魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O

文字の大きさ
上 下
66 / 262
第一章 少女たちの願い(前編)

夏音の力

しおりを挟む
 満月が照らし出す露天風呂。
 雅な雰囲気が漂うそこは、夏音から見たら逃げ出したくなる光景があった。

「お、やっほ~」
「お、おねーさんは……」

 前に夏音の温泉宿に、結衣と一緒に来ていたお姉さん。
 確か名前は――

「せーちゃんさん……」
「せーちゃんさん言うな!」

 ザバァ。石畳の上に腰掛けていたせーちゃんが、勢いよく立ち上がる。
 その衝撃で、お湯が勢いよく波打つ。

「……で、なんの用ですかにゃ?」

 夏音が呆れ気味に、半眼を向けながらそう問うと、せーちゃんはゴホンと咳払いした。
 その後、急に真面目な顔になり、夏音は一瞬硬直してしまう。

「ちょっと話したいことがあって来たのよ」
「……話したいこと?」

 夏音がせーちゃんの言葉を反芻してそう訊くと、せーちゃんはコクリと頷く。

「この前、結衣と結衣のお母さんとここに来て、あなたと出会った。……そうよね?」

 せーちゃんは、夏音に確認するようにそう尋ねる。
 夏音は訝しげながらも、黙って頷く。
 すると、せーちゃんがここに来た理由を話し出す。

「その時から私はあなたが結衣の敵なんじゃないかって……薄々勘づいていたの」
「――!」

 夏音は目を見開くことしか出来なかった。
 そして、せーちゃんは夏音を置き去りに、なおも言い続ける。

「あの時あなた……獣耳付けてたわよね?」
「……それだけで、決めつけたんですかにゃ?」

 せーちゃんを睨むようにして言い放つも、せーちゃんは夏音の様子を気にしていないようだった。
 そして、せーちゃんは淡々と言葉を重ねる。

「私の武器は魔法を無効化する。……知ってた?」
「まあ……何となくですけどにゃ……」

 夏音の疑問を無視して続けるせーちゃんに、夏音は訝しげな顔をする。
 夏音の疑問にも答えてほしい。そう思っていた。

「そう……なら――」

 そこでせーちゃんは、わざとらしく言葉を切って言う。

「――あなたの衣装にも魔法が使われているって、知ってた?」
「……なんの、ことですにゃ……?」

 夏音はわからない。
 この人が何を言っているのか。そして、問われた内容も。

 夏音はずっと、魔法少女に対抗する大きな力とだけ捉えていた。
 だけど、そうではないらしい。

「私もね、よく分からなかった。だけど、あなたの獣耳と尻尾は魔法で作られたものなの」

 せーちゃんは、真っ直ぐに夏音の瞳を見つめる。
 せーちゃんの瞳には、強い意志と――凛とした爽やかさがあった。

「あの時、あなたが温泉から出た後……こっそり確かめてたの」
「……それで、夏音の衣装に魔法が使われてるって……分かったんですにゃ……?」

 夏音は問うように、そして、確認するようにせーちゃんさんの瞳を見つめ返す。
 すると、せーちゃんはコクリと頷く。

「そう。私の武器を当てたら消えたもの……まあ、すぐに復活したみたいだけれども」

 と言って、夏音の頭を見やる。
 夏音の頭には、大きな狐の耳が付いていた。
 それを、夏音は触って確認する。

「えっ!? 発動した覚えないのににゃ!?」

 夏音は驚きのあまり、目を剥く。
 しかし、せーちゃんさんは「やっぱり……」と目を伏せながら続ける。

「あなたは私から見ても幼いわ。だから――」

 そしてゆっくりと目を開きながら、本当に、淡々と思ったことを告げる。

「あなたはまだ、その力を制御しきれていない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ハーレムが大好きです!〜全ルート攻略開始〜

M・A・J・O
大衆娯楽
【大衆娯楽小説ランキング、最高第7位達成!】 黒髪赤目の、女の子に囲まれたい願望を持つ朱美。 そんな彼女には、美少女の妹、美少女の幼なじみ、美少女の先輩、美少女のクラスメイトがいた。 そんな美少女な彼女たちは、朱美のことが好きらしく――? 「私は“百合ハーレム”が好きなのぉぉぉぉぉぉ!!」 誰か一人に絞りこめなかった朱美は、彼女たちから逃げ出した。 …… ここから朱美の全ルート攻略が始まる! ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...