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昼食は大抵こんな感じです
しおりを挟む香帆たちは昼休みは屋上にいることが多い。
特に、香帆と八尋が付き合い始めた頃からは、香帆、莉里、虎矢、八尋の4人で弁当を食べることが増えた。八尋は大抵コンビニで買っているが、他の3人は弁当を持ってきていて、一緒に会話しながら食べあうのが定番だ。
今、香帆は悩みがあるという。
原因は、最近、香帆の兄である真帆達の質問がしつこくなってきたこと。最近、香帆に彼氏ができた上に、その彼氏が不良ということもあり、お兄ちゃん達は心配だからというが、もう高校生になっている香帆としては子ども扱いされているとしか思えず、困惑するしかなかったとか。
「特に、志帆お兄ちゃんがかなり心配性なんですよね」
昼休みに合った面々に対して、香帆が愚痴がてら話をすると、彼氏である八尋が顔を引きつらせていた。もぐもぐとコンビニで買ったサンドイッチを食べながら質問し出した八尋に対し、香帆は呆れるように自分の弁当箱から卵焼きをそっと彼の口へと箸で移した。
「あのー香帆?つかぬことを伺ってもよろしいデショーカ・・・あ、これ美味いかも」
「何故微妙な敬語を使うんですか・・・あ、良かったです。それ、お兄ちゃんが作ったんですよ」
「ぶはっ、なにソレ、どういうことなの!?」
驚いたのは八尋ではなく、八尋の隣で弁当を食べていた虎矢だ。一体どういうこと?と八尋を押しのけて香帆に近づきながら質問している。それにぎゃあぎゃあと八尋が文句を言うが、2人とも聞いていない。(ちなみに八尋は驚いた時に食べているモノが噴き出ると困るため必死に飲みこもうとしている。)
「えっと、志帆お兄ちゃんがレストランで働いているんです。たまに、料理の研究のために私の弁当を使って新作を試しているんですよ。今日もお兄ちゃんがおかず作りを手伝ってくれました」
「・・・・レストラン? どこの、どこのー?」
ようやく食べ終えた八尋も興味津々で質問するが、それに答えたのは、香帆の親友である莉里だった。
「志帆さんの店、『perfume』・・・引き抜かれるの断ったシェフ」
「げっ!!! それ、チョー有名な高級レストランじゃん!!!しかも引き抜きがあるほどって!」
「あ、虎矢さんも知ってるんですね?」
「うん、でも、高級店だからさすがに入店したことはないけれど」
「・・・八尋先輩は、写真を検索したらデートの時に行ったことあるって気づくと思いますよ」
「げっ、なんでそれを・・・っていうか、なんで解るのーーーそゆーことっ!?」
八尋の質問に一瞬目を泳がせて詰まった香帆だが、すぐに莉里へと返した。八尋に直接返さないあたり一種の仕返しともいえるだろう。
「えっと・・・それすごく今さらな話ですよね?」
香帆の言いにくい雰囲気を察した莉里が香帆の肩を叩いて、誤魔化すように呟いた・・・莉里の頬は弁当のせいでリスの頬袋のように膨れているが。
「香帆、族長はタラシ本人。周りの噂、聞かない、入らない」
「あ、そうですね・・・まさかの話を本人に言うわけないし、まして八尋先輩・・・納得」
「納得・・・(もぐもぐ)」
お互いに頷き合っている莉里と香帆の会話に焦った八尋は必死に香帆に対して弁解しまくっていた。八尋は香帆との交際は真剣かつ真面目に接しているし、香帆のことも、すぐに手を出さずに大事に扱っている。それぐらいに本気だが、免疫のない香帆には何が基準になるのかよく解っていない様子である。
「もう今は本当に、香帆だけだからっ!!信じて、信じてーーーー!!」
「はいはい、否定しなくても解っていますよー、私と出逢う前の話でしょう?」
「うん、そうなんだけれどサ、なんかさ、俺だから・・・なんというか、もう諦めてるみたいな雰囲気があるよーな気がするんですガ?」
「わ、当たりです!ご褒美になでなでしてあげますねー」
「いやいや、喜べなぃいいいいいい・・・けど、撫でてはもらうっ!」
香帆は否定することなく勢いよく頷き、八尋の頭を撫でだした。それに八尋が項垂れつつも撫でてもらって複雑そうな表情をしているが、泣きそうにも見える。それを見た虎矢が腹を抱えて笑った。莉里は面白そうにスマホで写真を撮っている。後でいつものように八尋に売りつけるつもりだろう。
「それにしても、香帆ちゃんはどうやってそういう話を聞いたの?」
「入学式の時に呼び出されて、八尋先輩の部下の宇摩先輩と史家先輩が、私が毒牙にかかったら心配だからと、丁寧に教えてくださいました。なんでも、私が近づいたら貞操危機だとか。・・・だから余計に図書部に入部した時はびっくりしました。まさかいると思わなかったですし・・・当時はこうやって付き合うとは思っていなかったですし。その後も学校中で噂をよく聞きましたけれどね」
「あー、納得!!確かに八尋には近寄らないほうが香帆ちゃんのためだもんね」
なぜか八尋がハリセンで虎矢を叩きつけている。さすがに怪我はないが、紙が厚いせいで痛みはある。頭をさする虎矢に対して八尋は(自分を棚にあげて)叫んだ。
「納得・・じゃないよっ!!宇摩と史家なら同じ族にいる分余計に達が悪いっ!」
「でも、原因、全部、族長」
「うっ・・・!!!」
「はは、八尋の負け―!」
「わー莉里ちゃん、スゴイ。八尋先輩が固まっちゃってるよ」
「莉里、また勝った」
パチパチと香帆と虎矢の拍手が響く中、莉里がガッツポーズを取り、八尋が膝から崩れおちて倒れた。
ここら一帯でも1,2を争う『鬼人族』の族長は時にこうやって莉里に(香帆に関してはかなりの割合で)負けている。これを八尋に憧れている人間が見たなら幻滅すること請け合いだ。
その日の夜、八尋はブロッサムで宇摩と史家をねちねちと締めあげていた。宇摩と史家が正座し続けて痺れによる悲鳴が響く中、カウンターでは虎矢が涼しい顔で珈琲を飲んでいる。
「お前らね・・・確かに香帆はいい子だけれどさ。くっ・・・香帆から、痛めつけないようにとか言われてなきゃとっくに殴っていたよ!」
他の席にいた部下たちはというと一斉に真っ青になっていたが、マスターだけは呆れた様子で宇摩と史家に説教している八尋を眺めつつ、虎矢と話しあっていた。時折、聞き耳を立てていた八尋が話に入ることもある。3時間ぐらい説教していた八尋もようやく収まったのか、宇摩と史家を解放することにした。・・・もちろん、条件付きでの見逃しだ。
「確かに、ここに来た時も頭がよさそうな子だったね。そういえば、挨拶もしっかりしていたし、というか、俺八尋に挨拶されたのあの時がハジメテかも」
「ああ、香帆ちゃんが八尋にも挨拶させたアレだね。確かにあれは笑った。八尋と付き合っているから成績落ちたって言われたくないみたいで頑張っているみたいだって莉里が言っていたよ。当の八尋なんて気にしないタイプなのになぁ」
「次の試験は全力出すからイイノー。とりあえず、宇摩と史家は次のケンカで特攻係にまわってね。以上!」
「そんなっ!!俺ら、まだ捕まりたくないっすー!」
「え、当然の罰に決まってるでしょー?それとも、何、まだまだ俺の説教を受け続けたいのかな?」
「え、もう3時間でお腹いっぱい・・・・というか、足がしびれて痛い・・・」
「もう勘弁してください・・・あの、特攻係でいいですから」
「うむ、賢明な判断でヨロシー」
諦めたように2人が言うと、八尋が満足そうな表情で二人の前から離れ、カウンターに座ってカクテルを飲みだした。(はい、お約束ですがヨイ子は真似をしないよーに!)
「ふー、力を使わない説教って根気がいるネー」
「・・・・香帆ちゃんから言われたら素直に応じるお前って・・・」
「俺の全ては香帆のためにあるっ!香帆になら、足蹴にされてもいい・・・・あ、網タイツに黒いハイヒールをはいてくれたら尚更いい。香帆になら痛くても我慢できるわ」
「・・・・・・おい、八尋って前よりバカになってないか?」
「マスターもそう思うー?俺もだよ・・・香帆ちゃんに片想いし出した頃からさらにバカになっちゃってさ」
「おーい、もしもしー聞こえてマスよ?本人の前でしゃべんないでくれる。悲しくなるから!」
グチグチ言い出した八尋を無視したマスターは珍しくノックする音に驚き、玄関に声をかけた。するとそこに現れたのは・・・黄色い髪に染めている真帆だった。いや、顔は確かに真帆と同じなのだが、雰囲気は少し違っているようにも思える。
「寒い!!!マスター、悪いけれど、ホットコーヒーを一杯をもらうよ。後、八尋クンはどこかな?」
ずかずかとカウンター席に座りだした真帆によく似た男に対して、マスターと虎矢は唖然としながらもしっかりと八尋を指さしていた。そういえば、真帆が弟たちも会いに来るとか言っていたことを思い出した八尋は恐る恐る質問し出した。
「あのー、失礼ですが、志帆さんか、冴帆さんかどちらデスカー?」
「ここのコーヒーは美味いね・・・ん、八尋クンさ、今日の卵焼き美味かったみたいだね?」
「あっ、志帆さんの方でしたかー。ご丁寧に、龍野八尋デス」
「こちらこそ、改めて田城志帆です。うちの店にも何度か来てくれていたよね・・・彼女や遊び相手を連れてさ」
「ぐはっ!!」
いきなりの先制攻撃に八尋は崩れ落ちそうになるが、それで終わる志帆じゃない。ポケットからメモを取り出してイロイロ話し出した。
「えっとね・・・最後に来てくれたのが、2年7ヶ月前かなあ?その人は最後の元彼女になったみたいだけれど。後、2年半ぐらい前から香帆に片想いし出して女遊びをピタッと止めてる辺り、本気さはうかがえるけれどさぁ、女狂いの噂の方がまだまだ消えていないみたいでご愁傷さん」
「あのう、なんでそんなことに詳しい・・・」
「俺、サーベラスにいた頃、情報屋やってたんで情報集めは得意。・・・誕生日は12月5日、血液型はO型、女遊びの初経験は中1の時のナンパがきっかけ。その頃と同時に族に入隊。中3で、先代から族を引き継ぎ『鬼人族』に名を改めて再出発。ちなみに、その先代っつーのが、マスターが入っていた頃にいた族長さんね。後、好きなことが女遊びだったのが最近は読書。ちょっとこれは噂を否定するのに苦しいと思うなー。最近の趣味は香帆ウォッチング・・・香帆のバイト先を調べては時間が合う時は出来る限り迎えに行って周りをけん制している。君はストーカーで訴えられてもおかしくないよ?」
「いえ、香帆の彼氏ですカラ!!」
「・・・・・息継ぎなしで一気に言えるのすげーですね」
「ありがとう、虎矢君。君のことも調べてあるけれど聞く?」
「遠慮します」
そっと目をそらした虎矢と燃え尽きたように白い目になっている八尋。そんな2人をみながら志帆は珈琲を飲みつつ、面白そうに口を開いた。
「さて、俺からクイズをだそうか。5問のうち4問正解したら、クリスマスは邪魔しないでやるよ」
「えっ?4問・・・ですか!?」
「香帆ウォッチングが趣味なら、全問正解でもいいぐらいのところを優しくも4問にしてやるんだ。さぁ、1問目。香帆の誕生日と好きなことは?」
「はいっ! 5月14日で、血液型A型。趣味はシルバーアクセ作りと読書で、最近のブームは伊達メガネ集めです!」
「おおー、正解!!じゃ、2問目、香帆が好きな男のタイプは?」
「うっ・・・・基本的に性格重視、話が合って本のことを語り合える面白い人。後、わざわざ喧嘩とかで自分の身体を傷つけない人がいい・・・ともキキマシタ」
「正解。俺らが喧嘩ばっかりで血まみれの怪我ばかりしていたから・・・こればっかりはね」
「うう・・・骨折の時は甘い拷問をうけたし。あれはもう・・・ううっ!!」
「3問目。香帆の好きな服の傾向は?」
「えっと、カジュアル系とか清楚系が多いような気がする。ワンピースが好きみたいなカンジ?」
「・・・まぁギリギリ合格かな。4問目、今の香帆のバイト先は?」
「コンビニの店員さんっ!!制服姿が似合ってて可愛いの。裏方でポテトあげたりしてるのを見かけるけれど、真面目なところで汗を垂らしてる時、スゴイ真剣な顔でキュンってなるのー!」
「・・・うん、だれもそこまで聞いてないんだけれど、正解だね。最後の質問だ。君と付き合う前まで香帆が働いていたバイト先は?」
「え、し、知らない・・・です」
いきなりの変化球に唖然とした八尋をよそに、志帆はコーヒーを一気に飲み干した後、代金をカウンターに置いてから答えを告げた。
「だろうね。正解は、俺の店・・・『perfume』での接待係。当然、君が利用していた時にもやっていた。君の髪は目立つし、覚えやすいからすぐに目についただろうな。ま、君が香帆を覚えてなくて当然だと思うよ。ひっかえとっかえしていた彼女の胸に目を奪われていただろうしさ」
「―――うそでしょぉお!!!!!」
「あっははー揶揄い終わったから帰ろうっと。そうそう、俺はクリスマスには邪魔しないけれど、多分冴帆兄貴が邪魔すると思うよ。後、俺の作った卵焼きね、ほうれん草の他に君の嫌いなグリンピースを潰して入れてあったんだけれどよく全部食べられたね?」
「・・・・・・・・」
「あ、固まった」
「ま、クリスマスに邪魔しないのはさ、君が女遊びを止めたことと、アレを我慢していることに敬意を表してってことで。それだけは俺達全員がすごいなと思っている。あ、見送りはいらねーから。じゃあなー!」
言うだけ言って消えた志帆が扉から消えた後、八尋はふらりと倒れこんだ。マスターと虎矢は思わず手を合わせて合掌している。そりゃそうだろうな、香帆がまさか店員として働いていた上に、八尋のデート現場に何度か居合わせたこともあるとか。
「・・・八尋があそこに行くのって大抵、彼女の誕生日とか記念日でホテルへお持ち帰りパターンだっけ」
「・・・・・ああ、なるほど。そこに香帆ちゃんが店員として居合わせたんだったらいたたまれないよな。そんな男にまさか告白されるとか・・・もしや雰囲気とかに流されてとかじゃないか?」
「ああ。後から目が覚めてやっぱり別れるパターンとか?クリスマスに別れを切り出されたりしてね」
「そ、そんんあの・・・・fだあdds・・・・あーあー、とりあえず、元がつくからね、全部っ!!」
「八尋っ?!」
「・・・壊れた機械みたいになってるぞ」
「・・・・・だふぁdふぇg・・・・いやいや、別れなんか・・・ありえない・・と信じたいっ!雰囲気に流されたとかも絶対ないからっ!」
「確かハロウィンだっけ?確かに雰囲気に流されるよね。しかも、あれだ、キスしてからの告白じゃ」
「・・・明日、香帆に聞く。・・・絶対別れないけれど、過去についてはどうしよう・・・もうタイムマシンがあるなら、お店でキスとかいちゃこらしてた俺の頭ぶったたきたいぃいい」
「うっわ、それはもうアウトじゃん」
「クリスマスにその店に呼び出されて、別れ話とかなーあっはっは!!」
マスターの言葉に笑えないからぁあああと涙目になる八尋の絶叫が響いた。もちろん、八尋が次の日に速攻、香帆に対してイロイロ言い訳オンパレードだったのは言うまでもない。(しかし、香帆は面倒くさがって撫でるだけ撫でて後はスルーしていた模様)
「・・・クリスマスまでお触り禁止なので、手つなぎと頭撫でだけで我慢してくださいね」
「香帆さんっ、読書しながら興味なさそうに言わないでくださいぃいいーーーー!!」
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