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第一章 少女たちの願い(前編)
本が魔法のステッキに!?
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「私の、願い……は――」
一瞬の間。シーンという音だけが鳴り響く。
しかし、それは突如破られた。
結衣は首を傾げ、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回す。
すると、本がひとりでに空中に浮かび、光を放った。
煌く光は結衣の視界も飲み込み、風呂場いっぱいに広がる。
結衣は目を開けていられず、腕で目を隠しながら光が消えるのを待った。
暫くすると光が止み、ゆっくりと目を開けるとそこには――
一冊の本の代わりに、一本のステッキが浮かんでいる。
ステッキは結衣と対峙するように浮かび、見定めているような気配を感じさせた。
異常なまでの威圧感。
ゴクリと唾を飲み込むと、そのステッキは口を――いや、口などないのだが口を開いた。
「えーっと、こんにちは……じゃなくて、いぇーい? ――あ、いやっふ~! そこのあなた! 魔法少女になってくださぁい!」
……どこか一瞬、どんなキャラでいこうか逡巡した気配があった。
そして、軽快な声とともにふざけた口調になる。
「あの~、その目……やめてもらっていいですかぁ……? なんだか汚いものを見るような目をしてますねぇ……」
さっきとは裏腹に、呆れ気味に零す。
ステッキの指摘通り、結衣は汚物を見るような目で見ている。
しかし、そんなことは気にしていないのか、落ち着きなく風呂場を飛び回っている。
結衣は頭が混乱していて、言いたいことが沢山あるのに出てこない。と言うか、頭が状況に追いつかない。
そんな結衣に見兼ねたのか、ステッキがまた結衣の目の前で止まり、言葉を発する。
「えっと……とりあえずあなたの名前を聞かせていただけますかぁ?」
突然のことが起こりすぎて、結衣にはツッコむ余裕がなかったのかもしれない。
だから結衣は問われた通り、自分の名前を小さく呟くことしか出来なかった。
「……椎名、結衣……」
「なるほどなるほど! では結衣様、私を手で掴んでくれますかぁ?」
「え……なんで?」
「いいから早くっ!」
強引に急かされ、考える間も与えないための策略だろう。
そう、薄々勘づいてはいたが。
勢いに押されてしまい、拒否することさえできなかった。
おずおずと手をステッキへと伸ばし、掴んだ。
その瞬間。全身が光に包まれ、風呂場にいたはずが、何故か煌びやかな背景に変わる。
「えっ……ええええ!!」
ステッキをぎゅっと握りしめ、胸の前に持ってくる。
さっきから困惑と恐怖に包まれて、結衣は頭がおかしくなりそうだった。
結衣の全身も何やら白い光を纏い、まるで肌を覆い隠しているように見えた。
「うっふっふ。これであなたは、魔法少女になったのでぇす!」
ステッキが何やら変なことをボヤいていたが、今の結衣にはそれはどうでもいい雑音でしかない。
そして光が止み、結衣は自分の体を見た。
「へっ!? 変身したの!?」
「いえーす!! いいですねぇ、素敵ですよぉ」
「わ、悪くはない……けど……なんか、あざとすぎるような……」
ひらふわな紅いスカートに、右の太ももには紫のガーターベルト。
そして極めつけに――
「幼稚園の時ですらこんな髪型しなかったのに……」
ツーサイドアップ、という髪型でまあ要するにアレだ……
「こ、こんなの無理いいい!!」
結衣は近所迷惑も考えず、思わず全力で叫び出してしまった。
だが――……
「ふう、危ない所でしたぁ……音量調節魔法を使っていなければ、今頃お母さんにお風呂の中で魔法少女のコスプレをする変な子だと思われる所でしたよぉ」
「だからそれってあなたのせいだよねぇ!?」
さらっと魔法を使ったというステッキを受け流して、結衣はツッコむ。
「てへっ☆ これは失礼を……では、本題に入りましょうかぁ!」
「……へ?」
どうやらこれから、とんでもないことが待っているようだ。
結衣は無意識に、一粒の涙を流した。
一瞬の間。シーンという音だけが鳴り響く。
しかし、それは突如破られた。
結衣は首を傾げ、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回す。
すると、本がひとりでに空中に浮かび、光を放った。
煌く光は結衣の視界も飲み込み、風呂場いっぱいに広がる。
結衣は目を開けていられず、腕で目を隠しながら光が消えるのを待った。
暫くすると光が止み、ゆっくりと目を開けるとそこには――
一冊の本の代わりに、一本のステッキが浮かんでいる。
ステッキは結衣と対峙するように浮かび、見定めているような気配を感じさせた。
異常なまでの威圧感。
ゴクリと唾を飲み込むと、そのステッキは口を――いや、口などないのだが口を開いた。
「えーっと、こんにちは……じゃなくて、いぇーい? ――あ、いやっふ~! そこのあなた! 魔法少女になってくださぁい!」
……どこか一瞬、どんなキャラでいこうか逡巡した気配があった。
そして、軽快な声とともにふざけた口調になる。
「あの~、その目……やめてもらっていいですかぁ……? なんだか汚いものを見るような目をしてますねぇ……」
さっきとは裏腹に、呆れ気味に零す。
ステッキの指摘通り、結衣は汚物を見るような目で見ている。
しかし、そんなことは気にしていないのか、落ち着きなく風呂場を飛び回っている。
結衣は頭が混乱していて、言いたいことが沢山あるのに出てこない。と言うか、頭が状況に追いつかない。
そんな結衣に見兼ねたのか、ステッキがまた結衣の目の前で止まり、言葉を発する。
「えっと……とりあえずあなたの名前を聞かせていただけますかぁ?」
突然のことが起こりすぎて、結衣にはツッコむ余裕がなかったのかもしれない。
だから結衣は問われた通り、自分の名前を小さく呟くことしか出来なかった。
「……椎名、結衣……」
「なるほどなるほど! では結衣様、私を手で掴んでくれますかぁ?」
「え……なんで?」
「いいから早くっ!」
強引に急かされ、考える間も与えないための策略だろう。
そう、薄々勘づいてはいたが。
勢いに押されてしまい、拒否することさえできなかった。
おずおずと手をステッキへと伸ばし、掴んだ。
その瞬間。全身が光に包まれ、風呂場にいたはずが、何故か煌びやかな背景に変わる。
「えっ……ええええ!!」
ステッキをぎゅっと握りしめ、胸の前に持ってくる。
さっきから困惑と恐怖に包まれて、結衣は頭がおかしくなりそうだった。
結衣の全身も何やら白い光を纏い、まるで肌を覆い隠しているように見えた。
「うっふっふ。これであなたは、魔法少女になったのでぇす!」
ステッキが何やら変なことをボヤいていたが、今の結衣にはそれはどうでもいい雑音でしかない。
そして光が止み、結衣は自分の体を見た。
「へっ!? 変身したの!?」
「いえーす!! いいですねぇ、素敵ですよぉ」
「わ、悪くはない……けど……なんか、あざとすぎるような……」
ひらふわな紅いスカートに、右の太ももには紫のガーターベルト。
そして極めつけに――
「幼稚園の時ですらこんな髪型しなかったのに……」
ツーサイドアップ、という髪型でまあ要するにアレだ……
「こ、こんなの無理いいい!!」
結衣は近所迷惑も考えず、思わず全力で叫び出してしまった。
だが――……
「ふう、危ない所でしたぁ……音量調節魔法を使っていなければ、今頃お母さんにお風呂の中で魔法少女のコスプレをする変な子だと思われる所でしたよぉ」
「だからそれってあなたのせいだよねぇ!?」
さらっと魔法を使ったというステッキを受け流して、結衣はツッコむ。
「てへっ☆ これは失礼を……では、本題に入りましょうかぁ!」
「……へ?」
どうやらこれから、とんでもないことが待っているようだ。
結衣は無意識に、一粒の涙を流した。
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