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第一章 少女たちの願い(前編)

ただ、それだけのこと

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 やがて日が昇り切り、太陽は空のてっぺんから地上を照らす。
 それは結衣たちの心までも照らし出してくれているようで、何だか結衣は心地よかった。

「あったかい……」

 陽の光が身体を包み込んでくれる感覚に、結衣は思わずそうポツリと零す。
 すると、緋依もクスリと笑って、

「ええ……暖かいですね……」

 海風を仰ぎながらそう言った。

「緋依さん……」

 結衣はポツリと呟くように、口を開いた。

「私たち――友達になれるかなぁ?」

 海を眺めながら、その言葉が弱々しく口から零れる。
 緋依は驚いたような……どこか嬉しそうに口角を上げたような顔をしている。

「もうなってるんじゃないですか?」

 本当に天使なのではと錯覚するほどの笑顔で、そう言い放った。

「……そっか。じゃあ、遠慮なくネタバレが言えるね」
「……」

 結衣も笑顔で返すと、緋依は複雑そうな表情を浮かべる。
 ガーネットは依然口を閉じたまま、ただじっと何かを待っているように思えた。

「緋依さんさ……あの時放った神の光――あれ、本気じゃなかったでしょ?」
「――!」

 緋依は目を剥き、結衣の顔をまじまじと見た。
 その顔は結衣にとって、『図星だ』と語っているようにしか見えなかった。

 なので結衣は思わず苦笑し、

「せーちゃんを襲ったのだって、私を誘き出すためのもので、いわゆる人質。だから無事――」

 ――違う? 結衣はそう訊いたが、答えはもう分かり切っていた。

 緋依は結衣の推理を聞いて、オロオロと狼狽えている。 
 目を泳がせて、必死に言い繕う言葉を探しているようだった。

 やっぱり。結衣は微笑んで、緋依を見る。
 やっぱり緋依は、人類種の根絶なんて望んでいなかったのだ。
 ただ――

「理解者――同じ境遇の者が欲しかった。話を聞いてくれる人が欲しかった。ただ――」

 そう言うと、言葉を切り、最後の言葉を一呼吸置いてから告げる。

「友達が――欲しかった」

 その結衣の言葉に、今度こそ緋依の動きが止まり、石のように固まった。
 空気を読んで空気になっていたガーネットは、驚いたように声を張り上げる。

「えっ? 結衣様、まさかあの短時間であの戦闘の中でそこまで見越していたと――!?」

 そう、ガーネットが驚いたのはそこだった。

 結衣が緋依の本心を暴いたことそのものではない。
 昨日の短い戦闘の中で、それもせーちゃんを人質にされている中で、そこまで考えることが出来るのか――!? という疑問だった。

 そのガーネットの驚愕に、結衣はどう答えていいかわからず、頭をかく。

「あはは……まあ、そういう事になるのかなぁ……?」

 と、結衣は曖昧に零す。

 結衣は緋依に会った瞬間。
 愉しそうに嗤うその瞳の奥に、とてつもない寂しさが隠されているように感じた。

 それは、結衣と似ている寂しさ。
 だからこそ、気付くことが出来たのだ。

 あの時の戦闘で結衣が魔王みたいな姿になったのは、結衣がただ単純に、緋依の本心が知りたかったから。
 緋依が本当は――何をしたかったのかを。

「……ねぇ、結衣ちゃん」

 いつの間にか静寂が流れていた浜辺で、緋依が口火を切る。

「私……自分が分からない」

 ポロポロと本音が出てくる緋依の顔には、それに呼応するようにポロポロと雫がこぼれ落ちる。

「人間なんて嫌い。なのに、人間に拠り所を求めてしまう。何でなんだろう……」

 緋依は本心をさらけ出すと、敬語が抜けるようだ。
 結衣はそんな緋依にどう声を掛けたらいいか戸惑い、少し考えてからこう言った。

「それってやっぱり、どこか自分が“認められたい”って思ってるんじゃないかな?」

 結衣は適当にそう零すと、海水で遊んでいたガーネットをガシッと鷲掴むと。

「ちょっ!? 何するんですか結衣様!?」
「……私もね、ガーネットに認められたからこそ、今の自分が居るの」

 暴れるガーネットを制すように、結衣は優しく包み込むような声で言う。
 そして、

「私はガーネットが居てくれるから、ひとりじゃないって思えるの」

 今度は力強く言い放つ。
 その結衣の言葉に、緋依は目を見開き、何かを期待するような眼をした。
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