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リクエスト小説
莉里と虎矢の出会い(4)莉里目線
しおりを挟む「ということで、大変だった」
昨夜にあった隆との攻防について、かいつまんで話すと、香帆は目を丸くしていた。
先生の都合で、授業が自習になったので、2人でノートを広げていた最中の会話だった。
「なんていうか・・・虎矢さんって、もしかしなくとも、莉里ちゃんに対しては結構甘えていらっしゃる?」
「多分・・・・?」
「そこを否定しないのが、莉里ちゃんですよね。でも、いいじゃないですか。忘れられていても、また再会して、しかも、付き合えたんですよ。ロマンチックじゃないですか?」
そういいながら、香帆は嬉しそうにほおを紅潮させていた。
(香帆はドライな割にはこういう奇跡的な話が好きだからなぁ。)
「そんなロマンチック 話 ない」
「んもう。大体、莉里ちゃんは、虎矢さん相手ならいくらでも喋るじゃないですか。私に対して、喋ってくれるとはいえ、未だに片言ですよ?相当、昔助けられたことが嬉しかったんでしょう?」
「・・・・・・・・(そ、そうかな)」
(否定できない!)
「・・・多分」
「照れながらいいますか。まぁ、そうでなかったら、すぐにプロポーズも断りますよね、莉里ちゃんは。そういえば、今、お兄さん達からは何か・・・?」
香帆がいうお兄さん達というのは、半分血が繋がっている義理の兄4人のこと。
莉里を含めて、全員腹違いの兄弟。小さい頃はともかく、兄達もいい年になった今では、腹違いを苦にしておらず、サバサバした関係である。
特に、莉里は、高校生になってから顔を合わせたことと、唯一の女の子ということもあって、兄達から、大事にされてきた方だ。
母親と離婚した父親に頼んで、母親と離れて一人暮らしさせてもらった。それ以来、隆から同棲を持ちかけられるまで、ずっと一人暮らしをしていた。
場所については、お兄ちゃん達が心配だからとセキュリティがしっかりしたところを選んでくれた。兄達は、家族の前でも、あまり声を出さない私に対しては、異様にお節介な面があった。
(色々とお世話になっていることは確かなんだけれど、勝手に決めてしまう時もあるんだよね・・・)
色々とありがたいお兄ちゃん達ではあるが、さすがに、勝手にお見合いの話を持ってきたことに対しては、迷惑でしかなかった。
あの時も、矢継ぎ早に、勝手なことを言いだした兄達に、辟易していたものの、その様子に母親と似たものを感じて、何も言えなくなってしまった。
(あの時も、自分の弱さが嫌で。もし、隆が来てくれなかったら、きっと自分に対する怒りで泣いていたかも・・・。隆のお蔭で出てきそうになった涙も引っ込んでくれた。)
『莉里が行き遅れるって?俺がいる限り、ありえない。だって、俺は、莉里と結婚したいって思っている。最終的に、莉里が俺を選んでくれたなら、これほど嬉しいことはないよねーって思ってるからこそ、告白のタイミングを窺っていたのに・・・ほら、莉里、行こうか』
(不覚にも・・・あの時、惚れ直したなんて、言わない。絶対言ってやるものか。)
「・・・何も。隆のお蔭・・・婚約・・とんとん決まった」
そう、あの後、お兄ちゃん達は文句を言おうと隆の家に連絡したらしいが、逆に返り討ちにされたらしい。それどころか、あちらは父に直談して、婚約をとりつけたとか。父やお兄ちゃん達が悲壮な顔で隆と一緒に現れた時はびっくりした。
後から知ったのだが、隆の父親は、父親の弁護士を務めたこともあるそうで。それは、知られたくない弱みを処理してもらった負い目もあるのかもしれないな・・・と思ったが、父のなけなしのプライドのために口には出さなかった。
(それにしても・・・かっこよかったなぁ、あの時の隆は・・・。)
思いだして顔を真っ赤にさせていたら、香帆がほっぺたをつついてきた。
「・・・やっぱりすごいんですね、あのお兄さん達を黙らせるだなんて。莉里ちゃん、私のことをバカにできる立場じゃないですよ?私も八尋先輩がアレで大概ですが、莉里ちゃんも結構、虎矢さんのこと惚気ていますよ?」
「・・・・・・・そう、見える?」
「はいっ」
「じ、自重する」
つつかれたほっぺたをさすっていると、また香帆から声がかかった。
「でも、いいですよね・・・同棲も、結婚を前提にしたものでしょう?よくお父さん達が許しましたね?」
「複雑・・・みたい」
「ああ、まあ・・・家族からすれば、そうですね。でも、潔さが伝わってよいじゃないですか!」
「香帆、同棲?」
「無理ですよ、あの八尋先輩ですもん。2人で暮らすより、いっそ彼の実家か、私の実家で暮らす方がよほど安全な気がするぐらいです。いっそ、挙式なんてせず、入籍しようかとかいろいろ考えてしまいますし」
「・・・族長・・・結婚、もう・・・確定?」
「そ、うではないですけど・・・・結婚となると、先輩以外の相手が思い浮かばなくて」
「思考、普通じゃない」
まぁ、一途な香帆のことだ、結婚までいくだろうなというのは解っていたけれど・・・。
(・・・そうか、お兄ちゃん達ももしかしたら、こんな複雑な気持ちだったのかな?嬉しいけれど、なんだか腑に落ちないみたいな・・・この葛藤は・・・。)
今更ながらに、香帆を心配する気持ちと重ね合わせてみると、あんなに理不尽だと思っていた兄達に少し同情さえ感じてしまう。まぁ、お見合いを持ちかけられたことは未だに根に持っているけれど。
でも、今度会ったら、ほんの少し優しくしてやろうと心に決めた。
ため息をついていると、香帆が頬をノートに貼り付ける様に机に伏したまま、呟いていた。
どうやら、あの族長との将来を考えて悩んでいるらしい。
「うう・・・そ、そうかもしれないですけど、なんていうか、これからも、女絡みでいろいろトラブルがありそうな気がして」
「そこ・・・族長・・・なんとかする・・・多分」
非常に不本意だが、あの族長ならなんとかするだろう。
あっちだって、香帆のドレス姿は見たいだろうし。
・・・だめだ、どんな手を使ってでも必死に結婚式をあげようと頑張るイメージしか出てこない。
事実、一度本気になった時に、弁護士を立てて、元彼女及び、遊び相手を処理したというのだから、やるときはやるだろう。
(・・・そもそも、アレ、評判がイイ病院の息子。個人病院とはいえ、それなりの家だから披露宴とかは必ずするんじゃないかな。それに、下手な女が付け入るようなことをアレがするとは思えない。)
というか、最後は結局、族長の話で終わるのか・・・・と、遠い目をした莉里はノートを閉じた。
決して、呆れからではない。タイミングよく、チャイムがなったからだと・・・、いうことにしておく。
放課後、香帆と一緒に下駄箱に向かうと、出入り口に隆が立っていた。
「おまたせ」
「お疲れ、莉里。それに、香帆ちゃんも」
「あ、虎矢さん。珍しいですね、莉里ちゃんを待っていたんですか?」
いつもなら、この時間は大抵、八尋と一緒にいるはずの隆がここにいる。何故かと聞くと、族長は歯医者に行ったらしい。
(道理で、今日は平和・・・。)
内心で、八尋に対してザマァと叫びたいぐらいに黒いことを考えていた莉里の横では、香帆と話している隆の声が聞こえた。
「ちょっと気になることができたんだけれど、なかなか思いだせなくて。それで、しばらく莉里と一緒に歩いていたらなんか思いだすかなぁって」
「ああ・・・・朝に聞いたあれですか。初対面じゃないんですよね?」
「えっ、香帆ちゃんは知っているの!?」
「ふふ、だって、親友ですもん。そうですよね、莉里ちゃん」
「うん・・・香帆・・・私のモノ・・・」
思わず、香帆に抱きつくと、呆れた隆によって引き離された。
「莉里、百合っぽくなるからその言動は慎もうか。あーやっぱり、俺のライバルって、絶対香帆ちゃんだよね」
頭を撫でてくる隆の表情は諦め顔ではあるが、割り切れない様子だった。
「これだから、莉里のお兄ちゃん達の気持ちも解るんだよなぁ。ほーんと、香帆ちゃんに勝てる気がしない」
「・・・・・男なら・・・・隆、一番」
「そーだね。男の中でなら、世界一だよね・・・うーん、それも微妙」
「大丈夫ですよ。だって、先に莉里ちゃんと出会ったのは虎矢さんですしね。それに、莉里は素直じゃないから、ここでは一番好きだって言いにくいだけですよ」
「なんていうか・・・解ってますよって、カンジがちょっと自慢気~。ほーんと、香帆ちゃんズルいっ、羨ましいっ!!」
歩きながらも、香帆に対して不平をいう隆を見て、少しかわいいとか思ったのは秘密だ。
隆の拗ねた表情が、子どもっぽくて、それがまた昔を思い出させるなと、莉里は嬉しさで表情が緩むのを必死に隠しながら会話に入っていた。多分、香帆にはバレバレだっただろうけれど。
しばらくしてから、香帆が家の方向へと曲がるため、分かれ道で立ち止まった。
「またね、香帆」
「またね~八尋には嫌がらせで自慢しとくからー」
「ヤメテクダサイ、あの人、一度拗ねると大変なんですから。じゃあ、また明日」
隆のちょっとしたからかいに対して、笑った香帆。
手を振って歩き出した香帆の後ろ姿を見送った虎矢と莉里は、家の方へ向かって歩き出した。
「ねぇ、香帆ちゃんに言えて俺に言えないって、おかしくないー?」
「ない」
「・・・なんか、香帆ちゃんにあしらわれている八尋の気持ちが、ちょっとわかった気が・・・。これからは、ほーんのちょっとだけ、八尋に優しくしよう」
そう言いながら、胸に手を当てている隆を見て、莉里は笑った。
「大丈夫。隆に勝てる男はいない」
「これだから、莉里に勝てる気がしないんだよね・・・」
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