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ホワイトデー(2017Ver)
たまには素直になる勇気を〔香帆編〕
しおりを挟む香帆は時にして自分が嫌になることがある。
当時は気づいていなかったけれど、後から自覚した中学生の頃の初恋とか。
彼を見つけた時に迷いながらも結局手当してしまった時とか。
高校の時にうっかり先輩に告白されたのに勢いで答えてしまった時とか。
まぁ、ほぼ恋愛方向でダメダメなことが多いのは気にしないことにしていますけれど。
気にしてしまったら、なんだかダメ女な気がして・・・嫌になるのです。
だから、忘れたことにしたいなって思っているんですけど。
ええ、逃げているって自覚はあります。
・・・・・ありますとも。
香帆はそんな誰にも言えないことを自問自答しつつ、デートの待ち合わせ場所に向かった。今日はホワイトデーということで、学校帰りではあるが、八尋と「ブロッサム」で待ち合わせの約束をしている。
以前は駅前で待ち合わせてしていたが、バレンタインデーの記憶が未だに忘れられないということもあり、強く変更を希望したところ、八尋のアジトになっている「ブロッサム」になったというわけだ。
「・・・・いますか、八尋先輩。」
そっとドアをノックしてから入ると、マスターや虎矢が挨拶を返してくれた。
「おお、久しぶりだな、香帆ちゃん。」
「あれ、香帆ちゃん? ああ、そうか、俺もだけど、八尋も学校をさぼったからこっちに来たのかな。」
「相変わらず、察しが良いですね。」
「えっへん。もっと褒めて。あっ・・・・八尋なら、地下にいるから呼んでくるねー。」
ブロッサムは、地下1階がある3階建てのお店だ。
赤レンガに蔦がはっていて、いかにもっていう感じ。地下1階が、八尋が総長を務めている鬼人族の集会場所と幹部用の部屋で、1階の奥の部屋が総長、副総長用になっている。香帆や莉里はこの部屋に入ることを許されていて、たまにこの部屋で集まってカラオケをすることもある。
ちなみに、2階はマスターの住居だと聞いているが、鬼人族のメンバー曰く、総長ですら入れてもらえない謎の住処だそうな。
香帆がカウンター越しにマスターと会話をしていると、ようやく八尋が階段を駆け上がってやってきた。いつもの香帆に合わせたナチュラル系ではなく、よく着るルード系のファッションをこなしている。基本、八尋は黒系統の服しか着ないだけに、香帆に合わせているちょっと色味があるデート服をみられる時はかなりレアと言える。(八尋曰く、香帆以外に見せる努力なんかしたくないとのこと。)
「ごめん、待たせてしまって。もーほんと、タイミング悪いよう・・・ごめんね。」
「全然大丈夫ですよ。学校の帰りという時点でもう諦めていますから。」
「うっ・・・ご、ごめん・・・。でも、バレンタインとホワイトデーだけは鬼門なんだよー!!学校にわざわざ行ってさ、何が悲しくて香帆以外では欲しくもない苦手なチョコを押し付けられて、しかもお返しを求められるって、なんだかおかしくないー?」
「・・・・・過去の自分の栄光を思い出してから、文句を言ってください。」
にっこりと微笑んで告げると、先輩のイケメンな表情がちょっと涙目になって、口調が緩む。実はこの瞬間を見るのが結構好きだったりする。
虎矢さんやマスターから話を聞く限り、この表情は滅多に見られないそうだから。
「香帆が苛めるぅ・・・・ううっ。」
「・・・それで、どうしてこちらに私を呼んだんですか?」
「あのねー、ホワイトデーのお返しを渡そうと思ったのよ。本当は授業が終わる頃に俺が学校まで行くつもりだったんだけれど、ちょっと族のゴタゴタのせいでどうしても抜けだせなくてさ。あ、帰りはちゃんとバイクで送るから安心して。」
「・・・・いろいろ忙しいなら無理しなくても良いんですよ?」
「香帆さんや、ここで無理しなきゃ俺はいつまでたっても女狂いっつー、不名誉な称号がついてまわるんですよ・・・ここぞという時にいいとこ見せておかないといけないというね・・・。」
香帆は両手で顔を覆った八尋を見て失礼なことを考えてしまった。先輩は先輩なりにちゃんと考えていたんだなと。
感心していると、八尋がじっと香帆を見つめていた。それにきょとんとした香帆は首を傾げて聞いた。
「どうしたんですか、八尋先輩?」
「香帆が今考えてたこと、当てようか・・・絶対、俺がちゃんと考えてることが意外だってびっくりしてたんでしょ?」
「・・・八尋先輩、そろそろ渡したいんですけれど?ここじゃ、マスターさんや虎矢さんもにやにやと見てますし。」
「あ。そうやって、話を逸らすんだ・・・本当に、志帆さんの言った通りだねー。」
(ここで志帆お兄ちゃんの名前が出てくるとは意外ですよ・・・!)
そう思いながらも決して口に出さない。もちろん、顔にも出さない。香帆は微笑みを見せながら八尋の隣に移動した。何かを言いかけた八尋だったが、結局何も言わず、奥の部屋へと香帆を連れて移動した。
香帆は八尋が座った席の隣に腰かけた。八尋が椅子の下から何かを取り出し、それを渡してきた。その何かがバレンタインのお返しということだろう。
香帆がその箱を受け取ってお礼を言うと、八尋は補足とばかりに口を開いた。
「それ、家で開けてね~。さすがにここでは恥ずかしいからっ。後、もう一つお願いが・・・。」
「はい?」
「ほら、前に追いかけっこした時にゲーム屋で働いていた香帆の従兄さんを巻き込んだっしょ。迷惑をかけたお詫びの品を渡してほしいんですヨー。」
「え、嵐ちゃんに、ですか。」
「そそー。志帆さんとかと相談して、やっぱり渡したほうが精神的に安全だと思えるかなって。」
「ああ・・うん、嵐ちゃんは敵にまわると怖いですから・・・。」
八尋の言うことを最もだと思った香帆は快く受け取った。
「よろしく。・・・ごめんね、必ず埋め合わせはするからぁーーー!!」
そう言いながら抱きついてきた八尋の頭を撫でて、香帆は大丈夫とばかりに笑った。
「大丈夫です、元々期待していませんから。」
「香帆さんや、最近はっきり言うようになってきてるよねっー!?」
「冗談です・・・また図書館に付き合ってくれたらそれでいいです。」
「・・・・落としてから持ち上げるとは・・・香帆、やっぱり小悪魔ちゃんになってるよね・・・でも、でも、そんな香帆もかわいいからいいのー!!」
(・・・・やっぱり、この人の目おかしくなっているよね・・・。今までの彼女さんと比べたら全然私なんて美人でもないし、可愛くないと思うんだけれどな・・・うん、やっぱり変な人。)
八尋はそういいながら香帆の頬にキスしてからぎゅーと抱きしめた。抱きしめられた香帆は困惑したが、とりあえず、八尋の頬をつねってから、店を出た。当の八尋が頬をさすりながら、慌てて追いかけたことは言うまでもない。
「着いたよ~、香帆。」
「ありがとうございます、八尋先輩。」
「・・・うん、ああ、やっぱり香帆は可愛いよね。」
「八尋先輩・・・どいてくれないと、降りられないです。」
「大丈夫、受け止めてあげるからー!!」
そういいながら八尋が腕を広げたので、香帆は困惑しつつも、そっと八尋に向かって手を伸ばした。すると、八尋は嬉しそうに香帆を抱き上げて地面におろしてくれた。
「やっぱり付き合うと、こういうことが出来ていいよねー。ハロウィンの時もやりたかったんだけれど、さすがに不審がられるから自重してたんだよね♪」
「・・・・やっぱり、頭壊れてるんじゃないですか。」
「そこまで壊れてないつもりだけれど、香帆が可愛いから仕方がないよねー。」
「・・・話が通じなくなるのは困るのでほどほどでお願いします。あと、眼科に行った方がいいですよ。」
「香帆、好きだよ。大好き。だからこそ、言うよ?もっと自信を持ってほしいなぁ。」
八尋の真顔に目を丸くしながらも、彼の言いたいことを理解した香帆は困った表情になった。
(時々、先輩は意図せずに鋭いことを言うんですよね・・・)
「先輩、自信を持てと言われても、すぐには答えられませんよ。」
「うーん、自信のない香帆も震えている子猫みたいで可愛いけれど、俺を捕まえたんだから、堂々と俺の彼女だって誇ってほしいなと思うんだけれど。」
「・・・・女狂いの総長さんに首輪をつけたくないです。」
「いやいや、首輪ならもうついているからねー?!みてよ、香帆からもらったモノばっかりでしょ~。」
ドヤ顔で八尋が耳や胸元を指さしている。確かに八尋は、今までにもイヤーカフやピアス、ペンタントをプレゼントしており、今も、嬉々としてそれを身に着けてくれていた。
(・・・不思議なものよね。最初は友人の姉の彼氏。次は兄の店の客。その次は先輩。)
出会いは偶然だと思っている。
でも・・・向こうは覚えてなかったのに、こっちはなぜか覚えていて。
その一方的な記憶で見ていた私がまさかの告白を受けることになるとは、過去の私が聞いたらびっくりしそうな話だなと思う。
(ましてや、この女狂いって言われていた人がこんな風になるなんてきっと誰も信じない。)
かつてみた蛍光のピンクに染まった髪をした先輩を思い出すと、笑いがこみ上げてくるのだから不思議なものだ。
いきなり笑い出した香帆に首を傾げた八尋。訳がわからないという表情をしている八尋に気づいた香帆は口元を隠しながら声に出した。
「確かに、私には自信なんてまったくありません。でも先輩が私のために変わってくれたっていうことは信じられます・・・だから、今だけ、素直になってあげます。」
未だに自信なんて持つことできない私だけれど、目に見えることは信じられるんですよ。
先輩の変化と、環境の変化。
先輩と出会って、私も少しずつ変わってきていることは解ります。
これからもきっと悩むんでしょう。
きっと先輩の行動に一喜一憂して、不安になることもあるでしょう。
それでも、この気持ちは止められません。
どうしても、捨てられないんです。
だから、今だけ、素直にならせてください。
「・・・大好きだよ、八尋。」
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