名も無き旋華の詩〜主人公は存在しないけど、それでもモブたちが物語を作り上げる件〜

鬱宗光

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春より参られし桜華様!

第38話 草津奇々騒乱編(6) 暗雲之章

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草津事件発生まで、あと三時間‥‥。

その頃、妖楼郭では……。

直人「なあ晴斗?ちょっと、頼みがあるんだけど聞いてくれるかな?」

晴斗「ん?やぶから棒にどうした?」

直人「いや、大したことじゃないんだけど……、ちょっと、リールとエルンを連れて温泉街に行って来てくれないか?」

晴斗「えっ、別に構わないけど直人は来ないのか?」

直人「俺も行きたいのは山々だけど、これから色々とやる事があるからさ。」

晴斗「…うん、分かった。元は両津家の旅行だからな。ゆっくり白備たちと話せば良いさ。」

直人「ありがとう晴斗、助かるよ。」

事情を察した晴斗は、直人の頼みを受け入れると、早速二人の美女に声をかけた。

晴斗「さて、リール、エルン?ちょっと、外に出ないか?」

リール「おぉ~、いいね♪実はちょうど、温泉街に行ってみたいと思っていたんだよね~♪」

エルン「うむ、私もそろそろ行きたいと思っていた所だ。」

晴斗「それはよかった。でも直人は、野暮用で来れないけど、それでもいいかい?」

リール「ふぇ?直人は来ないの?」
エルン「っ!?直人は来ないのか!?」

直人も一緒に来るかと思っていた二人であったが、いざ直人が来れないと聞いた途端、驚いた表情をしながら直人の方に視線を向けた。


直人「ごめん二人とも、これから親父に電話したり、兄弟にあったりしないといけないんだ。悪いけど、三人で楽しんで来てよ。」

エルン「そ、そうなのか。家の事情なら仕方がないか。」

リール「あ~、兄弟に会うのなら仕方ないね~♪それじゃあ、三人で行って来るよ~♪」

直人の申し訳なさそうな姿勢に、一番驚愕していたエルンは、少し残念そうに受け入れた。

一方のリールは、すんなり直人の事情を受け入れると、早々に晴斗とエルンの袖を掴むと、温泉街へ向けて足早に駆け出して行った。

畳み二十畳にもなる広い部屋で、一人ぼっちになった直人は、頃合いを見て弟の名前を呼んだ。

直人「さてと、もう出て来て良いよ"月影つきかげ"?」

直人の声に答えるかの様に、直人の影からしのびの姿をした黒髪少年が現れた。

彼の名は、両津月影りょうつつきかげ。両津家の四男にして末っ子の"鎌鼬かまいたち"である。

チャームポイントは、前髪で左目を隠し、見た目は気弱そうなジト目少年である。

詳細。
両津家兄弟家系。
稲荷(長女)。直人(長男)。白備(次男)。昴(三男)。
千夜(次女)。月影(四男)。である


月影「兄上‥。」 

直人「相変わらず月影は、人見知りが激しいな?」

月影「‥‥‥あの女の人は、どなたですか?」

直人「学園の友人だよ?だから、隠し持ってる短刀はしまえ。」

人見知りが激しいとは言え、左手を後ろに回している時点で、何となく短刀を握り締めているのは察しがついた。

月影「‥はい。」

直人が月影の警戒心を解くと、案の定、左手には短刀を持っており、懐に隠していた鞘にしまい込んだ。

月影「それで、父上はどうされたのですか?」

直人「あぁ、それなんだけどな。急用が出来たとか言って来れなくなったんだよ。」

月影「そ、そうですか……。」

直人「もしかして、何か親父に用があったか?」

月影「い、いえ、別に用があるって訳じゃないんです。ただ今夜は、兄上があやかしになられる晴れの舞台です。そんな大切な日に父上が来ないのが意外でして‥。」

直人「‥えっ?妖??」

月影「は、はい。父上から聞いていないのですか?」

直人「い、いや……何も聞いてないよ。」

月影「ふぇ?」

可愛い弟から聞かされた衝撃的な話に、直人の脳内は大混乱に陥った。

直人(おいおい、なんだよその話!?初耳なんですけど~!?お、俺が、あやかしになる……?な、何で急にそんな話が!?)

月影「も、もも、もしかして、知らなかったのですか!?」

先程までジト目に無表情であった月影も、全く知らなかった直人の様子を見るなり、おどおどし始める。

直人「な、なあ、月影?それって、白備たちも知っているのか?」

月影「え、えぇ、私たちは父上から聞いていましたから……。」

直人「‥はぁ、あのくそ親父~。肝心な俺に伝えるのを忘れて……、いや、わざと伝えなかったな。」

月影「あわわっ!?(ど、どど、どうしよう!?ここで兄上が妖ノ儀を拒否してしまったら……、ぼ、僕のせいだ!?)」

直人「……うぐぅ。(気が重い‥、まさか俺の知らない所でそんな計画をしていたなんて……。と言う事は…、今日で俺は人間を辞める事になるんだよな。あ~もう、心の準備もろくにしてないってのにこんな横暴を受け入れられるか!と、とにかく、親父に連絡しよう。)」

苛立ちと焦りを感じている直人は、ポケットからスマホを取り出した。

直人「ごめん月影。ちょっと席をはずしてくれないかな?」

月影「っ、は、はい、分かりました。」

優しい兄の表情から一変。

その場を空気を重くする様な怒りの念と共に、鬼の様な表情に変わる兄に恐怖を感じた月影は、兄からの言いつけ通り、急いで部屋を後にした。


そして数秒後。
直人は、父である、両津界人に電話を掛けた。

トゥルル‥トゥルル。

界人「あいもしも~し、直人か?もう妖楼郭に着いたか?」

父親からの第一声は、直人の怒りを誘発させる様な忌々いまいましいフレンドリー感のあるノリであった。

直人としては、直ぐに謝って事の次第を説明してくれれば許すつもりではあった。しかし、父親の第一声を聞いた瞬間、直人は電話越しで剣幕を立てた。

直人「‥おい、親父‥。俺に何か言うことが……あるんじゃないか?」

界人「えっ?うーん、あっ!土産の饅頭を‥。」

直人「ちげぇよクソ親父!!月影から聞いたぞ!今夜、俺の事をあやかしにするらしいじゃねぇか!」

界人「ん?それなら前に言ったぁ~、あっ?……あっ、いや‥あー‥‥。」

息子からの怒りの問いに、一瞬"言ったぞ"と言おうとした界人であったが、突如歯切れが悪くなった当たりを察するに、どうやら界人は既に言ったつもりであった様だ。

直人「どうするんだよ親父!?そもそも、妖ノ儀を何時やるか分からない上に心の準備もしてないんだぞ!?」

界人「す、すまん直人。だ、だけどな、これは避けられない事くらいは分かってるだろ?」

直人「‥本来親父も儀式を受けると聞いていたけどな。ってか待て親父?まさかだと思うけど、今回の妖ノ儀で全部俺に擦り付けるつもりじゃないよな?」

界人「あ、いや、まさか~、直人が立派なあやかしになるんなら、親である俺も受けなきゃダメだろ?」

直人「……出たよ。親父の胡散臭い小芝居が……。」

界人「胡散臭い小芝居って何だよ~?まあ、そう心配するな直人。そもそも、白備たちも直人が妖になってくれる事を常日頃から願っていただろ?」

直人「確かに言ってはいたけど、今だとは言ってないよな?」

界人「ばか、そう言う事は早い方がいいんだって。」

直人「なら、明日にもこっちに来て妖ノ儀を受けろよ。」

界人「いや、それはちょっと、出来ないな。」

直人「ほら見ろよ~!やっぱり、妖になる気ないじゃん!どうせ、俺が妖ノ儀を受けた後で考えようとしていたか、そもそもやる気ないかのどちらかだろ?」

界人「失礼な、俺は絶対に受けるよ。」

直人「はいはい、その虚言には乗らないよ。」

界人「そんな~、あ、わりぃ、ちょっと仕事が入った切るね。」

直人「あっ、おい!?」

プツッ‥プープー。

直人「もしもし、もしもーし!って、切りやがった。たっく、帰ったら覚えていろよ……。」

いつもの事ではあるが、今回だけは特に無責任にも程があった。直人としては、今すぐに父親をしばきたくて仕方がなかった。

そんな怒りの思いを心の中で抑え込んだ直人は、スマホをポケットの中に入れた。

すると、直人の背後から聞き覚えのある妖艶ようえんを感じさせる女性の声が響く。

稲荷「ふふっ♪お父さんにも困ったものね~♪」

直人「本当だよ稲荷姉‥。んっ?えっ?」

一瞬、姉である稲荷いなりの声をスルーした直人であったが、本来聞こえるはずもない稲荷の声に反応してか、何気なく後ろを振り向いた。

するとそこには、直人の姉にして弟キラーでもある稲荷が、妖艶な笑みを浮かべながら窓際に座り込んでいた。

直人目線の姉紹介。

サラリと腰まで伸びた金髪に続き、弟を誘っているかの様にピコピコと動かす狐耳、そしてもふもふ好きなら堪らない、立派な九本の尻尾が挑発的に左右に動かしていた。

これだけの誘惑ならまだ耐えられる直人ではあるが、実際目の前にいる稲荷の服装は、的確に直人を篭絡ろうらくさせるために新調した服装をしていた。

今稲荷が着ているのは、黒と紫が混ざった花魁おいらん風の和服を装い、そしてわざとらしくチラリと見せつける挑発的な紺色のニーソックスを履いていた。

しかもこのニーソックスは、手触りの良いナイロン製で出来ており、見るだけでもエロく感じさせるスベスベ感のあるニーソックスは、稲荷の美脚を引き立たせていた。

そして何より凶悪なのが、わざとらしく見せつけている胸である。大胆に胸の谷間を見せつけ、更に腹部をおびで締めたことにより、豊満な胸の形が露になっていた。


思わず見蕩みとれて棒立ちになる直人に、手応えを感じた稲荷は、嬉しそうに直人に近寄った。


稲荷「コンコン♪やっほ~♪直人の大好きなお姉ちゃんだぞ~♪」

直人「……えっ、うわっ!?んんっ!?」

エロいお姉ちゃんの登場に呆然としていた直人は、稲荷に抱き寄せられるまで時が止まっており、我に返った時には、既に稲荷の豊満な胸の中に顔を埋めていた。

幸福にも圧死しそうになる直人は、複雑な気持ちで"じたばた"と抵抗するのであった。

そんな直人の心境を知らない稲荷は、更に直人を抱き締めながら愛する弟に興奮していた。

稲荷「私の可愛い直人よ~♪お姉ちゃんは寂しかったぞ~♪」

直人「んんっ~!?んはっ!はぁはぁ、お、俺じゃなくて白備たちにしたらどうだよ!?」

稲荷「クスッ♪そんな事を言って~♪本当は好きなくせに~♪直人は白備たちとは大違いよ~♪白備は直人より冷たいし~、昴はテンション低くなるし~、月影は影から出て来ないし~、千夜は逃げちゃうし~、誰もお姉ちゃんを構ってくれないのよ~。」

直人「‥みんな慣れてるな。」

稲荷「でも、直人だけは……。」

淫靡いんびな行為に耐性のない直人に対して、稲荷は大胆にも少し着物のつまめくり下着を見せようとする。

直人「ちょっ、何してるんだよ!?」

稲荷「ほら、直人は良い反応するでしょ?」

直人「そ、そんな事されたら、誰だってこうなるって!?‥ま、まさか、白備たちにもしてるのか!?」

稲荷「コンコン♪そうよ~♪」

直人「うぐっ、それでも反応が薄いとは、白備たちは凄いな……。」

普段稲荷と一緒に居る白備たちは、当然慣れているとは言え、それでも高レベルな稲荷のスキンシップに対して、回避行動が取れる事に直人は驚いた。

稲荷「クスッ♪やっぱり、構ってくれない白備たちよりも、いい反応を見せてくれて構ってくれる直人が好きなのよ~♪」

直人「っ!?い、稲荷姉……、そ、その胸が当たってるよ。」

稲荷「クスッ♪今更何を言ってるのよ~♪私の体は直人の物なのよ?私のおっぱいを乱暴に揉みしだいたり、吸ったり、乳首を弄んだりしても良いのよ?」

直人「っ、お、弟に何をさせる気なんだよ!?」

稲荷「ふふっ、もちろん……、"直人"と駆け落ちかしら……。」

直人「ひっうっ!?」

童貞な上、淫靡な行為に耐性の無い直人に取って、耳元で稲荷の声を囁かれるのは、姉とは言え理性を壊それそうであった。

稲荷「あぁ~、可愛いわ直人♪このまま既成事実でも作って毎日愛し合いたいわ~♪」

直人「っ、ま、まま、まさか今ここで稲荷姉と‥ゴクリ。」

稲荷「クスッ♪ねぇ、直人?今何を想像したの?もしかして~、お姉ちゃんの体を滅茶苦茶にしたいと思った?それとも、私のエッチなお口に直人の立派なものを……。」

直人「し、してねぇよ!?てか、そんな卑猥な淫行を稲荷姉にはしないからな!?そ、それに、お、俺には、その…もう気になる人がいるし……。」

稲荷の暴走を止めるためとは言え、直人は顔を逸らしながら小声で嘘を言うと、先程までグイグイ来ていた稲荷が、突然静かになった。

稲荷「……。」

直人「…ん、い、稲荷姉?」

中々、話し出さない稲荷が気になった直人は、チラリと視線を戻すとそこには、うつむきながらヤバいオーラを出している稲荷の姿があった。

稲荷「ねぇ、"直くん"‥。その気になる人って誰?」

直人「っ!(や、やばい、今稲荷姉、俺の事を直くんって呼んだ…、まずい怒ってる。話を終わらせるため嘘を言うんじゃなかった!?)」

怒った稲荷は、非常に分かり易い。

腰まで伸びた金色の髪が、まるで生き物の様に動き始め、更にもふもふとした九本の尻尾を長く伸ばしては、今にも襲いかかって来そうな雰囲気を漂わせながら威嚇をする。

酷い時には、尻尾を槍のように扱い壁に穴を開けたりもするが非常に稀である。

そして極めつけは、名前を省略した後に"くん"を付ける事である。ちなみに"くん"付けは、"弟"専用である。

直人「い、稲荷姉!?ちがっ、気になるってのは、そ、そう!友達になりたい人が居て……。」

稲荷「では、その友達に興奮してる訳ね?」 

直人「あ、いや、そう言う訳じゃなくて‥。」

稲荷「‥私に嘘は言わない方がいいわよ?私には、直くんの思考が読めるんだから。」

直人「は、ははっ‥ご、ごめんなさい。」

稲荷「クス……、じゃあ、罰として直くんの思考を読ませてもらうわよ。」

直人「なっ!?そ、それはプライバシーのしんが……。ガク……。」

嘘をついた代償は大きく、稲荷にホールドされている直人は、為す術なく稲荷に思考を読まれてしまった。

ちなみに、直人の思考を読み取った稲荷は、更に直人の記憶まで読み始めてしまい、リールと出会うきっかけとなった三年前の出来事まで読まれてしまった。


当時中学生であった直人は、異世界の地へ赴いて"せっせ"と採取クエストに励んでいた。しかしそこへ、上級亜種族と一人の魔界剣士との決闘に巻き込まれてしまい、直人はそこで瀕死の重傷を負ってしまった。

当時の直人は涙ながら死を覚悟していた中、上級亜種族との決闘に決着を着けた魔界剣士によって助けられた。

しかも、その助けてくれた魔界剣士は、数ある魔界剣士の中でも国士無双として名を馳せている"リグリード・イザベラル"と言う褐色美女であった。

直人に取っては痛い思いをしてしまったが、このお陰でリールと出会い、リグリードを剣の師匠として弟子入りし、更には、色恋沙汰に全く興味が無かった直人に、生まれて初めて恋と言う感情を教え込まれたのであった。

稲荷「むっむっ、確かに直人好みの女性ね‥。しかも、私とは違うタイプのお姉さんね‥。」

直人「…はっ!?い、稲荷姉!?な、なに俺の記憶を見てるんだよ!?」

稲荷「ふふっ、直人の初恋は、魔界剣士のリグリードだったのね~。」

直人「っ、リグ姉を知ってるの!?」

稲荷「えぇ、昔ちょっとね。まさか直人が、あんな堅物に心を寄せるとは、お姉ちゃんは悲しいわ。」

直人「べ、別に稲荷姉が嫌いって言ってる訳じゃないだろ?」

稲荷「‥‥クスッ♪もう~♪直人は可愛いな~♪」

直人「うわっ!?だ、だから、そんなに抱きつかないでよ!?」 

機嫌が直って再び直人に抱きつく稲荷は、更に再び直人の耳元でささやいた。

稲荷「ねぇ、直人?もし、リグリードちゃんにせよ、リールちゃん、あるいはエルンちゃんを嫁にするなら、今夜の妖ノ儀は絶対に受けないとダメよ?」

直人「っ!なっ、ななっ!?友達まで詮索しないでよ!?」

稲荷「クスッ、ついね♪それに私としては、三人まとめて嫁にしてほしいかな~♪あ、もちろん私が第一婦人だけどね♪」

直人「は、はぁ!?そ、そんなハーレム染みた展開は望んでないよ!?それに、例え義理の姉弟でも結婚はできないよ!?」

稲荷「むぅ、なら襲うまでだ~!」

直人「うわっ!?」

小生意気にも反抗して来る直人に対して、稲荷は更に強く抱き締めると直人の耳を舐め始める。

直人「~っ!(ま、まずい、このままだと一線を越えてしまう!?)」

白備「そこまでですよ姉上!」

稲荷「あぁん♪ちょっと~、何するのよ白備~?」

もはや万事休すと言う状態の中で、何とか一線を越える前に、部屋に入って来た白備によって直人は助け出された。

白備「兄さん申し訳ありません!目を離した隙に逃げられてしまって……。」

直人「はぁはぁ、助かったよ白備。このまま稲荷姉を部屋に戻して縛り付けてやってくれ。」

白備「は、はい、分かりました!ほら姉上、行きますよ!」

稲荷「あぁん、直人~。」

抵抗もむなしく、白備の頑丈な拘束術により稲荷姉は無事連行された。

直人「……戦犯の昴には、後でお仕置きだな。」



その頃‥。

信潟県内閣府、首相官邸では……。

界人「‥総理、先程警界庁から報告がありまして、例の二人が群馬県の草津に向かったそうです。他にも大企業"我良わがよし"の会長、我良自成わがよしのりなり‥。他にも居るようですが、調査中です。」

景勝「まさか、このタイミングで行動に出るとはな。問題が起きる前にかたをつけなければならないな。」

栄角「うむ、そうだな。界人よ、急ぎ三人を捕らえる準備は整っておるのか?」

界人「はっ、手配は既に進めております。奴等の悪行は、警界庁の威信にかけて阻止いたします。では、私も草津へ向かいます。」

景勝「俺も行こう。桃馬たちが心配になって来た。」

界人「景勝は残って総理を守れ。もしこれが、総理から俺たちを剥がすための罠の可能性があるからな。」

景勝「だが、親として子を守るのは当然だ。」

界人「はぁ、相変わらず兄さんは真っ直ぐだな。だけど、桃馬は俺にとっても大切な甥っ子だ。全力で守るよ。」

そう景勝に言い残すと、界人は急ぎ首相官邸を飛び出し草津へと向かった。

両津界人
両津直人の父親にして、日本警察機構警界庁長官であり、異世界と現実世界の治安をつかさどる、特殊警察官のトップである。

容姿は、四十代にしては若く、髪は黒髪の短髪である。


界人が官邸の部屋を後にすると、桃馬の父である景勝は、一抹の不安を抱えていた。

景勝「‥総理、何だか胸騒ぎがしてなりません。」

栄角「‥あぁ、あまり考えたくはないが、もしかしたら、多くの死人が出るかもな。」

胸にしつこく蔓延はびこる禍々しい予兆‥。

大災害、大事件などの厄災をもたらす予感‥。

大小問わずの、何かしらの負の異物が現れる予告‥。

この現実世界と異世界がもたらす平和な時代に、大きな暗雲が迫ろうとしている。

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