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バレンタインデー(2017Ver)
ハッピーバレンタイン〔嵐&遥編〕
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※なろうの方にのせていた過去のイベント小説です。3話形式の続き物
今日は機嫌がいいからと、黄色いクマの着ぐるみを着ていつものゲーム店に来てソフトを選んでいた遙は珍しい光景を見た。
あの嵐が珍しく疲れた表情を見せている上に、言い争っている男女の学生2人に挟まれている形で立ち尽くしている・・・。
思わず近寄って声をかけてしまったのは、きっとこの時の嵐の目が胡乱な目に同情してしまったからだろう。
「珍しいなぁ・・・ねぇ、何やってんの、嵐君。」
「あっ、遙・・・これまたスゴイ着ぐるみで。」
げっそりとした嵐は遙を見るなり、うわぁと驚いている表情を見せた。ディズニーのキャラの何が悪いのか解らない遙は眉間に皺を寄せつつ、ふと思い当った。
「失礼な・・・って、この様子からして・・・もしかして三角関係っ!?わ、やだ・・・・スゴイね、嵐君も隅に置けないな・・・ってことは、え、もしかして、彼女がいるのに私を口説いていたの・・・うわ、最低っ・・・・・・・。」
(そうだよ、私としたことが!見た所、年齢も近そうだし、恋愛のもつれって考える方が自然だよね。ってことは、やっぱり・・・私に対してはからかってきていたってことかぁ。)
思考の渦に飲まれるとそうとしか思えなくなるから不思議だ。もやもやとした気分が沸き上がり、思わず嵐から離れるように一歩二歩と下がってしまう。
買おうと思っていたソフトももう買う気に慣れず、棚の列へと戻し、入り口の方へと向かった。
「違うっ、違うから、違うから!!遙、待って、そんな目で逃げないで!俺は無実だから!二股とかそんなんじゃないし、違う違う、大マジで!」
(男の言い訳って、ワンパターンなんだね。漫画とかでみたのとほぼ一緒じゃないの。)
嵐が言い訳をするように言ってきているが、遙としては疑ってしまう。焦っている嵐と、カップルらしき2人をちらっと見た後、ダッシュで店を出た。
少し走ってから、立ち止まって後ろを見てみるが、追いかけてくる気配はない。ほっとしつつも、少し複雑な思いにかかれる。とりあえず、息を整えてゆっくりと家に向かって歩き出した。
(・・・・はぁ、かわいい子だったなぁ。制服からして2人とも高校生だよね。あれ、嵐君って・・・大学生なのかな、それとも留年とかで高校生とか?バイトも夕方からできるし、やっぱり謎だな、嵐君って・・・。ちぇ、あの様子じゃ、今日は無理っぽそうだなぁ。)
うーんと腕を組んでいると後ろからいきなり手が伸びて抱きしめられた。驚いて後ろを振り返ると、息を切らせた嵐が立っていた。
「・・っ・・・はぁ・・・・さが、したよ、遙。」
「あ、あれ・・・?あの子達は?」
「あんな従妹、知るか。勝手に痴話げんかしてろってんだ。」
「・・・・・従妹?」
「うう・・・ちょっと待ってくれ、息が・・・・。」
嵐は息を整えようとするも、遙を手放す気配がない。遙は抱きしめてきた腕の感触に困惑しつつも、自分で振り払う気に慣れずこれまた悩んでいた。
(うーん・・・どうしようか、これ・・・結構きついけれど・・・なんでか、振り払えない。)
「うわっ・・・・ど、どうしたの?」
「ここでこうやっていても埒があかないからとりあえず、遙の家に行こう。」
「え?で、でも、バイトは大丈夫なの?」
「・・・・ああ、今日はもう終わっていいって言われたから問題ない。」
「え、えええ、そんな緩いバイトなの、あそこ・・・って、痛い、痛いっ、このまま行くつもり?!」
「逃げられちゃ困るからな。」
「逃げない、逃げないってばぁあああ!!!」
ずるずると引きずられながらも遙は混乱しながら質問したが、当の嵐は質問に気づいていながらもスルーしていたため、結局答えは有耶無耶になった。
そんなこんなで遙の家に着いた時にはもう二人ともぐったりと疲れている状態だった。
「うう、暑い・・・・コレ、脱ごうっと。」
遙が着ぐるみのボタンを外そうとすると、嵐が、抱きしめていた腕で今度はボタンに手をかけ始めた。
「ちょ、ちょっと何やってるのー!?」
「いいじゃん、ボタンぐらい外せる・・・どうせ、下はルームウェアを着てるんだろう?なら、恥ずかしいコトなんかないだろ。」
「む・・・・まあ、そうだけれどさ。」
嵐がボタンを全部外してくれたため、遙は着ぐるみを脱ぎ捨てるだけでよかった。床に落ちた着ぐるみをソファーへと放り投げた遙は冷蔵庫からお茶を取り出し、グラス2つに注ぎ、嵐に渡した。
「はい。」
「サンキュ。で、弁解の続きな。女の子の方が田城香帆っていうんだけれど、俺の母方のいとこ。|男(ヤツ)の方は知らん。多分彼氏なんだろうがな。」
「いとこ・・・もしかして、親戚づきあいが深い家なの?」
「会社の関係もあって助け合いが必要っつーことでね。ここ数年は年始年末しか全員集合できる場がないけれど、香帆とその兄貴達とは年が近いんで・・・まぁ、わりとよく遊ぶし仲がいい方だな。」
(なんだ・・・いとこだったんだ・・・そうか、そうなんだ・・・・。)
何故か胸で感じていたもやもやが一気に晴れたが、その原因を考えることを本能で拒否したらしい遙はすっきりとしたとばかりにテレビの方へと向かっていった。嵐はそんな遙に気づくことなくペラペラと話を続けていた。
「だから、誤解しないでくれよ。俺は遙しか見ていないし・・・って何でしれっとゲームを起動させてんのー!?俺の話をちゃんと聞いてた?」
「うん、もうどうでもよくなった。」
「ちょっとは俺に興味を持ってよ・・・やきもちぐらい、妬いて欲しいなぁ。」
「え、なんで?」
「・・・・今、めっちゃ本気で傷ついたよ!落ち込んでるよ、ああもー遙はもうSなんだからっ!」
嵐が気づいた時にはすでにゲームのオープニング画面を終わらせていたところだった。ちなみにゲームソフトは新作の某ファンタジーなんたらだったりする。それを見た嵐はあきれ顔ながらも、遙の隣に座りだした。
「って・・・これ、一昨日出たばかりの新作だよな?」
「そうだよ。」
「・・・もしかして別の店で買った?」
「ううん、インターネットで注文した・・・初回特典が欲しかったんだよね。」
「ああ・・・そっち目当てか、そりゃ、俺の店で買わないわな。・・・(特典は盲点だったな。)」
遙がフィギュアを集めるのが趣味なことも知っているので嵐は遠い目になりながらも納得した顔を見せた。とその時、遙が思い立ったように、冷蔵庫を指さした。
(・・・・一緒に食べる分には丁度よいかなぁ。)
「嵐君、お腹がすいたから冷蔵庫からおやつ持ってきて。白い箱に入ってるヤツ。」
「遙って、俺に気を許してないのか許してるのか時々解らなくなる・・・・まぁいいか、了解。」
ついでだから皿とフォークも出すと言って立ち上がった嵐をちらっと眺めた後、遙は再びゲームに戻った。嵐はというと、皿とフォークを出した後、冷蔵庫から白い箱を取り出した。その時、台所から何故か悲鳴が聞こえたが遙は無視した。
(ま、嵐君ならいいか・・・って思える自分はそうとう彼にほだされてるんだろうなぁ。)
遙はふと、ルームウェアの袖から見えた手首の傷を眺めながら苦々しい顔になった。
思いだしたくもない過去。
あの男につけられた大量の傷は大半が消えたものの、未だに残る痕もある。
・・・今は冬だからまだいい。でも、夏は嫌いだ。あちこちにある痕を見れば嫌でも思いだす。
流されてばっかりだった情けない自分を。彼に盲目になっていた頃の愚かな自分を。
もうあんな思いはしたくない。
だから、彼なんかもういらない・・・最低な男なんて必要ない。
恋愛なんて、幻想だ。
独占欲や支配欲を綺麗事で済ませたのが恋愛感情。そして、愛情は一瞬で憎しみに変わることをあの人が教えてくれた。
目を瞑っていると、また後ろから抱きしめられた。相手はもう解りきっていたので、呆れながらも目を開けて眉間に皺を寄せた。
「・・・・うっとうしいから離れてくれるかな、嵐君。」
「だって、これ、チョコケーキだよな。完全にバレンタイン狙いじゃん!そうだよね?」
「うん、自分用のチョコケーキ。ちょっと大きすぎたから分けてあげる。」
「・・・・・・あの、俺のためなのかなって期待した俺がチョー馬鹿みたいなんですけど。」
「うん、馬鹿だと思うよ。そもそも付き合ってないし、告白もスルーしているのにさ。」
「そうなんだよね、遙ってば、かなりの強敵だと思うよ。どうしたら俺に落ちてくれる?」
嵐がため息をつくたびに遙の|項(うなじ)が冷たくなるせいもあって、遙の機嫌は急降下しまくりだった。
「・・・嵐君、離れて・・・・項が冷たいから。」
「えー、こんなに美味しそうな肌なのに。」
そういいながら嵐は背中を向いている遙の項を舐めた上に口づけてきた。その感触にびっくりしたせいでゲーム機のコントローラーを落とした遙が、悲鳴をあげて立ち上がった。その顔は珍しく耳まで真っ赤に染まっている。珍しく慌てふためいている遙の様子が面白かったのか、嵐は面白げな表情を見せた。
「な、なななんあ、何をするのっ!?」
「何を・・・って、項にチューしただけだけれど?あ、キスマークが欲しいならそっちを・・・ぐふっ!」
遙は嵐に向かって思いっきりクッションを投げたが、当の嵐はせき込むだけで大したダメージを受けていない。未だにパクパクと鳴っている心臓も彼には筒抜けではないかと遙は訝しく思ったが、当の嵐はけろりとした表情だ。鼻を擦りながらクッションをソファーの方へと放り投げている。
「うー、遙は相変わらず照れ屋さんだなぁ。」
「嵐君、前も言ったと思うけれど、確信犯的な行動をするのも、からかうのも止めてくれない・・・でないと、ケーキもわけてあげないよ。」
「あー、それは困るな。じゃあ、とりあえず・・・キスマークはまた今度ってことで、今からケーキを食べようか。」
「・・・絶対今度なんてないわ。ないからね、ないったらないわよ。」
テーブルの上を指さしてきた嵐に対してしつこいほど念を押した遙だが、当の嵐はどう見てもスルーする気満々だった。そしてテーブルの上にはいつの間にかケーキが2皿並べられている。
遙は、おまけにポットにもお湯を補充してくれているし、ティーカップまで用意していつでも飲めるようにしている。イケメンな上に、よく気が利く。こりゃモテっぷりが半端ないな・・・と感心していた。
しかも、本格的に紅茶を嗜むらしく、紅茶の葉もしっかりとブレンドしているものを選んでいる。
「・・・・な、なんか本格的だね?」
「はは、家がカフェを経営しているもので。これでも、珈琲や紅茶を入れるのは得意だよ。」
「そういえば、けっこう前に、母親がカフェを経営してるって聞いたことがあったかも。」
「母さんは紅茶の方が好きなくせに、カフェは何故か珈琲専門店。よくわからんけれど、父さんが母さんにプレゼントした店らしくてさ、潰すのはもったいないからってそのままらしい。最初は父さんが店主をやっていたけれど、社長になってしまったから、今は母さんが店長だ。」
生き生きとした表情でてきぱきと手際よく紅茶を入れている嵐にちょっとびっくりした遙は何も言えないまま、紅茶に手を付けた。
「あ・・・美味しい。でも、紅茶の葉なんて上等なモノなんかなかったような。」
「あは、俺がいつも持ち歩いているものを使いましたー。」
「え・・・」
驚く遙に対して、嵐は自分のコップにおかわりを注ぎながら笑っている。
「基本、紅茶はその場その場で作る主義だから、葉っぱも持ち歩いているよ。悪友達からはよく頭おかしいって言われるけれど、俺なりのコダワリってやつでね。それにしても、このケーキめっちゃ美味しそうだな。これ、手作りでしょ?」
「・・・・・なんでそう思ったの?」
「それぐらい見たら解るよ。遙の愛がつまっている・・・いた、痛いっ、耳を引っ張らないで!」
「・・・悪ふざけはいらないから。」
「うう・・・・」
冷たい視線を寄越せば、嵐は耳を抑えつつ、ブーイングしてきた。それに今度こそ紅茶をぶっかけようかと思い、カップを持とうとするがそれを察したのか嵐が慌てて直立不動で口を開いた。
「さっき、お湯を沸かすためにやかんを探していたら、このケーキにピッタリはまる型があったし、冷蔵庫には材料らしきチョコの残りがあった。それに、あそこの乾燥機にケーキ作りに使う道具が結構置いてあった。つまり、昨日作ったばかりの出来立てのケーキってことだよね。」
「・・・観察力も半端ないなぁ。」
普通の男はキッチンなんか見ないでしょ?とツッコめば、至極まっとうな返事が返ってきた。
「さっきも言ったけれど、俺の家はカフェだからね?ついでにいうと手伝いで時々ケーキも作るし、紅茶も珈琲もお客様に作って出すことだってあるよ。」
「・・・・・納得いったわ。」
(つまり、普段ケーキを作っているからこそ、目がいったってことよね。そこは誤算だったなぁ。)
「嵐君はいいお嫁さんになれるわね。」
「ちょっと待って、俺は遙の婿になる予定であって、妻になるつもりはないよ?」
「あいにく、婿は募集していないの。君が同性なら是非にも同居して欲しいぐらいなんだけれどね。」
「・・・・・俺、女装しようか?」
「キモチワルイからやめてください。あーやっぱり、コレ美味しいわ。さすが、私。」
「うん、美味しいよ。ありがとう、遙。」
「・・・・・・・さて、ゲームしようっと。」
「あ、照れたよね、今。ああ、もう可愛いなぁ。」
ゲームをやろうとコントローラーを拾って進め出すと、これまた食べ終えたらしい嵐が再び抱きついてきた。べしべしと腕を叩くが、力強い腕はうんともすんとも言わず、離れる気配がない。
(・・・・うっとうしい・・・うっとうしいけれど・・・・なんだろう、悪い気はしない。)
遙は腕を外すのを諦め、今度こそゲームの画面に集中し出した。
それを面白く思わなかった嵐がピンときたのか、遙の耳元に顔を寄せて囁いた。
「You are my Valentine.」
「―――――――っ卑怯だよ、嵐君!!!!ってか、まだ恋人じゃないし!!」
「えー、ここは俺の大切な人って和訳すればいいのに・・・Be My Valentine?」
「I refuse you!」
「・・・・・英語で返せるって、すげーな、遙。」
呑気に驚いてる嵐に震えだした遙は今度こそとばかりに嵐の腕にかみついた。
「いてぇ!!!」
結局この日の攻防は夜遅くまで続いたとか続かなかったとか。
・・・・Happy Valentine's Day with Lots of Love!
※英語は微妙な訳です・・・いいのが思いつかなかった(;'∀')
今日は機嫌がいいからと、黄色いクマの着ぐるみを着ていつものゲーム店に来てソフトを選んでいた遙は珍しい光景を見た。
あの嵐が珍しく疲れた表情を見せている上に、言い争っている男女の学生2人に挟まれている形で立ち尽くしている・・・。
思わず近寄って声をかけてしまったのは、きっとこの時の嵐の目が胡乱な目に同情してしまったからだろう。
「珍しいなぁ・・・ねぇ、何やってんの、嵐君。」
「あっ、遙・・・これまたスゴイ着ぐるみで。」
げっそりとした嵐は遙を見るなり、うわぁと驚いている表情を見せた。ディズニーのキャラの何が悪いのか解らない遙は眉間に皺を寄せつつ、ふと思い当った。
「失礼な・・・って、この様子からして・・・もしかして三角関係っ!?わ、やだ・・・・スゴイね、嵐君も隅に置けないな・・・ってことは、え、もしかして、彼女がいるのに私を口説いていたの・・・うわ、最低っ・・・・・・・。」
(そうだよ、私としたことが!見た所、年齢も近そうだし、恋愛のもつれって考える方が自然だよね。ってことは、やっぱり・・・私に対してはからかってきていたってことかぁ。)
思考の渦に飲まれるとそうとしか思えなくなるから不思議だ。もやもやとした気分が沸き上がり、思わず嵐から離れるように一歩二歩と下がってしまう。
買おうと思っていたソフトももう買う気に慣れず、棚の列へと戻し、入り口の方へと向かった。
「違うっ、違うから、違うから!!遙、待って、そんな目で逃げないで!俺は無実だから!二股とかそんなんじゃないし、違う違う、大マジで!」
(男の言い訳って、ワンパターンなんだね。漫画とかでみたのとほぼ一緒じゃないの。)
嵐が言い訳をするように言ってきているが、遙としては疑ってしまう。焦っている嵐と、カップルらしき2人をちらっと見た後、ダッシュで店を出た。
少し走ってから、立ち止まって後ろを見てみるが、追いかけてくる気配はない。ほっとしつつも、少し複雑な思いにかかれる。とりあえず、息を整えてゆっくりと家に向かって歩き出した。
(・・・・はぁ、かわいい子だったなぁ。制服からして2人とも高校生だよね。あれ、嵐君って・・・大学生なのかな、それとも留年とかで高校生とか?バイトも夕方からできるし、やっぱり謎だな、嵐君って・・・。ちぇ、あの様子じゃ、今日は無理っぽそうだなぁ。)
うーんと腕を組んでいると後ろからいきなり手が伸びて抱きしめられた。驚いて後ろを振り返ると、息を切らせた嵐が立っていた。
「・・っ・・・はぁ・・・・さが、したよ、遙。」
「あ、あれ・・・?あの子達は?」
「あんな従妹、知るか。勝手に痴話げんかしてろってんだ。」
「・・・・・従妹?」
「うう・・・ちょっと待ってくれ、息が・・・・。」
嵐は息を整えようとするも、遙を手放す気配がない。遙は抱きしめてきた腕の感触に困惑しつつも、自分で振り払う気に慣れずこれまた悩んでいた。
(うーん・・・どうしようか、これ・・・結構きついけれど・・・なんでか、振り払えない。)
「うわっ・・・・ど、どうしたの?」
「ここでこうやっていても埒があかないからとりあえず、遙の家に行こう。」
「え?で、でも、バイトは大丈夫なの?」
「・・・・ああ、今日はもう終わっていいって言われたから問題ない。」
「え、えええ、そんな緩いバイトなの、あそこ・・・って、痛い、痛いっ、このまま行くつもり?!」
「逃げられちゃ困るからな。」
「逃げない、逃げないってばぁあああ!!!」
ずるずると引きずられながらも遙は混乱しながら質問したが、当の嵐は質問に気づいていながらもスルーしていたため、結局答えは有耶無耶になった。
そんなこんなで遙の家に着いた時にはもう二人ともぐったりと疲れている状態だった。
「うう、暑い・・・・コレ、脱ごうっと。」
遙が着ぐるみのボタンを外そうとすると、嵐が、抱きしめていた腕で今度はボタンに手をかけ始めた。
「ちょ、ちょっと何やってるのー!?」
「いいじゃん、ボタンぐらい外せる・・・どうせ、下はルームウェアを着てるんだろう?なら、恥ずかしいコトなんかないだろ。」
「む・・・・まあ、そうだけれどさ。」
嵐がボタンを全部外してくれたため、遙は着ぐるみを脱ぎ捨てるだけでよかった。床に落ちた着ぐるみをソファーへと放り投げた遙は冷蔵庫からお茶を取り出し、グラス2つに注ぎ、嵐に渡した。
「はい。」
「サンキュ。で、弁解の続きな。女の子の方が田城香帆っていうんだけれど、俺の母方のいとこ。|男(ヤツ)の方は知らん。多分彼氏なんだろうがな。」
「いとこ・・・もしかして、親戚づきあいが深い家なの?」
「会社の関係もあって助け合いが必要っつーことでね。ここ数年は年始年末しか全員集合できる場がないけれど、香帆とその兄貴達とは年が近いんで・・・まぁ、わりとよく遊ぶし仲がいい方だな。」
(なんだ・・・いとこだったんだ・・・そうか、そうなんだ・・・・。)
何故か胸で感じていたもやもやが一気に晴れたが、その原因を考えることを本能で拒否したらしい遙はすっきりとしたとばかりにテレビの方へと向かっていった。嵐はそんな遙に気づくことなくペラペラと話を続けていた。
「だから、誤解しないでくれよ。俺は遙しか見ていないし・・・って何でしれっとゲームを起動させてんのー!?俺の話をちゃんと聞いてた?」
「うん、もうどうでもよくなった。」
「ちょっとは俺に興味を持ってよ・・・やきもちぐらい、妬いて欲しいなぁ。」
「え、なんで?」
「・・・・今、めっちゃ本気で傷ついたよ!落ち込んでるよ、ああもー遙はもうSなんだからっ!」
嵐が気づいた時にはすでにゲームのオープニング画面を終わらせていたところだった。ちなみにゲームソフトは新作の某ファンタジーなんたらだったりする。それを見た嵐はあきれ顔ながらも、遙の隣に座りだした。
「って・・・これ、一昨日出たばかりの新作だよな?」
「そうだよ。」
「・・・もしかして別の店で買った?」
「ううん、インターネットで注文した・・・初回特典が欲しかったんだよね。」
「ああ・・・そっち目当てか、そりゃ、俺の店で買わないわな。・・・(特典は盲点だったな。)」
遙がフィギュアを集めるのが趣味なことも知っているので嵐は遠い目になりながらも納得した顔を見せた。とその時、遙が思い立ったように、冷蔵庫を指さした。
(・・・・一緒に食べる分には丁度よいかなぁ。)
「嵐君、お腹がすいたから冷蔵庫からおやつ持ってきて。白い箱に入ってるヤツ。」
「遙って、俺に気を許してないのか許してるのか時々解らなくなる・・・・まぁいいか、了解。」
ついでだから皿とフォークも出すと言って立ち上がった嵐をちらっと眺めた後、遙は再びゲームに戻った。嵐はというと、皿とフォークを出した後、冷蔵庫から白い箱を取り出した。その時、台所から何故か悲鳴が聞こえたが遙は無視した。
(ま、嵐君ならいいか・・・って思える自分はそうとう彼にほだされてるんだろうなぁ。)
遙はふと、ルームウェアの袖から見えた手首の傷を眺めながら苦々しい顔になった。
思いだしたくもない過去。
あの男につけられた大量の傷は大半が消えたものの、未だに残る痕もある。
・・・今は冬だからまだいい。でも、夏は嫌いだ。あちこちにある痕を見れば嫌でも思いだす。
流されてばっかりだった情けない自分を。彼に盲目になっていた頃の愚かな自分を。
もうあんな思いはしたくない。
だから、彼なんかもういらない・・・最低な男なんて必要ない。
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目を瞑っていると、また後ろから抱きしめられた。相手はもう解りきっていたので、呆れながらも目を開けて眉間に皺を寄せた。
「・・・・うっとうしいから離れてくれるかな、嵐君。」
「だって、これ、チョコケーキだよな。完全にバレンタイン狙いじゃん!そうだよね?」
「うん、自分用のチョコケーキ。ちょっと大きすぎたから分けてあげる。」
「・・・・・・あの、俺のためなのかなって期待した俺がチョー馬鹿みたいなんですけど。」
「うん、馬鹿だと思うよ。そもそも付き合ってないし、告白もスルーしているのにさ。」
「そうなんだよね、遙ってば、かなりの強敵だと思うよ。どうしたら俺に落ちてくれる?」
嵐がため息をつくたびに遙の|項(うなじ)が冷たくなるせいもあって、遙の機嫌は急降下しまくりだった。
「・・・嵐君、離れて・・・・項が冷たいから。」
「えー、こんなに美味しそうな肌なのに。」
そういいながら嵐は背中を向いている遙の項を舐めた上に口づけてきた。その感触にびっくりしたせいでゲーム機のコントローラーを落とした遙が、悲鳴をあげて立ち上がった。その顔は珍しく耳まで真っ赤に染まっている。珍しく慌てふためいている遙の様子が面白かったのか、嵐は面白げな表情を見せた。
「な、なななんあ、何をするのっ!?」
「何を・・・って、項にチューしただけだけれど?あ、キスマークが欲しいならそっちを・・・ぐふっ!」
遙は嵐に向かって思いっきりクッションを投げたが、当の嵐はせき込むだけで大したダメージを受けていない。未だにパクパクと鳴っている心臓も彼には筒抜けではないかと遙は訝しく思ったが、当の嵐はけろりとした表情だ。鼻を擦りながらクッションをソファーの方へと放り投げている。
「うー、遙は相変わらず照れ屋さんだなぁ。」
「嵐君、前も言ったと思うけれど、確信犯的な行動をするのも、からかうのも止めてくれない・・・でないと、ケーキもわけてあげないよ。」
「あー、それは困るな。じゃあ、とりあえず・・・キスマークはまた今度ってことで、今からケーキを食べようか。」
「・・・絶対今度なんてないわ。ないからね、ないったらないわよ。」
テーブルの上を指さしてきた嵐に対してしつこいほど念を押した遙だが、当の嵐はどう見てもスルーする気満々だった。そしてテーブルの上にはいつの間にかケーキが2皿並べられている。
遙は、おまけにポットにもお湯を補充してくれているし、ティーカップまで用意していつでも飲めるようにしている。イケメンな上に、よく気が利く。こりゃモテっぷりが半端ないな・・・と感心していた。
しかも、本格的に紅茶を嗜むらしく、紅茶の葉もしっかりとブレンドしているものを選んでいる。
「・・・・な、なんか本格的だね?」
「はは、家がカフェを経営しているもので。これでも、珈琲や紅茶を入れるのは得意だよ。」
「そういえば、けっこう前に、母親がカフェを経営してるって聞いたことがあったかも。」
「母さんは紅茶の方が好きなくせに、カフェは何故か珈琲専門店。よくわからんけれど、父さんが母さんにプレゼントした店らしくてさ、潰すのはもったいないからってそのままらしい。最初は父さんが店主をやっていたけれど、社長になってしまったから、今は母さんが店長だ。」
生き生きとした表情でてきぱきと手際よく紅茶を入れている嵐にちょっとびっくりした遙は何も言えないまま、紅茶に手を付けた。
「あ・・・美味しい。でも、紅茶の葉なんて上等なモノなんかなかったような。」
「あは、俺がいつも持ち歩いているものを使いましたー。」
「え・・・」
驚く遙に対して、嵐は自分のコップにおかわりを注ぎながら笑っている。
「基本、紅茶はその場その場で作る主義だから、葉っぱも持ち歩いているよ。悪友達からはよく頭おかしいって言われるけれど、俺なりのコダワリってやつでね。それにしても、このケーキめっちゃ美味しそうだな。これ、手作りでしょ?」
「・・・・・なんでそう思ったの?」
「それぐらい見たら解るよ。遙の愛がつまっている・・・いた、痛いっ、耳を引っ張らないで!」
「・・・悪ふざけはいらないから。」
「うう・・・・」
冷たい視線を寄越せば、嵐は耳を抑えつつ、ブーイングしてきた。それに今度こそ紅茶をぶっかけようかと思い、カップを持とうとするがそれを察したのか嵐が慌てて直立不動で口を開いた。
「さっき、お湯を沸かすためにやかんを探していたら、このケーキにピッタリはまる型があったし、冷蔵庫には材料らしきチョコの残りがあった。それに、あそこの乾燥機にケーキ作りに使う道具が結構置いてあった。つまり、昨日作ったばかりの出来立てのケーキってことだよね。」
「・・・観察力も半端ないなぁ。」
普通の男はキッチンなんか見ないでしょ?とツッコめば、至極まっとうな返事が返ってきた。
「さっきも言ったけれど、俺の家はカフェだからね?ついでにいうと手伝いで時々ケーキも作るし、紅茶も珈琲もお客様に作って出すことだってあるよ。」
「・・・・・納得いったわ。」
(つまり、普段ケーキを作っているからこそ、目がいったってことよね。そこは誤算だったなぁ。)
「嵐君はいいお嫁さんになれるわね。」
「ちょっと待って、俺は遙の婿になる予定であって、妻になるつもりはないよ?」
「あいにく、婿は募集していないの。君が同性なら是非にも同居して欲しいぐらいなんだけれどね。」
「・・・・・俺、女装しようか?」
「キモチワルイからやめてください。あーやっぱり、コレ美味しいわ。さすが、私。」
「うん、美味しいよ。ありがとう、遙。」
「・・・・・・・さて、ゲームしようっと。」
「あ、照れたよね、今。ああ、もう可愛いなぁ。」
ゲームをやろうとコントローラーを拾って進め出すと、これまた食べ終えたらしい嵐が再び抱きついてきた。べしべしと腕を叩くが、力強い腕はうんともすんとも言わず、離れる気配がない。
(・・・・うっとうしい・・・うっとうしいけれど・・・・なんだろう、悪い気はしない。)
遙は腕を外すのを諦め、今度こそゲームの画面に集中し出した。
それを面白く思わなかった嵐がピンときたのか、遙の耳元に顔を寄せて囁いた。
「You are my Valentine.」
「―――――――っ卑怯だよ、嵐君!!!!ってか、まだ恋人じゃないし!!」
「えー、ここは俺の大切な人って和訳すればいいのに・・・Be My Valentine?」
「I refuse you!」
「・・・・・英語で返せるって、すげーな、遙。」
呑気に驚いてる嵐に震えだした遙は今度こそとばかりに嵐の腕にかみついた。
「いてぇ!!!」
結局この日の攻防は夜遅くまで続いたとか続かなかったとか。
・・・・Happy Valentine's Day with Lots of Love!
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※実は別名義で「雪村 里帆」としてドギツイ裏有の小説をアルファポリス様で執筆しております。
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