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ニッポニア編
87 ヘリオスとの内緒話
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「オリィ! 元気ぃ?久しぶり!!!」
(懐かしい!)
久しぶりのセレさんの声に、閉塞していた空気が一気に開放された感じだ。
オリヴィンは久しぶりに宝石の島スリ・ロータスの第2王子のヘリオス・ベリルともうすぐ結婚式を挙げる婚約者のセレスティンことセレさんと、通信装置を通じて会話していた。
「オリィ、私たちもうすぐ結婚式を挙げるんだけど、どうしてもあなたたちに出席してもらいたくて。それでね……ふふ、ヘリオスに代わるわね」
「やあ、オリィ。元気だったかい?……実は君に聞いてもらいたいことがあってね。……私と君が考案した『飛行船』が、完成したんだ!」
オリヴィンは久しぶりのヘリオスの、弾んだ声に心が躍った。
「ヘリオス!……あれって……本当に?」
「ああ……大変だったんだぜ。まず『飛行石』を国を挙げて探しまくったさ。それから、飛行船を建造して……万が一、飛行石なしでも飛べる物を考えた。だが、結果的には『飛行石』が見つかって、その必要は無くなったんだがな……それでだ!
近いうち、君たちに会いに行こうと思っている!」
「そうか! ヘリオス、嬉しいよ!」
オリヴィンはまた、ヘリオスとセレさんに会える喜びで、ワクワクした。
「で、まあ1週間くらいかな。そちらまで……」
「え?」
「飛行船だと、大体それくらいかと……」
「ええっと?……大丈夫かな……」
「どうしたオリィ?」
オリヴィンはこの国、ニッポニアの閉鎖的な状況に一縷の不安を抱いた。
「う~ん、ヘリオス。君の国では『飛行船』はどんなふうに受け止められている?」
「そうだな、まだドックから出たのは一度だけたから、それほど認知はされていないな……」
「近隣の国が黙っていると思うか?」
「……まあ、それもそうか。……なら、深夜に飛行しよう」
「そうだな。それに高度を上げて航行した方がいい。着陸は小さい飛空挺で秘密裏に着陸する方がいいと思う……どうだろう、可能かな?」
「……わかった。夜だと、そちらの位置を確認しずらいが、何か考えてくれるか?」
「こちらも考えてみるよ。ちょうど、面白い石が手に入ったんだ、任せてくれ」
オリヴィンとヘリオスは二人だけがわかるような言葉を交わした。
「もうっ、ヘリオスったら。私にも話させてよ。オリィ、ジェイドはいないの?」
セレさんはヘリオスとオリィが何やら話しているのを聞いていたが、我慢できないように言った。
「ごめん、今来客中なんだ。今度はこちらから連絡するよ」
「そう、残念だわ。今度は絶対にジェイドに代わってね!」
「わかったよ、セレさん。また連絡する」
オリヴィンは取り急ぎ、モキチに会いに行くことにした。
* * *
モキチは、夏までは外国船が入って来ないため、通詞の仕事が少ないのでもっぱら兄の店の手伝いをしている。
モキチの長兄は表通りで卸問屋を営んでいる。なかなかのやり手で、方々から仕入れて来た品物を小売に下ろしている。オリヴィンは『雷灯』の件で何度かこの店を訪れていた。
「こんにちは、精が出ますね。モキチはいますか?」
いつも通り黒髪・黒目に変装したオリヴィンが、店頭の若い衆に声を掛けると、『おりますよ』と案内される。
「旦那、どうしたんです?」
中で商品の検品をしていたモキチが顔を上げた。
「ちょっと『雷灯』のことで頼みたいことがあって来たんだ」
「そうですか。ちょっとだけそこに掛けて待っててもらえますか? すぐ終わらせますんで」
オリヴィンは近くの木箱の上に掛けて、モキチが品物の検品をする様子を眺めていた。
「モキチ……空から突然大きな飛行船が現れたら、どう思う?」
茂吉は検品の手を止めて、こちらを振り向いた。
「“ひこうせん” ……空飛ぶ船かなんか、ってことですか?」
「うん。そんなのが急に上空に現れたら……さ?」
「……想像できないけど、間違いなくビックリして、ひっくり返るんじゃないでしょうか」
「……そうだよな……」
「旦那、またなんか変なこと考えてます?」
そう言われてオリヴィンは笑いが込み上げて来た。
「ハハハハハ……変なことか、そうだな」
それから半刻後、オリヴィンとモキチは『雷灯』を作ってくれている建具師の所に来ていた。
「親方っ、お世話になってます! 調子はどうですか?」
モキチが作業場の奥にいた親方に声をかける。
「おうっ! モキチじゃねえか。今日はオリヴィンの旦那も一緒かい?」
「お世話になってます。いろいろ細かいとこまでちゃんと作っていただいてありがとうございます!」
「おうよ!旦那の指図が細えからな。こちとらも頑張らざるを得ねえ。職人魂が疼くってもんよ!」
ここの責任者であるこの腕っぷしの強い人物は、ニッポニアの将軍が居られる地から、新しい技術を学びに来てそのままこの地に居着いたらしい。オリヴィンはこの鷹揚でしかも、細かいところまで手を抜かないこの人物に好意を抱いていた。
(同じ職人としてとても尊敬できる……頼り甲斐もあって、まるでうちの工房のボラ爺みたいだ……)
オリヴィンは懐かしい故郷の、父の工房を思い出していた。
「今日はまた一つ、新しいお願いがあって来ました」
オリヴィンは出がけに描いた簡単なスケッチを懐から出すと、作業場の台の上に広げた。
「ふーん、見たとこ今までの雷灯とは少し違うようだが……」
「そうなんです。これは地面に並べて置く物なんです」
オリヴィンが簡単に説明すると、二人とも不思議そうな表情になった。
「地面って、地面から上に向かって照らすっていうことですか?」
不可解な設定にモキチが思わず尋ねた。
「まあ、そうゆうことかな……」
「旦那は面白いことを考えるなぁ~。夜の街道にでもこれを置けば、夜中でも荷を運ぶことが出来まさぁね」
「これは撤去も簡単なように、一つ一つを縄で繋ごうと思うんだ。縄で予め決めた均等の長さのところに固定しておけば、光の列も均等になるだろう?」
二人は『ああ、なるほど!』と言うように頷いた。
「今日は追加の雷石も持って来たので、よろしく頼みます」
オリヴィンは肩に斜め掛けしていた風呂敷を広げて、親方に石を預けた。
(懐かしい!)
久しぶりのセレさんの声に、閉塞していた空気が一気に開放された感じだ。
オリヴィンは久しぶりに宝石の島スリ・ロータスの第2王子のヘリオス・ベリルともうすぐ結婚式を挙げる婚約者のセレスティンことセレさんと、通信装置を通じて会話していた。
「オリィ、私たちもうすぐ結婚式を挙げるんだけど、どうしてもあなたたちに出席してもらいたくて。それでね……ふふ、ヘリオスに代わるわね」
「やあ、オリィ。元気だったかい?……実は君に聞いてもらいたいことがあってね。……私と君が考案した『飛行船』が、完成したんだ!」
オリヴィンは久しぶりのヘリオスの、弾んだ声に心が躍った。
「ヘリオス!……あれって……本当に?」
「ああ……大変だったんだぜ。まず『飛行石』を国を挙げて探しまくったさ。それから、飛行船を建造して……万が一、飛行石なしでも飛べる物を考えた。だが、結果的には『飛行石』が見つかって、その必要は無くなったんだがな……それでだ!
近いうち、君たちに会いに行こうと思っている!」
「そうか! ヘリオス、嬉しいよ!」
オリヴィンはまた、ヘリオスとセレさんに会える喜びで、ワクワクした。
「で、まあ1週間くらいかな。そちらまで……」
「え?」
「飛行船だと、大体それくらいかと……」
「ええっと?……大丈夫かな……」
「どうしたオリィ?」
オリヴィンはこの国、ニッポニアの閉鎖的な状況に一縷の不安を抱いた。
「う~ん、ヘリオス。君の国では『飛行船』はどんなふうに受け止められている?」
「そうだな、まだドックから出たのは一度だけたから、それほど認知はされていないな……」
「近隣の国が黙っていると思うか?」
「……まあ、それもそうか。……なら、深夜に飛行しよう」
「そうだな。それに高度を上げて航行した方がいい。着陸は小さい飛空挺で秘密裏に着陸する方がいいと思う……どうだろう、可能かな?」
「……わかった。夜だと、そちらの位置を確認しずらいが、何か考えてくれるか?」
「こちらも考えてみるよ。ちょうど、面白い石が手に入ったんだ、任せてくれ」
オリヴィンとヘリオスは二人だけがわかるような言葉を交わした。
「もうっ、ヘリオスったら。私にも話させてよ。オリィ、ジェイドはいないの?」
セレさんはヘリオスとオリィが何やら話しているのを聞いていたが、我慢できないように言った。
「ごめん、今来客中なんだ。今度はこちらから連絡するよ」
「そう、残念だわ。今度は絶対にジェイドに代わってね!」
「わかったよ、セレさん。また連絡する」
オリヴィンは取り急ぎ、モキチに会いに行くことにした。
* * *
モキチは、夏までは外国船が入って来ないため、通詞の仕事が少ないのでもっぱら兄の店の手伝いをしている。
モキチの長兄は表通りで卸問屋を営んでいる。なかなかのやり手で、方々から仕入れて来た品物を小売に下ろしている。オリヴィンは『雷灯』の件で何度かこの店を訪れていた。
「こんにちは、精が出ますね。モキチはいますか?」
いつも通り黒髪・黒目に変装したオリヴィンが、店頭の若い衆に声を掛けると、『おりますよ』と案内される。
「旦那、どうしたんです?」
中で商品の検品をしていたモキチが顔を上げた。
「ちょっと『雷灯』のことで頼みたいことがあって来たんだ」
「そうですか。ちょっとだけそこに掛けて待っててもらえますか? すぐ終わらせますんで」
オリヴィンは近くの木箱の上に掛けて、モキチが品物の検品をする様子を眺めていた。
「モキチ……空から突然大きな飛行船が現れたら、どう思う?」
茂吉は検品の手を止めて、こちらを振り向いた。
「“ひこうせん” ……空飛ぶ船かなんか、ってことですか?」
「うん。そんなのが急に上空に現れたら……さ?」
「……想像できないけど、間違いなくビックリして、ひっくり返るんじゃないでしょうか」
「……そうだよな……」
「旦那、またなんか変なこと考えてます?」
そう言われてオリヴィンは笑いが込み上げて来た。
「ハハハハハ……変なことか、そうだな」
それから半刻後、オリヴィンとモキチは『雷灯』を作ってくれている建具師の所に来ていた。
「親方っ、お世話になってます! 調子はどうですか?」
モキチが作業場の奥にいた親方に声をかける。
「おうっ! モキチじゃねえか。今日はオリヴィンの旦那も一緒かい?」
「お世話になってます。いろいろ細かいとこまでちゃんと作っていただいてありがとうございます!」
「おうよ!旦那の指図が細えからな。こちとらも頑張らざるを得ねえ。職人魂が疼くってもんよ!」
ここの責任者であるこの腕っぷしの強い人物は、ニッポニアの将軍が居られる地から、新しい技術を学びに来てそのままこの地に居着いたらしい。オリヴィンはこの鷹揚でしかも、細かいところまで手を抜かないこの人物に好意を抱いていた。
(同じ職人としてとても尊敬できる……頼り甲斐もあって、まるでうちの工房のボラ爺みたいだ……)
オリヴィンは懐かしい故郷の、父の工房を思い出していた。
「今日はまた一つ、新しいお願いがあって来ました」
オリヴィンは出がけに描いた簡単なスケッチを懐から出すと、作業場の台の上に広げた。
「ふーん、見たとこ今までの雷灯とは少し違うようだが……」
「そうなんです。これは地面に並べて置く物なんです」
オリヴィンが簡単に説明すると、二人とも不思議そうな表情になった。
「地面って、地面から上に向かって照らすっていうことですか?」
不可解な設定にモキチが思わず尋ねた。
「まあ、そうゆうことかな……」
「旦那は面白いことを考えるなぁ~。夜の街道にでもこれを置けば、夜中でも荷を運ぶことが出来まさぁね」
「これは撤去も簡単なように、一つ一つを縄で繋ごうと思うんだ。縄で予め決めた均等の長さのところに固定しておけば、光の列も均等になるだろう?」
二人は『ああ、なるほど!』と言うように頷いた。
「今日は追加の雷石も持って来たので、よろしく頼みます」
オリヴィンは肩に斜め掛けしていた風呂敷を広げて、親方に石を預けた。
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