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第一章 少女たちの願い(前編)

気が抜けない

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 結衣とせーちゃんが大きな声で叫ぶと、お母さんが騒ぎを聞きつけてこちらに駆け寄ってくる。

「どうしたの、二人とも? ……あら? あなた達の知り合い?」
「えーっとぉ……知り合いって言うか……」
「その……なんて言ったらいいか……」

 結衣の言葉に、せーちゃんも同じような言葉を繰り返す。
 結衣たちが困って、しどろもどろしていると、夏音は私のお母さんに向かって深々と挨拶をする。

「初めまして、秋風夏音ですにゃ! この旅館の一人娘ですにゃ。ここはどうですかにゃ?」

 夏音に唐突に問われたお母さんは、少々戸惑いながらも、笑顔でこう言った。

「ええ、初めまして。ここはいい所ね。ご飯は美味しいし、館員さんたちもいい人たちだし」

 お母さんの言葉に、ぱあっと目を輝かせる夏音。
 その姿に、何故か結衣の心が暖かくなった。

「そう言えば、他のお客さんいないね? 脱衣場のカゴには他に二、三人ぐらい居そうな感じだったけど」

 そう言って結衣は、キョロキョロと辺りを見渡した。
 だが、辺りを見渡しても他に人の気配はなく、ここにいるのは、結衣たちだけのようだ。

 それを聞いて、夏音はハッとした表情を浮かべる。

「にゃはは。結構脱ぐ時雑になっちゃってにゃ……ごめんだにゃぁ……」

 状況から察するに、あの脱衣場の惨状は全部この子の仕業らしい。
 他に二、三人ぐらい居そうな脱がれ方だったのに。

「まあ、別にそれは気にしないけど……」
「ほんとですかにゃ? 良かったにゃぁ……」

 心底ホッと胸を撫で下ろしている様子の夏音に、結衣は何やら違和感を覚えた。
 だが、その違和感の正体が分からない。何か見落としているのかもしれない。

 そう思い、結衣は再び警戒モードに突入した。
 しかし、そんな結衣の変化に気付いていないのか、夏音は普通にお湯から上がる。

「にゃはは。ちょっとのぼせてきちゃったにゃ。お先ですにゃ~」
「え? あ、うん」
「おー、じゃあね~」
「私たちのお部屋、201号室だから気軽に遊びにおいでね」

 夏音の言葉に、結衣たちはそれぞれ言葉を返す。
 その様子を見て、満足そうに微笑みながらドアを開けて出ていった。

 それから結衣たちは温泉を堪能し、充分に満喫したのだが、結衣はどうも夏音の事が気になっていた。

 何だか胸騒ぎがするような、変な感じ。
 心に靄がかかっていて、晴れない感じがする。

 そんな嫌な予感は見事的中するのだが、今の結衣にそれを予期することは出来なかった。

「にゃぁ……にゃるほど……うふふ、やっぱ大した事なさそうだにゃぁ」

 そんな夏音の意味深な言葉は、ついぞ誰にも拾われることはなく。

 そして――

 「なっ……! こ、これは……!」

 と、驚愕に塗れた声色で目を見開いたせーちゃんの事も、結衣は気付くことが出来なかった。

 ☆ ☆ ☆

 真菜と緋依も、後から温泉を堪能したようで、すごく幸せそうな顔をしている。

 それで結衣たちの温泉旅行は幕を閉じたのだが、何やらまた一波乱あるようで。
 結衣は気が抜けなかった。
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