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5 再び夢の中へ
しおりを挟む幽霊になったディランは、自分の屋敷の上空から、ブランドンとエリオットが乗った馬車が近づいて来るのを見ていた。
彼らが屋敷の中に招き入れられたのを見て、ディランも瞬時に室内に移動する。
彼はブランドンとエリオットがとても辛そうに『ディランの死』について語るのを一部始終、漏らさず聞いていた。
自分の死について語られているというのに、何の感慨も起きない。
彼は部屋の上部に浮かびながら、ふと彼らの胸の辺りで光っている魂の色に気を取られた。一人に一つずつ光っているそれは、大きさも色も様々だ。
エリオットの胸に浮かんでいるその魂の色は、深い北の海の色とでも例えられるだろうか、哀しくなるような藍色だった。
それに比べると隣に立っている騎士のブランドンは、もう少し明るいブルーで、時々緑色が混じって見えた。
話を聞いた者の魂の色が皆、淡いブルーに変わっていったところを見ると、悲しいと青い色になるのだろうか?
(ティナは?)
そう思って彼女を見ると、さっき夢の前には柔らかなピンク色だった魂の色が、今は白くなっている。時々、青や黒が少し混じりはじめ、ぐるぐるしている。
そして、真っ白になったかと思うと、彼女の体は頽れた。
(ティナ!)
声にならない声で叫んで、支える腕を持たないまま、彼女の傍に寄り添う。
だが、悲しいことに今のディランにはどうすることもできない。彼は絶望的な気持ちで、ティナが気を失って倒れるのを見ていた。
(自分の死はさほど気にならないのに、ティナの悲しみはこんなにも重く心にのしかかるものなのか…)
皆がティナをベッドルームに運び込んでいるのを見下ろしながら、一緒に付いて行く。ティナがベッドに横たわっているのを、ティナのメイドのメイと一緒に見守る。
「ティナ様、お可哀想に…」
目に涙を浮かべてベッドの横の椅子で見守るメイの魂も、深いブルーに染まっていた。
ディランは自分にも何かできることはないかと、ティナの上でぐるぐる回っていたが、ティナの魂の色は真っ白で、今は夢も見ていないようだ。
ディランは他の者の様子を見に、部屋の外に出た。
応接室でまだ、執事のドノヴァンと騎士のブランドン、弟のエリオットの声がする。
「エリオット様、どうかしばらくこちらに戻って来ていただくことはできませんか?」
執事のドノヴァンがエリオットに伺いを立てている。
「ディラン様が亡くなられた今、奥様を支えてくださる方が必要です。そして…申し上げにくいですが、今後のことも考えねばなりません」
「ドノヴァン、今はやめてくれ。…僕も兄さんが死んだなんてまだ信じられないんだ。…ティナが心配だから、しばらくはこの家に厄介になるが、それ以上のことはまだ言わないでくれ…」
エリオットは心底辛そうで、椅子に掛けたまま立ち上がることもできないでいる。
「エリオット、今日のところは俺は帰るが、君は2~3日は少しゆっくりしてくれ。ティナと同期の君なら、少しは慰めになるかもしれない。どうか、彼女の力になってやってくれ…」
ブランドンはそう言うと、外に待たせていた馬車で帰って行った。
ディランはそれを聞いた後、またティナのところに戻った。
先ほどと少し変わって、ティナの魂の色がうっすら青みを帯びて来ている。
ディランはその淡い青色の中に飛び込んでいった。
* * *
「ディラン、ディラン!どこにいるの?」
ティナの悲しげな声が響く。
「ティナ…」
「ディランたら、ここにいたの?探したのよ」
「ごめん、ティナ」
ティナの表情が少し、ホッとした顔になった。
「みんなが “あなたがいない” って探していたのよ。もう、心配するじゃない」
ティナがその暖かい体をディランにすり寄せて来る。ディランは思わず彼女を抱き寄せた。
(愛おしい…この髪、この瞳、この躰…)
ティナの両手が伸びて来て、ディランの首に抱きついた。
「ディラン、愛してる。どこにも行かないで…」
「…ティナ…」
ティナの柔らかい唇がディランの唇に重なって、ふわりといい匂いがした。
(駄目だ。今は打ち明けなくては…)
ディランは自分に言い聞かせると、夢の中のティナに話しかけた。
「ごめん、ティナ。君に謝らなくてはならないことがある」
ティナの眉根が少し寄せられ、表情が曇る。
「私は今日、死んでしまったんだ…」
ティナの目が見開かれ、悲しそうな声が紡がれる。
「…ディラン、どうしてそんなこと言うの…嘘でしょう?」
「残念だけど、本当なんだ。私は今日『黒い森』で黒竜に遭遇し、死んだんだ」
「……そんな…」
「でも、君に会いたくて、魂だけになって会いに来たんだ」
「ディラン…」
「君にはこれからも、元気で生きて欲しい…だから…」
「イヤよっ!…いや…あなたなしで生きてなんていけない!」
「ティナ…」
そこでディランはティナの夢から追い出された。
ベッドの上空からティナを眺めるとティナが号泣しており、メイドのメイが抱きしめて彼女をあやしていた。
「…大丈夫。ティナさま、私がおそばにおります。大丈夫ですよ…」
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