【R18】階段で転げ落ちたシンデレラ

巴月のん

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4)攻防戦その1

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ザアザアと水が流れる音に気付いた佳音はむっくりと起き上がり、周りを見て現実を思い出した。

そうだ、私は昨日ヤられた・・・いや、最初こそは拒否していたものの、気持ちよさにあえいでいたから合意になるのかも。事実、嫌じゃなかったしな。

あちこちに痛みを感じるものの、元彼の時ほどじゃない。怠い感じはあるけれど、うごけないほどじゃないし。幸い、彼が真っ先に下着とかほうってくれたおかげで全部無事に着れる!と思い当たり、すぐに行動に移した。
彼がシャワーを浴びているであろうことは解っていたので、音を立てないように静かに出ていこうとした。リビングでバカでかい窓ガラスの前に置きっぱなしにされていた鞄を持ってこそこそとホテルを出た。

「ふう・・・今日が土曜日でよかった・・・!」

まぁ、あっちもそれを狙って昨日ヤッたんだろうけれどさ。

ようやく一息ついて、一人暮らしのアパートについた。佳音は父親が再婚するのと同時に、このアパートの2KDに移り住んで、暮らしている。部屋に鞄やらおいてから、シャワーを浴びようと脱衣室に入って脱いだ。すると鏡に写った自分の肌には蚊にさされたように赤いぽつぽつがかなりの数で散らばっていた。

「あれ?かゆくないのにおかしいな」

蚊に刺された覚えはない・・・・・・とよくよく見てみると、彼に吸われたところばかりなことに気付いた。

「あ、キスマークなんだ、コレ」

ようやく思い当たるとなぜか恥ずかしくなる。もしかして背中も・・・と合わせ鏡を使ってみてみれば、うん。あんたは虫かっていうぐらい大量についていた。もはや何も言えない。鏡から目を逸らした佳音は何も考えまいと浴室へ飛び込んだ。一通り洗って流して、ようやく落ち着いた佳音は湯につかりながら、昨夜のことを思い出していた。

「慣れているだけあって確かに上手だったけれどさ。なんだかなーって感じ」

抱かれたことはまあ別にいい。恋人がいるわけじゃないし、暴力は一切振るわれていないしさ。何より、イケメンに抱かれたってことはある意味貴重かもしれないと佳音は一通りの理由を並びたててあれは一回きりで十分だと結論付けた。ただ、右京の言葉が耳から離れない。あれは一体どういう意味なのかよくわからない。

『ほっんと、イラつく。だから前言撤回だ・・・一回でなんて終わらせてやらない』

もしかして先輩のプライドを傷つけたとか?
そしたらまた面倒なことになるなあ。

「幸い、月曜日はサークルに行かなくてもいいから問題ないとして、食堂も念のため避けようかな」

麻友にも一応後で電話でもしておこう・・・と服を着替えて自室へ戻ると、スマホの着信が鳴った。それも設定した覚えのないディズニーの曲が流れている。不気味に思った佳音はおそるおそるスマホの画面を見た。そこに映っているのは『佐野右京』と綺麗に並んだ漢字。
一度は放り投げようとした佳音だったが、さすがに何度も鳴らされるのは精神的にくる。
やむなく、スマホのボタンを押して、性急に挨拶もせずに皮肉をぶつけた。

「いつの間に設定したんですか、先輩」
「念のために君が寝ている時に登録しておいたんだよね。でもーー鎖も必要だったな」
「鎖?スマホにつけるつもりで?」
「何をいってるのかな、もちろん佳音が逃げないように手足につけておくためにだよ」
「犯罪になりますからね、それ」
「佳音は本当に面白いよね。俺から逃げたのは君が初めてだ」
「一回で終わる約束だったのでは」
「前言撤回って言わなかったかな?」
「えーと、先輩が覚えてないってことは言ってないのでは」
「なぁ、佳音」
「あっ、拒否していいですか」
「俺のセックス、気持ちよくなかったの?」

何かを言われる前に拒否してしまおうと口を開いたが、彼の方も言い方がかなりズルいと思う。佳音はぶるっと身体を震わせた。それが恐怖からではなく、昨夜の快感を思い出したせいだとは認めたくない。だけれど、顔が火照るのはいやでもわかる。

「ま、ぁ、気持ちよくなかったといえばウソになりますが」
「それを聞いて安心した。さすがにへったくそな元カレと同レベルには扱われたくなかったからさ」
「そうですか、それでは」
「佳音、ちゃんと話そうか」
「ソレ、もっと早く言って欲しかったですね」
「試さないと分からないことだってあるじゃないか」

電話を切ろうとしたその時、彼からやっと望む言葉が出てきた。佳音は右京の一線に気付いていた。一回ヤらせてという割にはどこか試しているところがあった。この子は乗ってくるかどうか、顏をみて判断しているのかもという風に。だからこそ、佳音はこの人を好きになる要素など感じなかった。試されていると分かっていて何故好きになれようか。

「傲慢っていうんですよ、それ。おやすみなさい」
「ちょっ……!!」

勝手に切って即座に拒否設定して布団にもぐりこんだ。まだ昼間だけれどとりあえずは眠っていたかった。ずっと、このまま。



着信に起こされて起きたのは夕方の五時過ぎ。ぼんやりする頭で放り出してどこかにいったスマホを探してそのまま電話に出た。さっき拒否した彼は絶対に出てこないと油断していたせいもあるかもしれない。

「あ、こんばんは~」
「今度は左京さんですか。もしや、先輩に教えてもらったんですか?」
「あーううん。スマホをこっそり覗き見しただけ。多分ばれたら怒られると思う」
「先輩はそんなことで怒るんですか?おかしい。それで、わざわざ連絡するのには理由が?」
「うん、昨日どうだったのかなって。試して終わる予定って聞いていたんだけれど、なぜか右京の機嫌が悪いから気になってさ」
「一回きりって約束だったのになぜか反故にされましたよ」
「へ?あの右京が?へぇー!」
「あれ、珍しいんですか?」
「かなり珍しいというか・・・多分初めてじゃない?そんなこと言うのって」
「んー、左京さん、ちょっと時間があるなら夕飯に付き合ってもらえます?」
「マジでいいの?じゃあ、情報をくれるかわりにおごるよ。店の場所メールしたいから教えて」
「ほんと、話が通じる人で助かります」

さすが仕事ができる人は違う。そう思いながら佳音は出かける準備をした。左京が指定した店は家から離れていない駅からも近いデパートの中にある店。おそらく私に配慮してそこを指定してくれたのだと思う。とはいえ、ふだん滅多にいかない店はやっぱり緊張する。

「あ、こっちこっち~」
「ありがとうございます。というか、仕事忙しいのに大丈夫でしょうか?」
「大丈夫大丈夫。それから敬語はいらないっていったはずだよ。こんな時でもなきゃ、右京の変な話なんか聞けないしさ」

けらけらと笑いながらメニューを広げてどれがいいか聞いてくる。気を使わなくていいということにほっとしながら、まずは飲み物といくつかの前菜を頼んで待つことにした。

「そういえば先輩は?」
「右京なら親父の手伝いに行ったって連絡があったよ」
「そういえば、先輩が大学生をやってるのは何故・・・?」
「あいつね、仕事しながら大学通ってるぐらいがちょうどよいの。俺と違って、すっごい仕事にのめり込むタイプだからさ」
「あーなんというか、スゴイ時間を無駄にしないタイプ」
「そうだね。最近息抜きにキーホルダーだかバッグチャーム作るの楽しいとか言っていたのに、インターネットで店まで出して仕事にしたっていうぐらいバカだから」
「あ、趣味を仕事に・・・それはなんというか・・・・」
「ねぇー」

あははと笑っているだけに見える左京さんだけれど、意外に佳音のことをよく見ている。佳音が聞きたいことを先回りして言っている感じがするのも、多分気のせいじゃなく意図的な誘導だ。こういうのはすでに先輩で実感している。あれ、もしかして、血筋なのかなとさえ思うほど。

「血筋ですかね」
「佳音はさ、ぼーっとしているように見えて実は観察している部分があるよね」
「というより、ぼーっとしているといやでも気づかない部分が見えてしまうのかも」
「そうだね~確かにそれはわかる。……あれ?」

佳音と話していたはずの左京がふと佳音の奥の方を見ている。奥の方は入口の方だけれど、一体何を見ているのか。
気になった佳音が振り返ったその先にいたのは・・・

「げ」
「随分なご挨拶だな?しかも、俺を拒否しておいて左京と食事ってどういうことだ」
「よくここが解りましたね」

ぐったりとする佳音を他所に、眉間に皺を寄せて立っている右京。無駄に整っている男はスーツさえも似合うのかととちんかんなことを考えている佳音をよそに、左京はあっけらんとしていた。

「本当、よくここがわかったねー。もしかして調べた?」
「最初からお前をマークしておけば無駄な手間をかけずに済んだなとは思っている」
「へぇ。で?」
「ああ。認める。忌々しいが、お前の言う通りだ」
「そう。それなら何としてもよろしくね。俺としても彼女が家族になるのは大歓迎なんだからさ」
「・・・・・・そう思うなら邪魔するなよ。それからお前も呼ばれているぞ」
「もともと馴れ馴れしい関係じゃなかったでしょ。佳音、残念だけれど仕事が入ったから帰るよ」
「ええー私も帰りたいです」
「ダメに決まっているだろう」
「あ、俺の代わりにおごっておいてね!じゃ、また会おうね、佳音!」

左京が嵐のように消えた後・・・双子でも雰囲気がかなり違うんだなと思った佳音は現実を逃避するべく、目の前にある前菜にフォークを突きさした。左京の代わりに座った右京は大学で見たような明るさをかなぐり捨てて真顔で腕を組んだ。


「はー、さて、話をしようか」




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