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別れと再会(前編)
しおりを挟む「・・・・あんなヤツもういいや。」
またデートをドタキャンされたことにため息がでるが、ずっとココで待っていても仕方がない。彼とは高校2年生の時から付き合ってもうすぐ5年目。
だが、今日もキャンセルされたとあっては、もう我慢の限界。
(頑張ってコーデした彼好みのちょっと大人クール系の服装と化粧も無駄になったな・・・今回も。)
彼はいつもデートより他の約束を優先してしまうタイプ。昔からそれは解っていたし、美点だとも思っていた。
『ほっんとうにゴメン!!どうしても外せない用事が入ってしまって。今度埋め合わせするから、絶対に!!』
でも・・・今回ばかりは・・・限界。
「・・・・今日は私の誕生日だったんだけどなぁ。」
今日だけは絶対にキャンセルしてほしくなかった。だから、もう言ってやった。
『もう別れるから大丈夫。だから。もう埋め合わせもいらないし、この携帯も今から解約するから二度連絡しないで。じゃあね。』
スマホの向こう側で何やら叫んでいるが無視して電源を切る。そして丁度目の前にあった携帯ショップへ駆け込み、すぐさま手続きを済ませた。彼とお揃いの黒いスマホから某有名キャラのかわいいスマホに変更。次にやったのは、美容院に向かい、真っ黒い長い髪を茶色に染め直したこと。その次は、アパレルショップ巡り。化粧品も、服も靴もそれこそボーナスを使い切る勢いで買いまくった。
全部、彼のためだった。
黒くて長い髪がきれいだって言ったから面倒だけれど伸ばしてたっけ。でももう別に言われなくてもいいや、別れた人に言われても嬉しくないだけだし。彼の言葉さえなきゃもう切りたいぐらいだったもん。
彼好みのクール系な感じももうやらなくたっていい。面倒だったし、そろそろ年齢的に落ち着きたいと思ってたし、本音言うと、化粧も苦手だからもう時間そこまでかけなくて済むとむしろホッとする。
だって、彼好みのアジアンクールビューティーって、結構準備が大変なんだよ?
でも、頑張ったもん、彼が褒めてくれるから。すごくいいね、嬉しいって笑ってくれてたから。
でも・・・もういいや。
「バカヤロー――――――――――――!!」
たっぷり買い物をした後は走って叫びながら、家に帰った。
着いてすぐに、断捨離の作業に入った。夕方にも関わらず、バタバタと一生懸命夜遅くまでやった。
近所には申し訳ないが集中していなければやってられん!ぐらいの勢いだった。
彼からもらったものは全部ごみとしてビニール袋に突っ込む(もちろん、ごみ分けはちゃんとした)。
彼の持ち物は全部宅配便で郵送(着払い)。
彼のために選んだ服とかアクセサリーや靴はゴミとリサイクルショップに持ち込むものとわけて整理。
クール系のマスカラやチークとかは濃いので好みと合わない。それに、化粧品はさすがにショップに出せないものもある。今度友人や妹に配ろうとひとまとめにしておく。
最後に、新しく自分の好みで選んだ服をクローゼットに入れて完了。
気づけば、夜11時になっていた。満足していると、腹が鳴って空腹を訴えていた。料理をする気になれず、コンビニで酒一本とおでん、それからいくつかのおかずとつまみを購入。
おっさんくさいジャージと黒ブチ眼鏡で髪もぼさぼさ状態。でも、それでもよかった。
空をふと見上げると、星が一面輝いていた。いつになく、綺麗に見えたのは今までうだうだして迷っていた気持ちをすっきりと整理できたからだろうか。
(・・・恋愛は当分いいや。それから、明日会社に退職届を出して、それで手続きが終わったらこの地元を出てあいつがいないところで働いて頑張って生活をやり直そう。)
「恋愛だけが人生じゃないよね!!」
うっしと気合を入れて家へと戻っていった彼女の心は別れをバネにして、新たな一歩を踏み出した。
それから3年後・・・
まさかのまさかで彼女は驚いていた。
地元をでて都会にやってきてから、このブライダルショップで働くようになってようやく2年ちょっと。その職場に客として元彼がやってくることになろうとは。・・・・まぁ、あれから3年だ。声にならない驚きをぐっとこらえ、にっこりと微笑んだ。
「・・・・・(まぁいいか、気づかれてないみたいだし)ようこそ、いらっしゃいませ。」
正直、気づかれない自信はある。3年前のことだし、仮に覚えていたとしても、今のクール系には程遠い自分の姿を見てすぐに解るはずがない。今の私はどちらかというと、シンプルナチュラル系の薄化粧だし、どこにでもあるようなスーツタイプの制服。それに、茶髪だし規定でまとめているから尚更わかるわけない。だが、何かしら思うことはあるらしく、何かを考え込んでいる表情だった。
「・・・・・えっと・・・?」
「どうしたのよ、雅裕?」
ぐいぐいと彼の袖を引っ張っている女の人を見るに、彼と顔がそっくりなことから家族だろうなとはわかるが敢えてそ知らぬふりをする。
「あ、いや・・・その、知ってる子に似ていたからびっくりしただけ。」
「ふーん。あっ、予約した伏見ですが・・・。」
「・・・・ではあちらでお待ちくださいませ。すぐに確認の手続きをさせていただきますので。」
気にした様子もない女性に引きずられている彼はなぜか視線を逸らそうとしなかった。ずっと自分の方を見てはいるが、何も話してこない。ある意味不気味ではある。しかし、敢えてそれをスルーして仕事で培った笑顔で対応しつつ、誘導していく。
(フルネームで挨拶しなくていい店で良かったわ・・・良くある名字だから大丈夫でしょう。)
「私、説明を担当させていただく、鈴木と申します。失礼ですが、お名前を確認させてくださいます。えっと・・・予約された・・・伏見朱鷺子様、金澤恭平様で間違いございませんか?」
「あっ、旦那になる人が急な仕事で来れなくなったので、代わりに背丈が近い弟を連れてきました。」
「それは大変失礼いたしました。失礼ですが、お名前は・・・」
「え、あっ・・・ふ、伏見雅裕です。」
「かしこまりました。では、ご案内いたしますのでどうぞ。」
奥の方で丁寧に一つ一つ説明していると、朱鷺子が嬉しそうにいろいろとドレスを試着しはじめた。今も3,4着試しているところで、何度か試着室へ入っている。そのたびに後ろからビシバシと雅裕の視線が突き刺さっているのにも気づいていたがこれまたスルー。
そして、朱鷺子が、お揃いにする予定の旦那の方のタキシードを見てみたいということで、雅裕が代わりに着ることになった。
「・・・そんな死んだ目をしないでちょうだいっ!この馬鹿っ!」
「あのな・・・何が悲しくて姉さんとお揃いのタキシードを着なきゃいけないんだ・・・。」
「それはこっちのセリフよ・・・まったく、彼女に逃げられてから超無気力になっちゃって。」
「・・・うっせーよ・・・・あっ・・。」
突っ込んだ朱鷺子の言葉に雅裕が我に返ったような顔をするが、敢えてファイルを整理することで、気づかないふりをしておいた。
打ち合わせが終わり、送り迎えのために玄関に立った時、雅裕が話しかけてきたが笑顔でスルーし、最後の最後まで店員として対応しておいた。ほんと、私って、店員の鏡だわ~と自画自賛したぐらい。
「ありがとうございましたーまた、旦那と一緒に来るので、よろしくお願いします。」
「かしこまりました。今日お選びになったドレスやタキシードは取り置きさせていただきますので。」
「はい、お願いしますー。いくよ~雅裕?」
「えっと、鈴木さん、失礼だけれど下の名前は?」
「申し訳ございませんが、ナンパはお断りしております。それでは伏見様、またのお越しをお待ちしております。」
「あんたね・・・家族の前で、口説こうとか。恥ずかしいことはしないでちょうだい。」
「ちがっ・・・・彼女と同じ名字だったから!!」
「ありがとうございました。気を付けてお帰り下さいませ。」
呆れ果てて雅裕を引っ張っていく朱鷺子に一礼し、ずっと車が出ていくまでお辞儀し続けた。そうすることで顔を見られずに済むとおもったからだ。嵐が去った後、店の中に戻りながらも、背伸びしながら更衣室へと向かう。
(・・・・内心ひやひやしまくったわよ・・・でも、気づかれてなくて良かった!でも、彼女がいるようだし、朱鷺子様も次は旦那様といらっしゃる予定だから、彼が来ることは二度とないだろう。)
「さて、今日の仕事もこれで終わりだし、帰ってパスタでも作って食べますか!」
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