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バレンタインデー(2017Ver)
バレンタインにはココアを〔ミルクとココア編〕
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※なろうの方にのせていた過去のイベント小説です。3話形式の続き物
「・・・うう、俺のアホォ・・・なんだってあんなあだ名をつけたんだよ!あだ名をつけなきゃ、亜美だって、俺にミルクなんてあだ名つけなかったはず・・・っ!」
男として屈辱的なあだ名をつけられた田見隆久は頭を抱えていた。
「そりゃ確かにミルクがアホだよね。どうせ考え事していて亜美に呼びかけられたから慌ててあだ名を考えてやったぞって言って大騒ぎしたんでしょ。」
「ぐっ・・・」
「でも、亜美もやるわね~。名字と名前を繋げて、こじつけで“りゅう”を“る”に言い換えてミルクにするだなんて・・・ぶはっ・・はっははは!」
けらけらと隆久を見て腹を抱えて笑っているこの悪友は、里宇麻衣子。
隆久の片想い相手だった戸来亜美の親友だ。ちなみに何をどう間違ったのか、クラスの委員長でもある。
情けないことに里宇が言っていたことは大当たりで隆久はぐうの音も出なかった。さすが、幼稚園からの幼馴染というだけあって行動パターンなどお見通しというわけだ・・・。
・・・亜美は長年の片想いにこれっぽちも気づいてくれてないのに、こいつときたら、すぐに気づいてにやにやと揶揄ってきた奴だから尚、質が悪いと隆久は思っている。ちなみに、隆久と亜美は中学校からの幼馴染だ。
「・・・もういい。もうあだ名は諦めた。さしあたり、今はチョコを渡すきっかけがないことが恨めしい・・・せっかく持ってきたのに。」
「って・・・まさか、作ってきたの?!」
「海外じゃ、バレンタインデーは女性に限らず男性もプレゼントするってネットで見たぞ。」
「ってことは、告白の仕切り直し・・・?」
「なんでそんな哀れみのこもった目で見るんだよ・・・大体、もうとっくに返事はOKもらっているし。」
「えー、亜美はそんなの一言も教えてくれなかったよ!」
そりゃ、俺が、お前に言ったらからかわれるからバレるまでは黙っていて欲しいって、口止めしたからだ・・・とは言わないでおこうと思った隆久である。いずれはこのこともバレるであろうが、今は黙っていようと固く誓った。
「・・・噂になることを嫌ったんじゃないのか。」
「あっ、そうか・・・なるほどね。じゃ、誰もいないところで話すしかないか・・・。」
何故か、里宇は亜美に対して異常に優しい。なんでも助けてもらった恩があるとかで、頭が上がらないとか・・・・隆久は俺だってこいつの悪事のフォローたくさんしているんだがな・・・と内心で小突きたい気分だったが敢えて黙っていた。
「とりあえず、邪魔するなよ。今日は部活がないからこうやって本を読んでるんだし。」
「本当に、ギャップが酷すぎるよね。サッカーをやっている癖にして、料理が趣味って言うんだから。」
「お前、全国のコックさんに謝れ。男でも料理はする。個人的には、『男子厨房に入るべからず』なんてアホな言葉を作った先人を恨みたい。『孟子』のありがたい言葉をなんで差別的に解釈したのかわからん。」
「ああ・・・そういえば、あんたのとこ、お祖母ちゃんが変な人であんたに料理するなって怒っていたね。昔の日本は男尊女卑だったって聞くけれど、まさか現代までそんなことが通用すると思っていただなんてびっくり。『男子厨房に入るべからず』なんて、離婚が容易になった現代じゃ死語もんだよ。」
「まったくだ。今は離婚してくれたお陰で縁が切れてホッとしている。母子家庭がなんだっつーの。むしろ、あんなうるさい身内が消えてくれるほうがありがたい。」
「・・・あんたも言うわね。でも、離婚してからまだ1年も経っていないんじゃ無理もないか。」
隆久としては料理も自由にできる方が良かったから、離婚は大歓迎だった。親が離婚すると聞いて真っ先に喜んで、玄関で近所に聞こえるほど馬鹿でかい声で万歳三唱したことは今でも反省していない。
(お蔭で、血が繋がっていると考えたくもないバカな男からも縁切りだと叫ばれたしな。弁護士まで入れたって母さんも言っていたから二度会う機会もないし。うん、全然これっぽちも寂しくなんかないね。俺が台所に立っていたっていうだけで、母を苛めたバカな男とその親なんぞこっちから願い下げだ。こっちだって怒り狂って何度喧嘩になったことか。)
「あんな奴らのことはどうでもいい。それより、亜美はどこに?」
「あ、もうすぐ来るとは思うけど・・・あ、来た。」
「ごめんね・・・ってどうしてここにいるの、麻衣子。」
「えー、ここにいちゃだめなのかなー?」
「えっと、そうじゃないけれど・・・」
顔を真っ赤にさせながらしどろもどろになる亜美は可愛いと思う。里宇だってそう思っているからこそ、|揶揄(からか)ってるんだろうしな。
「・・・もういいよっ、ミルク、早く帰ろう?」
「あ、ああ、準備するから待ってくれ・・・っていうか、ミルクはやめてくれ、ミルクは。」
「ありゃま、ふられちゃったー。今日はバレンタインデーだし、しょうがないか。お邪魔虫はさっさと退散しますよ~。」
「揶揄う方が悪いんだよ?・・・また今度ね?」
「はいはい、また聞かせてもらうからね~。お邪魔しましたったー。」
けらけらと笑いながら先に出ていった里宇を見送った2人は顔を見合わせたがお互いになんとなく話せなくなり、会話のきっかけが掴みづらい。以前と違うのは気まずさを感じないどころか、照れくさくなってしまうことだろうか。
隆久は赤くなる顔を抑えながら、鞄を持って忘れ物がないかどうかを確認してから亜美に声をかけた。
「えっと・・・帰るか。」
「う、ん。」
以前と違う距離感に戸惑いつつも、付き合うってのいうのはこういうことかと思うと、ちょっと・・・どころかかなり嬉しいと隆久は付き合ったという実感を噛み締めていた。
実は今日がカップルになってから初めて一緒に帰る日ということもあって、亜美の方も緊張していた。
ゆっくりと玄関を出て会話をしながら歩いて商店街を抜ける。近くに駅があるせいか結構人が多い。
しかし、今日は珍しく駅の近くが騒がしがった。丁度、横を見ると駅に繋がる道で人だかりができている。それが気になった2人は、好奇心から近寄ってしまい、凄いシーンを目撃してしまった。
「・・・・・あれ、なんか、あそこが騒がしいな?」
「何かあったのかな・・・あれ?なんか、カップルのケンカっぽくない?」
「・・・あっ。」
「うわぁ・・・・公衆の前で堂々とキスとは・・・スゴイ。」
思わず2人揃って赤面してしまう。カップルの横にいた女性たちの悲鳴がこれまた凄かったが、こっちは生々しいキスにそれどころじゃなかった。
「・・・あ、叩かれた。」
「あーあ、彼女らしき人が逃げちゃったね。あ、彼氏っぽい人が追いかけて・・・これも、バレンタインデーだからかな、すごいの見ちゃったね。」
亜美の言う通り、スゴイものを見てしまったと思った隆久はふと男の顔に見覚えがあるような・・・と腕を組んだ。
何故か、隆久の頭によぎったのは中学校の時の先輩。頭がドピンクの不良の癖に、読書が好きだったあの人。料理の本を図書室に借りに行く関係でよく見知っていた人の顔が脳裏に思い浮んだ。が、さっきの男はどう見ても茶髪だったから違うかと思い直して首を横に振った。
「俺の知る限り、こんなところで堂々とキスできるのって、鬼人族のあの人ぐらいだし・・・いや、あの人の髪は目立つピンク色だったから、やっぱり違うよな・・・そもそも、あの人だったら追いかけもしないだろうし。」
「どうしたの?何か考え事?」
「いや・・・気のせいだった。そろそろ行こうか。」
「そうだね。」
ようやく収まった騒ぎに2人も離れて、いつも通る道へと戻っていった。しばらくすると公園が見えた時、何故か亜美がコートの袖を引っ張ってきた。
「どうした?」
「ちょっと・・・寄らない?公園・・・ちょっと座って話したいなって・・・。」
「・・・・お、おお・・・。」
ちょっと頬染めて言う彼女に連れられてベンチへと座る。ふとこれはチャンスだと思いあたり、チョコをどう渡そうかと考えていた時、亜美が水筒を取り出し、コップを差し出してきた。
水筒とは珍しいと思いつつ、寒いからお茶でもってことかな・・・?と思いながらコップを受け取ると、思っていた色と違う液体が注がれた。
「・・・・あれ?」
「えっと・・・いろいろ考えて、寒いだろうし温かいほうがいいかなと、チョコホットミルクにしてみたんだけれど・・・ダメ、だった・・・?」
「あっ・・いやいや!!全然OKだ。温かいし、甘いし・・・いいな、これ。」
「良かった。ミルクも一般的なチョコがイイのかなって思うと渡しにくくて。」
「・・・・・あのさ、人が感動している時にあだ名で呼ぶのやめてくれるかな・・・。」
「あ、ごめん・・・・」
「俺はチョコにはこだわりないし・・・その、あ、亜美からのチョコはなんだって受け取るよ。」
なんとか名前を言えたことに内心でガッツポーズしていた隆久の前では、亜美が真っ赤な顔をより赤らめていた。
「うっ・・・名前呼びもそのセリフも卑怯だと思う・・・!!」
「だったら、俺のことも名前で呼べばいい。」
「えっと、隆久・・・って?」
「うっ・・・・名前呼びって、効果抜群なんだな。」
何故かお互いに名前を呼びあって照れるという状態。中学校の時に名前を呼びあっていたはずだったのに、付き合うとこうも感覚が変わる者なのかと隆久も亜美も不思議に思っていた。何の因果か、お互いに考えていることがシンクロしているみたいだった。
少し無言になってしまったが、隆久は思いだしたように鞄からラッピングされた箱を取り出した。
「・・・って、そうだ、俺からも渡すものがあったんだった。」
「え・・・?」
「これ、よかったら食べてくれ。」
「作ってくれたの?何なのかな・・・・あ、フォンダンショコラ!すごっ・・・。」
「本当はチョコドームとか作りたかったんだけれど、あれはその場で出さないといけないから諦めた。」
「相変わらず凄い腕前だよね・・・食べていい?」
当然とばかりに隆久は頷いた。亜美は嬉しそうに口にすると目をキラキラと輝かせて隆久の方を向いた。それだけで美味しかったのだと伝わるのは凄いと思いながら隆久は満足気に笑った。
「ああ、いいな。その顔だけで美味しいって伝わる。」
「だって、本当に美味しいもん。これ・・・いいなぁ、その腕が私も欲しい。」
「はは。」
「ごちそうさまでした・・・本当に美味しかったよ。あっ、そうだ、今度お菓子作り教えて?」
「・・・それいいな。そうだ、ホワイトデーは一緒に作ろうか。」
「あっ、それいい!!うわあ、また美味しいのが食べられる~。ありがとう、隆久!」
「・・・うん。こっちこそ。」
亜美の笑顔に満足した隆久もチョコホットミルクを飲み干した。お互いにバレンタインデーのチョコを渡せて満足した2人は公園を抜けて亜美の家へと向かった。
「結局、送ってもらっちゃってごめんね。」
「俺の家もそんなに遠くないから大丈夫だし・・・チョコも嬉しかったからいい。」
照れた隆久がじゃあと手を振って帰ろうとした時、後ろから聞こえた声にズッコケた。
「うん・・・また・・・明日ね、ミルク。」
「・・・・・・・・だから、イイところで落とすなっつーの、ばかココア!」
「あ、ごめん・・・つい癖で。」
「癖も何もあるか―――くそぉ、泣いてやるぅう!!!」
思わず涙目で叫びながら走って行った自分は悪くないと思う・・・・なけなしのプライドでなんとか道中は泣かなかったが、その夜に落ち込んだことは言うまでもない。
「うう・・・・過去の俺を殴り殺したい・・!!」
「・・・うう、俺のアホォ・・・なんだってあんなあだ名をつけたんだよ!あだ名をつけなきゃ、亜美だって、俺にミルクなんてあだ名つけなかったはず・・・っ!」
男として屈辱的なあだ名をつけられた田見隆久は頭を抱えていた。
「そりゃ確かにミルクがアホだよね。どうせ考え事していて亜美に呼びかけられたから慌ててあだ名を考えてやったぞって言って大騒ぎしたんでしょ。」
「ぐっ・・・」
「でも、亜美もやるわね~。名字と名前を繋げて、こじつけで“りゅう”を“る”に言い換えてミルクにするだなんて・・・ぶはっ・・はっははは!」
けらけらと隆久を見て腹を抱えて笑っているこの悪友は、里宇麻衣子。
隆久の片想い相手だった戸来亜美の親友だ。ちなみに何をどう間違ったのか、クラスの委員長でもある。
情けないことに里宇が言っていたことは大当たりで隆久はぐうの音も出なかった。さすが、幼稚園からの幼馴染というだけあって行動パターンなどお見通しというわけだ・・・。
・・・亜美は長年の片想いにこれっぽちも気づいてくれてないのに、こいつときたら、すぐに気づいてにやにやと揶揄ってきた奴だから尚、質が悪いと隆久は思っている。ちなみに、隆久と亜美は中学校からの幼馴染だ。
「・・・もういい。もうあだ名は諦めた。さしあたり、今はチョコを渡すきっかけがないことが恨めしい・・・せっかく持ってきたのに。」
「って・・・まさか、作ってきたの?!」
「海外じゃ、バレンタインデーは女性に限らず男性もプレゼントするってネットで見たぞ。」
「ってことは、告白の仕切り直し・・・?」
「なんでそんな哀れみのこもった目で見るんだよ・・・大体、もうとっくに返事はOKもらっているし。」
「えー、亜美はそんなの一言も教えてくれなかったよ!」
そりゃ、俺が、お前に言ったらからかわれるからバレるまでは黙っていて欲しいって、口止めしたからだ・・・とは言わないでおこうと思った隆久である。いずれはこのこともバレるであろうが、今は黙っていようと固く誓った。
「・・・噂になることを嫌ったんじゃないのか。」
「あっ、そうか・・・なるほどね。じゃ、誰もいないところで話すしかないか・・・。」
何故か、里宇は亜美に対して異常に優しい。なんでも助けてもらった恩があるとかで、頭が上がらないとか・・・・隆久は俺だってこいつの悪事のフォローたくさんしているんだがな・・・と内心で小突きたい気分だったが敢えて黙っていた。
「とりあえず、邪魔するなよ。今日は部活がないからこうやって本を読んでるんだし。」
「本当に、ギャップが酷すぎるよね。サッカーをやっている癖にして、料理が趣味って言うんだから。」
「お前、全国のコックさんに謝れ。男でも料理はする。個人的には、『男子厨房に入るべからず』なんてアホな言葉を作った先人を恨みたい。『孟子』のありがたい言葉をなんで差別的に解釈したのかわからん。」
「ああ・・・そういえば、あんたのとこ、お祖母ちゃんが変な人であんたに料理するなって怒っていたね。昔の日本は男尊女卑だったって聞くけれど、まさか現代までそんなことが通用すると思っていただなんてびっくり。『男子厨房に入るべからず』なんて、離婚が容易になった現代じゃ死語もんだよ。」
「まったくだ。今は離婚してくれたお陰で縁が切れてホッとしている。母子家庭がなんだっつーの。むしろ、あんなうるさい身内が消えてくれるほうがありがたい。」
「・・・あんたも言うわね。でも、離婚してからまだ1年も経っていないんじゃ無理もないか。」
隆久としては料理も自由にできる方が良かったから、離婚は大歓迎だった。親が離婚すると聞いて真っ先に喜んで、玄関で近所に聞こえるほど馬鹿でかい声で万歳三唱したことは今でも反省していない。
(お蔭で、血が繋がっていると考えたくもないバカな男からも縁切りだと叫ばれたしな。弁護士まで入れたって母さんも言っていたから二度会う機会もないし。うん、全然これっぽちも寂しくなんかないね。俺が台所に立っていたっていうだけで、母を苛めたバカな男とその親なんぞこっちから願い下げだ。こっちだって怒り狂って何度喧嘩になったことか。)
「あんな奴らのことはどうでもいい。それより、亜美はどこに?」
「あ、もうすぐ来るとは思うけど・・・あ、来た。」
「ごめんね・・・ってどうしてここにいるの、麻衣子。」
「えー、ここにいちゃだめなのかなー?」
「えっと、そうじゃないけれど・・・」
顔を真っ赤にさせながらしどろもどろになる亜美は可愛いと思う。里宇だってそう思っているからこそ、|揶揄(からか)ってるんだろうしな。
「・・・もういいよっ、ミルク、早く帰ろう?」
「あ、ああ、準備するから待ってくれ・・・っていうか、ミルクはやめてくれ、ミルクは。」
「ありゃま、ふられちゃったー。今日はバレンタインデーだし、しょうがないか。お邪魔虫はさっさと退散しますよ~。」
「揶揄う方が悪いんだよ?・・・また今度ね?」
「はいはい、また聞かせてもらうからね~。お邪魔しましたったー。」
けらけらと笑いながら先に出ていった里宇を見送った2人は顔を見合わせたがお互いになんとなく話せなくなり、会話のきっかけが掴みづらい。以前と違うのは気まずさを感じないどころか、照れくさくなってしまうことだろうか。
隆久は赤くなる顔を抑えながら、鞄を持って忘れ物がないかどうかを確認してから亜美に声をかけた。
「えっと・・・帰るか。」
「う、ん。」
以前と違う距離感に戸惑いつつも、付き合うってのいうのはこういうことかと思うと、ちょっと・・・どころかかなり嬉しいと隆久は付き合ったという実感を噛み締めていた。
実は今日がカップルになってから初めて一緒に帰る日ということもあって、亜美の方も緊張していた。
ゆっくりと玄関を出て会話をしながら歩いて商店街を抜ける。近くに駅があるせいか結構人が多い。
しかし、今日は珍しく駅の近くが騒がしがった。丁度、横を見ると駅に繋がる道で人だかりができている。それが気になった2人は、好奇心から近寄ってしまい、凄いシーンを目撃してしまった。
「・・・・・あれ、なんか、あそこが騒がしいな?」
「何かあったのかな・・・あれ?なんか、カップルのケンカっぽくない?」
「・・・あっ。」
「うわぁ・・・・公衆の前で堂々とキスとは・・・スゴイ。」
思わず2人揃って赤面してしまう。カップルの横にいた女性たちの悲鳴がこれまた凄かったが、こっちは生々しいキスにそれどころじゃなかった。
「・・・あ、叩かれた。」
「あーあ、彼女らしき人が逃げちゃったね。あ、彼氏っぽい人が追いかけて・・・これも、バレンタインデーだからかな、すごいの見ちゃったね。」
亜美の言う通り、スゴイものを見てしまったと思った隆久はふと男の顔に見覚えがあるような・・・と腕を組んだ。
何故か、隆久の頭によぎったのは中学校の時の先輩。頭がドピンクの不良の癖に、読書が好きだったあの人。料理の本を図書室に借りに行く関係でよく見知っていた人の顔が脳裏に思い浮んだ。が、さっきの男はどう見ても茶髪だったから違うかと思い直して首を横に振った。
「俺の知る限り、こんなところで堂々とキスできるのって、鬼人族のあの人ぐらいだし・・・いや、あの人の髪は目立つピンク色だったから、やっぱり違うよな・・・そもそも、あの人だったら追いかけもしないだろうし。」
「どうしたの?何か考え事?」
「いや・・・気のせいだった。そろそろ行こうか。」
「そうだね。」
ようやく収まった騒ぎに2人も離れて、いつも通る道へと戻っていった。しばらくすると公園が見えた時、何故か亜美がコートの袖を引っ張ってきた。
「どうした?」
「ちょっと・・・寄らない?公園・・・ちょっと座って話したいなって・・・。」
「・・・・お、おお・・・。」
ちょっと頬染めて言う彼女に連れられてベンチへと座る。ふとこれはチャンスだと思いあたり、チョコをどう渡そうかと考えていた時、亜美が水筒を取り出し、コップを差し出してきた。
水筒とは珍しいと思いつつ、寒いからお茶でもってことかな・・・?と思いながらコップを受け取ると、思っていた色と違う液体が注がれた。
「・・・・あれ?」
「えっと・・・いろいろ考えて、寒いだろうし温かいほうがいいかなと、チョコホットミルクにしてみたんだけれど・・・ダメ、だった・・・?」
「あっ・・いやいや!!全然OKだ。温かいし、甘いし・・・いいな、これ。」
「良かった。ミルクも一般的なチョコがイイのかなって思うと渡しにくくて。」
「・・・・・あのさ、人が感動している時にあだ名で呼ぶのやめてくれるかな・・・。」
「あ、ごめん・・・・」
「俺はチョコにはこだわりないし・・・その、あ、亜美からのチョコはなんだって受け取るよ。」
なんとか名前を言えたことに内心でガッツポーズしていた隆久の前では、亜美が真っ赤な顔をより赤らめていた。
「うっ・・・名前呼びもそのセリフも卑怯だと思う・・・!!」
「だったら、俺のことも名前で呼べばいい。」
「えっと、隆久・・・って?」
「うっ・・・・名前呼びって、効果抜群なんだな。」
何故かお互いに名前を呼びあって照れるという状態。中学校の時に名前を呼びあっていたはずだったのに、付き合うとこうも感覚が変わる者なのかと隆久も亜美も不思議に思っていた。何の因果か、お互いに考えていることがシンクロしているみたいだった。
少し無言になってしまったが、隆久は思いだしたように鞄からラッピングされた箱を取り出した。
「・・・って、そうだ、俺からも渡すものがあったんだった。」
「え・・・?」
「これ、よかったら食べてくれ。」
「作ってくれたの?何なのかな・・・・あ、フォンダンショコラ!すごっ・・・。」
「本当はチョコドームとか作りたかったんだけれど、あれはその場で出さないといけないから諦めた。」
「相変わらず凄い腕前だよね・・・食べていい?」
当然とばかりに隆久は頷いた。亜美は嬉しそうに口にすると目をキラキラと輝かせて隆久の方を向いた。それだけで美味しかったのだと伝わるのは凄いと思いながら隆久は満足気に笑った。
「ああ、いいな。その顔だけで美味しいって伝わる。」
「だって、本当に美味しいもん。これ・・・いいなぁ、その腕が私も欲しい。」
「はは。」
「ごちそうさまでした・・・本当に美味しかったよ。あっ、そうだ、今度お菓子作り教えて?」
「・・・それいいな。そうだ、ホワイトデーは一緒に作ろうか。」
「あっ、それいい!!うわあ、また美味しいのが食べられる~。ありがとう、隆久!」
「・・・うん。こっちこそ。」
亜美の笑顔に満足した隆久もチョコホットミルクを飲み干した。お互いにバレンタインデーのチョコを渡せて満足した2人は公園を抜けて亜美の家へと向かった。
「結局、送ってもらっちゃってごめんね。」
「俺の家もそんなに遠くないから大丈夫だし・・・チョコも嬉しかったからいい。」
照れた隆久がじゃあと手を振って帰ろうとした時、後ろから聞こえた声にズッコケた。
「うん・・・また・・・明日ね、ミルク。」
「・・・・・・・・だから、イイところで落とすなっつーの、ばかココア!」
「あ、ごめん・・・つい癖で。」
「癖も何もあるか―――くそぉ、泣いてやるぅう!!!」
思わず涙目で叫びながら走って行った自分は悪くないと思う・・・・なけなしのプライドでなんとか道中は泣かなかったが、その夜に落ち込んだことは言うまでもない。
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