香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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親友から見た香帆

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香帆に初めて会ったのは、中学校の時。
現代においては珍しく、黒髪の三つ編みに眼鏡。おまけに性格も真面目で優等生。
こんな子もいるんだな・・・とびっくりした覚えがある。当時荒れていたから、茶髪に超ミニスカートだったけど、こんな莉里と仲良くしてくれた香帆に感謝。

でも、香帆と話してみると意外な面もたくさんあることが解った。
意外に抜けているところがあるとか、絵心がないとか。
特に高校に入ってからの男を見る目のなさには呆れた。

「・・・あれはない」
「どうしたの、莉里?」

昼休みに香帆に連れられて、屋上に向かった時に初めて紹介された人をみて愕然とした。かつてはドピンク頭だった男。鬼人族の総長という龍野八尋が目の前にいる。
ついでに情報交換仲間の虎矢隆もいたけれど。

ちなみに、今(現在)も昼休みで、八尋や隆と一緒に弁当を食べている。香帆は委員会に行っていて不在。

「思いだしてた。初めて族長見た時」
「ああ、八尋を指さしてなんでこれ?って言ってたね」
「こいつなら誰でも言う・・・」

少なくとも、もっと真面目そうな男を選ぶべきだと思う。でも、香帆は見た目に反して一度決めたことは譲らない。だから、莉里が言っても無駄なのは解ってる。それに・・・彼らがいるからまだ大丈夫だろう。

(三つ子のお兄さんがいるならそう簡単にはいかないはずだし、牽制にもなるはず。もっとも、この族長のぼけた頭からして別れる気はなさそうだけれど。)

・・・やっぱり香帆の隣をいつも陣取っているくせにわかってない男はダメだと莉里的には思う。

「悪いこと言わない。結婚はダメ」
「おい、黙って聞いていれば、好き勝手に言ってるんじゃないぞ、小娘」

パンを食べていた噂の主である八尋が憮然とした顔で突っ込むが、莉里は完全にスルー。ちなみに、香帆がいないときの八尋の口調はころころ変わることが多い。多分、言い合いで猫かぶりが解けることが多いせいだろう。

「聞いてるのか、こむす・・・いたっ!」
「だから、その口を閉じなよ、八尋。いい加減、莉里のことを名字でもいいからちゃんと呼べ」
「・・・・・」

虎矢の文句をスルーしている八尋に呆れながらも、無言で弁当を食べ続けた。

「・・・香帆の趣味、悪い。マジで」
「だから、お前は何を言いたいんだよ・・こ・・・登良野」
「ほっんとう、なんで八尋は莉里にだけきついんだろうね」
「言いたくない」
「莉里はなんとなく解るからほっとけって言ってるけど・・・本当にいいの?」
「うん、ほっといていい」
「・・・莉里は凄いよねぇ」
「・・・隆、なんでこいつを選んだんだよ」
「相性が良いって思ったから」
「香帆の方がすっごくすっごくいいと思うのに~」

虎矢に弁当箱で叩かれてた八尋にザマァと思っていると、当の八尋が不満そうに言う質問に対して、莉里は箸を八尋に向けながら答えた。

「知るかよ・・・第一、なんでお前、俺につっかってくる?初対面の時だってそうだっただろう?」
「・・・香帆、呟いてた」
「は?」
「不毛な初恋は捨てたいって。なのに、また選んだのが不毛な彼氏」
「おい、それってどういうことだよ?」
「・・・族長、自分が目立つ、理解すべき。香帆は、族長、ずっと見てた。族長が気づいてなかっただけ」
「それって、香帆ちゃんが中学校の時からってこと?」
「香帆、言わない。でも、莉里、解る・・・香帆はこのバカ、見てた・・・ずっと」

莉里は弁当箱を片付けながら、思いだした。香帆が中学校の時に呟いていたことを。忘れもしない。後にも先にも香帆の泣き顔を見たのはあの時だけだ。

『・・・・莉里ちゃん、初恋っていつでした?』
『初恋・・・・幼稚園?』
『そうですよね、普通はそれぐらいですよね・・・うう・・・』
『どうした、香帆?』
『目で追っているのは女連れのどピンク頭の男の人。なんだって、今頃気づいてしまうんでしょうか』
『・・・?』
『あっちは、忘れてるんですよ。私を見ても気づいていない。ああもう、駅前に行きたくない』

顔を腕に埋めて泣いている香帆に何も言えなかった。でも、高校に入って、隆から香帆についての情報を求められて、なんとなく浮かんだのが、この時の女連れのピンク頭の男だった。だから、情報交換の条件にしたんだけれど、まさかの族長だったというオチ。

「香帆と莉里の中学校、駅の近く。だから、どピンク目立つ」
「うっ・・・」
「香帆、それも嫌で、高校、ここを選んだ」
「まさかここで八尋と出会うとは思わなかっただろうね・・・」
「香帆、びっくり。莉里もついでにびっくり・・・さらにつきあう・・・・ない!」

最後は首を振った。あの時の呟きを見ているだけに、当然理解できない。
香帆もきっとそれなりに悩んで決めたことなのだろうが、莉里としては納得いかなかった。

「なるほど・・・香帆ちゃんって結構心閉ざしてるほうだよね?」

やっぱりねと虎矢が頷くのを見た莉里は、虎矢は勘がいい方だから、気づくだろうとは思っていたから頷き返した。


(族長も頷いて否定しないってことは気づいてはいたってことね・・・。)


「香帆、自分の気持ち、隠すの多い。いつも、他人優先」
「それって、なんでなのー?」
「・・・香帆の親、有名・・・シェフ、だった。兄弟、反発・・・家あまりいない」
「香帆ちゃんはいつも一人だったってことだね」
「ん・・・・真面目、余計に一人」
「あるあるね・・・真面目な子って意外に友達ができにくいもんね」
「香帆が我慢する必要なんかないのにな」
「・・・・そう。我慢いらない。なのに、我慢が必要な男選ぶ・・・馬鹿だ」
「結局最後は俺を乏して終わるのかよ・・・くっ・・・・!!」

八尋は不貞腐れたが、莉里はため息をついて今度こそ弁当を袋へと入れた。八尋が顔を引きつらせるのが見えているが、気にしないことにした。

(解ってる、完全な八つ当たりだって。でも、あの時の香帆の涙を忘れられないんだよ。)

虎矢に弁当を渡すと、自分の分と一緒に袋へ入れてくれた。そこに莉里は虎矢の心遣いを見てホッとした。目が合うと、虎矢は莉里の頭を撫でながら笑っていた。

「・・・莉里からすれば大事な親友を傷つけたのがこのバカだもんね、しょうがないよ。こんな女狂いじゃあ、俺もフォローできないもん」
「おぃいいっ?」
「でもね、今度は俺や莉里もいるから、香帆ちゃんは一人じゃないよ。何かあったら俺達が仲裁すればいいし、莉里が香帆ちゃんを慰めることだってできるしね」
「時々、隆はいいこと言う・・・見習え、族長」
「へーへー」
「後、香帆に言って」
「何を?」
「族長の猫ポーズが待ち受け・・・キモイ」
「・・・それ、超複雑!!!!!!言ってみるけど期待するなよ」
「ヘタレが」

ボソリと呟いてから、屋上を離れようと歩き出したら、八尋の絶叫が聞こえたが安定のスルー。
隆の笑い声も止まらないことから、しばらくは追いかけられないだろう。

教室へ戻ると、香帆がぐったりと机に伏してしていた。どうしたのかと聞くと、委員会は大丈夫だったが、その後が大変だったという。

「なぜ?」
「3年A組の委員長から相談を受けたんです・・・」
「そう」
「うう、こんな時は待ち受けを見るのが一番ですよね!」
「香帆、族長と似た者同士・・・」
「ええ、全然違うと思いますよ?」


本人に自覚がないって恐ろしい・・・・と莉里は思ったが、口には出さなかった。




(とりあえず、族長の説得に期待しよう・・・いや、無理か。)




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