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第一章 少女たちの願い(前編)
お風呂での出会い
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夕方頃。
夕陽がギリギリ沈むか沈まないかぐらいの、闇が空の大半を占めている時間帯。
そんな時間帯に帰宅すると、お母さんが暖かく結衣を迎えた。
お母さんは結衣の好きなシチューを作って、結衣の帰りを待っていたようだ。
結衣は照れくさいと思いつつ、お母さんの優しさに甘えた。
(少し子どもっぽいかな……)
だが、結衣はまだ小学五年生。親に甘えても誰にも文句は言われまい。
そう結論付けて、シチューを頬張った。
夜ご飯を食べ終え、お風呂に入ると一番にシャワーを浴びる。
その時、鏡に結衣の姿がぼんやりと写った。
雪のように白い髪に桜色のグラデーションがかかっていて、瞳は深い緑色をしている。
――結衣は自分の姿から目を逸らす。
結衣はあまり自分の姿に自信を持っていない。
だが、結衣はフルフルと頭を振り、余計なことを考えないようにする。
温かなシャワーを浴び終わり、湯船に肩まで浸かろうとすると。
「え、なにこれ」
変な……いや、何か固い感触のものが湯船の底に沈んでいるのがわかった。
今日は入浴剤を入れているので、お湯は透明ではなく、ラベンダーのような紫色をしている。
だから、結衣は気付くことが出来なかったのだ。
そして手探りで探し当て、手に持つと――何やら本のようだった。
表紙には何も書かれておらず、シンプルな作りになっている。
「――は? え? えええええ!? なんで本が此処に!? しかもこれもうびしょびしょで読めなくなってるんじゃ……」
結衣は突然のことに驚き、飛び上がってしまった。そして悲鳴を上げたが、最後まで言わずにそこで言葉を切った。
何故かと問われれば、それは――
「な、なんで……濡れてないの……?」
そう。湯船の底に沈み、たっぷりと水を含んでいるであろうその本は、まったくと言っていいほど濡れていなかったから。
『なんで濡れてると思ったんですかぁ?』と嘲笑っているようなその本は、水が染み込んだ痕跡すら見せていない。
それどころか、汚れが全くなくて不気味なぐらいだ。
どういうことだろう……と結衣は不思議に思っていると、本のページがひとりでにパラパラと捲れていった。
「ひっ!」
結衣は恐怖と混乱で気絶しそうになり、本を再び湯船の中へと落としてしまった。
しかし、気絶する前に本の動きがパタリと止み、ページの中身を見せつけるようにして結衣の手元にふわりと浮いて戻ってくる。
なんとも言えない恐怖が結衣を襲うが、一方で好奇心が芽生えてきているのも否定できない。
恐る恐る開いているページを読んでみると、そこには――
『願いを。大いなる願いを聞かせよ。さすればその願い、叶えてみせよう』
……と。
何故か上から目線な文章がでかでかと書かれているだけだった。
「よし、無視しよう」
結衣は現実逃避をしようと考えた。
そして、ほかのページを捲ろうと試み、指を動かすが、何故か開かない。
少し力を入れてみるが、びくともしない。
これは、どういう状況なのだろう。
結衣は困惑しながらも、再びあのページへと目を走らせる。
つくづく胡散臭い文章である。
結衣はオカルトを好んではいるがそれはあくまで物語の中だけであって、自分自身の身に起きてほしいとは思っていない。
だが、しかし……と、瞳を揺らして。
「ま、まあ? 言うだけならタダだし? 言っても、ねぇ?」
そわそわと、挙動不審になりながら本を見つめる。
そして欲望に勝てず、結衣は願い――望みを発した。
夕陽がギリギリ沈むか沈まないかぐらいの、闇が空の大半を占めている時間帯。
そんな時間帯に帰宅すると、お母さんが暖かく結衣を迎えた。
お母さんは結衣の好きなシチューを作って、結衣の帰りを待っていたようだ。
結衣は照れくさいと思いつつ、お母さんの優しさに甘えた。
(少し子どもっぽいかな……)
だが、結衣はまだ小学五年生。親に甘えても誰にも文句は言われまい。
そう結論付けて、シチューを頬張った。
夜ご飯を食べ終え、お風呂に入ると一番にシャワーを浴びる。
その時、鏡に結衣の姿がぼんやりと写った。
雪のように白い髪に桜色のグラデーションがかかっていて、瞳は深い緑色をしている。
――結衣は自分の姿から目を逸らす。
結衣はあまり自分の姿に自信を持っていない。
だが、結衣はフルフルと頭を振り、余計なことを考えないようにする。
温かなシャワーを浴び終わり、湯船に肩まで浸かろうとすると。
「え、なにこれ」
変な……いや、何か固い感触のものが湯船の底に沈んでいるのがわかった。
今日は入浴剤を入れているので、お湯は透明ではなく、ラベンダーのような紫色をしている。
だから、結衣は気付くことが出来なかったのだ。
そして手探りで探し当て、手に持つと――何やら本のようだった。
表紙には何も書かれておらず、シンプルな作りになっている。
「――は? え? えええええ!? なんで本が此処に!? しかもこれもうびしょびしょで読めなくなってるんじゃ……」
結衣は突然のことに驚き、飛び上がってしまった。そして悲鳴を上げたが、最後まで言わずにそこで言葉を切った。
何故かと問われれば、それは――
「な、なんで……濡れてないの……?」
そう。湯船の底に沈み、たっぷりと水を含んでいるであろうその本は、まったくと言っていいほど濡れていなかったから。
『なんで濡れてると思ったんですかぁ?』と嘲笑っているようなその本は、水が染み込んだ痕跡すら見せていない。
それどころか、汚れが全くなくて不気味なぐらいだ。
どういうことだろう……と結衣は不思議に思っていると、本のページがひとりでにパラパラと捲れていった。
「ひっ!」
結衣は恐怖と混乱で気絶しそうになり、本を再び湯船の中へと落としてしまった。
しかし、気絶する前に本の動きがパタリと止み、ページの中身を見せつけるようにして結衣の手元にふわりと浮いて戻ってくる。
なんとも言えない恐怖が結衣を襲うが、一方で好奇心が芽生えてきているのも否定できない。
恐る恐る開いているページを読んでみると、そこには――
『願いを。大いなる願いを聞かせよ。さすればその願い、叶えてみせよう』
……と。
何故か上から目線な文章がでかでかと書かれているだけだった。
「よし、無視しよう」
結衣は現実逃避をしようと考えた。
そして、ほかのページを捲ろうと試み、指を動かすが、何故か開かない。
少し力を入れてみるが、びくともしない。
これは、どういう状況なのだろう。
結衣は困惑しながらも、再びあのページへと目を走らせる。
つくづく胡散臭い文章である。
結衣はオカルトを好んではいるがそれはあくまで物語の中だけであって、自分自身の身に起きてほしいとは思っていない。
だが、しかし……と、瞳を揺らして。
「ま、まあ? 言うだけならタダだし? 言っても、ねぇ?」
そわそわと、挙動不審になりながら本を見つめる。
そして欲望に勝てず、結衣は願い――望みを発した。
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