香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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観覧車と本音(前編)

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虎矢から言われたように、香帆と相談してWデートの日時を決めた一週間後。香帆達は初Wデートで行っていた遊園地に現地集合していた。一番乗りは、香帆、その次が虎矢と莉里の2人。
入り口近くのベンチで、残る一人である八尋を待っていた。

「香帆ちゃん、早いねー」
「電車の時間があったので・・・おはようございます、虎矢さん、莉里ちゃん」
「おはよ・・族長は?」
「まだですよ。あっ・・・」
「あ、来たの・・・って・・・あれ?」
「あれ?」

香帆を筆頭に、八尋に目を向けた全員が目を丸くした。というのも、八尋の髪の色が「黒」になっていたからだ。

「香帆―――っ!」
「・・・・おはようございます、先輩・・・その髪・・・・?」
「おはよ。ああ・・・コレ?もうすぐ実習期間がはじまるから、黒髪にしたのよー」
「ああ、そうか、八尋は明日からなのか」
「隆は?」
「俺は来週ってか、来月からだな。うーん、そろそろ髪の毛染めないといけないかな・・・」

八尋の言葉に、思いだしたのか、虎矢が眉間に皺を寄せた。余談だが、虎矢は黄色に近い茶髪である。
莉里が無言ながらも頷いていることから、虎矢も後日、黒髪に染めることになりそうだ。

香帆達の高校では、3年生になると、進路学習の一環で実習期間がはじまる。その期間はグループごとに異なり、仕事の内容もそれぞれ違う。八尋や虎矢は大学進学を考えているため、少し早めの実習となっている。実習先は、大手の工場や会社が多く、学校側としても大事な就職先となるため、八尋達の担任の森宮先生も口を酸っぱくして、真面目な格好で行けというぐらいである。
八尋のことだ、先生にうるさく言われる前にと、髪色を変えたのだろう。
じっと八尋を見つめる香帆だが、その視線は髪の毛の方に向いている。

「・・・ど、どうしたの、香帆・・・・・もしかして、合わない?」
「あ、いいえ、黒髪も良いですが、ピンク色の頭も懐かしいなぁって思いだしていただけです」
「・・・あ、うん・・・・そ、ソウデスネ(これはどういう意味なんだろうか)」

何と答えていいか解らない八尋に、助け船をと思ったのか、虎矢がそろそろ遊園地の中へ行こうと促した。当初の目的を思いだした女子二人は、入場口を目指して歩き出した。その後ろをついていく男子2人はひそひそと話しをしていた。

「隆、コレでわかったデショ、俺が不安がる理由」
「ああうん・・・なんていうか」
「最近、積極的なんだよね。それはもちろんすごく嬉しいことなんだけれど、相変わらず・・・なんていうか・・・自分で自分に言い聞かせてるのかなって思うことが」
「あー、言われてみると、さっきもそうだよな。・・・やっぱお前と付き合ったことを後悔してるんじゃ」
「あ“―――――聞こえねぇっ。聞きたくねぇっつーの!!やっぱ、お前に聞いた俺が間違いだったわ」
「待て待て。でもさ、いい機会だから、今日はいろいろ会話したほうがいんじゃね?不安がってないで、ちゃんとお互い話したほうがすっきりすることもあると思うし」

茶化すも、最後はまともなことを口にしてから、莉里の所へ行った虎矢。虎矢の言葉に思うことがあったのか、八尋は立ち止まって腕を組んで考え込んでいた。

「・・・・・先輩、どうしたんですか?なんか、今日は変ですよ?」
「わっ!!あ、あれ、隆と小娘は?」
「あの2人なら、見たいアトラクションショーがあるとかで、すっ飛んで行きましたよ。時間がないって、走っていっちゃいました。昼ごはんまでは別行動、その後パレードを見て、その後のことはまた後で相談しようということで決まりました」
「あ、そーなの。じゃあ、香帆は何か乗りたいのある?」
「ああ・・・やっぱり、あれですね」

周りををぐるっと見まわしていた香帆が、指さした先はジェットコースター。その時、八尋は思いだした。香帆は無類のジェットコースター好きだったということを。
八尋から出る声はいつになく乾いた笑いだった。ちなみに八尋は、ジェットコースターに乗れないわけではないが、香帆みたいにハマるほど、強くはない。

「そういえば、初Wデートの時も5回ぐらい乗ったっけねぇ・・・ははは・・・」
「はい、先輩がもう無理っていうから、降りてきたんでしたっけね。今日は7回ぐらい乗りたいです」
「・・・が、頑張るけれど、無理だったらゴメン」

そう言いながら、八尋は香帆と手つなぎで、ジェットコースターの待ち列へと並んで行った。

「おぇええええええ!!!!」
「だ、大丈夫ですか?少し休みますか?」
「ううっ・・・ゴメン、少し・・・横にならせて」

香帆のテンションに付き合って、結局10回もジェットコースターに乗ってしまった。10回も乗れば、気持ち悪くなるのは当然で。げっそりとしながらも、八尋はベンチに寝そべった。さすがに心配になったのだろう、飲み物を持って来ると、香帆は店の方へと走って行った。

「うぅ・・・何故、香帆はあんなにピンピンしてるの~?」

気持ち悪い・・・と八尋が呟いてると、影ができたことに気づいた。頭をあげると、香帆がドリンクを持って戻ってきていた。

「飲んでください、ドリンクです。あと、ハンカチで申し訳ないですけど」
「ああ、ありがとぉ・・・」

ベンチの端に座った香帆からドリンクを受け取って、のどを潤した。少し休めば、幾分か楽になるだろうとしばらく留まることにした。ドリンクを香帆に渡した八尋は、香帆の膝に頭を乗せた。
いわゆる、膝枕というやつだろう。香帆は突然の行動にびっくりしたものの、拒否反応はでなかったらしく、そのまま好きにさせていた。

「そういえば、香帆さ・・・最近、なんだか前向きになってないー?」
「ああ、そうかもしれません。吹っ切れたって言うか、なんというか」
「それそれ。最近そう言っているけれど、どういうことか教えて欲しい。前も言ったけれど、香帆はため込むタイプだから・・・ちょっと心配なのー」
「そ、んなことは・・・いえ、あるかも、ですね。自信を、持とうと思ったんです」
「自信?」

八尋が香帆に視線を向けると、手が伸びてきた。真珠のついたプスレットが手首に巻かれているのが見えた。頭を撫でてくる手が気持ちよくて、目を瞑りそうになるのは自分だけではないはずだ。

「香帆・・・それ、反則ぅ・・・で、自信って?」
「前も言いましたけれど、先輩の彼女として隣に立つ自信がなかっただけです。でも、なんていいますかね。自分の都合で勝手にワガママを言っていただけだったなぁって気づいたんですよ」
「そんなワガママ、言われた覚えなんてないよー?俺が言うのもなんだけれど・・・香帆はずっと、ずっと我慢してきたじゃん」

八尋の言葉に、香帆の撫でている手が止まる。その止まった手も気にせず、八尋は目を瞑りながら、今までを思い返していた。

「それぐらい、解る。俺が、香帆の立場だったら、こんな男、ぜってぇ嫌だもん。俺が女の立場だったら絶対断ってる」
「先輩」
「もし、香帆に元彼がいて、今でもそいつらが粉かけてるって考えただけでもスゴイやだ。いくら、過去のこととはいえ、身体の関係があったらって考えるとすげぇイラっとする。俺が想像しただけで、こうなんだから、香帆はきっともっともっと嫌な気分になったと思うんだよね」

柔らかな太ももの感触から離れるのは名残惜しいが、気分もマシになったということで、八尋は起き上がって、ベンチにもたれた。香帆に預かってもらっていたドリンクを受け取り、全て飲み干した。

「付き合う前の、先輩後輩の関係でいた頃なんか、すっげーいろいろ迷ったし。告白するべきかどうかってのもそうだけれど、香帆に好かれる自信もなかったから、フラれたらどうしようとか。・・・でも、やっぱり、どうしても諦められなかった。心の暴走が止まらなかった。・・・結婚してもいいって思えるぐらい好きになったのも初めてだったし」

虎矢のアドバイスを思い出しながら、八尋は自分の気持ちを伝えることにした。

「・・・正直、香帆が、いつ俺に冷めてもおかしくないって思っているし、いつだって不安だよ。嫌われないか、捨てられないかって。でも、香帆の優しさに甘えてる自分もいるのも確かで。俺はさ、香帆の前じゃあ、ただのヘタレに成り下がっているって自覚もある。でも・・・ソレは嫌な変化じゃないんだ」
「どういう、意味ですか?」
「なんていうかな、香帆のお蔭で、ちょっと成長したかなって思えるんだよね。香帆と一緒にいると、自分がなんていうかな、うまく言えないけれど、目が柔らくなったとかよく言われるし、ぶっちゃけ、女狂いだった頃の自分を客観的に見れるようになったっていうかね。それで、なんだっけな・・・そうそう、香帆は、もっとワガママになったって許されるし、その権利もあるよ」
「・・・・・・・・」
「過去は戻せないし、戻らない。だけれど、俺のこれからは香帆に全てやるつもりでいる。だからこそ、我慢してほしくない」

いつになく真剣な表情を見せる八尋に、香帆は少し顔を背けた後、ひとさし指を空に向けてポツリと呟いた。


「先輩、観覧車に乗りたいです」


八尋がその言葉を受け容れたのは言うまでもない。少し楽になった身体を動かしながら、あちこちを見つつ、観覧車のある方向へ向かった。
しばらくして、観覧車に乗った二人は、景色を堪能していた。最初は向かい合っていた二人だったが、香帆が突然、八尋の隣に座りだした。

「正直にいいます。私、先輩が本気と思ってなかったです」
「うん、前にも聞いたことあるね」
「初めて、先輩を見た時にどピンクの頭だったでしょう。その時からなんです。いつからか、なんてわからない。でも、気付いたら、街中で・・・・先輩を探して、目で追っていました」
「どゆこと?それって、香帆は街中で俺を見かけたことが何度もあるっていうこと?」

冷や汗をたらしている八尋に、香帆は肯定の意味で頷いた。その言葉に八尋が項垂れたのはいうまでもない。つまり、隠すまでもなく、自分の女癖は元々知られていたということだ。

「そうですね、そうなると思います。友人のお姉さんは先輩と別れた時も、アイツは遊び人だからーとか言っていました。確かに、街中で見た先輩は女にだらしなくて、見かけるたびに、ああ、相変わらずだなぁって呆れてましたよ。でも、何度か見かける内に、気づいたんです」
「え、何に?」
「女の人といちゃついて笑っている癖に、目だけ笑っていないって気づいたんです。あ、この人、女の人を信じてないんだって。諦めてるんだなって、解りました。だからって、女遊びが酷い理由にはなりませんが」
「ぐはっ・・・・・か、香帆、鋭い・・・!!」

思い当たることがあるのか、八尋は目を泳がせていた。香帆は苦笑しながらも、話を続けた。

「先輩から告白されたとき、試されてるのかなと思ったんですが、いい機会だと思って受け入れたんです。でも、傷つくのは嫌だから、別れる覚悟だけはしておこうって。だから、考えたんです。もし別れるのならきっと・・・身体の関係を結ぶまでの間だろうなと」
「―――あ、も、もも、ももしかs、もしかして、先輩呼びが変わらなかったのって!!」
「ぶっちゃけ、すぐに別れるだろうなって思っていました。だから、呼ばなかったんです」
「香帆さぁあああんっ!!!!そ、それは、それだけは絶対ないっ!最初から、本気!!」
「・・・・・はい。今なら、それを信じることができます」

必死に、弁解しようと、香帆の手を握りだした八尋に、香帆は落ち着かせるように、頭を撫でた。

「でも、あの時は諦めていたんです。期待するのが嫌だったから。先輩が今までの人に見せたあの無機質な目を向けられたくなかったから。でも、多分・・・・気づかないうちに、欲がでちゃったみたいですね」

先輩と一緒にいる時間が増えて、ちょっと楽しくなってきたんですよ。多分、甘えられるようになってきていたのかな、その頃、先輩と一緒に帰り道にクレープ食べたいな・・・って思い切って誘おうかっていうぐらいには、ちょっと天狗になっていたかもです。

「だから、罰が当たったんだと思います。あのクレープ屋さんで、元彼女さんに言われたとき、水を思いっきりかけられたような気分になって。あの時に、やっと気づいたんです。いつの間にか好きになっていたのを、好奇心だと思いこもうとしていただけだって。それなのに、付き合っている気分でいる自分がいたっていうのが、すごく恥ずかしく思えてきて」

家に帰って、やっと我に返ったんです。私、自惚れていたかもって。彼女だけれど、先輩が飽きるまでの間だけなんだ・・・とか、いろいろ考えていたら、先輩からの連絡や呼びかけに答えるのが怖くなったんです。もう、一喜一憂するのが、怖かったから、あの時はしばらく距離をおいてましたね。

「あ、だから会話が減ってたのネ・・・道理で、香帆からの誘いがなくなったわけだ・・・」
「・・・しばらくは、好奇心だって思いこもうと必死に拒絶していました。・・・やっと、恋愛感情を受け容れられるようになったのは、創文祭の時。前にも話しましたよね。あの話は、嘘じゃないです」
「あ、確かに言ってたね・・・だから、あの日から態度が軟化したのか」
「はい。色々あって、まぁ、クリスマスに結ばれたわけじゃないですか。まさかあの後も付き合いが続くなんて、はっきり言って、予想外でした」

別れることを想定して、クリスマスまでと予想していたんですけど。と、ため息をついた香帆に対し、八尋は顔を真っ青にさせて叫んだ。

「ま、さか、クリスマスまでお預けだったのは!!!!!!!!」
「えっと、別れる時の口実に丁度良いかなと・・・・設定してました」
「香帆さんぃいいいいいいいいいい、ヒドイッス・・・・・俺、泣きそう。心折れそう。ほんとに、本気なの・・・・!!!!!!何度も・・・・・あれだけぇええええ!」
「それは、その、はい、本当に謝ります。ごめんなさい。で、あの、その後も続いたんで・・・これではいけないって、やっと気づいたんです。少しずつ自分と向き合おうと、覚悟を決めました。で、その過程の中で、先輩の世話を焼くことが増えて、私の中では、彼女じゃないと思っていたのに、先輩の過去にやきもちをやいている自分がいて」

要するに、自分でも言っていること、やっていることが矛盾するようになって、なんていうか、自分でも不安定な行動になっちゃったんですね。
諦めてると言いながら、デートを嬉しいと思っていたり、胸を気にしたり、元彼女の行動一つ一つに嫉妬したり。とにかく、自分でも、もやもやすることが増えていったんです。

「そんな時に、先生や委員長からの頼まれごとがあって。あれが、自分にとってはトドメになりましたね」




あの日の夜に、叫びましたもん。


『私は先輩のお母さんじゃないーーーーー!!!!!!!!!!』って。


今だから笑えるんですけどねーという香帆に対して八尋はひたすら頭を下げていた。

「その節は、申し訳なかったです・・・・俺も思いっきり甘えていたし」
「でも、その爆発があったから、彼女でいたい。独占欲丸出しだけれど、傍にいたい。っていう気持ちが定まったというか。なんていいますかね、肝が据わったって言うのは多分あの時のことを言うんでしょうね」


観覧車が頂点に差し掛かった時、香帆は、八尋の肩にもたれかかった。


そこから吹っ切れました。
もう抑えるのは諦めよう。自分の欲望に忠実になろう。
先輩の彼女でいいやって。


「先輩ももうすぐ卒業ですし、思い切って先輩とやりたかったことを少しずつやろうと思って。・・・今日のWデートも、その一つです。これでもう隠し事はないですし、何もかも、全て話しましたよ」



話し終わった香帆は、八尋の手に自分の手を重ねた。
八尋は、重ねられた手を強く握りしめながら、目を瞑った。




「香帆のバカ、それさ、我が儘の内に入らない。そんなんじゃ、罰なんて与えられない・・・ほっんと・・・優しすぎるよ」





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