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6 エリオット

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 エリオットは椅子に掛けたまま、ひざの上にひじをつき頭を抱えて、今日のことを考えていた。

 今朝王城で落ち合った時は、兄は普通に元気だったのだ。

(一体何があったのだろう?何故、あんな姿に…?)

 エリオットはポケットの中に何か固いものが入っているのに気づいて、そこに手を突っ込んだ。
 指輪だった。…兄の指輪…

 ブランドンが遺体から外して渡してくれたものだ。
 エリオットの脳裏にそれを見つけた時の光景が浮かび、手が震えた。

 真っ黒に焼けこげた兄のむくろに輝いていた指輪…
 呆然ぼうぜんと指輪をながめていると、不意に声がした。

「エリオット坊っちゃま、お着替えをお持ちしました。どうぞお風呂に入られてください。寝室は以前使っていらっしゃったお部屋をお使いください」

「…ありがとう」

 執事のドノヴァンにうながされて、彼は浴室に向かった。
 懐かしい廊下を歩きながら、昔のことを思い出す。兄と二人で走り回っていたこの廊下…転んで怪我をすると、いつも兄が魔法で直してくれたっけ。

 久しぶりに湯船に浸かってゆっくりする。お湯の中で手に付いた汚れを落とし、顔を洗う。湯船のふちに寄りかかって、思いをめぐらす。

(ティナは大丈夫だろうか?)

 普段仲の良い二人を思うと、心が痛む。
 ブランドンとティナを引き合わせてしまったのはエリオットなのだ。

 元々ティナはエリオットの友人だった。同じ魔法学校の同級生だったティナとエリオットは、その優秀さでいつも首席を争っていた。
 彼女は超感覚で魔法を操るタイプで、エリオットは彼の家系らしい緻密ちみつな積み重ねの上に、一番最適な魔法を使う頭脳派タイプだった。

 初めのうち反発し合っていた二人だったが、そのうち誰よりもお互いを認め合う仲になったのだ。それからはよくお互いの家に遊びに行ったり、一緒に出掛けたりと同じ時間を過ごして来た。

 兄さんは僕の自慢だったから、学校の廊下で会ったとき
 「ディラン、彼女ティナっていうんだ。ティナ、こちらが兄のディラン。兄さんはすごいんだよ!入学以来ずっと首席なんだ!」
 と紹介したのを憶えている。

 優秀な兄に次いで、二人して王室付き魔法師団に進路が決まった時は、嬉しくて心の中でガッツポーズしていた。

(これからもずっと一緒だ!)

 彼は自分の中に芽生えていたティナへの恋心を、ずっとひた隠しにしていたのだ。

 卒業して魔法師団に入団した時は、いずれ彼女に告白して結婚しようと思っていたのだが…彼女は、兄にとても憧れていて、言い出せずにいた。

 そのうち兄は、若くして魔法師団の副団長になった。ティナが兄を尊敬しているのは知っていたが、まさか、堅物かたぶつの兄が彼女を好きになるとは思いもよらなかったのだ。

 エリオットはゆるゆるとした温かさの湯船の中でウトウトし始める。彼は夢を見ていた。

 * * *

 森の中にいた。巨木が生い茂る暗い森の中で、何か巨大なものがズシン、ズシンと近づいて来るのを待っている。

「来るぞ」
 隣で声がした。見ると兄がいてこちらを見ている。今朝見た時と同じ魔法師のローブ姿で、いつものように落ち着いている。

 メキメキッ、バリバリッと木々を引き裂く音がして、そいつが姿を現す。
「黒竜だ。気をつけろ」

 兄の声に全身の毛穴が泡立って、怖気おぞけが走った。
 鈍い黒色の巨大なウロコに緑色の苔がびっしりと生えている。
 恐怖で足がすくんで動けない…

「あいつにられたんだ…一瞬のことで、逃げる間もなかった」

 兄はそう言うと、エリオットを引き寄せてハグした。

「ごめんな。お前たちを残して…エリオット、ティナを頼む…」

 * * *

「ブッ、ゲホッ、ゲホッ!」
 湯船に沈みそうになって、せて目が覚めた。

(夢だったのか…それにしては現実感のある夢…)

 彼は兄のことを想った。

(心残りだったろうな、ティナを残してくなんて…)
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