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ニッポニア編

80 「雷灯』の使い道

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「…それって『才の無い者に、才を目覚めさせる』ことができるかもしてない、ということでしょうか?」
 黒曜の言葉に、オリヴィンは頷いた。
「俺はそう思います」

 オリヴィンはシンスケの実家での出来事を、自分なりに分析してみた。元々の素養そようがあったのかもしれないが、あの家のほぼ全員が『雷石かみなりいし』に共鳴きょうめいできているようだった。最初、何の反応も示さなかったシンスケまでもが、雷の影響で光っている石に触り力を示したのだ。

 もしかしたら、幾度いくどとなく『雷石』に接することでより力を開花させやすくなるのかもしれない、とオリヴィンは思っていた。

「あれほど強い光、舞台の演出にも使えそうですね…」
 黒曜が『雷灯らいとう』の新たな使い道を示唆する。
「どういった演出ですか?」
「例えばです、暗くした舞台に役者を立たせておいて、パッと『雷灯』を点けたらどうでしょう? 突然そこに現れた、というような効果を得られます」
「いいですね!」

「または、そうですね、沢山吊り下げて、夜も眠らぬ明るい町を作るのも面白いかと…」
 オリヴィンは黒曜の想像力に感心した。確かにそれは面白いかもしれない。

「眠らぬ町…ですか? それは予想外ですね!」
 などと話に花を咲かせていると、誰かが玄関に着いたらしい。
 もうジェイドが帰って来たのかと思ったが、入って来たのはモキチだった。

「黒曜様、お邪魔いたします。オリヴィン殿、お借りした『雷灯』をお返しに上がりました」
「モキチ、ちょうど黒曜殿とその話をしていたところだ」
「そうですか!私もお二人に見せたいものがあります!」
 そう言うと、モキチは懐から布に包んだ『雷灯』を取り出して、
「光れ!」
 と命じた。
 すると、消えたままだった『雷灯』が明るく輝いたではないか。

「モキチ…けられるようになったんだ!」
「はい。繰り返しやっているうちにできるようになったんです!」
 オリヴィンと黒曜は顔を見合わせて、
「これは…先ほどの話とも合致がっちしますね」
 と、うなずき合った。

「お二人とも、何のお話ですか?」
 モキチが訊くので、先ほど黒曜と二人で話した『才の無い者に、才を目覚めさせる』という話をモキチにも説明した。

「そうでしたか!もしかしたら、そうではないかと思っておりました! 昨日、兄や兄の店の者にも見せたのですが、最初は数えるほどしか点けられる者がいなかったのですが、何度か試しているうちにかなりの者ができるようになったのです。本当に驚きでした」

 三人が興奮した様子で話しているところへ、ジェイドが帰って来た。

 ジェイドは、三人が何やら興奮した様子で話しているのを見て、何があったのかと少し戸惑い顔になったが、モキチが嬉々ききとして『光れ!』と雷灯を点ける様を見て、自分のことのように喜んだ。
「すごいじゃない、モキチさん!」

 それから、モキチが兄から『同じものを作って欲しい』という提案を受けたことを話して、四人でますます盛り上がった。

「兄の所は商家なので、遅い時間の納品などがあると、帰りが暗くなってしまい、宿を取らねばならないことも多く、その経費も馬鹿にならないんです」

 経費がかかれば、それは商品の代金にも上乗せしなくてはならないし、取引先の不満にもつながる。『雷灯』によって宿を取らずに帰ってこれれば、代金を安くしてお得意先にも喜んでもらえる、ということらしい。

「ところで、この『雷灯』に使われている石は、まだいくらかはあるんでしょうか?」
 モキチにそう訊かれて、オリヴィンは『う~ん』とうなった。
 確かに手元にはあることはあるのだが…

「実は、そのことで黒曜殿に相談に乗っていただきたいことがあります。ですが、まず今日は、衣装合わせを先に済ませた方がいいかと…」
 黒曜もハッとして、
「…そうですね!衣装のお直しには時間もかかりますので、先に済ませましょう」

 ジェイドは変身する必要があるので、黒曜と一緒に別室に行き、オリヴィンとモキチが残された。
 モキチは
「旦那が忙しくて作るひまがないって言うのなら、こちらで職人を探してもいいって、兄が言ってます」
「そうか、それは助かるね。後は “石” のことだけかなぁ」
「何ですか、旦那。いつになく歯切れが悪くないですか?」
「う~ん、モキチなら話してもいいかな~」
「そんなに言いずらいことなんですか?」

 オリヴィンはモキチの顔をじぃっと見て『フゥ』と短く息を吐いた。

「実は、あの石がある所、アイリンの実家なんだ」

「エッ、アイリンですか?」
「そう。この前、シンスケに案内してもらって『雷岩かみなりいわ』という珍しい石を見に行ったんだ。シンスケの実家のある村でね、しかもその『雷岩』がある場所が、アイリンの実家の敷地の中なんだ…」
「…そ、そりゃあ…」

 二人でそんな話をしていると、着替えていたジェイドと黒曜が部屋に入って来た。ジェイドはすっかり、美しい青年に変わっている。

「お。黒曜様、こちら様はどちらの方で?」
 モキチが思わずたずねると、黒曜がクスクス笑った。
「モキチ、こちらの方はね、ジェイドさんよ」

 モキチの顔に『?』わけがわからない、という表情が浮かんでいる。

「モキチには『性別反転の石』の話はしてなかったっけ?」
 オリヴィンがジェイドの方を見ると、ジェイドは首を左右に振った。

「んあっ?ジェイド…さま?」
 モキチはもう、驚きを通り越して呆然あぜんとしてしまっている。

 ジェイドはそんなモキチに悪戯っぽく挨拶した。
「よっ!モキチ、俺ジェイド。よろしく!」
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