るよ」
「……ありがと」
そんなふうに会話を交わして、怒涛の一日が終わる。
だけど。
まるで、世界の終わりを表現したような夕焼けに。
結衣は少し、胸騒ぎがした。
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