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20)シリアスな雰囲気は何処へ?
しおりを挟む「ディア、大丈夫か」
気づけば零れた涙をスピカが拭ってくれている。それにはほっとしたが、なんだか思っていた展開と違う?
というか、スピカが思っていたより驚いていないような…‥?
「スピカ?」
「ん?」
「あの、子どもできないんですけど」
「うん、そうだな。で、それが何か問題になるのか」
「だって、跡取り・・・・・・なんか、その言い方、知っているみたいな感じに聞こえますけど」
「ん、お前が寝言で何度かいっていたからな」
―――――――――――――そんなオチぃいいいいいい!
え、というか、寝言?
何ソレ?
「初めて聞いた時、ディアは隠し事できないタイプだなって思ったな」
「ぐぬう」
ディアはさっきまで泣いていたことも忘れて項垂れた。
「うう、さっきまでの私の涙が」
「乾いてよかったな」
スピカを見るディアの眉間には深い皺ができていたが、スピカはそれを気にした様子もなく、彼女の頭を撫で続けている。
「で、それがどうした?」
「‥‥‥跡取りに困らない?」
「んなもの、養子をもらえばいいんじゃないか?」
いとこもいるしな。
「あ、でも世間に公開はしないでおこうな。お前の代わりに側妃をあてがわれるのもまっぴらだから」
―――つまり、スピカには、私以外を娶るつもり気はないってこと?
「当たり前だろ」
俺を誰だと思ってんの、スピカ様だぜ。
そう言いながら抱きしめてくるスピカにディアの涙腺は再び崩壊した。こんどは安堵の涙だとわかっているスピカはまたかと言いながら、再びあやしてくれた。
「うう、もう一生分泣いた気がする……」
「そうだ、いい機会だからさ」
「はい?」
「オレに隠してることをぜーんぶ、吐いてもらおうか」
ひゅんと息を飲んだディアはそろりと後ずさりしようとしたが、それより早くスピカが捕まえた。盛大に悲鳴をあげたディアだが、それに動じるスピカではない。
「ディアは疲れてると寝言が出る癖あるじゃないか。それで気になるワードがいくつかあって、いつか問い詰めようと思ってたんだ。丁度いいから全部吐いてくれると助かるんだけど」
「なんで教えてくれなかったんですか!」
「普段口にしない言葉も聞けるから、もったいないなぁって思ってな」
普段は言わないことも言ってくれるし、結構俺のことも好きだって呟いてくれてるし。
嫌なことなんて言われてないから困ってないし、別にいいかなって。
自覚のないディアとしては赤面する案件だ。みるみる顏が真っ赤になっていくのを抑えきれないディアはこのままでは危ういと判断し、即座に立ち上がった。いきなりの行動に驚いたスピカがのけぞっている間にシュパッと消えていくディア。しばらく呆然としていたスピカはようやくディアが逃げたことを理解して顔を緩めた。
「逃げられたか。しょうがない、この続きは夜にするか」
じっくり肌を重ねながら、な。
むしろ夜の方が心都合だと思っているスピカとしては、追いかけなくとも問題ない。
「さて、夜を楽しみに仕事を頑張るかね」
しかし、ディアの方が一枚上手だった。意気揚々と寝室に戻ったスピカは部屋を見るなり舌打ちをするはめになった。
「やられたか。まさか、アメジスが初期化されたことを利用するとはな」
部屋に入ってすぐに気づいたのは、絨毯の上でアメジスが倒れている上にしまっていたはずの窓が拓いていたからだ。スピカの呼びかけで出てきたパルは初期化されたアメジスにかわり、色々と伝達の仕事をしていたため傍についていなかったことも分かった。
「申し訳ございません」
「パルのせいじゃない。だが、探しに行く必要はある」
「まさかどこに行かれたのかおわかりに?」
「当然だ」
あいつが無駄な行動をするはずがない。
今日一日の情報で一番ディアが行きそうなところといえば、あそこしかない。
「――あそこに忍び込むなら、目立たない黒にしたほうがいいな」
スピカはクローゼットから普段着を取り出し、着替えた。そして、困惑していたパルに対して指示を出し、そのまま窓のほうへと向かっていく。
「パルはアメジスをラボへ運んでから来てくれ。鍵を握っているのはお前しかいないからな」
「どこへ向かえばいいのでしょうか?」
「図書館だ」
――あそこにすべての鍵がある。そう踏んだからこそ、ディアは向かったのだろう。調べるならば、ひとが多い昼間より夜の方がよっぽどいいに決まっているしな。
「――――さて、この判断が邪となるか吉兆となるか」
舌なめずりをした後、スピカもまた窓から飛び降り、暗闇の中へと消えていった。それを見送ったパルは静かに倒れているアメジスを見下ろしてから、深いため息をついた。
「まぁ、立ち直ったなら良かったですけど、ね」
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