【R18】階段で転げ落ちたシンデレラ

巴月のん

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魔法使いに捕まったシンデレラ

4)流されてたらいつの間にか狼の家へ

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麻友が左京と取引めいた付き合いを初めてから一週間。とはいえ、2人は佳音がいるときは一緒にいることをルールにしたぐらいでそれほど変わらないカンケイだった。

「じゃ、またね」

慌てて走っていく佳音に手を振った後、隣にいた左京に帰ると言おうとした麻友だったが、それを引き留めたのは左京だった。

「ちょっと待ちなよ。たまにはおごるから夕飯に」
「断る」

メンドクサイといえば左京がつれないと口にする。ツレナイでいいんじゃないのか、あたしたちの関係はまさにこれでしょうが。
佳音と一緒にいると苦しいっていうあんたのために・・・と言おうとしたけれどまた凹まれては困るので喉まで出かかったのを堪えて別のことを理由にした。

「……バンドの練習があるからダメ」
「え、バンドやってるの?何それ、もしかしてライブやってるとか?」
「そんなとこ。じゃね!」

びっくりしている左京を振り切って走る。限られた時間でスタジオをかりて練習をしていることもあって時間がもったいない。佳音の最寄り駅とは別にあるもう一つの駅の方へ向かうと、バンド仲間が手を振っていた。

「おまたせ、シノ!」
「よう。マユ……って誰、そのイケメン」
「えっ……は、なんでここにいるの?」
「なんでだろうねー」

麻友が後ろを振り返るとまさかの左京が立っていた。すげーイケメンだなと言っている仲間を前に左京はどういうわけか猫を被って紹介し始めた。・・・まって、その設定、佳音がいる時限定じゃなかった?

「初めまして。麻友の彼の佐野左京さのさきょうです。いつもお世話になっているようで」
「あ、ああ。鹿倉志信かくらしのぶです。マユとは腐れ縁で」
「まって、待って!なんで左京さ……ぐふっ!」
「いつも言っているだろう?呼び捨てでいいって」

(いやいや、そんなこと言われた覚えないし!!)

慌てふためく麻友を他所に左京は麻友の両手をしっかりと握り締めた上でご丁寧にも指一本いっぽんに軽いキスをしてきた。それにぎゃああああと叫びたかった麻友だが、どういうわけか左京の目に睨まれた気がして何も言えなかった。

「はー、すげぇ彼ができたんだな」
「ああ、うん。もうそういうことでいい……。そうだ、ハナは?」
「ハナならもうスタジオにいるってよ」
「相変わらず早いね。じゃ、あたし達も・・・行くけど、左京は?」
「見学させてもらえるなら喜んでついていくよ?」

(つまり、見学させろやってことね。はいはい、なんで読み取りスキルが上がっているんだろうか。しかもこの人限定ときた……何それ、あんまり嬉しくない)

諦めの心境からか、ため息をついた麻友はこっちと左京を誘導し始めた。電車に揺られること五分。それから徒歩で10分ほどいくとスタジオがあった。

「あれ、ここって」
「知ってるの?」
「知ってるもなにも佐野の子会社が管理しているところだった気が」
「うわぁ、さすが佐野グループ」
「え、それってどういうことだよ、もしかしてこいつ・・いや、この人って」
「まぁ、察して……うん…………」

真っ青になったシノが目を泳がせた麻友の肩を揺らしたその時、左京が引っ張るように麻友を抱きしめた。あれ?と思った麻友だったが、シノとしては真っすぐに左京の顔を見てしまっただけに何も言えない。突然怯えだしたシノに麻友は首を傾げたが、賢明にもシノは麻友にそれ以上近寄ることなくダッシュでスタジオへと消えていった。なぜかハナーーーー!と叫びながら。あっけにとられた麻友もとりあえずはと左京と共にスタジオに入ることにした。

「こわいこわいこわいこわい……!!」
「落ち着きなよ」
「ハナ、お前はアレを見てないからそんなことが!!」
「はいはい~~あれ?佐野じゃん」
「あれ、長狭野ながさの。なんでここに」
「なんでって、バンドやってるからに決まってんじゃん。え、もしかして麻友の彼ってお前?」
「そう。もしかしなくともハナって」
「そー。俺のこと。名前が榛名はるなだから縮めてハナ」
「・・・麻友、男2匹と君で組んでるの?」
「本当は後2人いるんだけれど、今日は来れないんだよね~」
「そいつらって」
「1人はシノの彼女。ああ、もう一人は男だが遠距離恋愛中。ついでに俺も彼女いるから心配することないぜ」
「ふうん、そうなんだ。シノ君、ハナ、今後も麻友をよろしくね」

なぜかハナが言ったとたん空気が和らいだ・・・気がした。シノはようやくほっとしたのか涙目になりながらも、ハナにあらんばかりの感謝を告げているし、左京はどことなく緊張が解けている気がする。もうこの展開についていけないとばかりに麻友はため息をついてキーボードの調整に向かった。

「あれ、麻友はキーボード担当なんだね」
「ボーカルもたまにするけれどね~。基本はこっちかな」

指を鳴らしながらキーボードを叩く。一定のリズムを流した後、曲のサビ部分を弾いてみる。悪くはなさそうだと安心していつものヘッドフォンを耳に掛けた。
楽しそうに自分の世界に入った麻友から離れた左京はそのまま近くにあったベンチに座る。ふと、何かに気付いた左京はリュックからスケッチブックを取り出した。

「相変わらず絵を描くの好きだな」

スケッチを覗き込んできたハナに適当に相槌をうちながらラフなスケッチをやってみる。

「ふーんふーん♪まぁ、お前にしてはいいんじゃねぇの」
「何が?」
「なんかさ、楽しそうじゃん。高校の時のお前と大違い」

けらけら笑って練習に入っていったハナの後ろ姿を眺めながら左京は頬杖をつく。言われてみれば確かにとは思う。まぁ、一番大きいのは佳音ちゃんとの出会いだろうなと思いながら左京は作業を止めなかった。練習が終わったころ、左京もスケッチを終わらせて立ち上がった。お疲れーと仲間たちに挨拶し終えた麻友が、スマホでどこかに連絡している左京に首ねっこを掴まれたのはこの後すぐ。

「いたたた、何、何なのー!?」
「もう遅いから家まで送るよ。迎えも頼んであるから安心しな」
「えー、歩いて帰れるのに」
「……俺の家に泊まってもいいんだぞ?」
「大変申し訳ございませんが我が家までよろしくオネガイイタシマス」

精いっぱいのお辞儀をしたつもりだったのに、左京は気に入らないとばかりに舌打ちしている。ちょ、ヒドイ。そう言っている間にあれよあれよと車に押し込まれた。

「なんなの、窓が黒い車とか!!」
「リムジンよりはましだろう」
「……そうかな?」
「そんなことより、バンドの時はいつもこんな時間までやってるの?」
「え、ああ、うん。12時超えなんて珍しくないよ。そもそも、そのためにここの近くにあるアパートに住んでるし」
「なるほどね。一人暮らしの理由はそれか」

道理でおかしいと思ったという左京。ああ、うん。調べたんだねーこの人……。まあ、父が佐野グループの子会社に入ってるから調べるのはさぞ簡単だっただろう。
思わず遠い目になった麻友だが、左京と話している内にうとうとと眠気が襲ってきた。左京のことだからアパートも調べてあるだろうし大丈夫か・・・と変な信頼を持ちながら、意識を手放した。
左京は肩にもたれて眠っている彼女の頭を自分のあぐらにと移動させて髪の毛を撫でた。

「無防備だなぁ」
「どうかされましたか、左京様」
「いや、予定通り俺の家へ」
「かしこまりました」

麻友が寝てくれていて助かったと思いながら左京は窓ガラスから見える夜景を眺めていた。何も知らぬまま麻友は狼の家へと攫われていくのである。そして起きた麻友がふかふかのベッドで起きて絶叫するのもお約束である。


「なんでこうなってるの~~!!」


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