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17 プロポーズ

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 ディランは、豊かに実った葡萄畑の上を飛んでいた。

 今まで忙しくてなかなか来ることができなかったのだが、ゴーストになった今は瞬時に移動できる。
 季節は秋、ちょうど葡萄ぶどうの収穫シーズンだった。

(ここ数年不作続きでワインも作れず収入がない、と言う話だったが…)

 見た感じ、今年は豊作のようだ。

 ディランは葡萄畑の上を飛んで、ワイナリーの建物を目指した。
 赤い屋根の瀟洒なワイナリーだが、外観はそのままだ。

(そう言えば、ワイン蔵が老朽化して雨漏りするから改築のための資金を出してくれと言われたことがあったな…どこを修繕しゅうぜんしたんだろう?)

 壁を通り抜けて中に入ると、構内は以前とさほど変わらない、こじんまりしたワイナリーだ。特に修繕の後もないようだが…

 すると何人か複数の声がどこからか聞こえてくる。外からか、と思い待ってみるが、声は変わらない。

 どうも、地下から聞こえてくるようだと思い、地下に倉庫でもあるのかと床に潜ると、すっぽり地下室に出た。地下は明るいあかりがともされており、声はその奥から響いて来る。

 灯りの方に進んでいくと、広い場所に出た。天井が高く広い空間に巨大なワイン樽がたくさん並んでいる。
 地下にこんな広い空間を作っていたとは…

 4人の男がテーブルを囲んでブランデーを飲んでいる。
 男たちの胸の前に浮かぶ魂の色があまりにも濁っていて、気味が悪い。ディランはくさい物でも見るように嫌悪けんおした。

「いや~、今年も豊作だな」
「またいいワインができそうだ」

「今年は何を買おうかな…?」
「おいおい、まだワインもできてねえうちから皮算用かい?」

「去年は海のそばに別荘を買ったのさ」
「そうだったな。オレは五年越しで貯めた金で船を買うつもりさ」

「おやじ、またそれで一儲けか!」
「ハッハッハ、今度は密輸で大儲けさ」

「まったく、俺たちに任せっぱなしのバカ地主さまさまだ!」

(私がそのバカ地主さまなんだが…)

 つまりは地主が忙しくて見に来れないことをいいことに、好き放題に私腹を肥やしていたってことだな、とディランはさとる。

『ワインができなかったから、今年は冬が越せない…』と言うのでここ三年ほど、地代も免除していたんだが。

(さて、どうしてやろうか…?)


 * * *


 エリオットは弁護士と会計士に会ったその日、夕方家に帰り着くとティナに
「話がある」
 と言った。

 ティナは随分体調も良くなって来たようで、顔色も以前と同じくらいに回復して来た。すっかり食欲も回復して、今はお腹の赤ちゃんのためにもたくさんの栄養が必要だ。

(帰って来るなり『話がある』っていったい…)

 ティナは『いったい何事かしら?』といぶかしむ。

 そんなティナの心を尻目にエリオットは宣言する。


「僕はこの家に残って、君と赤ちゃんとこの家を守ることにした。だから…その、僕と結婚して欲しい!」

「……え?」

 突然の申し出に、ティナは開いた口がふさがらない…

「ティナ、嫌かな…?」
「…いや、ではないけど…どうして…?」

「それが一番いいんじゃないかと思ったんだ。僕がこの家に残れば、君も家も守れるし、君が安心してこの家で子育てができる。結婚すれば法律上でも、君を守れることになるし、それに僕も可愛い子供を見守ることもできるしね」

「待って。エリオット、あなたは本当にそれでいいの?」

「ぼ、僕は君が好きだし…あ、でも君が望まないなら『白い結婚』でもいいと思っている…君が負担にならないように…」
「『白い結婚』って?」

「あ、君が望まないなら『僕と寝なくていい』と言うことさ。何なら、寝室を別にしてもいい…」
「そんな…」

「今すぐに決断してくれなくていい。結婚式は赤ちゃんが生まれた後ということで。ゆっくり考えてくれ。でも、僕の決心は変わらないよ」


 ティナは部屋に戻ると、いまエリオットが話したことを反芻はんすうする。

(まだ、ディランが亡くなってからそう経っていないのに…)

 他の人と結婚なんて考えられない…でも、エリオットなら…とも思う。

 ディランと付き合い始める前まで、私はエリオットと結婚するんだと思っていたのだから…

 学生時代からの親友、だけどエリオットのこの部屋で、軽くキスをしたこともある。初キスだった。
 あの頃は、ゆっくりお互いの関係を育んでいって、その先に結婚があるといいな…なんて。

 それが、王立魔法師団に入ってから、ぐんぐんディランにきつけられてしまって、そのままの勢いで結婚してしまった。

 ディランは私と正反対の人だった。賢くて面白くて、少し意地悪だったけれど、私が持っていない沢山の才能を持った人…それでいて情熱的で。

 あの人に求められたらあらがえない…そんな魅力的な人だった。

 そういえば、最近夢に見ることが無くなった気がする。
 亡くなった頃は毎日会いたくて、夢の中でなら会えるから、眠ってばかりいた。

 そして、夢の中でも激しく愛してくれて…
 そのせいで、死にそうになっちゃったんだけど。

 でも、エリオットに救われて、あの人の優しさが春の太陽のようで…本当に感謝してる。

(エリオット、私もあなたが大好きよ…)
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