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リクエスト小説
莉里と虎矢の出会い(2)虎矢目線
しおりを挟むいつの間にか、俺の話に聞き入っていたのか、やけにアジトの中が静かだ。
さっきまではニヤニヤしていた幹部達もいつもはうるさいのに、真顔で口を閉じている。目が真剣なことから、話をきちんと聞いているようだが、いつもと違いすぎてびっくりしてしまった。
あの八尋でさえ、静かすぎて不気味。
(・・・何コレ、やけに・・・全員がチョー真顔なんだけれど・・・・!?)
少しのどを潤すために、コーラを飲んでから、どこから話を再開しようかと迷っていたら、これまた幹部の一人が手をあげて聞いてきた。
「あの、虎矢さん、あの・・・失礼な確認で申し訳ないんですけど、ソレは間違いなく、あの登良野のことですよね?」
ヘビの質問には何か意味があるのか解らないが、その質問の答えをほとんどの人間が聞きたがっていたのは確かなようで、ちらほら拍手がでている。何故か「よく言った!」という掛け声までが聞こえたのは何故に。
「質問の意味が掴めないけれど・・・間違いなく、俺の彼女である莉里のことだよ」
「そ、そうですか」
「まじでかよ・・・おいおい」
「で、質問の意味は?」
「いや・・・ご存じのように、俺は、田城さんや登良野と同じクラスにいるんですが・・・登良野って、ほっんとうに、特定の人間以外に対しては、必要以上に声を出さないんですよね。多分、クラスでも、田城さんぐらいじゃないかな・・・。あの最初の自己紹介でさえ、田城さんが代わりにしたんですから」
「え・・・?」
「いや、マジで・・・コレ本当の話で・・・だって、担任が必死に声を出させようとしたけれど、なんか諦めたとか。だから、虎矢さんが初対面で声を聞けたっていうのは超レアだと思うんですよね。それ、なんでだろうって思っていたから、興味を持っていたんですけど。そうだよな、サル?」
「あ、うん。こいつの言う通りです!」
ヘビが、隣にいたサルに確認すると、我に返ったのか彼も勢いよく首を縦に振った。2人の話を聞いた八尋が思い当たったのか、腕を組んで口を挟んできた。
「そういや、俺もあいつの声を聞けるのは、隆か香帆がいる時だけだな」
「えっ・・・・・」
(え?でも、彼女は初対面の時からずっと友好的なカンジだったけれど?)
「・・・初対面でも、普通に声を出して話してくれたけれど?」
「隆、お前さ、本当にそれが初対面?もしかして、なんか前に会ったとかってことは・・・?」
「そうだとしたら覚えている・・・はずなんだけれど・・・」
八尋の訝し気な表情を見ると、ちょっと自信がなくなるから不思議だ。
うーんと考え込んでいると、サルからの提案で、ひとまずおいておこうという結論に至り、今は、付き合ったきっかけの続きを話すことにした。
(なんだかな・・・また、莉里に聞いてみればわかるかな・・・今度、聞いてみよう。)
「なんだっけな・・そうそう、付き合いだしたのは、初デートの時かな。初デートといっても、八尋に頭を下げられて、香帆ちゃんと八尋のデートの付き添いみたいな感じで、莉里と一緒に行った時だね」
「あうっ、耳が、耳が痛いよぅうう・・・・!」
八尋が呻いているのは、彼にとってのデートまでに至った経緯が悪夢だったからだろう。
「お前が図書館デートを失敗しなきゃ、二人きりで行けたんだけれどね」
「そこは謝る。割り込んですまんかった」
手を合わせている八尋を冷めた目で見ては、彼女に告白した時を思い出していた。
あれは初デートで行った遊園地の中でのこと。
八尋と香帆ちゃんがジェットコースターに乗っていた時、俺と莉里は2人でベンチに座って待っていた。
「あのさ・・・」
「ん?」
「俺と付き合ってもらえるかな・・・カップルっていう意味で」
「だが、断る」
「ちょ、ちょっと待ってっ・・・・ストレート過ぎないっ!?せめて、理由ぐらいは・・・」
「・・・族長と同じタラシ・・・信じない。信じられない」
「ちょっと待って、俺は八尋と違って、女狂いじゃないし、タラシでもない!」
「でも、族・・・同類・・・」
「いやいや、違うからっ!!!!本当に・・・って、その胡乱な目は信じてないよね!?」
三秒どころか、瞬殺でノックアウト。あの居た堪れない空気は、未だに忘れられない。
慌てふためいて、何度も違うと言っても首を横に振って瞬殺してくる。お蔭で、こっちのハートはボロボロ。
思わず、やつあたりで、嬉しそうに戻ってきた八尋を蹴ってしまった。香帆ちゃんを驚かせたのは申し訳なかった
が、八尋に対しては、反省などしていないし、謝る気もさらさらない。
思い出を話している途中で、八尋が遠い目になった。そりゃそうだろう。
八尋からしてみれば、あの時の俺の行動の意味がやっとわかったのだ。当然のことだろうな。
「あの時に、蹴られたのはそういう理由があったのネ・・・!!」
「お前のせいで、誤解されたからな。それでね、ひとまず撤退しかないと思ってさ、香帆ちゃんを引っ張って、相談したの。あそこで話を続けていても平行線だと思ったしね」
「あ、そうだった。いきなりお前が香帆を攫って消えたから、てっきり、趣旨替えしたのかと」
あの時、香帆がそこで待っててくださいとか言ってなきゃ、絶対追いかけていた・・・!と恨めしげに言っている八尋はスルーすることにした。
「ともかくさ、俺は香帆ちゃんに恥を忍んで相談したの」
(あの時は本当に、衝撃だった・・・!今まで、八尋の方がかっこいいから乗り換えたいってフラれたことはあったけれど、八尋と同類とみられてフラれるってパターンは人生初だったかも・・・。)
「・・・香帆ちゃん・・・恥を忍んで聞くよ?どうしたら信じてもらえるのかな、あの馬鹿と違うって!!」
「ああ、莉里ちゃんはすごく警戒心強いですから・・・。ううん・・・難しいかもですが、まずはお試し期間とか言ってみるしか手がないような気がします」
「うう・・・・お試し・・・そうだね、確かに・・・」
まさか、俺がお試しキャンペーンの対象になるとは・・・!!と思いつつも、他にいい手が思い浮ばなかったので、その案でいくしかないと決断した。
まさかの展開に唖然としたのだろう、聞いていた幹部のほとんどが、口をぱかっと開いた状態だった。当の八尋以外は。
(八尋・・・お前はもうちょっと同情しろよと言いたくなるのは俺だけか?)
「で、帰り際に再び告白にチャレンジしたのさ・・・正座して頭を下げてね」
(聞くも涙、語るも涙・・・アレは思いだしても忘れられないよ・・・!!)
「ということで、お試しに俺と付き合うことを推奨します・・ってか、お願いします」
「却下」
「なんでっ?」
「面倒」
「面倒の一言で終わらせないでよ―――!!こうなれば、俺と八尋が違う人種だって、解ってもらうまでは、意地でもここを動かないからね!?」
「ええ・・・」
「ええとか、嫌そうに言わないでぇ!!!マジで、このバカと違うから!!俺はどっちかってと、一途なタチなの。こいつみたいに、ひっかえとっかえしないから!女狂いなんてありえない・・・ねぇ、香帆ちゃんからもお願いしてぇえええっ!!マジで俺の人生がかかってるから!!」
「お、おい・・・お前、俺を貶してるんだけれど!それに、香帆が聞いてるからそういうマイナス的な言い方を止めてくれ!!!」
「・・・龍野先輩、最低です」
「ぐはっ・・・ま、待って、香帆、香帆さんや・・・!!」
「というか、女狂いの噂って本当だったんですね・・・うん、解っていましたけれど、やっぱり酷い人ですよね。莉里ちゃん、大丈夫です。虎矢さんなら、龍野先輩みたいなバカなことはしない人ですし、莉里ちゃんと付き合っても安心できる人だと私は思っていますよ?」
ストレートに言い切った香帆ちゃんの言葉が突き刺さったのか、八尋はその場でばたっと倒れた。
しかし、俺はそれ(八尋の介抱)どころじゃなかった。
香帆ちゃんが説得している間、ずっと頭を下げたまま、返事を待っていたから。
(あの時は生きた心地しなかったよ・・・本当に。)
思い出したのか、八尋が絶叫をあげた。どうやら、倒れた時のことを思いだしたらしい。今、大事なところだというのに無粋だな・・・と思いながら、親友の嘆きに突っ込みを入れた。
「っ・・そうだよ、思いだしたヨ。あれがきっかけで、香帆に女狂いの噂がバレて。それも含めて悪夢のデートってで封印していたんだっけ」
「バレてって・・・香帆ちゃんは噂は知っていて、あの場で、その噂が本当だって証明されたってだけでしょうが」
「ぐはっ、言わないでぇえええ・・・香帆のあの冷たい目は思いだしたくないのぉおお!!」
「とにかくさ、ようやく、香帆ちゃんの説得を聞いたおかげか、莉里が頷いてくれたんだよ。だから、俺は未だに香帆ちゃんには頭があがらないの。香帆ちゃんがいなきゃ、俺はお試しですら付き合えなかったわけだからね」
改めて思うと、香帆ちゃんが俺を信用してくれていたことが、一番効いたみたい。
香帆ちゃんとの初対面の時に、根回しもしてたし、今思えば、香帆ちゃんとは飲み物や食べ物の趣味が似ていたお蔭もあったかも。
あの時だって、莉里が頷いた決め手が、香帆ちゃんの言葉だったもんなぁ。
「解った。お試し、なら・・・いい」
「本当っ?!」
「そのかわり・・・一ヶ月」
「じゃあ、一ヶ月後にまた告白するから、その時に改めて返事をくれるかな?」
「・・・うん」
「ありがとう、莉里ちゃん!!」
抱きしめようとしたけれど、まだ付き合ってないと莉里にキックを受けた。
結局最後は、香帆ちゃんと莉里が一緒に帰って、俺は倒れた八尋をたたき起こして帰るはめになったけれどね。と、最後のオチまで喋り終えると、幹部全員が、一斉に八尋を見た。
いろんな意味でいたたまれなかったのか、八尋はそっと目をそらした。
「・・・いや、そんな目で見られても、過去は戻せねぇし・・・」
八尋が決まり悪げにつぶやけば、わんこがツッコミを入れ、ヘビが冷静に分析し、サルがトドメを刺した。
「いや、よく香帆さんが付き合うのを了承したなって・・・」
「あれでしょうね、やっぱり、ハロウィンというイベントにおける錯覚かな」
「っていうか、やっぱり結婚はできなさそうだよね。族長の結婚式となれば、元彼女とかわんさか来そうだもん。香帆さんが凄く嫌がりそう~」
・・・面白そうだったので、そのトドメに便乗することにした。
「その前に、多分別れそうな気がしないでもないな。丁度、進路も決まってくる頃だし、香帆ちゃんもやっぱり考え直すとかありそう・・・今日だって、香帆ちゃんがせっかく差し入れを作ってきてくれたっていうのに、会いもしなかったしさ~」
「やぁあめろぉおおお!!か、か、香帆にメール、あっ、電話の方が・・・それとも、いや、バイト帰りに迎えに行った方が安心・・・・いやいややっぱり、その前に説明を・・・!!」
真っ青になった八尋がすっとんでスマホと向かい合うまで数秒もかからなかった。八尋の変わり果てた様子に呆れた幹部達だが、その視線は温かい。
「しょうがねぇな、族長は」
「まー、いいんじゃないか。俺は今の総長(族長のことね)のほうがいいぜ」
「いえてる。俺達も恋愛の話がしやすくなったし」
「・・・確かにね」
「そういえば、虎矢さん。今も、登良野と付き合ってるっていうことは、お試し後の告白では、いい返事をもらえたってことですよね?」
「当然です。俺は八尋と違って、信用を勝ち得るタイプですから」
ヘビの質問には、胸を張って答えた。すると、聞き耳を立てていたマスターがカウンター席で拍手してくれた。どうやら、話を聞くうちに不憫だと同情してくれたらしい。
マスターにお礼がわりに手を振りながら、正式に告白した時のことを思いだしていた。
(・・・お試しで付き合えた時も嬉しかったけれど、苦労した末にもらった返事は格別だよね。)
「登良野莉里さん。改めて、俺と結婚を前提に付き合ってください」
「隆、私は自分でも面倒くさいって自覚がある。それでも・・・私と一緒に生きてくれますか?」
「・・・も、もちろん!」
「じゃあ、虎矢隆さん。改めて、私と結婚を前提に・・・お願いします」
「・・・喜んで」
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