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第一章 少女たちの願い(前編)
夏音の力
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満月が照らし出す露天風呂。
雅な雰囲気が漂うそこは、夏音から見たら逃げ出したくなる光景があった。
「お、やっほ~」
「お、おねーさんは……」
前に夏音の温泉宿に、結衣と一緒に来ていたお姉さん。
確か名前は――
「せーちゃんさん……」
「せーちゃんさん言うな!」
ザバァ。石畳の上に腰掛けていたせーちゃんが、勢いよく立ち上がる。
その衝撃で、お湯が勢いよく波打つ。
「……で、なんの用ですかにゃ?」
夏音が呆れ気味に、半眼を向けながらそう問うと、せーちゃんはゴホンと咳払いした。
その後、急に真面目な顔になり、夏音は一瞬硬直してしまう。
「ちょっと話したいことがあって来たのよ」
「……話したいこと?」
夏音がせーちゃんの言葉を反芻してそう訊くと、せーちゃんはコクリと頷く。
「この前、結衣と結衣のお母さんとここに来て、あなたと出会った。……そうよね?」
せーちゃんは、夏音に確認するようにそう尋ねる。
夏音は訝しげながらも、黙って頷く。
すると、せーちゃんがここに来た理由を話し出す。
「その時から私はあなたが結衣の敵なんじゃないかって……薄々勘づいていたの」
「――!」
夏音は目を見開くことしか出来なかった。
そして、せーちゃんは夏音を置き去りに、なおも言い続ける。
「あの時あなた……獣耳付けてたわよね?」
「……それだけで、決めつけたんですかにゃ?」
せーちゃんを睨むようにして言い放つも、せーちゃんは夏音の様子を気にしていないようだった。
そして、せーちゃんは淡々と言葉を重ねる。
「私の武器は魔法を無効化する。……知ってた?」
「まあ……何となくですけどにゃ……」
夏音の疑問を無視して続けるせーちゃんに、夏音は訝しげな顔をする。
夏音の疑問にも答えてほしい。そう思っていた。
「そう……なら――」
そこでせーちゃんは、わざとらしく言葉を切って言う。
「――あなたの衣装にも魔法が使われているって、知ってた?」
「……なんの、ことですにゃ……?」
夏音はわからない。
この人が何を言っているのか。そして、問われた内容も。
夏音はずっと、魔法少女に対抗する大きな力とだけ捉えていた。
だけど、そうではないらしい。
「私もね、よく分からなかった。だけど、あなたの獣耳と尻尾は魔法で作られたものなの」
せーちゃんは、真っ直ぐに夏音の瞳を見つめる。
せーちゃんの瞳には、強い意志と――凛とした爽やかさがあった。
「あの時、あなたが温泉から出た後……こっそり確かめてたの」
「……それで、夏音の衣装に魔法が使われてるって……分かったんですにゃ……?」
夏音は問うように、そして、確認するようにせーちゃんさんの瞳を見つめ返す。
すると、せーちゃんはコクリと頷く。
「そう。私の武器を当てたら消えたもの……まあ、すぐに復活したみたいだけれども」
と言って、夏音の頭を見やる。
夏音の頭には、大きな狐の耳が付いていた。
それを、夏音は触って確認する。
「えっ!? 発動した覚えないのににゃ!?」
夏音は驚きのあまり、目を剥く。
しかし、せーちゃんさんは「やっぱり……」と目を伏せながら続ける。
「あなたは私から見ても幼いわ。だから――」
そしてゆっくりと目を開きながら、本当に、淡々と思ったことを告げる。
「あなたはまだ、その力を制御しきれていない」
雅な雰囲気が漂うそこは、夏音から見たら逃げ出したくなる光景があった。
「お、やっほ~」
「お、おねーさんは……」
前に夏音の温泉宿に、結衣と一緒に来ていたお姉さん。
確か名前は――
「せーちゃんさん……」
「せーちゃんさん言うな!」
ザバァ。石畳の上に腰掛けていたせーちゃんが、勢いよく立ち上がる。
その衝撃で、お湯が勢いよく波打つ。
「……で、なんの用ですかにゃ?」
夏音が呆れ気味に、半眼を向けながらそう問うと、せーちゃんはゴホンと咳払いした。
その後、急に真面目な顔になり、夏音は一瞬硬直してしまう。
「ちょっと話したいことがあって来たのよ」
「……話したいこと?」
夏音がせーちゃんの言葉を反芻してそう訊くと、せーちゃんはコクリと頷く。
「この前、結衣と結衣のお母さんとここに来て、あなたと出会った。……そうよね?」
せーちゃんは、夏音に確認するようにそう尋ねる。
夏音は訝しげながらも、黙って頷く。
すると、せーちゃんがここに来た理由を話し出す。
「その時から私はあなたが結衣の敵なんじゃないかって……薄々勘づいていたの」
「――!」
夏音は目を見開くことしか出来なかった。
そして、せーちゃんは夏音を置き去りに、なおも言い続ける。
「あの時あなた……獣耳付けてたわよね?」
「……それだけで、決めつけたんですかにゃ?」
せーちゃんを睨むようにして言い放つも、せーちゃんは夏音の様子を気にしていないようだった。
そして、せーちゃんは淡々と言葉を重ねる。
「私の武器は魔法を無効化する。……知ってた?」
「まあ……何となくですけどにゃ……」
夏音の疑問を無視して続けるせーちゃんに、夏音は訝しげな顔をする。
夏音の疑問にも答えてほしい。そう思っていた。
「そう……なら――」
そこでせーちゃんは、わざとらしく言葉を切って言う。
「――あなたの衣装にも魔法が使われているって、知ってた?」
「……なんの、ことですにゃ……?」
夏音はわからない。
この人が何を言っているのか。そして、問われた内容も。
夏音はずっと、魔法少女に対抗する大きな力とだけ捉えていた。
だけど、そうではないらしい。
「私もね、よく分からなかった。だけど、あなたの獣耳と尻尾は魔法で作られたものなの」
せーちゃんは、真っ直ぐに夏音の瞳を見つめる。
せーちゃんの瞳には、強い意志と――凛とした爽やかさがあった。
「あの時、あなたが温泉から出た後……こっそり確かめてたの」
「……それで、夏音の衣装に魔法が使われてるって……分かったんですにゃ……?」
夏音は問うように、そして、確認するようにせーちゃんさんの瞳を見つめ返す。
すると、せーちゃんはコクリと頷く。
「そう。私の武器を当てたら消えたもの……まあ、すぐに復活したみたいだけれども」
と言って、夏音の頭を見やる。
夏音の頭には、大きな狐の耳が付いていた。
それを、夏音は触って確認する。
「えっ!? 発動した覚えないのににゃ!?」
夏音は驚きのあまり、目を剥く。
しかし、せーちゃんさんは「やっぱり……」と目を伏せながら続ける。
「あなたは私から見ても幼いわ。だから――」
そしてゆっくりと目を開きながら、本当に、淡々と思ったことを告げる。
「あなたはまだ、その力を制御しきれていない」
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