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GL
【GL】鶫の檻
しおりを挟む紗英、貴女はこんなにも私を惹きつける。
貴女のふわふわのロングで緩やかなウェーブがある髪が好き。
貴女の長い睫毛の下に見える星の輝きが見える綺麗な栗色の目が好き。
貴女の口紅を塗ってもいないのに艶めいた薄い桜色の唇も好き。
貴女の小鳥かと見間違うほどの可愛らしい声も好き。
貴女の細い手首も、人形かと思うほど白い肌も、女性らしい体つきも好き。
もちろん、貴女の性格も、天然なところがある癖にちょっと黒いところとかも、好きよ。
とにかく貴女の何もかもが好きで好きでたまらないの。
本当に初めて貴女と出会った時は、この世にこんな“女の子”がいていいのかって思ったぐらい。
それこそ、本当に自分と同じ女の子とは思えないぐらい貴女は“女の子”だった。
でもね、そんな貴女にもたった一つだけ悪い癖があるわ。
貴女だって自分のそういうところを解っているでしょう?
自覚しているでしょう?
それでも、あなたは止めようとしないのね。
どうして止めようとしないの。貴女を止められない私が悪いのかしら。
それとも―――甘やかしすぎたのかしら。
「・・・・・どうして駄目なの」
「いや・・・お前な、自分の趣味の悪さをちゃんと解っているだろう?お前の好きなヤツを思い浮かべてみろ」
「・・・・だって、私を見てくれていないもの」
「だからって俺の所へ来るな、抱きついてくるな。俺がとばっちりで怒られるんだから、その辺も考えて行動してくれよ!」
鶫は、紗英が涙を堪えているのを眺めながら、目の前でズケズケと言う男に内心で呆れていた。言っていることは正論だが、さすがに言葉が過ぎないか。・・・ついに泣き出した紗英に対して、さすがに殴れはしなかったのだろう手を出さなかったことに免じて、目の前の男に対しての制裁はナシにしてやろうと思った。もちろん・・・次はない。
「もうその辺になさいな、志賀君。もう話し合いは終わったのだから、行きましょう、紗英?」
「・・・・・鶫ちゃん」
「じゃあね、志賀君」
志賀という元彼と相成った男に別れを告げて、その場を離れようとしない紗英を無理やり引っ張って、|人気(ひとけ)のない教室へと連れて行った。
放課後ということもあって、夕陽が暮れて影が深くなっていた。
オレンジ色に染まった教室の中で、紗英は椅子に座って両手で涙を隠すように顔を覆っている。
鶫はまだ嗚咽を漏らしている紗英の正面に向かい合った。
紗英の右手首をそっと掴み、もう片手で彼女の左頬に触れる。彼女の顔は真っ赤で、泣きはらしたウサギの様に真っ赤な目が痛々しい。
「・・・鶫ちゃん、私・・私、今度こそ嫌われたの?」
「どうしてそう思うのかしら、紗英。貴女は誰からも好かれるでしょう?」
「それでも、たった一人に見てもらえなかったら意味がないの」
「・・・でも、貴女ならたった一人に好かれなくても他の人に好かれるわ」
少しだけ彼女の左頬を撫でながら、そっと口づけた。彼女の柔らかな頬は今は涙のせいで熱を持っている。ポロリとこぼれる一筋の涙を舌で拭い、彼女の目元まできれいに舐めとって最後にまた口づける。
「・・・・いじ、わる」
「意地悪なのは紗英の方でしょう?」
鶫はそう言いながら今度は紗英の項を手の指でそっと撫でる。俯いた紗英の表情は見えない。だけれど、拒絶ではないと知っていた鶫は紗英の細い項へと舌を這わせて、強く吸う。紗英がビクッと身体を震わせたその一瞬を狙ったように、鶫はそっと紗英の項から口を外した。
白い項に映える紅梅に染まった花びらに満足した鶫は紗英から離れて、窓の方へともたれた。
「貴女は本当にその悪い癖を直しなさい。たった一人に見られてないと思い込むとすぐにふらふらと他の檻へと入ってしまうんだから」
「なら、ちゃんと檻に入れてくれなきゃ嫌よ」
「それならちゃんと中にいなさい。たった一人に縛られたい、愛されたいと思うのなら、ちゃんと檻の中にいることね」
ぐっと紗英が言葉に詰まった。紗英は美少女故に、多少眉間に皺を寄せても綺麗だと評価されている。でも問題はそこじゃない。彼女は、解っていないのだ。
どれだけ自分が、そのたった一人を振り回しているのか気付いていない。
「・・・檻に入れたはずなのに、私が檻に入った様な気分になるのはきっと紗英のせいね」
「だから、私のせいじゃないのに。ちゃんと私を見てくれるなら、ずっと檻の中でもいいわ。でも、違うのでしょう?」
・・・本当に檻に入れたくなるわ。
美少女の癖に、これだけ私を振り回す天才の癖に、肝心の私の気持ちを疑うんだから。
「・・・それなら、私の檻に他の人を入れてもいいのよね?」
「それは嫌!」
「・・・・なら、貴女はどうしたいのかしら?私にどうして欲しいというの?」
彼女が、嫌だと反発するのは解っていた。また彼女の目からポロリと涙が零れ落ちる。今度はあの男に言われたからじゃない。私の言葉に傷ついたから。今度は慰めずに放っておいた。
もう構っていられないとばかりに、窓の方へと視線を向ける。夕陽が少しずつ沈みだし、わずかに空の奥が紺色に染まっていくのが見えた。
しばらく眺めていると、背中に何かが当たる感触がした。
ああ、またのこのパターンになるのね。
ねぇ、紗英、私は本当に貴女が好きよ。でもね・・・・本当にいい加減悪い癖を直しなさい。
ため息をついた時にはすでに、彼女の腕は私の腰にまわっていた。後ろから抱きついた彼女の温もりはとても温かい。背中に頭を預けているのだろう、すぐ後ろから紗英の声が聞こえた。
「・・・ごめん、なさい。鶫ちゃん。だから、お願い。私だけを見て。私以外の人と話さないで」
「紗英、貴女はもう少し心を広く持ちなさい」
「・・・・だって」
「私にやきもちを妬いてほしいからって、志賀君や他の男に抱きつこうとするのは悪い癖でしょう?」
「・・・・でも、結局駄目だったわ。志賀君は貴女が怒るから駄目って」
「止めなかったら止めなかったで、文句を言うのでしょう、貴女は」
「・・・ねえ、鶫ちゃん、本当に私のことが好きなのよね?」
以前も同じように紗英が無理やり志賀君に抱きついたことがあった。
あの時は、呆れ果てたのでスルーしていたら、その場で泣き出し、蹲って泣きわめいた後、机やいすを荒らして最後には、「嫉妬してくれない鶫ちゃんなんか大嫌い!」と叫んで勝手に早退してしまったのだ。
・・・あの後始末は本当に大変だった。
つい志賀君に八つ当たりしてしまったことは反省しない。
ちなみに、私と紗英の関係は口に出していないが、クラスでは公然の秘密として有名になっている。・・・主に、紗英の悪い癖と暴走のせいでバレたのだと察して欲しい。
紗英の不満そうな言い方に呆れつつ、腰にまわっていた紗英の両腕を掴んで、後ろに振り返った。
「・・・・ええ、貴女が私を試そうとしなければ最高に好きよ」
鶫はそっと紗英の耳元で囁いてから、自分より少し小柄な身体を抱きしめた。一瞬キョトンとしていたが、抱きしめられていることに気づいて嬉しそうにぎゅっと抱きしめ返してきた。
鶫はもう一度と紗英の頬に口づけたが、紗英は頬を膨らませて不満そうな表情だ。
「鶫ちゃん、頬ばっかりは嫌」
「今度こそ、ちゃんと檻に入って、大人しくしていると約束できるなら・・・してあげるわ」
何をとは明確に言わなかった。もちろん、わざとであることはいうまでもない。
でも大丈夫なのだ。
先ほどとは別の意味で頬を染めている紗英ならば、意味を把握できているはずだから。
「今度こそ、や、約束するわ。だから、お願いよ。私が好きなのと同じぐらい、鶫ちゃんも私を好きになって。私を・・・」
紗英が最後まで口にしなかったのは、彼女の唇を塞いだから。深紅とはまた違う紅梅の色は、私を惑わす。そうなる前にさっさと檻に入れなければね。
啄むように彼女の白い項を吸いながら、彼女のネクタイを解く。紗英は抵抗しなかったから、今度こそ、檻の中で大人しくしてくれると信じたいわ。ああ、ちゃんと最後に鍵をかけておかなければまた逃げられてしまうわ。ちゃんとしっかりとかけておきましょう、彼女の心に鍵を。
「・・・私も大好きよ、愛しい私の紗英」
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