企画小説(コラボ編)

巴月のん

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バレンタインデー(2017Ver)

男どものバレンタインデー後日談(3)〔ココアと嵐編〕

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隆久は亜美と一緒に珍しくゲームショップに寄っていた。亜美がDVDのレンタルをしたいというので、レンタルもできるゲームショップに入った。

「いろいろ迷うなぁ・・・ミルク、少し見ているから適当にしてて?」
「了解、ゲームの方をちょっと見てくるよ、ココア。」

もうあだ名については諦めた。なけなしのプライドをかけて、あっちがあだ名で来る時はこっちもあだ名で返すということでなんとか理性を保っている。
亜美もそれについては異論はないらしく気にした様子はない。
・・・ちょっぴり理不尽だと思ったが、隆久は敢えて口に出さなかった。
と、その時、隆久の目の前で着ぐるみを着ていた人が商品をいくつか落としてしまったらしく、慌てふためていた。

「あっあああ、うー、私の馬鹿ぁ・・・・」
「・・・手伝いますよ。」
「あ、すみません・・・うぅ・・・。」

黄色い耳がぴょこぴょこ揺れる。何枚かのソフトを渡そうと向かい合うと、黄色い某ポケモンキャラのだと解った。ついでに、美人な女性であることにも気づいた。隆久が目を丸くしていると女性の方がにこにことお礼を言っている。

「助かりました。ありがとうございます。」
「いえいえ。その着ぐるみ、可愛いですね・・・好きなんですか、そのキャラが。」
「え、ああ、これですか!ありがとうございますー。いえ、好き云々ではなく、実用性を求めて着ているんで、キャラにこだわりはないですね。」
「ああ、そうなんですか・・・。」

不思議なことを言うなと内心で驚いていると、店員が近寄ってきた。どうやら、女性と知り合いらしい。

「遙、どうしたんだ?なんか音が聞こえたが・・・。」
「嵐君。なんでもないの、ソフトを落としてしまってね。でも、彼が拾うのを手伝ってくれたの。」
「ああ、そう。・・・・それならいいや。」
「心配症だなぁ。ソフトは見本だから大丈夫でしょ。ケースも傷ついていないからね!」
「・・・いや、俺は遙を心配したんだが・・・・。」
「なぜ?」

隆久は2人のやり取りを見て、ああ・・・・この人で確定だなと脳内で木槌を鳴らした。
店員の名札からしても、この男前な店員が佐野嵐で、こちらの女性が手紙にあったという大事な人なのだろうと推察できた。
佐野という人は確かに、総長が言うように男前だった。服はエプロンで隠れているけど、なんていうか・・・ぱっと見は、キレカジ系の服で、黒縁の眼鏡をアクセントにしているカンジ?・・・角度からしてレンズは入っていないように見えることから、伊達メガネなんだろうけど。
まさか昨日聞いた手紙の差出人をここで見つけるとは思わなかったので、隆久は思わず本人を前につぶやいてしまった。

「・・・・まさか、こんなところで見つけるとは・・・・まぁ確かにここらへんでゲームショップっていったらここしかないけどさ。」
「・・・・・は?」
「どうしたのかな、えっと・・・?」
「ああ、すみません・・・あの、佐野さの・・・あらしさんですよね。」
「・・・・そう、だけど。一体、なんで俺を?・・・・知り合いじゃないよね?」
「ああ、それについてはこれから説明を・・・」

気まずいながらも、会った以上はつなぎをとっておきたいと思い、少し話をしようとするが、亜美の声によって阻まれた。しかもあだ名のせいでその場の雰囲気が台無しだ。

「お待たせー、今終わったよ・・・ってどうしたの、ミルク?」
「だから、ミルクって呼ぶなっつーの!!!人前でぐらいせめて名前で呼んでくれっ!!」
「ああ、ごめんごめん、隆久。」
「ったく・・・亜美、佐野さんと少し話をしたいからちょっと待っていてくれ。直ぐに終わるから。あ、そちらのえっと・・・・?」
「あ、苑宮遙そのみやはるかです。」
「ちょっと待って?はる、遙、なんで、知らない人なのに名前を教えてんの?俺の時はめちゃくちゃ警戒していたのに!?」
「だって、この子、亜美ちゃんの知りあいみたいだし、変な子じゃなさそうだし。ねー、亜美ちゃん。」
「うん、私の彼氏だからね♪」

・・・・嵐も隆久もあっけにとられた。話を聞くに、どうやらこのゲームショップで何度か会ううちに知り合いになったそうだ。ゲームセンターでもよく会うということで、けっこう仲がいい様子。
というか、ナチュラルに彼氏扱いされたと内心で隆久は嬉しく思った。・・・・顔には出さないけど。
ともかくも、まさかの女性陣に繋がりがあるという事実に、隆久も嵐も呆気にとられた。

「・・・まさかの縁。」
「本当にな・・・」

ともかくも、女性陣が知りあいなら少しぐらいは問題ないかと少し話をしてもらい、男性陣で一目のつかないところへ行って会話をすることにした。

「・・・・・・で、君は一体誰?」
「突然、申し訳ありません。自分だけ貴方のことを知っているのもフェアじゃないと思ったので。改めて、|田(た)|見(み)隆久と言います。・・・一応、鬼人族の総長の知人というか、まぁ・・・。本当にたまたまなんですが、総長が貴方からの手紙を見ている時に居合わせてしまいました。」
「・・・ああ、納得。」

先ほどまで遙という女性に向けていた優しげな顔を一気に冷めた表情に変えていることからこちらが本性なんだろう。づくづく、自分の周りは二面性を持っている人の方が多いな・・・と思ってしまう。まぁ、自分もその一人だから何もいえないけど。

「ええ。こっち側だけ知っているっていうのもなんだかなと思ったんで、一応ご挨拶をと思っただけです。あ、最初から貴方を探しに来たわけじゃないので、そこは誤解しないでもらえますか。」
「うん、それについては君らの様子を見て解っているよ。あのさ、あの八尋っていう男は・・・手紙を見てどういう反応をしていたの?」
「屍になっていましたよ。手紙を読む前に志帆さんからもお仕置きされていたところへ手紙でトドメを刺された!ってカンジでした。」
「ちっ、それ、俺もリアルタイムで見てみたかったな・・・残念。」
「志帆さんから貴方のことも聞いています。もちろん、貴方のことを誰かに言うつもりもありません。・・・俺自身、彼女にばらされたくないことはたくさんあるんで。」
「・・・君は素直だなぁ。田見隆久・・・ね・・・ちょい、待って。」
「はい?」

嵐はポケットから携帯を取り出し、何か操作をし始めた。疑問に思いつつも、隆久が少し待っていると、嵐がああーというように声を出した。

「なるほどね、鬼人族の元特攻隊長っていう縁で、あの男と知りあいなんだ。」
「・・・もう、調べたんですか。」
「親が離婚したのと同時に高校進学ってことで、鬼人族を引退したの?」
「そんなところです・・・あの、俺が鬼人族にいたってことと不良だったことは、亜美には黙っていてもらえますか。」
「ああ、あの子は何も知らないってことね・・・君には特に恨みもないからこれ以上は詮索しないよ。」
「ありがとうございます。」
「・・・なんだかなー。君さ、高校生の割には丁寧過ぎ。ま、俺も遙に対して余計なことを言ってほしくないから、こうやって内密にっていうのはありがたいけど。」
「・・・苑宮さん、でしたよね。彼女を大事にしたいのなら、恋愛については慎重に距離を縮めたほうがいいと思います。」
「なんでそう思う?」
「・・・彼女の着ぐるみは、心のバリケードがわりだと感じましたし・・・あの・・・・は・・・。いや、すみません。余計なことを詮索してしまって。とにかく彼女には支えが必要だと思います。・・・・失礼します。突然申し訳ありませんでした。」

隆久はこれ以上は言えないと口を噤み、頭を下げて亜美の所へと歩いていった。嵐は目を丸くしながらも、違和感を感じていた。

「田見隆久・・・ね、あの女狂いと関わるのは癪だと思ったが・・・。」

どうやら、関りを断つにはもったいない相手のようだと、嵐はため息をつき、自分もまた遙の所へ行くために店の中へ戻った。

「また遊ぼうねー♪」
「はい、苑宮さん、さようなら♪」
「・・・・では失礼します。」
「隆久君だっけ。またお店に寄ったらよろしくな。」
「・・・・・はい。」

お辞儀をして店の入り口で見送ってくれている2人から離れて駅の方へと向かっていく。隆久は微妙な顔をしながらも、スマホを眺めていた。まさか、別れ際にラインのID交換をしようと言われるとは思わなかった。拒否したかったが、亜美の手前断れなくて、結局ラインの友人リストに嵐の名前が載ることになった。
考えていても仕方がないとスマホをポケットに入れた後、亜美に話しかけた。

「それにしても・・・亜美、苑宮さんとよく仲良くなれたな?お前もだけど、あの人も人見知りするタイプのように思うんだが。」
「うん。そうなんだけど・・・あの人、似ていたからほっておけなくて。」
「・・・そっか。」
「うん・・・初めて、苑宮さんを見た時、重なったんだよね・・・昔の隆久と。」
「・・・・・・だろうね、俺もそう思ったよ。」
「今の、お母さん・・・優しくてよかったよね。」
「本当に、頭が上がらないんだ。こんな・・・血の繋がりもないのに、俺を息子だって誇ってくれる。そんな母さんと出会えたことと、亜美がいてくれたから、今の俺がここにいられる。」
「あたしは何もしてないよー。」
「・・・・・いいや、亜美は凄いことをしたよ。一匹の獣を人間にしてくれたしな。」

隆久が笑いながら言うと、亜美は背伸びして隆久の頭を撫でだした。いきなり撫でられたことにびっくりしたが、照れもあって少し顔を逸らしてしまった。

「ん、ミルクは本当にいい子だよね。」
「だから、お前はなんでそう、イイところで落とすんだよっ!!!わざとか、わざとなんだろう!?」
「あっ・・・ごめん、つい癖で☆」
「嘘つけぇえええっ!!・・・・あっ、逃げるな、コラ!」
「あははっ・・・・・・こっち、こっちだよ、ミルクー。」
「だから、ミルクって言うなっつーの!」


テヘペロしながら駆け足で逃げようとした亜美を追いかけて隆久もまた走り出した。



バイトを終えた嵐は久々に自分の部屋へと向かっていた。真っ先に調べたい情報があったから、遙へのマンションに行きたいのを堪えて帰っていたのだ。
調べ終えた時、嵐は自分一人しかいない空間で眉間に皺を寄せて呟いた。

「・・・龍野八尋、虎矢隆、それに、田見隆久か。香帆はなんていう繋がりを持ってきたんだ・・・ここまで・・・・闇を抱えている厄介な人間が揃っているってなかなかないことだぞ・・・。」


パソコンの画面に出たデータを閉じた時、嵐は重いため息を一つ吐いた。



「・・・幸いなのは、それぞれ支えとなる彼女がいるってところだろうね。まぁ、俺も人のことは言えないけれどさ。」




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