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ありえない店員さんとの駆け引き
しおりを挟む最近の出来事をゲーム風に語るなら・・・
ゲーム屋の店員と知り合った!!
店員の正体は会社の社長の甥だった!
店員は敵3人を撃退した勇者にレベルアップした!
村人Aは勇者に告白されたけれど断った!
村人Aは勇者から逃亡した!
そしたら追いかけられた!
ってことになるのかなー。ちなみに、その村人Aが私ね。
そう言いながらもぐもぐと目の前で食事していた朋美は顔を引きつらせていた。
「・・・遙、あんたね。何でもゲームっぽく言えばいいってもんじゃないわよ。それに、どう聞いたって適当な説明じゃないの。」
「連絡先の交換、失敗したなって思ったわ。あれからライン結構頻繁に来るんだよね。これがゲームのレビューとか新しいゲームの紹介とかも含まれるもんでついつい見ちゃう。」
「あんた、完全に餌付けされてんじゃないの!」
「で、最後に必ず、俺と付き合ってー?ってさらりと入れてくるもんだから、気抜けないよ。さすがに恐るべしだよね。」
ようやくパスタを完食して手を合わせる遙に、思い出したように朋美が口を開いた。最近社長が変わったのでそのことについてだろうかと思っていたら、やっぱりだった。
「そういえば新しい社長も評判良くてよかったわね。」
「ああ、やっぱり長年いた佐野社長が信頼している副社長に引き継いでくれたお陰よね。佐野社長は・・・正式にマリン本社の副社長に就任なされたみたい。」
「なんか、しばらくは二足わらじでやっていらしたとか。大変そうだったけれど、やっと向こうの社長さんが認めてくれたみたいで、良かったわよね・・・奥様も妊娠されたとか。あっ、思いだしたわ、篁先輩の出産祝いのプレゼント代を代表で集めているの。あんたもちゃんと出してね。」
そう言いながら催促してくる朋美に、遙は準備してましたとばかりに封筒を差し出した。それを受け取った朋美は満足そうに鞄へとしまった。
「あんたのそういう準備万端なところは好きよ。しっかし、社長の甥も粘るわね。」
「丁度一ヶ月だよ、スゴイよね。あのマメマメシイところが付き合った後にいきなり豹変するかもしれないと思ったらとてもとても付き合う気になれない。うん、やっぱりゲームが一番だわー。」
適当に話しているが、朋美は遙の興味のなさの原因に気づいていた。まだ過去を引きずっているのだろうなと思ったが、敢えて口には出さない。男の話題が出るだけでも充分遙にとっては進歩だと朋美は知っていたから。
時間が来たので再び仕事に戻ろうと、カフェを出る。そして、終業時間まで働き終えた2人は玄関を出ようとしたところ、ロビーにいたのは・・・噂の嵐だった。
いつもと違って、ナチュラルな服装をして、眼鏡をかけている嵐の姿はぱっと見た限りじゃ無害そうに見える・・・本当に見た目で得する人っているんだなーと考えていた遙に朋美が話しかけた。
「ねぇ、あれが噂の甥の嵐クンとやら?」
「正解、朋美も目が高いね・・・・で、なんでここにいるんですか、佐野さん・・・仕事は?」
「つれないなー、嵐って呼んでよ、遙。」
「お断りです、馴れ馴れしく呼ばないでください。」
「ええー。たった一歳年下なだけでしょ・・・バイトはもともと休みで、遙を待っていたんだよね。」
「だから、何のため・・・」
訝しく思った遙の目の前に差し出されたのは、これから買いに行こうと思っていたゲームソフト。これからそのソフトを取りに行こうとしていた遙にとっては目を輝かせるほどの宝物に見えた。
「こ、これ!」
「えっへん、俺は出来る子なんで、ちゃんと遙の分も買ってきた!」
「スゴイ出来る子―お蔭でお店に行く手間省けちゃった♪じゃあ、朋美、お先にー!!」
「ちょっと待っ、待って!!なんで俺を置いてくのーー!!!しかもちゃっかり代金ピッタリ封筒にいれて放り投げてくるし!なんて用意周到な・・・!」
さっさと帰ってしまった遙を見送った朋美はため息をつき、叫びまくっている嵐に話かけた。
「佐野嵐君だよね、噂の社長の甥さん。」
「・・・そうだけれど・・・さっき、朋美と言われていたことから察するに、桐原朋美さんかな?」
「やっぱりそういうことは事前に調べてあるのね・・・そういうところも佐野社長と一緒だわ。」
「惚れた女の周辺は抜かりなく調べているし、家訓に従うためにも必要なことだったからね。気を悪くしたらごめんね、元SANO探偵事務所勤務のトッキーさん。」
「・・・ほっっんとう、佐野家の男ってこれだから・・・嫌なのよ。その様子だと、もう遙の過去も調べてあるのね?」
隠したかった過去を思いっきり調べられて不機嫌な朋美だが、嵐は動じることなく、淡々と答えている。そこにはさっきまでの無邪気さなどどこにも見えない一端の男が立っていた。
朋美はこの雰囲気を持つ人間が身近にいたお蔭ですぐに気づいた。
コレがこの目の前にいる人間の本性だと。
「前の元彼と付き合いだしたとたん、豹変されてDVを受けたっていうことぐらいは。」
「それだけ解っていれば充分よ・・・豹変する予定はあるの?」
「あははー面白いこと言うなぁ、トッキーさんはさ、良和伯父さんや秋良伯父さんのアホさ加減も部下として見てきたでしょう。それなら、佐野家の男が一途なことぐらいは解るよね・・・それとも、そんなぱっと見て解るような愚問的なことすら解らないと?」
嘲るように冷たい声で再び厭味ったらしくトッキーと呼ばれてしまった朋美は苦々しい口調で言い返した。
「・・・やっぱり佐野家の男って裏表が激しすぎて腹立たしいわ・・・遙も災難なこと。」
「あっは、大丈夫。逃がすつもりもないし、ちゃんと檻に囲んで幸せな気分のままにさせておくから。それよりも、トッキーさん、確認させて?」
「何よ。」
「そのバカな元彼ってさ、もしかしなくとも・・・この会社の中にいて、婿養子の癖にまだ3股かけてるアホな部長で、君の上司に当たる人かな?」
「よく調べたわね。そのバカ上司で間違いないわ・・・・私としてもいない方がありがたいんだけれど、意外にエリート出身プラスコネのせいで止めてくれないのよ。」
「それだけ聞けたら充分。じゃあ、今日話し合ったことは遙には内緒でヨロシク。」
「こっちだってトッキーなんて呼ばれていた過去をわざわざ自分から言う気にならないわよ!」
俺も帰るわーと手を振っていく嵐は最後の最後まで厭味ったらしかった。嵐の後ろ姿が完全に消えたのを確認した朋美は怒りで肩を震わせながら思いっきり叫んだ。
「なんであの佐野社長といい、探偵事務所の佐野事務長といい、佐野家にはろくな男がいないの!」
朋美の苦悩もつゆ知らず、遙は猫の着ぐるみを着ながら新作のゲームにいそしんでいた。と、そこに着信音が聞こえたので一旦ゲームを止めて、スマホを見れば嵐からだった。
「・・・うーん、今日ぐらいはいいか。もしもしー?」
「まさか一発で出るなんて珍しーね、遙。」
「だから名前呼びは止めてってば・・・どうしたの、佐野さん。」
「俺の誕生日、明日なんだよね。でさ、プレゼントがわりにデートしたいんだけれど?」
「前もなんか理由を付けてデートって言われたような。・・・それに、そこまであなたと親しくなった覚えはないんですが?」
「こうやって連絡を取り合い、デートもやってゲームの話題で盛り上がるぐらいなのに?」
「まだ知り合って三ヶ月しか経ってません。」
「・・・・その日さ、俺のバイト先に、今日買ったゲームの限定フィギュアが出るんだよね。」
「えっ・・・・」
「しかも、前に好きだって言っていたあのキャラの可動フィギュア。俺の店でしかつかないおまけのストラップ付き。」
「・・・待ち合わせ時間と場所はゲーム店の前で、開店時間の九時で良いわよね?」
「だーめ。そう言われると思ってとっくに俺の手元に置いてありまーす。」
「姑息な・・・!」
「ということで、デートよろ。待ち合わせは・・・遙の会社の近くにある公園で、10時に。もちろん、朝のね。あ、ゲームは夜更かしで楽しんでいいけれど、ドタキャンだけはしないで。もちろん、遅れるならちゃんと連絡すること。じゃあおやすみ~☆」
そう言い残して切れたスマホを前に、遙はやけくそでスマホをベッドに投げつけることしかできなかった。
次の日の朝、憮然とした顔で立っていた遙に嵐は苦笑いしかできなかった。
「・・・・さっすが遙だね。そうきたかー。」
と、いうのも、遙の今の姿は着ぐるみ姿だ。しかも悪目立ちする某キャラクターアライグマ。これなら、デートなぞできまいと胸を張っている。
「ふふーん。ということで、家に帰るね、さすがにこれならデートなんてする気にならないでしょ?」
「・・・あ、そういうことね。つまり、その恰好ってことは、家に招待してくれるってこと。それなら、レストランでの食事をキャンセルしても問題なさそうだな。」
「・・・えっ・・・」
「別に好きに選んでくれていいよ。その姿のままデートして予約していたレストランに行くか、遙の家に招待してくれるのか。」
けらけらと笑っているが目が笑っていないことに気づいた遙は汗ダラダラだった。しかし、着ぐるみの中はパジャマのままだし、目の前でスマホを取り出してレストランの番号を見せている嵐に対して何をいえたというのか。
「うっ・・・・」
「別にどっちでもいいよ?俺の誕生日だけれど、遙の好きな方を選ばせてあげる。でも、その恰好のままデートに行くとなると・・・周りからどう見られるのかなあ?」
「・・・・うう・・・い、家でゲームしてケーキ食べるぐらいなら。」
「充分だよ、遙♪」
遙が悔しそうに告げると、嵐はスマホで本当にレストランの予約をキャンセルしてしまった。
「だから、名前で呼ばないで・・・・本当に予約していたのね。」
「佐野家の家訓の中に、本気で落としたい女には誠実にっつー言葉がある。」
「・・・いっぺん、貴方の家の家訓を全部見てみたいわ。」
「あはは、それ、秋良伯父さんに綾乃伯母さんが同じことを言って本当に見せてもらったらしいよ。・・・心配しなくとも、俺と結婚したらちゃんと見せてあげる。」
結婚する気はないわねと言いながら遙は車に乗り込み、嵐を助手席に乗せてマンションへと向かった。よほどやり込められたのが悔しいらしい。あははと笑いながらもう何度目になるかわからない会話を今日も交わしあっていた。
「とりあえず、今日も健全にゲームして、俺が勝ったらいつものように遙を抱きしめさせて♪」
「・・・・それ、いつもと変わらないわよね?」
「大丈夫、ちゃんと変化はあるから、何しろ傍でパジャマ姿の遙を見れるもんね。」
「・・・・着替えてくる。」
「うん、こういう掛け合いが好きだからこそ、遙がいいんだよなぁ。」
楽し気にゲームを起動させた嵐に遙はなけなしのプライドを持って呟いた。
「・・・・どうせ、今日も私の勝ちになるもの、問題ないわ。」
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