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第一章 少女たちの願い(前編)

突然の来訪者

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「こんにちは~!」
「あ、え、うん? いらっしゃい?」
「なんですか? そんなに眼丸くして~」

 子供なら「お腹空いたー!」とか言ってお菓子を強請るであろう頃合い。
 そんなおやつ時に現れた一人の天使。
 せーちゃんはそんな天使にどうしていいかわからず、フリーズした。

「せーちゃん……?」
「そういうふうに呼ばないで! ……あー、もう、あがって?」
「お邪魔しまーす!」

 何故こんな天使がいきなり訪ねて来たのか謎ではあるが、訳もなく追い返すのはさすがに気が引ける。
 せーちゃんはそう思い、家にあげることにした。

 何やらスキップをして廊下を駆けている天使――緋依を見ながら、せーちゃんも後に続く。

「わー! 広いですねー!」
「そうかしら……? まあ、そうかもしれないわね」

 緋依は、リビングを見回しながら感嘆の声を零す。
 正直、その反応は悪い気がしない。
 せーちゃんは少しいい気になりながら、緋依の反応を再び見ようとして。

「え!? あれ、緋依さん!?」

 少し目を離した隙に、緋依の姿が忽然と消えた。
 どこに行ったのだろうとキョロキョロ辺りを見回す。

 すると、寝室で寝ていた母がこちらに来ていた。
 母は少し身体が弱いため、昼間や夕方は休んでいることが多いのだ。

「お、お母様……どうしたの?」

 せーちゃんがぎこちなく問うと、母はキョトンと首を傾げて言った。

「どう……って、お友達が遊びに来ているのでしょう? お茶とお菓子を用意しなきゃ」
「あー、そういう……って! え!? なんで緋依さんが来てるの知ってるの!?」
「え? だってさっき、星良の部屋に入っていくのを見たわよ?」

 ――…………
 ドドドドド――ッ!
 ――バァンッ!

「何勝手に人の部屋に入ってるのよ!?」

 せーちゃんは急いで自分の部屋に向かい、ドアを大袈裟に開ける。

 これが短距離走なら、自己最高タイムをたたき出したかもしれない。
 ……ということはどうでもよくて。

「あはは……ちょっとはしゃいじゃいました♡」

 テヘペロと付け加え、緋依はむくりと起き上がる。

 今までゴロゴロ寝転がっていたのか。
 なんという図々しさ……と、せーちゃんは怒りを通り越して感心していた。

「はぁ……で、そろそろなんでうちに来たのか、説明してもらえない?」

 せーちゃんは呆れながらも、真剣に訊く。
 いくらせーちゃんの家と緋依の家が近いからって、今まで緋依が訪ねてきたことなんてなかった。

 だから何か伝えたいのか、何かが起こる前触れなのか。
 何はともあれ、単純に理由が知りたい。

 せーちゃんの問いに、緋依は困ったように顔を顰める。

「そうですね~……」

 そして、実は――と切り出す。

「単純に、遊びたかっただけですよ」
「……はい?」

 放たれた言葉に、せーちゃんは呆然とする。

「え、それだけ……?」
「まあ、それだけではないですが……一番の理由はそれですね」

 てへへ……と、照れくさそうに緋依は笑う。
 せーちゃんはそれにどう反応すれば良いかわからず、再びフリーズした。

 自分と、遊びたい……?
 そんなこと、せーちゃんは今まで言われたことがなかった。

「ふへへ……」
「……せーちゃん?」

 せーちゃんは気がつくと、不気味に笑っていた。
 だが、心配そうに問う緋依の姿には気付くことができなかった。
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