魔法少女になれたなら【完結済み】

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第一章 少女たちの願い(前編)

本当の自分

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 ――いつの間にか寝ていたようだ。
 結衣はベッドから起き上がり、部屋を見渡す。

 すぐそばで布団を敷いて、寝息を立てて眠っている緋依。
 その奥に、テーブルの上に散乱しているお菓子の残骸が見えた。

 片付けないまま眠ってしまったのか……と頭を抱えたが、だんだん少し楽しくなって、結衣は緋依の寝顔を見ながら笑う。

「……結衣様」

 少し申し訳なさそうに、かつてなくか細く響いた声が聴こえる。
 結衣はそれを知っているようで――知らなかった。

「どうしたの、ガーネット? いつもなら空気読まずに『ひゃっほー!』って喋るじゃん?」
「……いえ、別に。ただ、緋依様が眠っていらっしゃるので声のボリュームを落とそうかとぉ」
「ふーん……?」

 結衣はどこか違和感や不安を覚えながらも、それを追求することはなかった。

「ところで結衣様、なにやら嬉しそうですねぇ」

 ガーネットはやはり気付いていたようである。
 ニヤニヤという擬音が聞こえてきそうな声色で、少し鬱陶しかったが……
 事実ではあるから、結衣はガーネットにお仕置きしないでおいてあげた。

「まあね。こういうの初めてだから、ちょっとワクワクしてる」

 結衣は小声で、朝日を浴びながらそう言う。
 ガーネットはその答えが少し意外だったのか、驚いた様子で口を開く。

「結衣様、もしかして――」

 だが、その先は言わせないようにして、結衣はガーネットを手で制止させる。

「……そう。お泊まり会っていうの……初めてなの。だから、緋依さんと仲良くしたいっていうのもあるけど――ただ私がやりたかっただけ」

 そう皮肉げに笑って、結衣の顔に陰が落ちる。
 それは、結衣が朝日に背を向けているせいなのか……または――

 だが、そんな思考を遮るように口を開いたのは――緋依だった。

「――あなたのこと、私……ずっと勘違いしてました」

 寝起きのせいか、声のトーンが低く、結衣はまるで咎められているような感覚に陥った。
 だが、緋依の表情は柔らかい。

「私――結衣……ちゃんのこと、友達が多くて、いつも人に囲まれてて、明るくて、クラス委員とかやってそうなイメージでした……」

 ――違う。それは、そんなものは、結衣ではない。
 本当は友達なんて居なくて、いつも一人で、暗くて、委員会にも入ったことがない。

 だから、そう。
 緋依が自分でも言ったように、結衣のことを勘違いしていただけ。

「でも――だからこそ、嬉しいです」
「――へっ?」

 予想外の言葉に、結衣は思わず声が裏返る。

 ――どういうことだろう。
 緋依は……今、なにを――

 混乱に喘ぐ結衣の脳が、悲鳴をあげる。
 その様子を察してか察せずか、緋依は笑顔で続ける。

「だって――遠い存在で……手の届かない所にいるような……そんな高嶺の花のような存在だと思っていたのに、本当は私と似ているとか……そういうの、すごく嬉しいです」
「な、なにを――」
「そういうの、ずっと……憧れていたんです。本音で言い合える仲っていうの、すごく……嬉しいんです」

 その笑顔に涙の粒を乗せながら、なおも嬉しそうに語る緋依の姿に――
 結衣は言い知れぬ何かを感じた。

 それがどういうものなのか――どういった名前で呼ばれるのかも……わからない。
 ただ、緋依の笑顔が眩しくて、結衣は思わずこう零す。

「私……本音なんかさらけ出してない……」

 そう、本音なんか言ってない。
 言ったことすらない。
 結衣は自分を偽って生きてきた。ただ……それだけなのだ。

 結衣は皆が思っているような――優しい人間じゃない。
 ――そのはず……だった。

「そうですか? 私に手を差し伸べてくれた時、すごくいい顔してましたよ?」

 緋依は眩しいほどの笑顔で、結衣を包み込むような優しい声色をしている。
 結衣は不覚にも、少しドキッとしてしまった。

「……結衣ちゃん?」

 緋依の声に、結衣はハッと我に返る。
 どうやらボーッとしてしまっていたようだ。

「ご、ごめん……あと、ありがとう……」

 その言葉に、緋依は目を丸くした後、またさっきのような優しい笑顔を浮かべる。
 そして――

「全部……私の全部を話します」

 そう言って緋依は、翼を広げた。
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