琉生と疾風の話【BL注意】

巴月のん

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・・・あれから3年経つ。
結局あの時のすれ違いは今でも解決されていない。あの日以来、琉生も疾風と会わないように調整しながら通学していたし、彼の方からも何も言ってこなかった。つまり、俺たちの関係なんて、その程度だったのだろう。

「今日も暑いな・・・」


俺は卒業して大学生。あっちはどうだか知らんが。
・・・わかっている。疾風のことを考えている時点で、忘れることができていないのは明白だ。それでも、目を瞑れば思い出すのは陸上での思い出。毎年夏が来るたびに思い出す。

大学に入ってから、電車のルートも変えたからもうあの通学路を通ることはない。でも、大学にある陸上場を見ると、どうしても立ち止まってランナーを見てしまう。
フェンス越しに見えるコースでは何人かの部員が走っている様子が見えた。


「陸上か・・・」


パァンと鳴り響く合図の音
スパイクで勢いよく飛び出し、駆け抜ける風の心地よさ
風と一体になってコースを駆ける楽しさ

今思えば、疾風といつも争いながら走っていたあの頃はとても充実していた。
大学生となった今も、充実しているが、レポートやアルバイトに忙殺されて忙しい。なんだろう、充実感の質が違うのか、それとも、相手によるものなのか。

・・・だめだ、考えたら悪い方向に行きそうだ。

首をふって、再び歩き出した。敷地内の図書館に入って、いつもの場所に座ると、後ろから声をかけられた。

「・・・琉生か?」
「え・・・あ、聡なのか?」

お互いにびっくりしたのは、やはり三年ぶりの再会だからに他ならない。

「なんで、ここにいる・・・びっくりしたぞ」
「そりゃ、こっちのセリフだよ。彼女がここの大学だから、会う時間まで時間を・・・いや、それより、お前ここの大学だったのか?!」
「言っていなかったっけ?」

ふと思い出した。そういえば、聡ともあれ以来会っていない。
そりゃ合格の報告すらできないわけだ。うん、言ってなかったね・・・
疾風にも伝わりそうだと思って連絡もとってなかったし・・・ごめんよ、聡。


「ちきしょう。もっと早く気付いていたら・・・悪い、少しそこで待っててくれ、すぐに戻るから!」

なぜか聡は汗だらだら状態になっている。きょとんとしていると、いきなり首を振って少し待てと言い残して飛び出していった。スマホを耳に当てようとしていることをからして、彼女に電話でもするのだろう。
深く考えずに目の前のレポートに集中することに決めた。
しばらくすると戻ってきた聡が、今度は横に座って話しかけてきた。

「突然抜けてすまんな。」
「いや、彼女に連絡でも取ったんだろう?そっちを優先してくれてよいよ」
「あー、それもあるんだが・・・なぁ、今晩時間あるか?あるならちょっと・・・ほら、久々だしよ。三年分の思い出を語りあいながら飲み明かそうぜ!」
「うーん・・・」
「つれねーな、突然連絡が途絶えた俺の気持ちも考えてくれよ~なっ?!」

拝むようにそういわれては言葉に詰まる。確かに、突然連絡をとらなくなったのはこっちなのだ。いくら疾風のことを理由にしたとしても、聡に対しても縁を切る必要はなかったかもしれない。

「・・・・確かにね。わかった、今晩会おう」
「よっしゃ!場所は・・・この居酒屋で六時半に集合でいいよな?」
「ああ、そこなら知っているから大丈夫。あ、連絡先は・・・」
「いや、後でいいよ・・・殺されたくねーし。お前を信じて店で待つわ。遅れてもいいから絶対来いよな!」

久々にあった友人はさらりと物騒なことを言ってさっさと消えてしまった。


「・・・殺されたくねーしって・・誰から?」


首を傾げても言葉の意味を汲み取れない。答えが出ない問題に取り組むのは時間の無駄だ・・・すぐに頭を切り替えてレポートに集中しようとシャーペンを手に取った。



「・・・なるほど、殺されたくないっていうのは、そういう意味だったのか。」
「や、やっと・・・・来てくれたか・・・・げふっ・・・・たすけ・・・・・」

居酒屋に入った俺の目に入ったのは、首を絞められて屍状態になっている聡の姿だった。
誰にって、もう言わずもがな、聡が呼ぶとしたらたった一人しか考えられないだろう。


それにしても・・・卒業して尚、筋肉がついているところを見るに、何かスポーツをやっているのだろう。
こちらはもうスポーツを全然していないこともあって筋肉は落ちたし、肌も白くなっている。
だけれど、彼は変わらず日焼けしていて、あの頃と変わらないように見える。

なんだか・・・置いてけぼりにされた気分だなぁ。
ああ、電車の中で彼が喋っていたのを聞きながら勉強していた時が懐かしい。


どう声をかけるか迷ったが、もう3年も経っている。今更名前を呼ぶ愛柄にはなれないだろうと、無難に苗字で呼ぶことにした。




「・・・久しぶりだね、田中さん。」



・・・さん付けしたのは、彼の方が一ヶ月ほど年上だったことを思い出したからだ。
それなのに、どうして君はそんなに不機嫌そうな顔をするのかな?


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