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第一章 少女たちの願い(前編)
全力で楽しもう!
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そして現在、結衣たちはドライブを満喫していた。
窓から入ってくる爽やかな風、遠くに見える青い空。
結衣の親の車は少し大きく、六人居てもあまり窮屈ではないように感じる。
「わー……! いい眺め……!」
思わず感嘆の声が、結衣の口から溢れ出た。
それほどまでに素晴らしい眺めなのだ。
真菜たちもその眺めに胸を打たれたのか、外の景色に釘付けになっている。
そして、少し長めのドライブの後、結衣たちは温泉宿に着いた。
外観はいかにも和風な感じで、趣を感じる。
だが、不思議とボロいとか汚いとか――そんなことは感じさせない清潔感がある。
「ここが、今日泊まる所か!」
「ふむふむぅ、いかにも旅館って感じですねぇ」
「ガーネット!? 誰かに見られたらどうすんの!」
予想だにしていない声が隣から聴こえ、バッグに仕舞おうと必死で捕まえようとする。
だが、ガーネットは結衣の手を華麗に躱しながら続ける。
「いいじゃないですかぁ。人通りも少ないし、結衣様の両親は今駐車場探しに行ってるんですし?」
「そういう問題じゃなーい! 何処からか誰かが見ているかもだし、敵が気付いちゃうかもでしょ!?」
確かに、ガーネットの言い分は分からなくもない。
人通りが少ないと言うか……ほとんど人気がなく、不気味なほどだ。
だが、建物はそんなに少ないわけではなく、窓から見られる危険もある。
しかも、いつ敵が結衣とガーネットを襲ってくるかわからない。
そんな状況下で迂闊に外に出て、騒ぎとかになったらどうするんだ……と、結衣は不安そうに思った。
「まあ、別にいいんじゃない?」
だが、そんな結衣の思考を遮断した声が後ろから聴こえた。
「おやぁ! せーちゃん様も私と同じ考えですかぁ?」
「せーちゃん様って言うな!」
ギャーギャーと騒ぐ二人に「勘弁して欲しい……」と思いながら、私は強引に割って入る。
「どういうこと? 『別にいいんじゃない?』って……」
「あー……それはね、誰かが窓から見ちゃったとしても記憶改竄魔法とかでどうにかなるだろうし? 敵も迂闊に攻めてこられないでしょ」
「なんせ――」と続けて、
「結衣の他に三人も戦力が居るんだしね!」
せーちゃんは自信満々に、胸を張って堂々と答える。
結衣は確かにと思って、せーちゃんの言うことは一理あるなと感じた。
「ふっふーん。どうですか、結衣様! これが信頼関係と言うものでぇす!」
「いや、ガーネットにはないわ」
「酷くないですか!?」
せーちゃんとガーネットって意外といい友達になれるのでは……?
結衣は、そのやり取りを遠巻きに見てそう思った。
「お待たせ~……って何か賑やかね?」
「小学生は遊びたい盛りだからな、元気で良いじゃないか」
結衣の両親が揃って口を開く。
結衣はせーちゃんとガーネットのやり取りを見られていないか、聞かれていないか、ヒヤヒヤした。
だが、特に何もツッコまれないので、結衣はホッと胸を撫で下ろす。
☆ ☆ ☆
チェックインを済ませ、いよいよ部屋に案内される。
部屋の中は広く、五人いても狭さを感じさせず、畳の匂いが心地よい。
何故五人かって……?
結衣のお父さんは別室にいるのだ。
年頃の女の子が集まる部屋に、男は居られないから。
「わー……すごい、ね……」
「こういうのって、『趣がある』って言うんですよね……!」
真菜と緋依が、口々に部屋の感想を零す。
……無理もないだろう。何せ結衣たち全員、温泉は初めてなのだから。
結衣もこの二人のように、少なからずテンションが上がっていた。
「お食事は七時から、お湯は六時から深夜二時までとなっております」
「はーい!」
優しそうな顔と声をした女将さんが、そう言ってくれた。
「それではごゆっくり」
ぺこりと頭を下げて、女将さんは部屋を出ていく。
――なんだかすごくワクワクする!
未知への期待か、それとも皆でいるから心が躍るのか。
どっちにせよ、結衣は今、最高に幸せな気分の中にいる。
結衣がそういう気分に浸っていると。
結衣のお母さんが、かつて無いほどテンション高く叫んだ。
「さあ、皆! 温泉、楽しむわよ!」
「「「「おー!」」」」
結衣たちはそれに呼応するように、高らかに叫んだ。
窓から入ってくる爽やかな風、遠くに見える青い空。
結衣の親の車は少し大きく、六人居てもあまり窮屈ではないように感じる。
「わー……! いい眺め……!」
思わず感嘆の声が、結衣の口から溢れ出た。
それほどまでに素晴らしい眺めなのだ。
真菜たちもその眺めに胸を打たれたのか、外の景色に釘付けになっている。
そして、少し長めのドライブの後、結衣たちは温泉宿に着いた。
外観はいかにも和風な感じで、趣を感じる。
だが、不思議とボロいとか汚いとか――そんなことは感じさせない清潔感がある。
「ここが、今日泊まる所か!」
「ふむふむぅ、いかにも旅館って感じですねぇ」
「ガーネット!? 誰かに見られたらどうすんの!」
予想だにしていない声が隣から聴こえ、バッグに仕舞おうと必死で捕まえようとする。
だが、ガーネットは結衣の手を華麗に躱しながら続ける。
「いいじゃないですかぁ。人通りも少ないし、結衣様の両親は今駐車場探しに行ってるんですし?」
「そういう問題じゃなーい! 何処からか誰かが見ているかもだし、敵が気付いちゃうかもでしょ!?」
確かに、ガーネットの言い分は分からなくもない。
人通りが少ないと言うか……ほとんど人気がなく、不気味なほどだ。
だが、建物はそんなに少ないわけではなく、窓から見られる危険もある。
しかも、いつ敵が結衣とガーネットを襲ってくるかわからない。
そんな状況下で迂闊に外に出て、騒ぎとかになったらどうするんだ……と、結衣は不安そうに思った。
「まあ、別にいいんじゃない?」
だが、そんな結衣の思考を遮断した声が後ろから聴こえた。
「おやぁ! せーちゃん様も私と同じ考えですかぁ?」
「せーちゃん様って言うな!」
ギャーギャーと騒ぐ二人に「勘弁して欲しい……」と思いながら、私は強引に割って入る。
「どういうこと? 『別にいいんじゃない?』って……」
「あー……それはね、誰かが窓から見ちゃったとしても記憶改竄魔法とかでどうにかなるだろうし? 敵も迂闊に攻めてこられないでしょ」
「なんせ――」と続けて、
「結衣の他に三人も戦力が居るんだしね!」
せーちゃんは自信満々に、胸を張って堂々と答える。
結衣は確かにと思って、せーちゃんの言うことは一理あるなと感じた。
「ふっふーん。どうですか、結衣様! これが信頼関係と言うものでぇす!」
「いや、ガーネットにはないわ」
「酷くないですか!?」
せーちゃんとガーネットって意外といい友達になれるのでは……?
結衣は、そのやり取りを遠巻きに見てそう思った。
「お待たせ~……って何か賑やかね?」
「小学生は遊びたい盛りだからな、元気で良いじゃないか」
結衣の両親が揃って口を開く。
結衣はせーちゃんとガーネットのやり取りを見られていないか、聞かれていないか、ヒヤヒヤした。
だが、特に何もツッコまれないので、結衣はホッと胸を撫で下ろす。
☆ ☆ ☆
チェックインを済ませ、いよいよ部屋に案内される。
部屋の中は広く、五人いても狭さを感じさせず、畳の匂いが心地よい。
何故五人かって……?
結衣のお父さんは別室にいるのだ。
年頃の女の子が集まる部屋に、男は居られないから。
「わー……すごい、ね……」
「こういうのって、『趣がある』って言うんですよね……!」
真菜と緋依が、口々に部屋の感想を零す。
……無理もないだろう。何せ結衣たち全員、温泉は初めてなのだから。
結衣もこの二人のように、少なからずテンションが上がっていた。
「お食事は七時から、お湯は六時から深夜二時までとなっております」
「はーい!」
優しそうな顔と声をした女将さんが、そう言ってくれた。
「それではごゆっくり」
ぺこりと頭を下げて、女将さんは部屋を出ていく。
――なんだかすごくワクワクする!
未知への期待か、それとも皆でいるから心が躍るのか。
どっちにせよ、結衣は今、最高に幸せな気分の中にいる。
結衣がそういう気分に浸っていると。
結衣のお母さんが、かつて無いほどテンション高く叫んだ。
「さあ、皆! 温泉、楽しむわよ!」
「「「「おー!」」」」
結衣たちはそれに呼応するように、高らかに叫んだ。
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