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第一章 少女たちの願い(前編)
こんなステッキはいらない
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「ではではさてさて、先程の本題についてですが――」
「うん、なんかもうどうでもいいや」
「無の境地!?」
結衣がハイライトを入れていない死んだ目で答えると、ステッキがオーバーリアクションを取った。
心を無にしても、そのステッキの言動が何故か結衣の目に入ってしまう。
「はっ! いやいや、そうではなく……本題に入りましょう!」
先ほどとは打って変わって、いやっふー! と言いながら上機嫌にお風呂場を飛び回る姿はなんというか、シュールという言葉が似合う。
その姿を見ていて、結衣はある事を思い出した。
「あっ! そう言えば私の願いは? 叶えてくれるんじゃ?」
「あー、ですからそれも含めて本題なんですよぉ……はぁ……」
そう言ってため息を吐くステッキ。
何故かその一つ一つの動作にイラッとくるが、なんとか耐える。
「えー、ゴホン。では、あなたの疑問から答えて行きましょう!」
「え、あ……うん。じゃあ……なんで私は魔法少女にされたの?」
「あー、それですかぁ。簡単ですよぉ。私はひとりでは力を振るうことが出来ません」
本気で落ち込んでいるらしく、ステッキの頭の部分を少し落とす。
……が、一転。嬉しそうな様子がひしひしと伝わるほど、結衣の顔面に近付いて言った。
「ですが、あなたに出会って! 私は確信しました! あなたが私を守ってくれるに相応しい方だとぉ!」
「え、ど、どういうこと……??」
なお一層混乱する結衣を楽しんでいるのか、ステッキは焦らすように言う。
「あなたぁ……いえ、結衣様。結衣様は私に“願い”を託された。合ってますね?」
「それ……は、まあ……確かに……」
ふむ。と満足そうにステッキは頷く。
「“願い”を人に言ってしまうと叶わなくなるように、“願い”を叶えることは、多少なりとも代償が伴う――とも、分かってますよね?」
「あー……まあ、何とか。本でそういうのいっぱい見たし……」
「それは話が早い! 魔法少女になると言うことこそが代償――と言えばお分かりで?」
ステッキは結衣に、煽るように――子供に諭すように言う。
「心底気に食わないけど……分かった。でもさ、なんでそれが魔法少女なの?」
それがまだ分からない。
このステッキの意図も、目的も、何もかも不明。
そんな結衣の思考を読み取るように、ステッキは答える。
というか、また別の話を持ってきた。
「結衣様は、私があらゆる願いを叶えてしまう存在――つまり、神のような存在であることはご存知で?」
「……はい?」
「やはりご存知ないですか……これは一から説明しなくては……」
何やらゴソゴソと、何かを探し始めたステッキ。
結衣はさっきからひっきりなしに頭が混乱していて、事態を収められそうにない。
「あ、結衣様。言い忘れてました。これだけは言っておきましょう!」
そう言って、お風呂場の天井まで昇って行ったステッキ。
そんなステッキは天井ギリギリまでで止まり、こう言い放った。
「魔法少女は――素晴らしいですよぉ!」
次の瞬間。
結衣は風呂の窓に向かって、シャンプーの入った容器ごと、ステッキを放り投げていた。
「うん、なんかもうどうでもいいや」
「無の境地!?」
結衣がハイライトを入れていない死んだ目で答えると、ステッキがオーバーリアクションを取った。
心を無にしても、そのステッキの言動が何故か結衣の目に入ってしまう。
「はっ! いやいや、そうではなく……本題に入りましょう!」
先ほどとは打って変わって、いやっふー! と言いながら上機嫌にお風呂場を飛び回る姿はなんというか、シュールという言葉が似合う。
その姿を見ていて、結衣はある事を思い出した。
「あっ! そう言えば私の願いは? 叶えてくれるんじゃ?」
「あー、ですからそれも含めて本題なんですよぉ……はぁ……」
そう言ってため息を吐くステッキ。
何故かその一つ一つの動作にイラッとくるが、なんとか耐える。
「えー、ゴホン。では、あなたの疑問から答えて行きましょう!」
「え、あ……うん。じゃあ……なんで私は魔法少女にされたの?」
「あー、それですかぁ。簡単ですよぉ。私はひとりでは力を振るうことが出来ません」
本気で落ち込んでいるらしく、ステッキの頭の部分を少し落とす。
……が、一転。嬉しそうな様子がひしひしと伝わるほど、結衣の顔面に近付いて言った。
「ですが、あなたに出会って! 私は確信しました! あなたが私を守ってくれるに相応しい方だとぉ!」
「え、ど、どういうこと……??」
なお一層混乱する結衣を楽しんでいるのか、ステッキは焦らすように言う。
「あなたぁ……いえ、結衣様。結衣様は私に“願い”を託された。合ってますね?」
「それ……は、まあ……確かに……」
ふむ。と満足そうにステッキは頷く。
「“願い”を人に言ってしまうと叶わなくなるように、“願い”を叶えることは、多少なりとも代償が伴う――とも、分かってますよね?」
「あー……まあ、何とか。本でそういうのいっぱい見たし……」
「それは話が早い! 魔法少女になると言うことこそが代償――と言えばお分かりで?」
ステッキは結衣に、煽るように――子供に諭すように言う。
「心底気に食わないけど……分かった。でもさ、なんでそれが魔法少女なの?」
それがまだ分からない。
このステッキの意図も、目的も、何もかも不明。
そんな結衣の思考を読み取るように、ステッキは答える。
というか、また別の話を持ってきた。
「結衣様は、私があらゆる願いを叶えてしまう存在――つまり、神のような存在であることはご存知で?」
「……はい?」
「やはりご存知ないですか……これは一から説明しなくては……」
何やらゴソゴソと、何かを探し始めたステッキ。
結衣はさっきからひっきりなしに頭が混乱していて、事態を収められそうにない。
「あ、結衣様。言い忘れてました。これだけは言っておきましょう!」
そう言って、お風呂場の天井まで昇って行ったステッキ。
そんなステッキは天井ギリギリまでで止まり、こう言い放った。
「魔法少女は――素晴らしいですよぉ!」
次の瞬間。
結衣は風呂の窓に向かって、シャンプーの入った容器ごと、ステッキを放り投げていた。
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