企画小説(コラボ編)

巴月のん

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バレンタインデー(2017Ver)

男どものバレンタインデー後日談(1)〔八尋&ココア編〕

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いろいろいろいろと、八尋にとっては災難だったバレンタインデーが終わった翌日、ブロッサムでは盛大な喧嘩が繰り広げられていた。

ドカッ、バキッ、ドォンッ!!!

ブロッサムにて、破壊音とともに煙が吹っ飛んだのは久々だなと思いつつ、マスターは現実逃避していた。だが、店の破壊を止めようとしない獣が2匹・・・・いや、獣なんてかわいいもんじゃない。
まさしくあいつらの名前の通り「虎」と「龍」が目の前にいる。
しかも、この店どころか地域一帯では1・2を争う暴走族の総長と副総長。この二人の本気のケンカを止められる人間がいようか、いや、いまい・・・。

「大体、お前があんなことをSNSにあげなかったら、香帆に怒られることもなかったんだぞ?!」
「うっせー、お前がデートデートうるさいから支援してやっただけだ!」
「そういうのは余計なお世話ってんだよ!しかも、個人情報を軽々とネットに晒しやがって!」
「お前の女性問題の処理を頑張ってしてやったにも関わらず、その言い草はなんだよ!」
「それについては感謝している、ああ、しているが、それとこれは別問題だろうがッ!」

おろおろしている部下をよそに、虎矢と八尋はお互い攻防戦を繰り広げていた。お互いに繰り出した拳をつかみ合い、じりじりと隙を狙いあっている。

マスターは眉間に皺をよせつつ、電卓を片手に被害総額を計算していた。どうせ、あの2人のことだ、軽く払ってくるだろうが・・・。
と、そんな時だった、めずらしい客がやってきたのは。

「・・おう、こりゃ珍しい客だな、隆久たかひさ。」
「久しぶり。・・・えっと、取り込み中?」
「総長と副総長はな。幹部を含めて他の奴らは止められないから見物するしかない状態だ。」
「・・・・わかりましたよ、止めればいいんでしょう、止めれば。」

マスターが言外に止めてくれと言いたげな表情に苦笑した隆久はマフラーとコートを外して、喧嘩している2人の所へ向かった。
おろおろしている部下達が隆久を見ては道を譲っていく。隆久を見知っている幹部達を中心に一気にざわめきが広がった。

「隆久だ・・・めちゃくちゃ久しぶりじゃねぇか・・・。」
「お、久々に来たぞ、元特攻隊長。」
「え、誰だよ、知らねぇやつなんだが。」
「なんか、幹部の隊長たちが一斉に頭をさげてるんだが、スゲーのか?」
「ああ、お前らは最近来たばかりだったか。この鬼人族がまだ新参だった頃にいた元仲間だ。高校の受験を機に暴走族を引退した、元特攻隊長、田見隆久。総長や副総長の覚えも良くて強さも折り紙付きだ。あいつは年下だが、幹部達が頭を下げるのも当然だ。何しろ、過去に唯一、あの2人のケンカを止めることができた人間だからな。」
「・・・おいおい、スゲーな。」

ざわつく周りを余所に、隆久は机にあった数本のビール缶を掴んで宙に向かって放り投げて、次々と蹴り上げた。真っ青になる新参の部下、久々のパフォーマンスに盛り上がっている仲間、問題ないとばかりに頷いているだけの幹部達。彼らの目の前で空缶は見事に副総長や総長の頭に命中し、蹴り上げた際にできた穴から一気に噴き出たビールが2人をびしょ濡れにした。

「うわっ。いきなり何をしやが・・・・・って、隆久!?」
「この匂い・・・もしかしてビール?・・・・・うっげぇ・・・。」
「お久しぶりです、虎矢先輩、龍野先輩。喧嘩はそろそろしまいにした方がいいですよ。ほら、周りを見て空気を読んでくれませんか?」
「・・・・一時中断だ。いいな、隆。」
「しょうがないね・・・隆久に免じて引くよ。」
「あぁ?そりゃ、こっちのセリフだ、このバカが。」

渋々とお互いの拳を引いた2人だが口喧嘩は未だ収まらない。それでも、ようやくブロッサムでの破壊行為は止まったのでマスターとしてはよしとしたい。顔を引きつらせたマスターはその場にいた全員に片付けろと指示しつつ、八尋と虎矢に目を向けた。

「とりあえず、お前ら・・・綺麗に片付けろ。おい、隆と八尋にはしっかりと請求しておくからな。」
「・・・ちっ、隆。」
「解ってる。親父に頼んで弁償金を振り込んでおく。」
「で、隆久はどうしてここに?」
「・・その前に・・・龍野先輩、いつから髪の毛を染めたんですか?前のど派手ピンク頭は・・・・。」

目を見張って驚いている隆久の様子からして、八尋を見た時から気になっていたようだ。八尋はああ、と思い当たったように経緯を説明した。隆久は顔を引きつらせながら、もしやと思いつつ、八尋へ質問した。

「も、もしかして・・・昨日、駅前にいませんでしたか?なんか、先輩によく似たカップルがいたんですけど。」
「なんだ、お前もあの群がる群衆の中にいたのか。」
「うわぁ・・・公衆の面前で濃厚なディープキスをかましていた人がまさかの知りあいとか・・・・亜美に顔向けできない・・・。」

カウンターに座りつつ、がっくりと項垂れた隆久はため息をついた。珍しく女の名前が出てきたことに驚いた虎矢がビールでベタベタになった髪の毛をタオルで拭きながら質問した。

「亜美って誰なのかな?」
「中学校の時からの幼馴染で、最近やっと付き合い出した彼女です。あ、一般人ですからね?」
「ってことは、香帆と同じで暴走族に縁のない子だってことだよね。・・・俺、香帆と出会ってから真面目にカップルの付き合い方とか大切さとか学んでさ、過去の俺の馬鹿さ加減を思い知ってるとこだヨー。」
「・・・・先輩、口調まで変わってませんか?なんか、間延びしてるというか・・・」
「香帆が怖がるといけないから、最近はこんな感じの口調を意識してる。さすがに喧嘩してる時は本性がでてしまうけどネー。それより、香帆の写真を見てー!!めっちゃ可愛いデショ、色白でしょ?美人さんでしょ?ほらほら、この猫耳のイヤーマフを付けた時のやつなんか可愛いと思わない?」

へらりと顔を崩して惚気ている八尋はとても隆久が知る総長の姿とはかけ離れていた。それでも、本性という言葉が出たあたりで、隆久はちょっとほっとしていた。こういう所はやっぱり総長らしいと思いつつ、隆久はブロッサムでの会話を久しぶりに楽しんでいた。

「・・・・(本性・・・・自覚あったのか、この人。)ってことは、この香帆さんがあの時にキスされた気の毒な方・・・?うっわ・・・かわいそう。あれじゃ、もう彼女は駅前に行けませんよ?」
「学校も家も駅前から離れているし、あまり使う機会もないだろうから問題ないと思うけれど?」
「いやいや、そういう問題じゃないんですってば。相変わらずどっかズレてますね。そういえば、昨日はあの後どうなったんですか?」

ドライヤーで髪を乾かし終えた八尋はカウンターにあったメロンソーダを飲み干してから、眉間に皺をよせつつ、話し出した。隣にいた虎矢も心外とばかりにため息をついているが、八尋はスルーしている。

「ああ、そのことでこのバカと喧嘩してたの。俺ね、香帆とデートで待ち合わせをしていたのよ。で、それをどっからか嗅ぎつけたのか、5人ぐらいのウザい女がやってきて、香帆をバカにしたのー。その中の女の一人が、香帆に向かって、『あんたなんか男の誰も相手にしないし、濃厚なキスだって絶対にされたことないでしょう?かわいそうな子だわぁ。』ってイヤミを言ってきたんで、むかついたわけ。」
「あ、もしかして、その流れでキスを?」
「そーよ。でも、唇があまりにも柔らかいからついついのめり込んでしまって。香帆に超怒られた。ううー、もっと味わいたかったよう・・・あの柔らかなピンクの唇・・・うあ、思いだしただけで泣ける。」
「でも、虎矢先輩とのケンカに繋がる理由が解らないんですが・・・?」
「女どもが群がった原因はこいつがSNSのサークルみたいなところを作って、俺と香帆の待ち合わせ場所と時間を暴露しちゃったせい。しかも会員は自動登録形式!おかしくない―?」
「・・・・・納得しました。あのキーキーとうるさく騒いでいたのが、八尋先輩の元彼女とか過去の遊び相手だったわけですね。」
「そういうことねー。まぁ、もう今後は俺達の前には現れないと思うけど・・・本当に香帆の怒りを鎮めるのが大変だったよ。」

納得しましたとばかりに隆久が頷いていると、ドンっと店の入り口のドアが盛大な音と共に、倒れ落ちた。・・・まるで誰かが蹴ったみたいに。音のでかさで一斉に誰もが入り口に注目する。そこから出てきたのは、香帆の兄の一人である志帆だった。
怒り狂っている様子を見せている志帆に対して、びっくりした八尋が口に出した言葉は至極当然の疑問だった。

「・・・・・・八尋クン・・・・いるよなぁああああああ?」
「真帆さん?志帆さん?どっちなの―――――ひぃいい!!!?????」
「・・・・シェフの方だって言ったら解るよな、八尋クン?」
「志帆さん、仕事はーっ?」
「一大事の前に仕事なんぞやってられるか!」
「ちょ、しめ、締めないでぇええええ!!」

悲鳴をあげた八尋の隣で、隆久がこそこそと虎矢に話しかけていた。虎矢も虎矢で冷や汗をたらしていることから只者ではないと感じ取ったのだろう。

「・・・誰、デスカ、あの龍野先輩が怯えるだなんて、相当な人ですよね?」
「あの元『サーベラス』の総長(の一人)だからね・・・八尋が怯えるのも当然だと思うよ・・・ちなみに、三つ子だから、誰が誰だか区別がつかない。」
「はぁっ?なんで、そんなすごい族の人と知り合いになってるんですか????」
「八尋の彼女のお兄さんにあたる人達なんだよ。」

遠い目で真実を告げた虎矢に隆久は思わず叫んでいた。


「・・・つまりその超有名な族長の妹に手を出してあまつさえ、公衆の面前でキスとか!」


隆久の言葉が聞こえたのと同時に、八尋の口から再び悲鳴が漏れた。

「やっぱりお前か、お前だったか・・・・・公衆の面前で人の可愛い大事な妹にディープキスをかましたあげく、いとこにまで難癖つけやがって、こんの女狂いがっ!!!」

・・・・我らが鬼人族の総長がまさか、サーベラスの総長の一人にプロレス技をかけられて悲鳴をあげてるとか、部下としてはいたたまれないのではなかろうか。
恐怖で震えている部下達も多いが、幹部や隆久、虎矢は固まって乾いた笑いを浮かべることしかできない。

「ちょ、ちょっととめ、止めて・・・いた、いいいたあっ!!!」
「問答無用、お前にお仕置きせずしてこの怒りを収められるかってんだ!」

ギリギリとさらにきつくスピニング・トーホールドをかました志帆の下で八尋は絶叫をあげた。




「香帆ならどんなことされても嬉しいけど、男にお仕置きされるのはまっぴらゴメンだよーっ!!」




その場にいた志帆以外の全員が八尋を見放したことは言うまでもない。



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