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第一章 少女たちの願い(後編)
引きこもっていると……
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『――明日は各地で大雨になりそうです。外出は控えめに……』
☆ ☆ ☆
確かに、大雨が降った。
「まさか本当に当たるとは……」
天気予報なんて外れることもあるのに。
結衣は土砂降りの雨を呆然と見つめながら、そんなことを考えていた。
今日はせーちゃんが用事があると言っていたが、この雨じゃ家から一歩も出られない。
傘もカッパも信用出来ないほど、雨が大量だからだ。
お父さんは仕事だし、お母さんは小学校時代からの友達との集まりだとかで出かけている。
今日は土曜日なので、学校もない。真菜にも会えない。
「久しぶりに一人になったなー……」
だからと言って、何もすることがない。
……暇だ。
ベッドの上で、本を読んでゴロゴロ寝転がりながら思った。
「おや、おばあさんがいますねぇ」
ニヤニヤと、どこからともなく現れたガーネットがからかうように言う。
訂正、一人ではなかった。
「むー、おばあさんじゃないもん!」
「そうですかぁ? 全然子供らしさが感じられなかったので、おばあさんかと思いましたぁ」
確かに、朝からベッドでゴロゴロしているのは子供っぽくないだろう。
だが、だからと言って年が離れすぎではないだろうか。
結衣はガーネットを無視し、窓の外を見る。
だが、結衣の眼には雨が映るばかりだ。
「何か楽しいことないかなー……」
ポツリと呟くが、何かを期待しているわけではない。
そう呟いた時に、それが本当に起こったら嬉しいけど……と思った程度だ。
もちろん、そんな都合のいい展開が訪れるはずもな――
「ふむ……では、楽しいことをしましょうかぁ!」
――グルンッ!
結衣はガーネットに向き直り、暗いからとつけていた電気より輝いた瞳でガーネットを見た。
「楽しいことあるの!?」
「うおう……結衣様、すごく食いつきますねぇ……」
珍しく、ガーネットが引くほどだったらしい。
それはともかく、楽しいことが出来るならなんだっていい。
早く楽しいことがしたい。
そんな結衣の内心を察してか、ガーネットが楽しそうに言う。
「ではぁ! とっておきの楽しいこと、しましょうかぁ!」
「う、うんっ!」
結衣の胸は高鳴っている。
ワクワクドキドキしすぎて、体も少し暖かくなった。
そうして、ガーネットは厳かな雰囲気を醸し出して、口を開く。
「――魔法の使い方を、研究しましょーう!」
それを聞いた途端、スゥ……と結衣の眼から光が消え、再びベッドの上で寝転がった。
「ええっ!? 結衣様!? なんでもうやる気ないんですか!?」
本気でわかっていないらしいガーネットは、結衣の上を忙しなく飛び回っている。
その行動を見ていると、結衣はガーネットと初めて会った時のことを思い出す。
胡散臭くて、現実逃避をするしか出来ないような……よく分からない感情が溢れ出す。
この状況も、まさしくそんな感じだ。
何もかも捨てて無になろう。そう決めた時だった。
「だからぁ! なんで結衣様はいつも私の話を聞いてくれないんですかぁ!?」
ガーネットが、結衣の顔面スレスレまでステッキの頭の部分を近付けて叫んだ。
色々言いたいことはあるが、とりあえず結衣はガーネットを手で退けて、のそりと起き上がる。
「だってガーネットの言ってることってよくわかんないし、胡散臭いし……」
いちいち説明するのも面倒臭い。
何故、ガーネットはわかってくれないのだろうか。
「心外ですねぇ! 私のどこが胡散臭いんですかぁ」
「どこもかしこも」
「即答!?」
いちいち声を張り上げるガーネットに、正直五月蝿いと感じた。
だが、結衣の表情にそれが出ることがなかったのか、あるいは気づかなかったのか。
ガーネットは不思議そうにふよふよ浮いていた。
「結衣様ぁ……雨のせいで気持ちがどんよりするのも分かりますがぁ、ゴロゴロしてると――太りますよぉ?」
「今すぐ動きます! そうね、動かなきゃ!」
ガーネットのその一言によって、結衣の体はベッドから飛び起きた。
“太る”という単語は、女の子にとって最も敵視するものの一つだ。
☆ ☆ ☆
確かに、大雨が降った。
「まさか本当に当たるとは……」
天気予報なんて外れることもあるのに。
結衣は土砂降りの雨を呆然と見つめながら、そんなことを考えていた。
今日はせーちゃんが用事があると言っていたが、この雨じゃ家から一歩も出られない。
傘もカッパも信用出来ないほど、雨が大量だからだ。
お父さんは仕事だし、お母さんは小学校時代からの友達との集まりだとかで出かけている。
今日は土曜日なので、学校もない。真菜にも会えない。
「久しぶりに一人になったなー……」
だからと言って、何もすることがない。
……暇だ。
ベッドの上で、本を読んでゴロゴロ寝転がりながら思った。
「おや、おばあさんがいますねぇ」
ニヤニヤと、どこからともなく現れたガーネットがからかうように言う。
訂正、一人ではなかった。
「むー、おばあさんじゃないもん!」
「そうですかぁ? 全然子供らしさが感じられなかったので、おばあさんかと思いましたぁ」
確かに、朝からベッドでゴロゴロしているのは子供っぽくないだろう。
だが、だからと言って年が離れすぎではないだろうか。
結衣はガーネットを無視し、窓の外を見る。
だが、結衣の眼には雨が映るばかりだ。
「何か楽しいことないかなー……」
ポツリと呟くが、何かを期待しているわけではない。
そう呟いた時に、それが本当に起こったら嬉しいけど……と思った程度だ。
もちろん、そんな都合のいい展開が訪れるはずもな――
「ふむ……では、楽しいことをしましょうかぁ!」
――グルンッ!
結衣はガーネットに向き直り、暗いからとつけていた電気より輝いた瞳でガーネットを見た。
「楽しいことあるの!?」
「うおう……結衣様、すごく食いつきますねぇ……」
珍しく、ガーネットが引くほどだったらしい。
それはともかく、楽しいことが出来るならなんだっていい。
早く楽しいことがしたい。
そんな結衣の内心を察してか、ガーネットが楽しそうに言う。
「ではぁ! とっておきの楽しいこと、しましょうかぁ!」
「う、うんっ!」
結衣の胸は高鳴っている。
ワクワクドキドキしすぎて、体も少し暖かくなった。
そうして、ガーネットは厳かな雰囲気を醸し出して、口を開く。
「――魔法の使い方を、研究しましょーう!」
それを聞いた途端、スゥ……と結衣の眼から光が消え、再びベッドの上で寝転がった。
「ええっ!? 結衣様!? なんでもうやる気ないんですか!?」
本気でわかっていないらしいガーネットは、結衣の上を忙しなく飛び回っている。
その行動を見ていると、結衣はガーネットと初めて会った時のことを思い出す。
胡散臭くて、現実逃避をするしか出来ないような……よく分からない感情が溢れ出す。
この状況も、まさしくそんな感じだ。
何もかも捨てて無になろう。そう決めた時だった。
「だからぁ! なんで結衣様はいつも私の話を聞いてくれないんですかぁ!?」
ガーネットが、結衣の顔面スレスレまでステッキの頭の部分を近付けて叫んだ。
色々言いたいことはあるが、とりあえず結衣はガーネットを手で退けて、のそりと起き上がる。
「だってガーネットの言ってることってよくわかんないし、胡散臭いし……」
いちいち説明するのも面倒臭い。
何故、ガーネットはわかってくれないのだろうか。
「心外ですねぇ! 私のどこが胡散臭いんですかぁ」
「どこもかしこも」
「即答!?」
いちいち声を張り上げるガーネットに、正直五月蝿いと感じた。
だが、結衣の表情にそれが出ることがなかったのか、あるいは気づかなかったのか。
ガーネットは不思議そうにふよふよ浮いていた。
「結衣様ぁ……雨のせいで気持ちがどんよりするのも分かりますがぁ、ゴロゴロしてると――太りますよぉ?」
「今すぐ動きます! そうね、動かなきゃ!」
ガーネットのその一言によって、結衣の体はベッドから飛び起きた。
“太る”という単語は、女の子にとって最も敵視するものの一つだ。
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