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魔法使いに捕まったシンデレラ
9)物語みたいに綺麗には終れないけれど【おしまい】
しおりを挟む左京からの返事はー一拍の無言を置いた後返ってきた。
「……明日言おうと思っていたけれど、コレは今言うべきなんだろうな」
そういいながらぺろりと耳を舐めてきた。しかも、奥までねっとりと入れているし!
「ちょ、何をしる!」
「もつれてるじゃないか」
抵抗しようとしたら、今度は髪に、眉間に、頬にとキスがたくさん降ってきた。ちょ、やめてと言おうとしたその時、左京の目とかち合った。濡れた髪に欲情をはらんだ目。さっきまで体を繋げていた人がまた私にその目を向けている。
ぶるりと身体を震わせていたら、そのまま口づけられた。ぬめりと。舌が歯を舐めて早く口を開けろと言わんばかりにしつこくなぞってきた。執拗なソレについに根負けした麻友は恐る恐る口を開いた。
待ってましたとばかりに入ってきた舌は麻友の舌を即座に捉え絡めていく。
どれぐらいしていたのか、口から涎が溢れるぐらい長いこと絡めあっていたと思う。途中で角度を変え、深呼吸もして、それでも離れることのなかった唇がようやく離れた。
思わず涙目になっていたのに気づいた麻友は涙をぬぐうべく指で目を擦る。
その時、落とされたそれは麻友にとっては青天の霹靂というやつだった。
「麻友は自分がその相手だってうぬぼれないよね。そういうところも好きだけれどちょっと寂しい」
こんなに麻友が好きになっているのになと続いた言葉に麻友は頭が真っ白になった。頭がぐるぐるして、何も考えられない。気付けば、麻友は顔も体も真っ赤にしたままふらっと左京の胸へ倒れ込んだ。
―――――バタリ!
「え、麻友? ちょ、ちょっと、どうしたーーーー!?」
――よく考えればわかることだ。風呂にはいってあんあん喘いで、風呂に浸かったままずっとキスしている。そりゃ、のぼせるってもんだわ。
気付けばベッドの中で、左京が隣で寝ていた。そっと身体を覗き見ると、ちゃんとパジャマを着ていた。――誰が着せたのかは敢えて考えないことにする。喉が乾いていない。傍にペットボトルが転がっていたことから左京が飲ませてくれたのだと察して安堵した。
少し頭がくらくらするが、先ほどみたいに熱くはない。ほっとした後、そっとトイレにと抜けた。
トイレから戻ったらなぜか彼が起きていた。いや、そのまま寝てくれていてもよかったのに。そう思いつつ、布団にもぐりこむと、左京から抱きしめられた。
「ちょ、まって。なんで裸!?」
「俺、寝るときは基本裸」
「前は下半身履いてましたよね?」
「あれは気を使ってた」
―――く、そのまま気を使ったままでいてほしかった。以前センパイ呼びしていたころが懐かしい。カムバック。まぁ、もうムリなんでしょうがね。
諦めと一緒に麻友は再び寝ようとした。が、そうは問屋が卸さないというのが左京で。
「まーゆ、寝る前にちゃんとお返事返そうね?」
「ち、忘れてはくれなかったか」
「忘れるわけないでしょ。あ、どうしても寝るっていうんだったら身体の方に聞こうか。まずは耳、項、口を舐めて、おっぱい揉んで乳首を可愛がってそれからあそこに指突っ込んで・・・・・・・」
「左京、そこに正座ぁああああ!!」
楽し気にそんな歌を歌うように言いながらパジャマのボタンを外そうとする彼。思わず教育指導!とばかりに起き上がった。もう眠気なんてどっかに吹っ飛んでしまったよ!
なんでそんなエロいことを平然と言えるんだ!!
「――ちぇ。まゆのアレをぐちょぐちょにかき回したかったのに」
「嫌い」
「え」
「そんなことを言う左京なんて嫌い……」
「う、あ、な、泣くな、泣かないでくれ!」
「えろ、ばっかり。そんな、にからだ、だきたいんですか すき、ってごまかして、それでせっくs・・・・・・・」
もう羞恥心で涙が零れそう。というか、涙がもう出てきてる。それに気づいて止めようとしたけれど止められなかった。目の前にいた彼が慌ててごめんと謝りつつ、私を抱いてなだめようとしている。その手を振り払ってベッドから逃げようとする。
追いかけてきた左京に後ろから抱きしめられて、耳元に囁かれた。
「ごめんって……からかいすぎた。本当に悪かった。だから、嫌いにならないで」
「さきょ、うさん、からかって、ばっかり。あたしを、わたしを、好きって、うそでしょ。体だけじゃん。さいしょから、そういうかんけいではじめたの、さきょーだよ」
「そうだったね。でも、身体だけじゃなくて心の方も欲しくなったんだよ」
「なん、で? かのん、すきだった、でしょう……?」
「佳音ちゃんへの気持ちより、麻友を好きってのが大きくなっていったんだよ。いつからかってのははっきり覚えてないけれど、少なくとも君のバンド仲間に牽制した頃には自覚していたよ」
うそと呟けば、左京の抱きしめてくる圧がより強まった。そのままひょいとお姫様だっこされて再びベッドへINされた。
左京の腕を枕に、布団をかけられた麻友に逃げる選択肢は消えていた。目が赤くなっている自覚もある。枕に顔を埋めていると、隣にいた左京がぽんぽんと布団の上から優しく叩いていた。
「――本当だよ。俺が書いているスケッチブックだって、最初は佳音ちゃんばっかりだったのに途中から麻友の絵が増えてさ。最初は全体像だったのにどんどん顏のアップとか笑顔とかそういうのを描くようになってて。気付いたらもう佳音ちゃんは右京の彼女っていう位置づけになってた」
自分でも不思議なことにねと加えつけた彼の顏はちょっと苦々しそうだった。
「自分でも……単純だって思うけれどね。だから、麻友には言いにくかったんだよ。あとはほら、身体からの関係で始まったから……身体で繋ぎ止めてたらいつかはほだされて好きって言ってくれるかなっていう打算、もあって……」
目を泳がせた左京の言葉に一気に冷めた。涙も瞬時に引いたぐらいにはドンヒキした。
「ほら、そんな顔するだろう!だから、明日ちゃんとしたデートして、関係を仕切り直そうと思ったのに」
そう続いた左京の言葉にすべてが腑に落ちた。だけれど、ドンヒキした事実は変わらないので、麻友はふかーい深呼吸をした後、一言告げてから寝た。彼が煩かったが本当に眠かったのですぐに意識を手放す。おやすみなさい、センパイ。
「一ヶ月セックス禁止。あと、明日のデートは映画、昼はパスタとタピオカの美味しいお店でお願いします」
――次の日、左京は約束を守って映画と美味しいお店に連れて行ってくれた。ただ、最期の最後まで禁止令に対してはグズグズだったが。
「まーーーゆーーー本当にダメ?」
「ダメですよ、センパイ。あ、これ可愛い」
「うーーー」
「センパイ、可愛いって言っただけで端から端までかごにいれないで! なんで買おうとしてるの、あ、カード使わないで! ああもう!」
ぎゃあぎゃあと言いあってたけれど、さすがに実力行使でレジに行かれては負けざるを得ない。これだから御曹司って嫌い・・・・・・と歯ぎしりしていたら、袋をもったイケメンが戻ってきた。
「お待たせ。どうしたの、その何とも言えない複雑な顔」
「無理やり買ったのを怒るべきか、はたまた、そのイケメンさに免じてお礼をいうべきか悩んでただけ」
「麻友が時折敬語とか普段の言葉遣いとか胡乱な時になるって混乱してる時だよね。いや、可愛いわ。俺をさらりとイケメンっていうあたりも可愛い」
「褒めてないです」
「俺にとっては誉め言葉ですよ。さて、次は?」
「帰りますよ、もちろん」
「……麻友、このイケメンな顏に免じてもう少し時間をくれないか」
「――センパイ、ついにそこまでオチましたか」
「誰かさんはこうでもしないと堕ちてくれないからね。あと、いい加減に名前を呼ばないとここでキスするよ」
「……‥解ったよ、左京」
「さ、行こうか。夜景がきれいな公園があるんだ」
遠い目になった左京だが、しっかりと麻友の手を握ることは忘れない。ぐいっと引っ張って歩き出す左京にしょうがないなと麻友は後をついていった。
「うっわ、本当に綺麗! しかも高台だから遠くまで見える!」
「あっはは、だろう? 俺が一人になりたいときよく来るんだ」
「え、それって大事な場所じゃない。いいの?」
「麻友だから連れてきたんだよ~」
思わず隣を見上げると、左京が顔を綻ばせた。これだからイケメンは・・・・・・・!
拳を握り締めながら、ふいっと夜景の方に目を向けるべく真っすぐ前を見た。
しばらくしているととんとんと肩を叩かれる。どうしたのと顔だけを向けると、彼が真剣な顔をしていた。
「榊麻友さん、俺の本性を暴いた貴方に惚れました。俺と結婚を前提に付き合ってください」
―――そう言い切って顔をニヤリと歪ませた左京。その彼の意図にわかって思わずぷっと笑った。
「あっはは…‥なに、それ」
「色々考えたけれど、オブラートに包んだって結局コレにいきつくんだよねーということでお返事を?」
麻友はうーんと腕を組みながらどう返事を返すか考え込んだ。うん、やっぱり行きつくところはこれだ。左京の言葉を借りるならばだが。
「――最近、好きな人が親友を好きだと知って諦めていたところです。そんな私でいいのならば付き合ってください」
コロリと小さな箱が左京の手のひらから落ちた。あれ?と思った麻友だったが、左京はみるみる顔を真っ赤にさせながら麻友の方へと近づいてくる。
「え、ええ?」
「麻友、いつ、から? いつから俺を好きでいてくれたの?」
―――あ。
そうだ、彼は気付いてないんだった。
言うつもりなかったのに言っちゃった!
しつこく聞いてくる彼と顔を真っ赤にさせている自分。これ、どうしたらいいのかわからない。思わず麻友は謝りながらだっと駆け出していた。つまりは逃げた。
「ご、ごめんなさいいぃいいい!!」
「こら、麻友、逃がすか!」
これでこの物語はおしまい。
この後、どうなったかって?
とある王子様によると、麻友は魔法使いに捕まってこれでもかというぐらい甘やかされているらしいわ。時々逃げ出しているらしいけれど幸せそうで何よりよね。
え、シンデレラって柄なんでしょうかって?
何を言うの、女の子はみんなシンデレラなのよ。
ガラスの靴の代わりに繊細なハートを持って、それでも好きなひとを待つ乙女なんだから。
ああ、でも私達はやっぱり最後はシンデレラみたいになれないわね。だって、私も麻友も待つって柄じゃないし、彼達も王子様らしくないし、魔法使いみたいに優しくはない。
でもいいの。
私も麻友も自分だけの王子様を見つけたのだから。
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