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鬼人族のメンバーの恋
【巳編】捻れた好き*3*
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家に帰って真っすぐに、ベッドへと倒れ込んだ。制服がよれよれになる?
知るか、そんなの地味っ子である自分には関係ないっ。
ボサボサの犬の尻尾のような髪だし。
コンタクトが怖くて眼鏡をかけてるし。
こどもみたいに幼い顔。よく言えば童顔。悪く言えば幼稚といったところ。
もちろん、美人には程遠い凡人中の凡人。
身長も平均より少し下。
体重もそこそこ・・・。
胸も・・・・うう・・・!
悲しくなってきた!
そんな私を・・・・・げふぅ・・・・義兄である錦蛇 翔が・・・こともあろうか、お姫様抱っこで保健室まで運んでくれたと。
朱莉から聞いた事実を整理するのに時間がかかったが、まとめるとそういうことになるらしい。
しかも、朱莉が荷物を持っていこうとしたら、更衣室前に義兄が立っていて、有無を言わさず、荷物を奪っていった・・・と、いう経緯からして、もう混乱しても無理ないことだと解って頂けるだろうか。
そんなわけで、私は絶賛混乱錯乱中なのでございます。
「って・・・一体なんなんだ、わけがわからん!!!」
ベッドの上でバタバタと足を動かして悶絶した。足を動かし過ぎて呼吸が苦しい。ぜぇぜぇと息を吐きながら、枕をぎゅっと抱きしめた。
「・・・・・ありえない。」
「なーにがありえないって?というか・・・・何バカみたいに足を動かしてんの、お前は。」
聞き捨てならない声に岩の如く固まった。恐る恐るドアの方を見ると、噂の義兄登場。
「・・・・・・ひぃいいいっ・・・・!?」
思わずベッドの上で正座になった自分は悪くない。
しかも、足をバタバタさせたのを見られるとか、ありえん。
顔が熱を持ったように真っ赤になったみたいですごく暑い。いや、恥ずかしいだけなんだけれど!
(うう・・・よりによって、こんな姿を見られるとかないよ!!!!)
翔があきれ顔でドアにもたれていた。これから出かけるのだろう、ジーパンに、紺色のTシャツ。手をジーパンのポケットに突っ込んでいるのが憎たらしいぐらい様になっていた。
「・・・あの、なんでここに?」
この義兄が、こっちにくるなんてまさかの予想外。
恐る恐る聞いてみると、深―――いため息を吐かれた。
「・・・・・なんでもねぇ。俺は出かけてくるから」
「あ、ハイ」
(あ、そうだった・・・今日はお父さんは出張だし、お母さんも夜勤でいないんだっけ。)
「あっ、あの、夜ご飯は・・・?」
「・・・・・外で食べるから、いらねぇ」
(・・・・・・今夜は一人かあ・・・・・・。)
「あ、ハイ・・・・あの、いってらっしゃい」
内心、久しぶりに1人で夕飯を食べることにがっかりする。
それでも、義兄に対して、何を言っていいのか解らなかったのでとりあえず、見送ろうと口を開いた。
義兄はなんだか眉間に皺を寄せていて。
その口から出てきたのも、やっぱりなんというか・・・。
いや、別に優しい言葉じゃなくてもいいんだけれどさ、いきなり悪口が出てくるのはどうかと思う。
「・・・・お前さ、バカじゃねぇの?」
「はっ?」
「底抜けのバカ・・・ちょっと待ってろ」
はぁとため息をついた後、義兄はスマホを取り出し、どこかに電話をかけだした。
「もしもし・・・あ、すみません、虎矢さん、錦蛇です。あの、申し訳ないですが、家の都合で少し遅くなります。え・・・いえ、大丈夫です。・・・・・金魚の世話をしてから行きます」
金魚?魚なんて飼っていないはずだけれどと思いながら、首を傾げていると、スマホをポケットに入れ直した義兄が顎をしゃくってきた。
「おい、金魚、ぼけっとしてないで夕飯の準備をしろ。俺の分も忘れるなよ」
「・・・待ってください、金魚って私のことなんですか!」
「足をバタバタさせて、1人でパクパク言ってるやつなんて金魚で十分だろ」
階段から聞こえてくる返答にあっけにとられながらも、慌てて追いかける。
よれよれの制服のまま、キッチンで野菜を切る。隣では何故か、義兄が味噌汁を作っていた。しーんとした静かな空気に耐え切れず、勇気を振り絞って口を開いた。
それにまさかの返答があるとは思わなかったけれど、やっぱりその口は・・・うん・・・あれだった。
「・・・その、料理を作れた、んですね」
「・・・・・それはこっちのセリフ。金魚にそんな芸当ができるとは」
「酷くないですか。一応家事はできます」
「・・・・・・あっそ」
「あっ、話を止めないでくださいっ・・・・会話を続けて!この静寂が嫌なんですよ!!」
「お前さ・・・金魚の癖に要求が多い」
「いやいや、私のことを嫌っているのは解りますけど、せめて対外的に友好的な姿勢をですね・・・」
自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
混乱しながらも、サラダを盛り付け、豚の生姜焼きを拵えた自分の腕に感心するべきなのか、それとも、整理しきれていない自分の頭を殴るべきなのか。
混乱している自分を余所に、義兄は味噌汁を御椀に入れて、ご飯までよそってくれた。しかも、2人分。
(あれ、自分は豚の生姜焼きとサラダを作っただけじゃん!!いいところなしじゃないか!)
「・・・さっさとしろよ」
「あ、ハイ」
とりあえず、サラダを持って、すでに座っている義兄のいるテーブルの方へと運んだ。
いつもの席に座って、・・・表面的にはもくもくとひたすら食べ続けていたが、内心は涙目状態だ。
(ひぃいいいい・・・・これなら、1人の方がまだマシだったかも・・・・あれ?そういえば、この人は・・・なんでいきなり、夕飯を食べるって言い出したんだろう。わざわざ遅くなると連絡をしてまで。)
思い当たると疑問でいっぱいになるが、考え込んでいても答えはさっぱり出てこない。しばらくすると、義兄のごちそうさまという声が聞こえて、我に返った。
「あっ・・・後片付けはするので、そのままでも・・・」
「別にいい。金魚にやらせるまでもなく、自分で洗える」
「・・・ハイ」
もう金魚扱いは変わらなさそうだと遠い目になる。立ちかけたが、再び座り直して、味噌汁に手を付けた。ほくほくのシャガイモが美味しい。
味噌汁を飲み干して、手を合わせると、シンクの方にいた義兄と目が合ったような気がした。視線がすぐにそれたので、気のせいかと思いなおした。
(気のせいか・・・・・。)
「おい、金魚。俺はもう行くから」
「ハイ、ありがとーございました」
シンクに行くと、入れ替わりに、義兄が出ていこうとしていた。
理由はどうであれ、一緒に夕飯を食べてくれたのは事実なので、感謝を伝えたが、なぜか、義兄はじっと立ち止まったまま、目を泳がせていた。なかなか出て行こうとしない義兄に対して、もう行くのではないかと促すと、義兄が頭を掻きながら言った。
「・・・どうしたんですか、早くいかないと困るのでは?」
「あのな・・・なんか、誤解してるみたいだから言っとくけど・・・別に・・・お前のことが嫌いな訳じゃない」
「へっ・・・?」
「ただ、妹として認めたくないっつーだけ。・・・・行ってくる。戸締りを忘れんなよ」
ぶっきらぼうに言った後、すぐに消えていった義兄の言葉に、頭が混乱したのは言うまでもなく。
「え・・・・何よ、それ、結局嫌われてんじゃないの?え、マジで意味が解らないんですがっ!!!!」
朱莉、私の苦悩はまだまだ続きそうだよ!!!!
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