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第十三話
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第二、第三王子の双子の弟と三歳離れているのは、出産間際だった母上のお腹で俺の妹になるはずだった子が死んでしまったことが理由にある。
ショックで一年ほど寝込み、その間に父上に励まされ、見事に立ち直った結果、俺のスペアとなれるような子を作るため王族の責務として励んだらしい。
そして産まれてきたのがネクトとラレスである。
産まれてから少しして、当時すでに物心あった俺は差し出した指の、親指と小指をそれぞれ握る感触に、ある決意を固めた。
まだまだ無邪気を装って遊び倒そうとしていた欲求を抑えつけて、誓ったのだ。
この弟たちは自分が守ってみせるのだと。
それから俺は兄ぶるようになった。
婆やに教わった魔法を得意げに披露して、真剣に取り組むようになった教養、お手本になるような芸術作品やマナー、社交界でのダンスや立ち振る舞いーー気がつけば「流石ですお兄様」が口癖になるくらい、弟たちには尊敬されるようになっていた。
だが、十にして家庭教師たちから学ぶことが無くなったあたりから、俺はそもそも、なぜ兄ぶろうとしていたのか疑問を覚えるようになった。
別に兄らしくあるなら、バレないように羽目を外せば良い。最低限の簡単な執務はさっさと終わらせて、城の外へ飛び出たのもその頃だ。
そして、外の世界でレイモンドと出会い、ティアと出会い、テシアやさまざまな人間と知り合った。
友を得てから、俺は初めて、「奔放王子」と呼ばれる本性が現れたのだと思う。
弟たちや公的に付き合いのある人間にはあくまで上辺だけの、猫被りだと、仮面の下が明確になったことで自覚した。父上や母上にはバレていたようだが、あくまで節度を守るのなら俺の本性はなんだって良いらしい。
親の余裕のようなものを感じて、俺はそんな愛情に甘えていたのだろう。
ただの取り巻きのつまらない奴から、面白いやつに昇格したレイモンド。
平民で、いわば何のしがらみもないはじめての友と言えるティア。
落とし子で、身分を偽る俺のことを弟分のように連れ回してきたテシア。
彼彼女らと接するうちに、俺は本性を見せる時間が猫被りする時間より増えるようになった。
そしてそれは、弟たちへの裏切りのように思うようになる。もともと疑問に思うようになっていた、兄ぶろうとするその理由を心の隅に抱えたままーー決定的な日を迎えた。
そう、それこそ、今俺を取り巻く環境を激流のように変えてしまうXデー。俺の精通である。
婆やに祝い事のようにシーツを振り回され、ティアが顔を真っ赤にし、見知った近衛の騎士に顔を逸らして笑われ、果ては母上は嬉しそうに両手を合わせ、父上もといクソジジイが口の端をにぃと上げ……すでに精通を迎えていた弟たちに、情けない兄の真実が露見した。
ネクトなんて二年前、十になるあたりで、ラレスはその翌年に精通している。
その二年後、年齢的には五年後に精通する男など兄として目も当てられなかったのだろう。
そしてその時、理想の兄を演じる理由を、正確に、思い出した。
原点回帰である。
そもそも俺が理想の兄であろうとしたのは、弟たちを守るためーー跡目争いが起こらないよう、俺が王として弟に負けないことを示すのが目的だった。双子で、一応の継承権の差がある弟たちだが、たかが数秒生まれた時間が違うだけしか差がなく、それも後からわかったことだが、魔法適正も対極。もし俺が王太子として認められず廃嫡されると、派閥争いが好きな貴族たちが勝手に持ち上げ始めて次の王に相応しいのはどちらか決めるため内戦になりかねない。
最後はどちらかの死をもって終戦となるーーそんな未来は見たくなかった。
幸いにも、理想の兄を演じていたおかげで本来の王として相応しくなるという目的を忘れていても、俺の次期王位は確実なものとなった。
それは、アクリエス公爵家のレイチェルが婚約者になったことで証明されている。今思えば、弟たちの幼馴染でありながらどちらの婚約者にもならなかったのは、俺の子をなす能力……精通待ちだったのかもしれない。そう思えば、色々と納得いくこともある。執務は何故か公爵が直々に監査することもあったし多分それは、子煩悩が娘の婚約者を見極めにきていたんだろう。
俺とラレス二人で婚約を反対した時も、有無を言わさないとばかりに孫を見たいとか適当な理由で押し通したのも、レイチェルが俺の婚約者になることは、とうの昔に決まっていたことだったからかもしれない。
ともあれ、俺はこうして、理想の兄である必要性を失ったのだ。弟が可愛いのは今も変わっていない。だからこそ、本性を曝け出して見せたのだがそれは不評だったようで、ネクトやラレスは俺と距離を取るようになってしまった。
だが、それも長引かせようとは思っていなかった。もし本当に嫌がるようなら猫を被って接してやるが、少なくとも、あの規則にうるさいレイモンドすら受け入れてくれているのだ。弟たちも分かってくれるだろうと信じている。
そして、そんな矢先のことだ。
「んっ♡ ふ……んっ……ふふ♡ んー♡」
お茶会を開かないときでも、レイチェルと物陰に隠れて日課のようにキスをしていた時のことだ。
その日は外で、放課後に出歩く生徒も多いことから触れ合うだけのバードキスを三回したあと、こんな相談を持ちかけられた。
「明日の昼食で、ラレス殿下がわたくしと二人でデッキテーブルの予約をしているみたいですが、どうするのか聞いてませんか?」
「いや……初耳だぞ」
少し内緒話をするとティアとエリノーラを置いて出てきたのだが、まさか本当に内緒話をすることになるとは思いもしなかった。
誰か来たとき、密着しているところを見られるとまずいので、魔法でベンチを作ってからレイチェルだけを座らせた。
俺はあくまで相談を受けている姿勢で、悩む顔を作る。
いや、実際、悩んでいた。
「デッキテーブルの席はひと月前に予約しないと取れないんだが……暗黙の了解で上級生になってからじゃないとダメだってルールが広まっていてな」
「そうなのですか?」
「ああ、去年もそれを知らない生徒が、食堂にいる人間から注目を集めて居心地悪そうにしていた。その予約はレイチェルと約束したものなのか?」
「いいえ、でも以前、外で食べるとまた違った楽しみがあるんだろうなと興味を惹かれてその内容を話したことがあります。たぶん、ラレス殿下が気を利かせてくれたんだと思います。サプライズだったと言われてつい最近知りましたし」
なるほど、奔放は血筋だな。
それはともかくとして、だ。
本当ならラレスには悪いが、印象悪化を避けるために今回の予約は流してもらいたいところだ。だが、レイチェルが興味を持っていると言っているからには、デッキテーブルでランチをさせてやりたいと年長者としてのプライドが囁いている。
しかし、何より厄介なのが、あのデッキテーブルを使う層が偏っていることだ。
あそこは女生徒ばかりが予約しているため、男は目立ちやすいのだ。男がデッキテーブルで食べているということは、相席する人間に告白するつもりだということになっている。
そんなところにレイチェルと二人で座らせるのは、政治的判断として悪手でしかなかった。
「仕方ないか。当日は俺も相席する」
「出来るのですか?」
「出来るか出来ないかなら、あまり使いたくないが王族の意向でなんとでも出来る」
仮にも次期王の言葉だ。貴族制度について学ぶ場でもあるこの学園で、俺の言葉に逆らえる人間はいない。
ラレスももしかするとこの権力のゴリ押しで予約を押し通したのかもしれないが……、つまり、王族の動きを止められる人間は、この学園内でおなじ王族だけということだ。
ただし、この学園での命令は父上に持ち帰られることになるが、今は甘んじて受け入れよう。むしろラレスの方が心配だった。
「父上には嫌味を言われるかもしれないが、俺たちの婚約発表前にレイチェルとラレスが婚約者になると間違った噂が立つのはどうしても避けたいからな。ラレスもひと月前は入学したてで城での距離感のままいたんだろう。悪気は全くなかったんだろうから、多めに見てやってくれると助かる」
「それはもう、ええ、幼馴染ですから。ラレス殿下のことはだいたい分かっていますわ」
そう言って笑って、この場はお開きにする流れになった。
また明日と言ってベンチを消して、待たせていたティアとエリノーラのところへ戻ろうとすると、後ろから制服の袖口を掴まれた。
「どうした?」
「ジルクニール様は、私のことをどう思いますか?」
なんの質問だろうか。
ただ、真剣な顔であるわけでもない。まるで普通の会話を始めるように、未成熟の美しい顔に綺麗な笑顔を咲かせて、小首を傾げていた。
「可愛い、とか言えばいいか?」
「もぅ、わたくしに訊かないでください。でもそうですね、抽象的すぎました。わたくしが、ラレス殿下を人前で呼び捨てにしていることをどう思っているのかお聞かせください」
この話をするなら、いつまでも背中を向けているのはダメだと感じた。袖口を掴む手を取って、真っ白で剣も握ったことがない柔らかな手に、指を絡める。
13の初等生相手に何をしているんだとも思うが、女性に対しては真摯に向き合うのが男の礼儀だろう。マナーは嫌いでも、女性を愛でるためのものなら喜んでルールに従うだろう。
余った手でレイチェルの腰を引き寄せて、胸元にきて俺を見上げるレイチェルの額に口付けをした。
「何も思わないわけじゃない、が、いちいち目くじらを立てることでもないと思っている」
「では、今まで通り、ラレス殿下やネクト殿下といる時は呼び捨てにしてもいいのですか?」
「構わない。……ああでも、俺は存外嫉妬深かったらしいからな。幼馴染以上の好意を持っていると、お前のことを壊すかもしれない」
自分で言っていて、だいぶ頭の悪い言葉だと思う。
どう考えても脅迫のようにしか取れないがその言葉自体は本気で、本音で、せめて15の上級生になるまでは本番をしないと誓ってはいるが、《避妊/リブート》で延々と腰を振り続けている気がするのだ。
最近、女を覚えてからというものの、ーー魔法で精力すら強化されることで自制が弱くなっていることを理解していた。クラスメイトの異性も、婚約者持ちだろうと俺に対して好意を向けているようにしか思えてならないようになっている。そして、考えてしまうのだ。その女たちと寝台を共にして快楽を貪ることを。他人の女を抱くなど道義に反することだ。だが、母上を思い出さなければ天井へ向けて反り返り、勃ってしまうほど重症だ。
腰をより強く引き寄せて、小さな婚約者と密着するようにする。すると、レイチェルのほうから、結んだ手と反対の手で、俺の頬に添えてきて、小さく微笑んだ。
「その心配は必要ありません。ただの幼馴染ですから」
「レイチェル……」
「ジルクニール様……ん♡」
キスを待つ顔になったレイチェルと、最後にもう一度だけ唇を触れさせた。今度は長く、お互いを婚約者だと認識するための儀式のように……。
その日の晩は、ティアとエリノーラとも散々キスしながら何度も中出しした。
ショックで一年ほど寝込み、その間に父上に励まされ、見事に立ち直った結果、俺のスペアとなれるような子を作るため王族の責務として励んだらしい。
そして産まれてきたのがネクトとラレスである。
産まれてから少しして、当時すでに物心あった俺は差し出した指の、親指と小指をそれぞれ握る感触に、ある決意を固めた。
まだまだ無邪気を装って遊び倒そうとしていた欲求を抑えつけて、誓ったのだ。
この弟たちは自分が守ってみせるのだと。
それから俺は兄ぶるようになった。
婆やに教わった魔法を得意げに披露して、真剣に取り組むようになった教養、お手本になるような芸術作品やマナー、社交界でのダンスや立ち振る舞いーー気がつけば「流石ですお兄様」が口癖になるくらい、弟たちには尊敬されるようになっていた。
だが、十にして家庭教師たちから学ぶことが無くなったあたりから、俺はそもそも、なぜ兄ぶろうとしていたのか疑問を覚えるようになった。
別に兄らしくあるなら、バレないように羽目を外せば良い。最低限の簡単な執務はさっさと終わらせて、城の外へ飛び出たのもその頃だ。
そして、外の世界でレイモンドと出会い、ティアと出会い、テシアやさまざまな人間と知り合った。
友を得てから、俺は初めて、「奔放王子」と呼ばれる本性が現れたのだと思う。
弟たちや公的に付き合いのある人間にはあくまで上辺だけの、猫被りだと、仮面の下が明確になったことで自覚した。父上や母上にはバレていたようだが、あくまで節度を守るのなら俺の本性はなんだって良いらしい。
親の余裕のようなものを感じて、俺はそんな愛情に甘えていたのだろう。
ただの取り巻きのつまらない奴から、面白いやつに昇格したレイモンド。
平民で、いわば何のしがらみもないはじめての友と言えるティア。
落とし子で、身分を偽る俺のことを弟分のように連れ回してきたテシア。
彼彼女らと接するうちに、俺は本性を見せる時間が猫被りする時間より増えるようになった。
そしてそれは、弟たちへの裏切りのように思うようになる。もともと疑問に思うようになっていた、兄ぶろうとするその理由を心の隅に抱えたままーー決定的な日を迎えた。
そう、それこそ、今俺を取り巻く環境を激流のように変えてしまうXデー。俺の精通である。
婆やに祝い事のようにシーツを振り回され、ティアが顔を真っ赤にし、見知った近衛の騎士に顔を逸らして笑われ、果ては母上は嬉しそうに両手を合わせ、父上もといクソジジイが口の端をにぃと上げ……すでに精通を迎えていた弟たちに、情けない兄の真実が露見した。
ネクトなんて二年前、十になるあたりで、ラレスはその翌年に精通している。
その二年後、年齢的には五年後に精通する男など兄として目も当てられなかったのだろう。
そしてその時、理想の兄を演じる理由を、正確に、思い出した。
原点回帰である。
そもそも俺が理想の兄であろうとしたのは、弟たちを守るためーー跡目争いが起こらないよう、俺が王として弟に負けないことを示すのが目的だった。双子で、一応の継承権の差がある弟たちだが、たかが数秒生まれた時間が違うだけしか差がなく、それも後からわかったことだが、魔法適正も対極。もし俺が王太子として認められず廃嫡されると、派閥争いが好きな貴族たちが勝手に持ち上げ始めて次の王に相応しいのはどちらか決めるため内戦になりかねない。
最後はどちらかの死をもって終戦となるーーそんな未来は見たくなかった。
幸いにも、理想の兄を演じていたおかげで本来の王として相応しくなるという目的を忘れていても、俺の次期王位は確実なものとなった。
それは、アクリエス公爵家のレイチェルが婚約者になったことで証明されている。今思えば、弟たちの幼馴染でありながらどちらの婚約者にもならなかったのは、俺の子をなす能力……精通待ちだったのかもしれない。そう思えば、色々と納得いくこともある。執務は何故か公爵が直々に監査することもあったし多分それは、子煩悩が娘の婚約者を見極めにきていたんだろう。
俺とラレス二人で婚約を反対した時も、有無を言わさないとばかりに孫を見たいとか適当な理由で押し通したのも、レイチェルが俺の婚約者になることは、とうの昔に決まっていたことだったからかもしれない。
ともあれ、俺はこうして、理想の兄である必要性を失ったのだ。弟が可愛いのは今も変わっていない。だからこそ、本性を曝け出して見せたのだがそれは不評だったようで、ネクトやラレスは俺と距離を取るようになってしまった。
だが、それも長引かせようとは思っていなかった。もし本当に嫌がるようなら猫を被って接してやるが、少なくとも、あの規則にうるさいレイモンドすら受け入れてくれているのだ。弟たちも分かってくれるだろうと信じている。
そして、そんな矢先のことだ。
「んっ♡ ふ……んっ……ふふ♡ んー♡」
お茶会を開かないときでも、レイチェルと物陰に隠れて日課のようにキスをしていた時のことだ。
その日は外で、放課後に出歩く生徒も多いことから触れ合うだけのバードキスを三回したあと、こんな相談を持ちかけられた。
「明日の昼食で、ラレス殿下がわたくしと二人でデッキテーブルの予約をしているみたいですが、どうするのか聞いてませんか?」
「いや……初耳だぞ」
少し内緒話をするとティアとエリノーラを置いて出てきたのだが、まさか本当に内緒話をすることになるとは思いもしなかった。
誰か来たとき、密着しているところを見られるとまずいので、魔法でベンチを作ってからレイチェルだけを座らせた。
俺はあくまで相談を受けている姿勢で、悩む顔を作る。
いや、実際、悩んでいた。
「デッキテーブルの席はひと月前に予約しないと取れないんだが……暗黙の了解で上級生になってからじゃないとダメだってルールが広まっていてな」
「そうなのですか?」
「ああ、去年もそれを知らない生徒が、食堂にいる人間から注目を集めて居心地悪そうにしていた。その予約はレイチェルと約束したものなのか?」
「いいえ、でも以前、外で食べるとまた違った楽しみがあるんだろうなと興味を惹かれてその内容を話したことがあります。たぶん、ラレス殿下が気を利かせてくれたんだと思います。サプライズだったと言われてつい最近知りましたし」
なるほど、奔放は血筋だな。
それはともかくとして、だ。
本当ならラレスには悪いが、印象悪化を避けるために今回の予約は流してもらいたいところだ。だが、レイチェルが興味を持っていると言っているからには、デッキテーブルでランチをさせてやりたいと年長者としてのプライドが囁いている。
しかし、何より厄介なのが、あのデッキテーブルを使う層が偏っていることだ。
あそこは女生徒ばかりが予約しているため、男は目立ちやすいのだ。男がデッキテーブルで食べているということは、相席する人間に告白するつもりだということになっている。
そんなところにレイチェルと二人で座らせるのは、政治的判断として悪手でしかなかった。
「仕方ないか。当日は俺も相席する」
「出来るのですか?」
「出来るか出来ないかなら、あまり使いたくないが王族の意向でなんとでも出来る」
仮にも次期王の言葉だ。貴族制度について学ぶ場でもあるこの学園で、俺の言葉に逆らえる人間はいない。
ラレスももしかするとこの権力のゴリ押しで予約を押し通したのかもしれないが……、つまり、王族の動きを止められる人間は、この学園内でおなじ王族だけということだ。
ただし、この学園での命令は父上に持ち帰られることになるが、今は甘んじて受け入れよう。むしろラレスの方が心配だった。
「父上には嫌味を言われるかもしれないが、俺たちの婚約発表前にレイチェルとラレスが婚約者になると間違った噂が立つのはどうしても避けたいからな。ラレスもひと月前は入学したてで城での距離感のままいたんだろう。悪気は全くなかったんだろうから、多めに見てやってくれると助かる」
「それはもう、ええ、幼馴染ですから。ラレス殿下のことはだいたい分かっていますわ」
そう言って笑って、この場はお開きにする流れになった。
また明日と言ってベンチを消して、待たせていたティアとエリノーラのところへ戻ろうとすると、後ろから制服の袖口を掴まれた。
「どうした?」
「ジルクニール様は、私のことをどう思いますか?」
なんの質問だろうか。
ただ、真剣な顔であるわけでもない。まるで普通の会話を始めるように、未成熟の美しい顔に綺麗な笑顔を咲かせて、小首を傾げていた。
「可愛い、とか言えばいいか?」
「もぅ、わたくしに訊かないでください。でもそうですね、抽象的すぎました。わたくしが、ラレス殿下を人前で呼び捨てにしていることをどう思っているのかお聞かせください」
この話をするなら、いつまでも背中を向けているのはダメだと感じた。袖口を掴む手を取って、真っ白で剣も握ったことがない柔らかな手に、指を絡める。
13の初等生相手に何をしているんだとも思うが、女性に対しては真摯に向き合うのが男の礼儀だろう。マナーは嫌いでも、女性を愛でるためのものなら喜んでルールに従うだろう。
余った手でレイチェルの腰を引き寄せて、胸元にきて俺を見上げるレイチェルの額に口付けをした。
「何も思わないわけじゃない、が、いちいち目くじらを立てることでもないと思っている」
「では、今まで通り、ラレス殿下やネクト殿下といる時は呼び捨てにしてもいいのですか?」
「構わない。……ああでも、俺は存外嫉妬深かったらしいからな。幼馴染以上の好意を持っていると、お前のことを壊すかもしれない」
自分で言っていて、だいぶ頭の悪い言葉だと思う。
どう考えても脅迫のようにしか取れないがその言葉自体は本気で、本音で、せめて15の上級生になるまでは本番をしないと誓ってはいるが、《避妊/リブート》で延々と腰を振り続けている気がするのだ。
最近、女を覚えてからというものの、ーー魔法で精力すら強化されることで自制が弱くなっていることを理解していた。クラスメイトの異性も、婚約者持ちだろうと俺に対して好意を向けているようにしか思えてならないようになっている。そして、考えてしまうのだ。その女たちと寝台を共にして快楽を貪ることを。他人の女を抱くなど道義に反することだ。だが、母上を思い出さなければ天井へ向けて反り返り、勃ってしまうほど重症だ。
腰をより強く引き寄せて、小さな婚約者と密着するようにする。すると、レイチェルのほうから、結んだ手と反対の手で、俺の頬に添えてきて、小さく微笑んだ。
「その心配は必要ありません。ただの幼馴染ですから」
「レイチェル……」
「ジルクニール様……ん♡」
キスを待つ顔になったレイチェルと、最後にもう一度だけ唇を触れさせた。今度は長く、お互いを婚約者だと認識するための儀式のように……。
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