上 下
51 / 262
第一章 少女たちの願い(前編)

美味しい食事

しおりを挟む
 さてさて。
 そんなこんなで温泉旅行が始まったわけであるが、まず先にしなくてはならない事がある。

 それは、そう。『食事』だ。

「わーい! ご飯だー!」
「すごい……本格的……な、和食……だ……!」
「ふーん……まあ、こんなもんよね」
「へぇ……いい匂いがしますね……」

 結衣、真菜、せーちゃん、緋依の順で、口々に料理の感想を零す。
 部屋に運ばれてきた料理はどれも美味しそうで、少女たちの減ったお腹が「早く食わせろ」と唸る。

 結衣はお母さんに目配せし、「食べてもいいか」と目線で訴える。
 すると、お母さんと目が合い、お母さんはパチンとウィンクをする。

「じゃ、食べよっか♪」

 その言葉が合図となり、結衣たちは一斉に手を合わせた。

「「「「いただきます!」」」」

  箸を手に取り、それぞれ目に付いたものをよそっていく。
 そして唾を飲み込み、よそったものを口に運ぶ。

 ――パクリ。
 ――…………

「「「「!?」」」」

 思わぬ衝撃に、結衣たちの目が見開かれる。

「おいし~い♪」

 美味しすぎて箸が止まらない。
 マグロとタイの刺身、白味噌の味噌汁、ホクホクとした温かい白米……
 幸福感を得るには充分すぎるほどだった。

 だが、それ以上に大物が待っていた。
 それは――

「こちら当店名物の、すき焼きになります」
「す、すき焼き……!!」

 誰かが感嘆の声をあげた。いや、あるいは全員だったかもしれない。
 すき焼き鍋がテーブルの真ん中に置かれ、蓋を取ってみると、中からすごい量の湯気が溢れてくる。

「美味し、そう……!」
「ね、これ早く食べたいです!」

 真菜と緋依が同時に零す。
 だが、お母さんはふるふると首を横に振ると、

「ダメよ。まだお肉に火が通ってないんだもの」

 言われてみれば……確かに所々赤くなっている部分が見受けられる。

「まだダメかぁ……」

 結衣はそう零すと、テーブルの下に隠れていたガーネットにひっそりと声をかける。

「ねぇ……魔法で時間早めたり出来ない?」
「なんですか、急に? まあ、出来なくもないですけど……」
「じゃあ早くやってよ!」

 結衣はガーネットに急かすように言う。
 期待のあまり少し声が大きくなった気がするが、誰一人気付いていないようなので、結衣はホッと胸を撫で下ろした。

「ですが……その……」

 ガーネットは口ごもり、何かを言うべきか否か。葛藤しているように見えた。

「『その』の後……なに?」
「あー、もう! 最初に出会った時、私一人じゃ魔法使えないって言いましたよね? だから、私に魔法を使えと仰るなら、結衣様は変身しなきゃならない――そういう事です」
「なっ!?」

 確かにガーネットはそんな事を言っていた。……ような気がする。
 だが、それでも、どこか納得いかない。

「でもさ、緋依さんに突撃した時に認識阻害かけてたよね?  あれは何なの??」

 結衣がその魔法を使おうと思って使ったわけではない。
 そもそもガーネットを自分の手で持っていなくては、当然のことだが、結衣にも魔法が使えないのだ。

 ……まあ、何事にも例外(天使モードや魔王モード)はあるが……
 そんな結衣の胸中を察してか、ガーネットは結衣の疑問に比較的丁寧に答えた。

「あれは私の……『固有スキル』だと思ってもらえればとぉ。つまり、元々備え付けられていた魔法――と言うべきですかねぇ?」
「え? つまり、どういう事??」

 ガーネットの説明を受けてなお、未だ混乱が拭えないでいる。
 むしろ、悪化している様子の結衣を見て、ガーネットが呆れながら零す。

「私は確かに自分の力で魔法を扱う事は出来ません」

 結衣がガーネットと初めて出会った時の言葉を、ガーネットは反芻して言う。

「ですが、自分の身を守れなくてはあらゆる人の手に渡り、世界が混沌に満ちてしまうかもしれない。そういう事です」
「うーん、よくわかんないけど……解った。つまり自分の身を守るための魔法なら使える……って事だよね?」
「まあ、そういう事になりますねぇ」

 なるほど……それなら納得がいく。

 そんなやり取りをしていた間に、肉に火が通ったようで、みんながすき焼きを食べ始めていた。

「あっ! ずるーい! 私も食べるー!」

 そんなこんなで、結衣たちは幸せな時を過ごした。
 “食べ物は人を幸せにする”。まさにその言葉の通りだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の砂漠のかぐや姫

くにん
ファンタジー
月から地上に降りた人々が祖となったいう、謎の遊牧民族「月の民」。聖域である竹林で月の民の翁に拾われた赤子は、美しい少女へと成長し、皆から「月の巫女」として敬愛を受けるようになります。 竹姫と呼ばれる「月の巫女」。そして、羽と呼ばれるその乳兄弟の少年。 二人の周りでは「月の巫女」を巡って大きな力が動きます。否応なくそれに巻き込まれていく二人。 でも、竹姫には叶えたい想いがあり、羽にも夢があったのです! ここではない場所、今ではない時間。人と精霊がまだ身近な存在であった時代。 中国の奥地、ゴビの荒地と河西回廊の草原を舞台に繰り広げられる、竹姫や羽たち少年少女が頑張るファンタジー物語です。 物語はゆっくりと進んでいきます。(週1、2回の更新) ご自分のペースで読み進められますし、追いつくことも簡単にできます。新聞連載小説のように、少しずつですが定期的に楽しめるものになればいいなと思っています。  是非、輝夜姫や羽たちと一緒に、月の民の世界を旅してみてください。 ※日本最古の物語「竹取物語」をオマージュし、遊牧民族の世界、中国北西部から中央アジアの世界で再構築しました。

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

大魔女アナスタシアの悪戯 ~運命の矢が刺さったらしいのですが、これ、間違いなんです!~

三沢ケイ
恋愛
大魔女アナスタシアは考えた。このつまらない日常に何か楽しい余興はないものか。 そして犠牲となったのは三十路OLの日下舞花。口車に乗せられて連れてこられた異世界で渡された恋に効く弓矢が誤発射し、刺さった相手はやたら怖そうな強面の軍人だった。 待ってください。これ、間違いなんです!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko
ファンタジー
ある日私は、男の子4人、女の子4人の幼なじみ達が出てくる乙女ゲームを買った。 魔法の世界が舞台のファンタジーゲームで、プレーヤーは4人の女の子の中から1人好きなヒロインを選ぶ事ができる。 ・可愛くて女の子らしい、守ってあげたくなるようなヒロイン「マイヤ」 ・スポーツ、勉強と何でもできるオールマイティーなヒロイン「セレス」 ・クールでキレイな顔立ち、笑顔でまわりを虜にしてしまうヒロイン「ルナ」 ・顔立ちは悪くないけど、他の3人が飛び抜けている所為か平凡に見られがちなヒロイン「アリア」 4人目のヒロイン「アリア」を選択する事はないな……と思っていたら、いつの間にか乙女ゲームの世界に転生していた! しかも、よりにもよって一番モテないヒロインの「アリア」に!! モテないキャラらしく恋愛なんて諦めて、魔法を使い楽しく生きよう! と割り切っていたら……? 本編の話が長くなってきました。 1話から読むのが大変……という方は、「子どもの頃(入学前)」編 、「中等部」編をすっと飛ばして「第1部まとめ」、「登場人物紹介」、「第2部まとめ」、「第3部まとめ」からどうぞ! ※「登場人物紹介」はイメージ画像ありがございます。 ※自分の中のイメージを大切にしたい方は、通常の「登場人物紹介」の主要キャラ、サブキャラのみご覧ください。 ※長期連載作品になります。

虹の騎士団物語

舞子坂のぼる
ファンタジー
昔々、神様は世界をひとつにできる架け橋、虹を作りました。 けれど、世界はひとつになるどころか、いつまで経っても争いがなくなりません。 悲しんだ神様は、一筋の涙を流しました。 涙が虹に落ちると、虹は砕け、空から消えました。 それから、虹が空に現れることはありませんでした。 でもある日、砕けた虹のカケラが、ある国の9人の少女の元にとどきます。 虹の騎士団と呼ばれた彼女たちが世界をひとつにしてくれる、最後の希望になった。そのときのお話です。

処理中です...