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鬼人族のメンバーの恋
【巳編】捻れた好き*4*
しおりを挟む「やっぱり、わけわかんないよ」
「そう?これ以上なく解りやすいと思うけれど」
「何を根拠に!?」
「・・・あれ、なんか声が・・・・」
「・・・い・・・・ぉお・・・・・・・!」
校舎の庭で、朱莉と2人で、昨晩に会ったことを話しながら弁当を食べていたその時、上から声が聞こえた。見上げたら、何故か、食べ物がぼとぼとと落ちてきたではないか。
「えっ・・・・」
「な、なん、何なの?」
ベンチに座っていた朱莉と一緒に驚いていると、最後に落ちてきた空の弁当箱が音を立てて地面に転がった。
「・・・弁当・・・箱?」
朱莉が手に取って確認すると、さらに上から、ひと際大きな声が聞こえた。
声のする方向を見上げると、3年生の教室から手をひらひらさせている男がいた。顔が見えなかったので、見える所まで近寄ってみると、びっくり。
知る人ぞ知る、3年生の虎矢隆先輩の姿があった。
「・・・虎矢先輩じゃん」
「知っているの、朱莉ちゃん?」
「あ、朱莉ちゃん・・ってことは、そっちが、噂の奈津ちゃんか。あっ、弁当箱、落としてごめんね。ちょーっと八尋が不機嫌になって、俺の弁当箱を放り投げたんだよ。酷いよねー。あ、奈津ちゃん、その弁当箱を預かっておいてくれる?」
「あ、はい・・・」
「奈津・・・・あんたね、安請け合いしないで」
反射神経で思わず頷いた奈津に対して、朱莉が呆れた。2人のやり取りが聞こえたのだろう、虎矢はいきなり笑い出した。
「あっはは。さすが、奈津ちゃんは面白いね。なるほど、なるほど、まさかこんな偶然があろうとは。アイツに教えてやりたいっ!!」
「・・・あれ、なんで私の名前を・・・・・・?」
「ふっふふふ、知りたい?知りたいなら、今日の放課後にそのお弁当箱を持って、アジトにおいで。場所は、そっちにいる朱莉ちゃんが知っているから。じゃあ、また後でねー!」
「・・・・は?」
「あーあ・・・・あの虎矢さんに目を付けられるなんて」
(がっかりしないでよ。泣きたいのはこっちだからね?)
「というか・・・虎矢先輩と知り合いだったの?」
「先輩には、彼女がいるの。登良野莉里って子なんだけれど、実は私の従妹にあたるのよね。・・・でも、莉里の事情を考えて、大っぴらに言っていないの。だから、奈津もあまり口外しないでくれると嬉しいし、助かる」
「あ、なるほど・・・誰にも言わないよ。でも・・・・この弁当箱はどうしよう」
「しょうがないから、アジトに行ってきたら?一般的には喫茶店で通っているし、オーナーもいるから、問題ないはず・・・多分。店の名前は、『ブロッサム』」
「そのアジトって・・・・何のアジト?」
「・・・鬼人族は当然知っているわよね?」
「あ、知ってる。錦蛇君の入ってる暴走族のチームだよね?たしか暴走族の連合の代表でもあるって聞いたことある」
「虎矢さんはその族の副総長。ちなみに、さっき彼が話していた八尋っていう人が、総長よ」
「朱莉ちゃん、一緒に・・・・」
「ごめん、会議があるからムリ」
「ギャフン」
なんといいますか、これは運命と割り切ればいいんでしょうか?
悶々と悩んでいる内に、あっという間に放課後になっていまいました。
奈津は胃痛を感じながらも、空の弁当箱を入れた鞄を持って、ブロッサムに向かった。
朱莉に書いてもらった地図があるお蔭か、迷わずに店の前までつくことが出来たので、ホッとする。
「は、入っていいのかな・・・あ、あの、失礼しますー?」
ノックをしてそっと入ってみると、カウンター越しにマスターが挨拶してくれた。
「おや、女の子のお客さんとは・・・誰かに用事かな?」
「あの、虎矢先輩に言われてきたんですけれど・・・・・?」
「おいおい。あいつ、まさか・・・・浮気とか・・・」
「あっ、違います!!わ、私は、巳園奈津と言いまして、その、先輩落とされた弁当箱を返そうと思って来ただけですから!」
「あ、そういうことね。奈津ちゃんな。了解、ちょっと呼んでくるから、待ってて」
ほっとしたマスターが奥の方へ向かっている間、奈津は辺りを見回していた。いかにもレトロといった感じだ。年季の入ったソファーにテーブル。どことなく、レトロモダンな感じが懐かしく感じる。
ぼんやりとしていた時、いきなり音が響いた。びっくりした奈津が奥の方を見ると、何故か、息を切らした翔が立っていた。
(あれ・・・どうして、義兄がここに。あ、そうだった、彼も族の仲間なんだっけ。)
どう見ても怒っているようにしか見えない翔に対して、びっくりした奈津は少し後退りした。しかし、翔の方がずかずかと、奈津に詰め寄ってきた。
「あれ・・・錦蛇君。せ、先輩は?」
「・・・なんで、お前がここにいる!?第一、虎矢さんに用事ってどういうことだ?!」
「え、その、弁当箱を」
「はぁっ?なんでお前が弁当箱を持ってんの?もしかして、厚かましく、虎矢さんに言い寄ろうとしたとか?」
「ちが、その、あの・・・・」
「大体、ここまで来るだなんて、図々しいほどにもある。弁当箱なんて、学校で返せばいいだろう!」
気迫ある顔に加え、イライラした口調で言われて・・・何故ここまで言われなければならないのか解らない奈津は、涙を堪えきれず、下を向いた。その時、虎矢が翔を止めるために、奈津を守るように間に立った。
「はいはい、そこまでー!ヘビ、ちゃんと奈津ちゃんを見なよ。・・・泣いているじゃないか、強く言いすぎだよ」
「・・・っ・・・・・・あ・・・・」
「大丈夫?怖かったねー、よしよし」
「せん、ぱい・・・うっ・・・うう・・・」
虎矢先輩が出てくれたことで、ようやく安堵した奈津は気づけば、ぽろぽろと涙を零していた。
よしよしと頭を撫でてハンカチまで差し出してくれた虎矢先輩に甘える形になったが、差し出されたハンカチで涙を拭った。
一方で、やっと落ち着いたらしい翔は決まり悪げな顔で黙ったまま立っていた。
「ヘビ、俺の不注意で三階から弁当箱を落としてしまったのを、奈津ちゃんが拾ってくれただけだから。ついでに、お礼をしようと思って、ここでおごるつもりだったから、俺から強制的にアジトに誘ったの。奈津ちゃんがおしかけたわけじゃない、わざわざ来てくれたんだから、誤解しないように・・・ヘビ、返事は?」
「・・・・はい、すみません」
「ごめんね、奈津ちゃん。ちょっと俺の悪ふさげが過ぎた。マスター、この子になんか飲み物を。何がいい?もちろん、俺のおごりだから安心して?それから、おしぼりも・・・・」
鼻水が止まって、ようやく腫れぼったい目をなんとか開けることができた。しかし、さっきまでの翔の様子があまりにも怖かった奈津は、もうこの場には一秒たりともいたくなかった。
相手が虎矢先輩な上に、副総長ということで失礼な形になってしまうだろうが、もう嫌だと思った奈津は、声を振り絞って外へ出た。
「いいえ、もう、結構です、あの、私、もう帰ります。あ、これがお弁当箱です。借りたハンカチは洗って学校で返しますので!!では、失礼しますっ」
「あっ、ま、待っ・・・・!!」
「嫌です、もう来ませんので、これ以上は勘弁してくださいっ!失礼しました!」
ダッシュで必死に周りも見ずに、家へと一目散に帰った。幸いにして、誰もいなかった家では思いっきり泣くことが出来た。部屋に閉じこもって、ベッドでうつ伏せになる。時折、手鏡を見ながら、目の周りを擦った。
「うう・・・明日までに治るかな」
泣き疲れたせいか、頭が痛い。
目の周りもヒリヒリしてきた。
ようやく、動悸も落ち着いたので、冷えピタを探そうと、階段を下りて冷蔵庫の中を探す。
冷えピタを額に貼ると、丁度よい冷たさが心地良い。
二階に戻ろうと、階段の手すりに手をかけたその時、玄関のドアが開く音がした。時間的に考えて、翔だろうと気づいた奈津は慌てて自分の部屋へ戻って、鍵をかけた。
(うう、あんな恐い思いをするなんてもう嫌・・・いっそ一人暮らししようかな。そうだ、それがいいよね・・・。)
「そうだよ・・・なんで思いつかなかったんだろう。最初から一人暮らししていればよかったんだ」
(思い付いてみれば、名案だと思える。これなら、気を使う必要はないし、向こうだって安心できるだろう。・・・・再婚したお父さんやお母さんには申し訳ないけれど、一番いい方法だよね。)
善は急げとばかりに、パソコンを開いてネットで調べるために机へ向かった。と、その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「錦蛇君・・・がここに来る訳ないし・・・お母さんが早く帰ってきたのかな?」
首を傾げつつ、パソコンを閉じてからドアを開けると、翔が袋を持って立っていた。硬直した奈津は、慌ててドアを閉めようとしたが、閉まる直前に翔の足が入り込んだ。
「・・・・・・入るぞ」
「・・・・ハイ」
(アジトでの説教の続きかな・・・)
ため息をつきながら椅子に座ると、翔がその椅子と向かい合っているベッドの端に腰かけた。袋に手を突っ込み、何かを取り出そうとしていた。しばらく待っていると、手を広げろと言われる。
疑問に思いつつも、言われるまま手を広げると、プッチプリンが目の前に。しかも、プリンはこれだけじゃなかったらしく、机の上にもいくつか種類の違うプリンが並んでいた。
「・・・・・プリン?」
「ああ。・・・いろいろ買ってきたから好きに食べろ・・・好物だろう?」
奈津は目を見開いた。確かに大好物ではあるが、錦蛇君がそれを知っていたとは思わなかった。
(・・・・なんで知っているの・・・・あれ、誰かに聞いたのかな・・・?)
呆然としている奈津を前に、翔は少し迷いながらも、手を伸ばしてきた。
突然のことに目を瞑ったが、アジトでの時とは違って怒ってはいない様子だったので、逃げるのは我慢した。恐いと思った瞬間、伸ばされた手が奈津の頬を優しく撫でている感触がして驚いた。恐る恐る、見上げて目を開けると、眉間に皺が寄っている翔の顔が見えた。
(え?え・・・なんで、頬や目の周りを撫でられ・・・・・)
思考が止まると何も考えられなくなる、というのは本当らしい。
呆然としている間にも、その手指は動き続けている。困惑しながらも、好きなようにさせていると、今度は顔が近くなった。
(ひぃいいい・・・!綺麗な顔が目の前にぃいいい・・・っていうか、睫毛ながっ!)
などと、あほな考えに気を取られていたせいか、翔の次の行動に対応できなかった。いきなり、頭を引き寄せられて、気づけば、涙の跡を舐められていた。
(・・・・へ?)
舌の感触がしたと思ったら、今度は、反対側のこめかみにキスされた。
余りのことに、我に返った時には口をパクパクして、別の意味で顔を真っ赤にして、翔の方を見た。
「な、なななななななんっ・・・!!!」
「ぷっ・・・・やっぱり、奈津は金魚みたいだな。・・・・悪かった、おやすみ」
翔が出て行き、静かになった部屋の中で、奈津は先ほどまでされていたことを必死に整理しようとした。
「え????その、アジトで・・・・怒鳴られて、泣いて帰ってきて・・・今度は、プリン貰って・・・・え、頬ってか、その、舐められて、こめかみにキスされて・・・えっと、えっと、金魚扱いされて・・・・あ、あれ、な、名前呼んでなかった・・・?」
イロイロなことがいっぺんに起こったせいで、パニックになった奈津は今度こそ、考えることを放棄!とばかりに、プリンをやけ食いすることにした。
「っ・・・もういい!!明日、朱莉に相談するし!!ってか、何、このプリン美味しいじゃないの・・・・・コンビニの新作・・・・?なになに・・・商品名が・・・『チュップリン』・・・え、ってことは・・・・もしや、さっきのキスは嫌がらせのためっ?!」
(そうだよ、嫌がらせと思えば、説明がつくじゃないか!!!なーんだっ、真剣に考えて損した!そうだよ、よく考えてみればあの錦蛇君だ。引く手あまたの。私にキスするなど何か理由でもない限り、ありえないし・・・・・・良かった・・・・あの人の頭は正常だった・・・!!)
すっきりしたとばかりに、奈津は一瞬にして喜色満面になった。
うきうきと残りのプリンも食べ終え、これで安心して眠れるとばかりに布団にもぐった。
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