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記念小説
猫の日記念:八尋が猫だったら?
しおりを挟むあなたが、突然、猫になったらどうしますか?
そう聞かれたら、八尋は迷わず答えるだろう、「香帆に可愛がってもらう!」と。
そして、今、自分はなぜか茶色の猫になっている。しかも、香帆の家になぜかいた。鏡を見ると、俗に言う茶虎猫というやつになっている。これを逃さない手はないと、香帆を探しにいった。
いつもと違う視線が新鮮に感じる。自分の声もいつもの声だけれど、なんか本能で鳴いてしまいそうだ。いつもと違って、ジャンプも軽やかにできる。
いろいろ探していると、リビングの方で音がしたので、四つ足で向かうと、香帆がキッチンに立っていた。思わず、近寄ってすり寄ったのは決して香帆の生足につられたからじゃない。ないんだったら、ないのーっ!
「にゃー、にゃにーにゃんにゃんにゃー!!(香帆、足がすべすべーっ!!)」
「・・・八尋さん?お腹がすいたんですか?」
「にゃっ、にゃ・・・?(えっ、さんづけ・・・?)」
驚きつつも首を振ってみるが、香帆は気にした様子もない。それどころか、八尋を抱き上げて、リビングへと歩き出す始末。
(うう、通じてないし。ああでも、猫に対しても丁寧に接するとは香帆らしいな。)
座りだした香帆の膝上へと飛び乗ると手を差し伸べられ、顎下を撫でられた。
(くは~くすぐったい!!でもでも、気持ちイイの~~)
ついつい鳴き声を出してしまう。だが、香帆は嬉しそうに猫である八尋の頭や顎を撫でまわしている。八尋はつられるように膝の上に座り込んだ。
「今から準備しますので少し待ってくださいね」
「にゃにゃにゃ~!!(もちろんだよ~!!)」
通じているよという意味を込めて首を振るが、香帆は偶然とでも思っているのだろう、気にした様子もない。しばらくすると、目の前にキャットフードがでてきた。
(そ、そうだった、猫なんだから当然食べないとおかしいよな・・・うう・・・仕方がない、食べてみよう。)
最初こそは警戒していたが、背に腹は代えられないとばかりにフードを食べだした。
「にゃっ、にゃいにゃにゃ、にゃ?(えっ、意外にウマいよ、コレ?)」
不思議なことに自分ではこんな声を出しているつもりはない。でも、普通に喋ってるのに、こうやって猫の声になるということは、自動で変換されているらしいということに気づく。
しかし、キャットフードがここまで美味しいとは思わなかった。八尋はここぞとばかりに夢中になって食べ、ようやく満足した頃、香帆が八尋の腹を撫でだした。
「お腹いっぱいになったみたいですね。ふふ、腹がぽてっとしてて可愛いです」
腹を撫でられては降参とばかりに八尋はくねくねと身体をよじらせた。どさくさに紛れて香帆にすり寄ると、香帆も嬉しそうに八尋を抱き上げて耳のところに口づけてくれる。
それに至福の一時・・・!と思いつつも、八尋は嬉しそうにじゃれていた。
「・・・・・にゃ・・・・・」
気づけば、目の前にあるのはいつも見る部屋の天井。
「え・・・・まさかの夢落ち・・・!?」
わかります?
こんな展開ないデショーーーーー!と朝っぱらから叫んでしまって、親父に怒られた俺としては不満ありまくりなわけですよ。ちなみに、試しにキャットフードを食べたけどまずかった!
夢の経緯を真顔で説明していたら、何故か隣にいる虎矢と小娘の莉里はあきれ顔だった。ちなみに、香帆は弁当を持ったまま唖然としていた。
「ってことなの。だから、香帆さん、慰めてーー!!」
「・・・八尋先輩が猫になったらいくらでも慰めますけど・・・」
「・・・・それなら、これをつければ良いよねー?」
「ぶはっ!!!!」
八尋が苦肉の策とばかりに、香帆がつけていたイヤーマフや手袋を付けだした。
当然ながら、可愛らしいい香帆と違う八尋では似合わないに決まっている。当然、イケメンでもさすがに似合わない。それを裏付けるように莉里と虎矢が腹を抱えて笑っているではないか。
「・・・総長、相変わらず、バカ」
「くおら、小娘、言うことにかいてそれ言うー!?」
「ぎゃはははは、八尋、似合わない、めっちゃくちゃ似合ってねぇ!!!!」
うっかり本性が出そうになるが、なんとか間延びした声で答える八尋。だが、当の莉里はもぐもぐとお弁当を食べながらしれっとした様子だった。
香帆はというとがっくりと肩をおとしながらも、弁当を片付けていた。慌てて八尋は必死に香帆に抱きつき、なんとか構ってもらおうと必死だった。
「香帆さん、これならいいにゃー?」
「ポーズは変えた方がいいですね。・・・先輩、こっちをこうしてください」
「ふへ・・・?」
「あと、こっちの拳を頬に寄せて・・・はい、チーズ」
香帆の為すがままにポーズをとって固まった八尋だが、スマホのシャッター音に写真を撮られたのだと気づく。
「か、香帆さん?」
「うん、これでよし。後はそのままで。ごちそうさまです。そろそろ昼休みも終わるので、教室に戻りますね。莉里ちゃん、行きましょう?」
「うん」
「か、香帆、俺はこのままなの?待ってぇえええ、香帆ーーーーー!!」
ごちそうさまと言いながら手を合わせて消えていった香帆に八尋はあたふたしていたが、律儀にポーズをそのままにしているあたり、頭が上がらない様子だ。
当然、虎矢が腹を痛めるまで笑い転げたのはいうまでもない。かくして、今日も八尋の絶叫が響いた。
「違う、夢と全然違うっ!!!俺は香帆に愛でてもらいたいのにーーー!!!!」
「現実ってこんなもんだろー!!」
「お前は黙ってろ、隆!」
余談
莉里は香帆に呆れ果てていた。
彼女の趣味の悪さは半端ないと思う。少なくとも莉里からすれば理解できないほど。
「香帆、さっきの、待ち受け・・・・やめて」
「え、先輩のこれ、可愛いじゃないですか?」
「キモイ」
「そうですか?可愛いと思うんですけど」
「・・・・香帆、眼科に行く。いますぐに」
「目は悪くないってば。もう、莉里ちゃんはなんで八尋先輩の良さが解らないのかな」
「惚気・・・。莉里、わからなくていい」
むーと唸る香帆に呆れた莉里は今度こそ自分の席へと戻っていった。
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