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旅編

49 魔石適性

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 オリヴィンは久しぶりに聞いた父の声に、うっすらとしか思い出せなかった母国のことや、家族のことを思い出していった。

「オリィ、元気なのかい?」
「はい、まあ、元気です」
 オリヴィンは父に今、『魔石の島スリ・ロータス』にいることや、デュモン卿とジェイドも無事なことを話し、また後日連絡することを約束して通信を終えた。

 通信の間、じっと黙って聞いていたセレスティンとヘリオスは、この通信機に驚きを隠せないようで、興奮した声で訊いて来た。
「すごいわね!まるで同じ場所にいるように話せるのね!」
「西方で発明された通信装置のことは聞いていたけど、聞きしに勝るね。父上がおられるのはディヤマンド国なのだろう?凄い発明だな!」
「ははは、良かったら俺の商標パテントで作ってください」
「君が作ったのか⁉︎」
「どうも、そうらしいです」

 どうして俺がそれを作ったかは、ジェイドから聞いていたが、こうして実際使ってみると通信装置は素晴らしい出来で、それを自分が作ったという事が信じられない程だった。
 そして実際に父と話してみると、あやふやだった記憶の糸が徐々に繋がっていく気がした。

 オリヴィンは疲れたのか、急速に眠くなって来た。しかし、おそらく宿の皆が心配しているだろうと思い至る。倒れ込むように眠る前、伝言をしてくれるようセレスティンに頼んだ。

「…騎士のサフロワという方の祖母、ジェマさんが営んでいる宿屋にデュモン卿たちが逗留とうりゅうしているので、俺が無事だと知らせてはもらえませんか?」
 そうお願いすると、返事も待たずに眠ってしまった。

 ヘリオスは使用人を呼ぶと、オリヴィンを寝所に運ばせ、彼の希望通りの伝言を宿屋に持っていくように手配した。
「疲れてたのね、彼」
「セレは随分、彼のこと気に入ってるね」
「…とてもいい子なの。私にも良くしてくれて…なのに私、騙して…」
 セレスティンの瞳に深い後悔の念が浮かんでいるようで、ヘリオスは彼女がいっそう愛おしくなった。

 自分のために、その心をにしてまで行動し、救ってくれたひとなのだ。
「私のために…すまなかったね」
 ヘリオスはセレスティンの肩を優しく抱くと、一緒に部屋へ戻って行った。

 * * *

 翌日、オリヴィンは宮殿の一室で目覚めた。
「あれ、俺どうしたんだっけ?」
 ぼんやりした寝起きの頭で考える。

(そうだ!ジェイドが結婚する約束をしてるって聞いて。俺…もしかしたら、何か早とちりして先走ったのかもしれない…)
 考えてみれば、その話をオリヴィンにしずらいのはもっともで、だが何とかなると確信しているからこそ、ジェイドは落ち着いていたのかもしれない。

 それから川に入って泳いだことを思い出した。川から上がるとそこは王宮で、自分を知っているという女性に出会ったのだった。
「セレスティン…セレ、さん…」
 そう呼んでいた…おぼろげだが少し思い出した気がする、と彼は思った。

 遠くで『ゴォン』と鐘が鳴り、静かだった王宮に人の気配が次第に大きくなって来る。
 ドアがノックされて朝食が運ばれて来た。川から侵入して来た怪しい男なのに、客人扱いしてくれるのは、第2王子ヘリオスのお陰だろう。
 朝食を食べ終える頃、ヘリオスとセレスティンがやって来た。

「おはようございます殿下、セレさん」
「おはよう、オリィ。思い出してくれたの?」
 と、セレスティンが嬉しそうに微笑む。
「なんとなく、その方がしっくり来る感じがして…いいですか、セレさんで?」
「もちろんよ!」
「おいおい、私にも挨拶させてくれよ。おはよう、オリヴィン」
「ごめんなさい、つい嬉しくなっちゃって…」
 セレスティンがヘリオスにそう答えると、ヘリオスもオリヴィンに言った。

「じゃあ、私もヘリオスと呼んでもらおうかな?」
「え、そんな。王族に不敬と思われませんか?」
「いいんだ、そう呼んでくれ。仮にも『』のパートナーだろう?いいんじゃないか?」
「いえ、まだ決闘すると決まったわけじゃないですし、相手のことをちゃんと聞いたわけでもないので…」
「まあそう弱気になるな。とりあえず。我が国基準の『魔石適性』を見極めるテストを受けてみてはどうだい?案外自分の知らない適性がわかるかもしれないよ」

「…そうですね。この国基準の適性テスト、って言われると気になりますね」
「そうだろう?我が国の魔石錬成技術はとても高いんだ。試してみる価値はある」
 ヘリオスがそう言って強く勧めてくれるので、オリヴィンは彼の提案に従うことにした。

 * * *

 宮殿の敷地のはしに、広い円形の闘技場のような建物があった。
 外側はぐるりと高い壁に囲まれており、その内側は階段上の客席が並んでいる。地上部分は円状の平面だが、その下は三重構造の地下が存在する。
 拳闘場としての使い道もあるため、地下が用意されているわけだ。

 今日はヘリオス、セレスティン、オリヴィンの三人以外は誰もいない。
 三人は小さな机が置かれた中央に立った。机の上には、いくつかの魔石らしい物と、とても実践用とは思えない円盤状の小さな盾が置かれている。

 ヘリオスは円盤状の小さな盾を左手に握ると、オリヴィンに言った。
「さて、試してみよう。まず、その指輪の威力を見せてもらおうか」
 と言った。
 オリヴィンはその心許こころもとない小さな盾に、思わず『エッ』と思った。

「この指輪、かなり威力がありますが、大丈夫ですか?その盾ではとても受けきれないと思いますが…」
「大丈夫、大きさじゃないんだよ。ほら、ここに魔石がめ込んであるだろう?」
「そうですが…それじゃあ、もっと下がってください」
「わかった、これくらいでいいか?」
「…もうちょっと…」
「これくらい?」
「もうちょっと…」
「オリィ、大丈夫だ。やってみてくれ」
「…危ないですよ」
「大丈夫!」
 そこまで言われたら仕方がない。

 オィヴィンはリングの蓋を開けると、火焔石に集中した。
 彼の左目が金色の輪に光り、火焔石から炎の柱が噴き出した。
 ヘリオスは小さな盾を構えて、その火の柱を横にいだ。すると、火はサァッと雲散霧消うんさんむしょうした。ヘリオスは、言葉を投げ掛ける。
「これで精一杯かい?」

 オリヴィンは今見た光景が信じられず、唖然あぜんとした。
「クッ、も、もう一回お願いします!」
 指輪に意識を集中して、頭の中に炎を思い描く。
 彼の目の中の金の輪が先程より強く輝くと、威力を増した炎がヘリオスめがけて真っ直ぐに襲いかかった。
 しかしその炎も、ヘリオスの一薙ぎでフゥッとかき消えた。
「もう一度!お願いします!」
 オリヴィンの声にヘリオスがうなずく。

 オリヴィンは頭の中で想像イメージした。大きな大きな炎の塊を、そしてその意識を石に今一度込めて解き放った。
 彼の左目はまばゆいばかりに輝くと、指輪から炎の巨大な塊が打ち出された。
「ウッ!」
 ヘリオスは小さく呻いて、その巨大な炎の塊をかろうじて盾で跳ね返した。
 跳ね返った炎は客席の方に飛んで行って、火花を大量に撒き散らして消えていった。

「3番目のはまあまあ、だったね」
 そう言うとヘリオスはニンマリと笑った。
「君は確かに炎の魔石の適性がありそうだな」
「最後のはすごかったわ、オリィ。左目の輝きが違ったわ」

 オリヴィンは今まで、極限まで意識して魔石を使ったことがなかったことに気が付いた。意識を研ぎ澄ませて、頭の中にイメージできたら、とんでもないパワーが出せるかもしれない。
「それじゃ、次行こうか?」
 ヘリオスはそう言うと、オリヴィンの右手に魔石を握らせた。
「湧水石…」
「そうだ!」
 そして左手にももう一つ、石を握らせる。
「氷石?」
「正解!それじゃあ、右手で水を作り、左手で氷にして打ち出すんだ」
 オリヴィンは言われるままに試し始めた。

 頭の中で右手の湧水石を意識する。すると目の前で水の塊が丸く大きく膨らんでくる。次は左手に意識を集中する…
 “バシャッ”と音がして水の塊が落ち、闘技場の地面の上にこぼれて染み込んでいった。右手から左手への連携が難しい。
 もう一度、意識を集中する。ふと思って両手を合わせて、氷の塊が打ち出されるところをイメージしてみた。

 すると、合わせた両手の間から、手のひらサイズの大きな氷の礫(つぶて)が飛び出した。打ち出された氷の塊は距離が足りず、ヘリオスの元には届かない。

 もう一度、もう一度と練習しているうちに、だんだん遠くへ飛ばせるようになって来て、最後に大きな氷の塊がヘリオスの盾にバシッとぶつかると、小さな氷の破片となって周りに散らばった。

「なかなかいいね。普通に使えるね。じゃあ、次はこれを使ってみよう」
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