【R18】階段で転げ落ちたシンデレラ

巴月のん

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魔法使いに捕まったシンデレラ

7)自覚した想いに蓋を

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麻友は困惑していた。退院してからここ数日、先輩と会わなくなったからだ。左京は退院する前にまた来ると言っていたはずが仕事が忙しくなったようで結局2人は会うことなく今に至っている。麻友がぼーっとしていると、隣にいる佳音が手を振っているのに気付いてのげそった。

「うわっ?」
「やっと気づいてくれた~。ずっと目の前で振っていたんだよ?」
「あ、そうなの。ごめん」
「ううん、謝るのは私の方。ごめんね、麻友ちゃん」

ずっと前から庇ってもらってばっかりで。そう呟いた佳音に慌てて顔を引き締める。先輩のことで悩んでいる場合じゃなかった。ここは佳音へのフォローも必要だと思い当たったから。

「佳音のせいじゃないでしょ。悪いのはあのストーカーだよ?」
「だとしても、麻友ちゃんに頼るべきじゃなかった。麻友ちゃんがあの時のように傷つくのは予想できていたはずなのに」
「――いやだな、あたし達親友じゃない」
「そう言ってくれて嬉しい。でもね、右京さんに怒られてわかったんだ。守られているのに甘えているのもダメだって。そして、頼る人が増えたんだから麻友の負担も考えて動かないとダメだって」

佳音がすごく反省していた理由がやっとわかった。多分というか、確実に右京さんがものすごい怒ったんだな。言っていることは正論のようで正論に聞こえないのは、きっと右京さんが自分を頼って欲しかったというやきもちが見え隠れてしまっているからだろう。
遠い目をしながらも、麻友はなんとか言葉を取り繕って、佳音をなんとか慰めた。後で電話して右京さんにちょっと絞りすぎだって注意しておかねば。
色々と考えながらタピオカを飲み直そうとストローに口を付けたとたん、佳音から突然の一言がでたので思わず吹き出しそうになった。

「あ、そうだ。左京さんと連絡とってる?  って、なんでベタベタに!?」

……訂正。吹き出してしまっていた。

「ははは。ううん、センパイとはあれ以来会ってない」
「そっかぁ。忙しいのかな」
「まー、今頃好きな子にアピールとかしてるんじゃない?」

――佳音から先輩に告白されたことはすでに話を聞いている。佳音からの説明だと、好きな子ができたからと吹っ切きれた様子だったらしい。しかし、なんとまあ、惚れやすい男だなと思う。でも同時に納得もした。好きな子ができたなら自分が彼女をする意味はもうない。もともと佳音への失恋を押し殺してでも佳音の傍にいたいからというのが言い分だったのだから。
それが解決したならば、自分が彼女の振りをする必要はもう無いわけで。


「……麻友ちゃん、本気でそれ言ってる?」
「え?」
「ああ、うん……私も鈍いけれどさ、麻友ちゃんも鈍かったんだねぇ」
「は? いきなり何なの?」
「んーん、もう少し悩んでいなよ。私が言えることじゃないしねぇ」

こればかりはねーとため息をつく佳音が妙に鼻について仕方がない。だが、ジト目で見ていても佳音が本当のことを言うはずもなく。
麻友は渋々と立ち上がって財布を握り締めた。一体どこへいくのと聞いてきた佳音にたった一言口にしてレジに向かった。


「もっかいタピってくる」



教務課を出た途中で掲示板を見ると張り紙が貼ってある。内容は大学に忍び込んだ変質者が逮捕されたというもの。恐らくではあるが、佳音のストーカーのことだろう。補足として、けが人が二人でたということも書いてある。大学にも連絡がいったらしく、自分と佳音に関しては授業に支障が出ることはなかったし、レポートも締め切りを延ばしてもらえた。
そのレポートを提出し終えた今となっての悩みはもっかのところ、先輩とのことだ。佳音が反省しているように、麻友もちょっと考えた。さすがに先輩を傷つけたかなという想いからか、もやもやがあって、すっきりできない。
でも、麻友もバカではない。一番に連絡をすべきなのは佳音の彼氏である右京さん。それだけは譲れない。でも、左京さんにも連絡をするべきだったのか。そこは悩むところだ。先輩からすれば、好きになった子を守れなかったことは悔しいことだろうと思うし、私に対していろいろと思うことはあると思う。

「確かに佳音がなくのは良くないけれどさぁ、でもあそこで行かなかったら守れなかったじゃない」

そう。結局は左京さんは自分の手で佳音を守りたかったのだろうと思う。あの時の左京さんの言葉をリフレインするたびに考えられるとしたらソレだろうなと。

「うーん。難しいなぁ。でも左京さんが佳音に告白できたってことで結果的には良かったのかな」


解っている
自分はいろんな理由をこじつけては考えているだけだと

だけれど

これは気付いてはいけない想いだ


決して叶わない恋は不毛でしかないと解っている


だから


蓋をしなければ


ぐっと喉まで出そうになった本音を堪え、思いっきり大声で叫ぶ。


「あー! もー!! ばっかじゃないのか!!」


自分の弱さと情けなさに涙が出そうで仕方がない。
深く深呼吸して、もう一度叫ぶ。

「こんなん、あたしらしくないだろー!! あーもー!!」


たった一人で泣きそうになるのを堪えて夕暮れの中、駅に向かう自分がむしょうに情けないし、何をしているんだろうとさえ思ってしまう。まだ自分を客観的に見れていることにほっとしながらぶつぶつと独り言を言いながら歩いていた。


「あ~も~歌でも歌いに行こうか・・・・あれ?」

駅の近くに人影が見えることに気付いた。その影がどう見ても自分に向かって手を振っている。後ろを見ても自分しかいないので、自分に対してというのは確かなのだろう。
とはいえ、佳音以外に心当たりがない。もしかしたらバンド仲間だろうかと思いながら近づいていく。
走っていくと、少しずつ人影がはっきりと見えてきた。

「あ・・・・・・」


そこに立っていたのはずっと会えていなかった人だった


「久しぶり」


右京さんと同じ顔をしているくせにどうしようもないヘタレな人


気付いた時にはもう自分の心の大半を占めていた人



「……久しぶりです、センパイ」

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