王室付き魔法師ゴーストになる ゴーストだって何もできないってわけじゃない

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20 天国へ行こう

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「エリオット・オーギュスト・マルコム、貴殿を王立魔法師団副団長に任命するーーー」

 王命がくだり、エリオットは王立魔法師団のトップ二人がいなくなったことで、若輩ながら次期副団長に就任することが決まった。

(責任重大だけど、これで我が家の家計も少し楽になるかな。何にせよ良かった~)

 マルコム家の維持のために、タウンハウスを手放すことを考えていたエリオットは、ほっと一息ついた。

 そうしているうちに、葡萄園を管轄かんかつしている地域の役所から連絡があり、葡萄栽培とワイン作りを委託いたくしていた者たちが、収量や売り上げを盛大に胡麻化していた事実が知らされ、呆気あっけに取られることになる。

 散々、不作で生産ができないとか、ワイン蔵が雨漏りするから修理代を出して欲しいとか言って来ていたのに、全て嘘だったと分かった。

 葡萄の生産と管理を任せられる者を新たに探さなくてはならなくなって、ふと思いついて、執事を呼んだ。

「ドノヴァン、出て行ったエルガー叔父さんと、ロンド夫人の居所はわかるかな?話をしたいと思うんだけど…」
「かしこまりました。お二人は今王都の安宿に仮住まいをしているようですので、お呼びします」


 翌朝、エルガー叔父とロンド夫人を前に、エリオットが尋ねた。

「二人とも、十分反省してくれたのなら、僕から提案がある…」

 エリオットは二人に、マルコム家の葡萄園で働くことを提案した。
 それというのも、今は亡きロンド夫人の夫が、昔葡萄園で働いていて、ロンド夫人になる前の彼女と出会ったという話を聞いたことがあったからだ。

「二人で新たに出直すいいチャンスじゃないか、どうだろう?」

 こうして、エルガー叔父とロンド夫人は葡萄園へと旅立って行った。


 * * *


「エリオット!ねぇ、今動いたわ!」

 すっかり元気になったティナが、嬉しそうに寄って来てエリオットの手を取って、彼女のお腹へ持っていく。

「ほら、触って…ね、動いてる!」
「ほ、ほんとだ!すごいね!」

 エリオットはティナの身体に触るのがまだ照れ臭かったが、こうして二人で赤ちゃんが動くのを確認していると、自分が父親になったような気分になった。

 ティナのお腹の中で小さな赤ん坊が、ぽこぽこお腹を内側から蹴って、もう一人前に自分の存在を主張して来る。
 そんな小さな幸せが何より嬉しい。

 ディランは部屋の上から、二人のそんな様子を見守っていたが、正直もう自分は先に進むべきなのだと、十分理解していた。

 自分の子供が生まれるのを見たいという気持ちも勿論もちろんあるが、生まれたら、次は無事育つのを見守りたくなるだろう……キリがないではないか。


 ディランはその夜、二人の夢の中に入った。

「ティナ、エリオット…」
「兄さん」
「ディラン」

「二人にお別れを言いに来た。それと謝りたいんだ。…こんなに早く死んでしまってごめん…」
「ディラン…」
「兄さん、謝らないで。兄さんが悪いわけじゃないよ」

「ティナにも、エリオットにも幸せになって欲しい…ティナ、弟と結婚してやってくれ。彼なら君を幸せにできる」
「ディラン、いいの?私結婚しても…」

「エリオット、ごめん。お前の気持ちを知っていたのに、ティナを奪った。申し訳ない…ティナをお前に返すよ、幸せにな…」
「兄さん…」

「二人とも、今までありがとう。それからこれは私からのサプライズ。生まれて来る子は双子だよ…」

 そう言うとディランは二人の夢から抜け出して、家の周りを一周した。

 屋根の上に黒猫のマーリンがいた。

「ごしゅじんさま、てんごくいくの?」
「そうだよ。おまえにもいろいろ世話になったね」
「にゃー」

 夜の街を、人間のせいを名残り惜しむようにディランは飛んだ。

 思えばこの人生も悪くなかったではないか。短くはあったが、精一杯生きた。
 楽しいことも、辛いこともたくさんあったが、今は死んで尚、幸せだ。


 生きていた頃はのんびり眺めることもなかった満天の星空、木々に眠る鳥や動物、この世界の全てがこんなに美しかったことに改めて気がついた。

(死んでから、初めて気がつくなんて…そう言えば、また生まれ変わるんだって言ってたな…こんなに美しい世界なら、またここに生まれてもいいかな)

 そんなことも思いながら、薄明はくめいの中で陽が登って来るのを待っていた。

 地平線に太陽のふちがかかり、この世は光に満ちた。

 ディランの上にキラキラと輝くゲートが現れた。
 彼は今度こそ、まっすぐに向かって登っていく。

 まばゆい光に導かれて、やがて彼はその中に同化して行った。

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