鈍感王子の背徳なる性事情

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第七話

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 俺たちの向かう場所は教室ではなかった。

 月初めの挨拶はメイン訓練場にて行われる。先月は新入生その他で忙しかったので新年度初の朝礼だ。
 中央に広場を置いたコロシアム形式の建築で、広場を囲う観客席が生徒たちの傾聴席として使われている。

 だが王族の俺は、入学の頃からその席とは無縁だった。

「エリノーラはこっちにくるのは初めてだったな?」
「はい。いつもはお友達と下の席で座っていました」

 対して、エリノーラはこちらの席とは無縁だったようだ。
 ロイヤル・ルーム。
 ここには、公爵家以上の人間か、それに認められた人間しか入ることを許されていない。
 観客席とは違い完全な室空間であり、外部からの攻撃を寄せ付けないだけの仕組みが備えられている。
 また、出入りには門番が立たされ、彼らを欺き侵入するためには魔力の質を変える必要がある徹底ぶりである。

「おはようございます王太子殿下。いま、中より開けさせます」
「ご苦労」

 立っていた門番の男が、《通信/コール》によって中にいる扉の開閉係に連絡を飛ばした。
 基本的に思念の送信は上位者からでければならない不文律があり、また、過去に事例があったことなのだが意味もなく悪意を持って何度も嫌がらせするために魔法を繋ごうとすることは厳罰となるので使い所を考えてしまう魔法の一つである。
 まぁ、俺の場合は上がほとんどおらず特に心配せず使ってはいるが、こうして他の人間が扉を挟んだだけの距離で使うのは稀である。

「お待たせしました」
「うむ」

 ゆっくりと重厚な黒塗りされた鉄の扉が内側から開かれると、涼しげな空気が漏れ出した。
 俺は門番に応えてからさっさと足を踏み入れる。

 ロイヤルルームには、俺のよく知る人間しかいないーーはずだったのだが。
 青髪の一族、レイモンドとレイチェルが俺を見るなり近寄ってくる。

「おはようございます殿下、今日もご健勝そうで何よりでございます」
「レイモンド、俺はもう猫をかぶるのは辞めた。むしろ15までよく耐えたと思うが、じき王になるんだ。今更父上を怖がってもいられないからな」
「殿下、マナーを守るのは相手を思いやる行為です。だからずっと猫は被ったままでいてください。特に周囲に目がある時くらいは」
「相変わらず堅苦しいなレイモンド。周囲に目なんて言ってもレイチェルとこの門番……失礼、このお嬢さんはどなたか?」

 レイモンドが近寄ってきたその後ろで、隠れて見えなかった紫髪のツインテールの少女がいた。
 するとレイチェルが前に出てきた。

「ごきげんよう殿下、こちらわたくしの幼馴染でショコラータ侯爵家が三女トトナですわ」

 レイチェルがスカートの裾を持ってお辞儀をし、隣に立つ少女の紹介を行った。少女の名前はトトナと言うらしい。彼女はペコリと頭を下げて、……それで終わった。

 たぶん、弟たちのもう一人の幼馴染だ。そういえば初等服の上から羽織っているのは、いつぞやに見た『処女にしか羽織れない魔法のローブ』である。実際に着ているのを見たことがそれまでなかったから印象強く記憶に残っている。

「……思い出した。たしかショコラータの【魔法人形】か」

 代々菓子事業を専門に国に貢献した異質な貴族の中で異質として扱われる魔法使いの少女の二つ名だ。なんでも魔法に目がなくていつも無表情で魔法の研鑽をしていることから【魔法人形】と呼ばれるようになったらしい。

「殿下、その呼び方は……」
「……良い」

 レイモンドの諌める声を遮ってトトナが前に出る。

「トトナ……です。ごめんなさい。……マナーとか習ってないからよく分からなくて」
「俺はジルクニールだ。奇遇だな。俺もマナーとかよく分からないんだ」

 分かっていても破りたくなる年頃だ。

「殿下……」

 呆気に取られた顔をするトトナをよそに、レイチェルを見る。呆れ声のレイモンドは今は無視だ。

「ここにはレイチェルが呼んだのか?」
「はい。ダメでしたでしょうか?」
「友達なんだろう? ましてやルールを破ってるわけでもない。好きにしろ。なんなら俺の方が好き勝手する」
「ありがとうございますわ」

 ふふっ、と笑顔を見せる我が婚約者は将来が楽しみになるほど美しい少女だった。
 だが、それを言うならトトナについてもそうである。
 見た目の幼さはレイチェルと変わらないが、対照的なのはそのジトっと見える目だ。髪色と同じ紫色の瞳は宝石みたいち輝いているよう。まつ毛も長く、目に対して小さな鼻と口が精巧に並ぶのは、人形と呼ばれてもおかしくない美貌を生み出している。
 肌も見ているだけで触れたくなるような柔らかさが理解させられる。全体的に線が細いし必要な肉が少し足りていない気もするが、それでも女らしさを消せないのはすでに女として十二分に足る魅力を持っているからだろう。

 それにレイチェルの時も思ったが、どうやら蕾の段階であろうと美しければ俺の食指は働くらしい。
 まさか少女趣味に目覚めるとは……いや、それもこれも全て魅力的な彼女たちが悪い。
 思わず股間に流れる血流が強くなって肥大化したものの、立ち上がることだけは阻止した。

「そういえばお前たちには紹介していなかったな。昨日から俺の専属メイドが一人増えることになった」

 俺がそう言って振り返ると、エリノーラがその場でスカートの裾を摘んで持ち上げた。

「レイモンド様はお初にお目にかかります。バレステッド伯爵家が長女、エリノーラにございます。昨日よりジルクニール様の専属メイドとなりましたが今後とも生徒としても学園に通うことになります。以後お見知り置きを」
「ご丁寧にどうも。お噂は予々。アクリエス公爵家が長男、レイモンドと申します。今後とも殿下のこと、奔放すぎるかもしれませんがどうかよろしくお願いします」
「お前はどの目線に立っている。というかなんだ、二人ともたまに城に遊びに来てたが会ったことはないのか?」
「私はよくネクト様たちの遊び相手をさせていただいてましたので」
「私の方も、殿下にお呼ばれする時くらいでしか城へは出入りしませんでしたから」
「わたくしとトトナはエリノーラお姉様と何度かお茶会でお会いしてますわ」

 ふーん、狭い貴族社会だがそういうこともあるのか。
 まぁ、第一、俺はこの場にいるティアとレイモンド以外とはついこの間顔合わせしたばかりなのだ。王族であるくせに人のこと言えた立場ではない。

 トトナがレイチェルの言葉に無言で頷くのを、まるでリスのようだと思って見ていると、レイチェルがふと閃いたように両手を合わせた。

「そうだ、ジルクニール様、私たちでお茶会をしませんか?」
「お茶会?」
「ええ、せっかく婚約も決まったことですし、わたくし、ジルクニール様のことをもっと知りたいのです」
「別に構わんが、私たちとは誰のことだ」
「? もちろんこの場にいるメンバーですが」
「あの……私も参加してよろしいのでしょうか?」

 俺の婚約者はどうも勢いのあるお嬢さんだ。
 未だ距離を測りかねているということもあるが、どうにも読みにくい。レイモンドの妹ということもあってルールには厳格なのだろうと先入観を持ってしまっているが、どちらかと言えば俺に近いようである。
 エリノーラもレイチェルの言うメンバーに入っていることを驚いて尋ねてしまっている。

「ええ、もちろんです。それに、わたくし、あなたに興味があるんです」

 エリノーラの質問に答えながら、レイチェルは真っ直ぐな視線を俺の隣へ向けた。
 視線の先にいたのは、無口なトトナよりも無に徹していたーー俺の専属メイドのティアである。

「わ、私ですか?」
「はい。実はこの間の晩餐会の時からずっと気になって夜しか眠れなかったんです」
「健康そうで何よりだな」

 戸惑うティアに詰め寄るようなレイチェル。
 俺はいつでもフォローできるように会話に挟まるが、レイチェルはそんな俺を見てにっこりと笑った。

「ですから、是非とも今日のお茶会に。席もご用意しますので来ていただけませんか?」
「……え、えっと……」

 ティアが突然のことで、俺に助けを求めて視線を向けてくる。なんなら今さっき、俺が庇ったことに気づかれたみたいなのでもう今更か。

「良いんじゃないのか。レイモンドも来るだろう?」
「なら決まりですわね! お兄さまもよろしいですか?」

 俺とレイチェルの言葉で、ティアもエリノーラ、トトナもレイモンドの方へ向く。だが、返ってきたのは想像の外にある言葉だった。

「申し訳ありませんが辞退させていただきます」
「……お、おお? どうしたんだレイモンド。お前、最近付き合いが悪いが彼女でも出来たのか?」

 ティアも意外そうにして見ている。幼馴染の変化には流石に驚くよな。レイチェルだって意外そうにしているし、もしかしたら彼女ができたと言うのもあながち間違いではないのかもしれない。

「ち、違います! 私はただ剣と魔法の稽古をしているだけで、決してやましいことは何もしていません!」
「必死になって否定しているところがますます怪しいな」
「そうですわね、お兄さまがこんなに取り乱しているところ初めて見ました」

 レイモンドは誤解を嫌ったのか必死で否定した。
 それをレイチェルと二人でレイモンド弄ってやると、揶揄われたことにすぐに気づいたのか、こほんと咳払いをして理由を述べ始めた。

「今月終わりのバトルトーナメントに参加するつもりです。ーー私はそこで優勝して、願いたいモノがあるのです」

 そう言ってレイモンドは、俺の目をじっと見てきた。昔からよく知る、傲慢にも王族である俺に察しろと主張する愉快な目だ。
 俺とほぼ反対を往く、だからこそだろう。俺はレイモンドが同じようにお忍びをする人間だと知った時から、すぐに友になれると感じていた。対等にはなれないが、俺にないものを埋めてくれると信じられるのだ。

 それはそうと、まったく察せないのだがどうしようか。

「バトルトーナメントといえば、エリノーラも出るんだったか」
「はい、その時はお手柔らかにお願いしますね?」
「まさか。【精密】の二つ名をもつ貴女に全力を出さないなんてありえない」

 エリノーラに対してレイモンドが緊張感を持って断言する。
 新情報だ。エリノーラの二つ名は【精密】らしい。俺も何度も耳にしたことがあるが、まさかそれがエリノーラのことだったとは知らなかった。

 なるほど、序列一桁、さらに二つ名持ちともなればバトルトーナメントで優勝を目指すのも不可能ではないだろう。
 七年生まで参加可能だが、四年生の時点でそれだけ名が知れているのなら十分な勝機はある。言っては悪いが上の世代は不作だからな。

 だが、優勝できるかもしれないというのは、あくまでも『レイモンドが居なければ』の話である。
 アクリエス公爵家長男、レイモンドは幼少の頃からあらゆる武具に精通している。そして、小規模ではあるが戦争にも参加した経験があり、その頃から【戦屋】の二つ名を持っている。俺も《避妊/リブート》を手に入れるまではレイモンドに魔法抜きでは勝てないとまで思わされていた。
 いまは強化されているからこそ負けるイメージがないが、ほんの数日前までは僅かだが負けると言う可能性を、近衛騎士団長直々に剣を学んだ俺に与える人間だったのだ。

 エリノーラにとってはまず間違いなく立ち塞がる高い壁だろう。

「お兄さまは欠席ですか……でしたらメンバーはジルクニール様と、エリノーラお姉様、トトナ、ティアさんに、わたくしということですね」
「ネクトたちは誘わないのか?」
「今日のお茶会は親睦会でもありますから。このメンバーで大丈夫です」
「分かった。場所は、寮最上階のサロンを使うと良い。俺専用だが使ったのも数えるくらいしかないからな。菓子なんかは寮長に話を通せば用意してくれる。……ティア、あとで準備頼んだぞ?」
「は、はい」

 ティアはとんとん拍子で決まるお茶会に、自身がメンバーとして数えられていることに戸惑っていた。
 だが、どうやらレイチェルは俺のことをダシにした節があるのでたぶんメインターゲットはティアである。
 おそらくまだ気が付いていないだろうティアには悪いが、俺やレイモンド以外と楽しく話す姿を見たくなったので付き合ってもらうことにしよう。

 さて、見目麗しい女ばかりのお茶会だ。
 一体どんな会話になるのか。レイモンドが居ないことだけが残念だが、今から放課後が楽しみで仕方がなかった。




「そう言えばネクトとラレスの姿が見えないな」
「二人とも一度顔を出してから今日は下で見るとおっしゃってましたわよ?」
「……我が弟ながら奔放な奴らだな」

 そうして朝礼が開かれた時、バトルトーナメントについての案内などが行われ、その後、恙無く終了した。
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